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混乱
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「…アハハ…止めろよ…葵…こんな所で、そんな冗談…」
至が、苦笑いしながら顔を引きつらせ言った。
こんな荒れ果てた、まるで昭和にタイムスリップしたかのような廃別荘で聞く冗談にしてはキツかった。
脈が嫌な速さで脈打っているのが自分でも分かる。
すると、葵であるはずの男は、やはり僚そっくりに笑いながら、僚そっくりに喋った。
まだ、至の襟元を掴み、顔を近づけたまま。
「クククッ…ビビりは全然治ってないな…至。いつだったかガキの頃、葵に隠れて二人きりで遊びに行って、雨が降ってきたから俺とお前んちの近所の普段誰もいない神社で雨宿りしたよな。あの時お前…まだ昼なのに怖がって、早く帰ろう、早く帰ろうって、俺に抱き着いてきたよな。それに…この雨は、葵が置いていかれて泣いてるからだって…お前俺に言ったよな。葵が酷く悲しむと、雨が降るって…」
「えっ?…」
自分と僚しか知らないはずの思い出に、至は混乱し顔が青ざめた。
その発言は、あの神社の異様な雰囲気といつもと何かが違うしとしと重く降る雨を思い出して、あの時の至の恐怖を呼び覚ます。
だが、死んだはずの僚が、今目の前にいるはずが無かった。
きっとあの時の話を、いつか僚は葵にしていたのだろう。
「ごめん…葵…さっきお前がここへ来るなって言ってくれたのに、俺来ちまって…怒ってこんな、僚になるイタズラしてんだろ?だって、お前、僚じゃ無くて葵じゃん。だってほら…左手に包帯してる。さっき俺見たもん」
ニィっと、又、葵であるはずの男の口角が上がる。
「至…俺は葵じゃ無い…僚だ。俺の実の両親でさえ分かってくれねぇけど、友達だったお前だけは、お前だけは…僚だって分かるよな?」
「…」
至は黙り、自分より背の高い葵であるはずの男の顔を見上げた。
やはり、目付きや表情が、葵と違う。
そして、訳が分からないままなのに、不思議とさっきまで怖かった気持ちが急に少しずつ引き始めた。
感情の起伏に、急激な落差が生まれる。
「僚…僚…お前…本当に、僚なのか?」
「だからぁ…さっきから僚だって言ってんじゃん」
葵であるはずの男はやけに明るく言うと、至の襟元を開放し、次にガバっと至の体を頭ごと抱き締めた。
そして、感情の昂りか、その名を呼びながら体を左右に揺らした。
「至…至…至…久しぶりだな!」
そして更に、抱き締めたまま、至の頭を優しくポンポンとした。
これは、僚が死ぬ直前まで至によくやっていた仕草だ。
あの時、異様な雰囲気の神社で至が抱き着いた時も、僚は至を抱き締めながら頭をそうしてくれた。
ハッとした至は、恐怖心より思考か追い付かなくて頭がパニックだったが、そっと、自分も抱き返そうとした。
そして同時に…
「じゃあ…葵は、今どこにいる?」
と聞こうと唇を開きかけた。
だが、その時…
ミシ…ミシ…ミシ…ミシ……
二階で、又誰かが歩く音がした。
天井から、パラパラと埃と砂が舞い落ちる。
そして…今度は…
キーッ…バタン!
至達がいる一階の見えていない奥の部屋から、扉を閉める大きな音がした。
「だっ…誰か…いるのか?」
至に急に、恐怖心が戻って来た。
ミシ…ミシ…ミシ…ミシ…
又、二階から音がした。
「居るって言えば…居るな…」
葵のはずの男は、至を抱き締めたまま静かにそう言い、それが何か分かっているのか?…
鋭い視線だけ、二階と一階の奥に向けた。
至が、苦笑いしながら顔を引きつらせ言った。
こんな荒れ果てた、まるで昭和にタイムスリップしたかのような廃別荘で聞く冗談にしてはキツかった。
脈が嫌な速さで脈打っているのが自分でも分かる。
すると、葵であるはずの男は、やはり僚そっくりに笑いながら、僚そっくりに喋った。
まだ、至の襟元を掴み、顔を近づけたまま。
「クククッ…ビビりは全然治ってないな…至。いつだったかガキの頃、葵に隠れて二人きりで遊びに行って、雨が降ってきたから俺とお前んちの近所の普段誰もいない神社で雨宿りしたよな。あの時お前…まだ昼なのに怖がって、早く帰ろう、早く帰ろうって、俺に抱き着いてきたよな。それに…この雨は、葵が置いていかれて泣いてるからだって…お前俺に言ったよな。葵が酷く悲しむと、雨が降るって…」
「えっ?…」
自分と僚しか知らないはずの思い出に、至は混乱し顔が青ざめた。
その発言は、あの神社の異様な雰囲気といつもと何かが違うしとしと重く降る雨を思い出して、あの時の至の恐怖を呼び覚ます。
だが、死んだはずの僚が、今目の前にいるはずが無かった。
きっとあの時の話を、いつか僚は葵にしていたのだろう。
「ごめん…葵…さっきお前がここへ来るなって言ってくれたのに、俺来ちまって…怒ってこんな、僚になるイタズラしてんだろ?だって、お前、僚じゃ無くて葵じゃん。だってほら…左手に包帯してる。さっき俺見たもん」
ニィっと、又、葵であるはずの男の口角が上がる。
「至…俺は葵じゃ無い…僚だ。俺の実の両親でさえ分かってくれねぇけど、友達だったお前だけは、お前だけは…僚だって分かるよな?」
「…」
至は黙り、自分より背の高い葵であるはずの男の顔を見上げた。
やはり、目付きや表情が、葵と違う。
そして、訳が分からないままなのに、不思議とさっきまで怖かった気持ちが急に少しずつ引き始めた。
感情の起伏に、急激な落差が生まれる。
「僚…僚…お前…本当に、僚なのか?」
「だからぁ…さっきから僚だって言ってんじゃん」
葵であるはずの男はやけに明るく言うと、至の襟元を開放し、次にガバっと至の体を頭ごと抱き締めた。
そして、感情の昂りか、その名を呼びながら体を左右に揺らした。
「至…至…至…久しぶりだな!」
そして更に、抱き締めたまま、至の頭を優しくポンポンとした。
これは、僚が死ぬ直前まで至によくやっていた仕草だ。
あの時、異様な雰囲気の神社で至が抱き着いた時も、僚は至を抱き締めながら頭をそうしてくれた。
ハッとした至は、恐怖心より思考か追い付かなくて頭がパニックだったが、そっと、自分も抱き返そうとした。
そして同時に…
「じゃあ…葵は、今どこにいる?」
と聞こうと唇を開きかけた。
だが、その時…
ミシ…ミシ…ミシ…ミシ……
二階で、又誰かが歩く音がした。
天井から、パラパラと埃と砂が舞い落ちる。
そして…今度は…
キーッ…バタン!
至達がいる一階の見えていない奥の部屋から、扉を閉める大きな音がした。
「だっ…誰か…いるのか?」
至に急に、恐怖心が戻って来た。
ミシ…ミシ…ミシ…ミシ…
又、二階から音がした。
「居るって言えば…居るな…」
葵のはずの男は、至を抱き締めたまま静かにそう言い、それが何か分かっているのか?…
鋭い視線だけ、二階と一階の奥に向けた。
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