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6.縮まる距離①
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オシャレな外観の低層マンションの駐車場に車が停まる。まさかとは思ったけど、千颯くんはかなり稼いでいるんだろうかと邪推してからハッとする。
最上階の三階に移動して、案内されるまま部屋の中に入った。
「お邪魔します」
「はい。いらっしゃい」
廊下を抜けて角を曲がると左手にキッチンがあり、その先に広々としたリビングがあって、右手には寝室だろう部屋が続いている。
「なに。そんな観察するなよ」
「いや、めちゃくちゃ広いなって」
「そうかな。物が少ないからじゃない?」
言われてみれば確かに大きなソファーとローテーブル、その向かいにテレビやステレオは置かれているけれど、それ以外に家具はなく、色が統一されているのもあってシンプルに見える。
「とりあえず座って。なに飲む? ビールとか酒もあるし、コーヒーとかお茶もあるけど」
「お茶もらおうかな」
「じゃあ俺もそうしようかな」
キッチンに向かった千颯くんから目を離すと、広々としたソファーに腰を下ろして荷物の入ったバッグを足元に置いた。
「はいお茶。風呂どうする? お湯貯めてこようか」
「シャワーで大丈夫だよ」
「でも一日出歩いて疲れただろ。気は遣わなくていいから、ゆっくり入ればいいよ」
千颯くんはそう言ってバスルームに向かった。
ゆっくりお風呂でくつろげと言われても、今夜は抱かれるんじゃないんだろうか。それとも前の晩みたいに抱き合って眠るだけなんだろうか。
ちょっと混乱して一人で考え込んでいると、しばらくして千颯くんが慌てた様子でリビングに戻ってきた。
「シーツ変えてなかったわ」
「そんなの気にしなくていいのに」
「いや、ヤバいだろ。取り替えてくる」
そのまま寝室に向かい、バタバタし始めた様子を見ると、千颯くんは千颯くんで緊張してるのかもしれない。そう思うと少し可笑しくて笑ってしまいそうになる。
「ちぃちゃん、気合い入ってるね」
「他人事みたいに言うなよ」
「だって、可笑しいんだもん」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだからな」
「痛っ」
シーツを抱えた千颯くんが寝室から出てくると、ピンとおでこを指で弾かれた。
お風呂でゆっくりくつろがせてもらった後は、丁寧にスキンケアをして髪を乾かす。歯を磨いて、ちょっと緊張しながらリビングに向かった。
「お風呂ありがとう。先にごめんね」
「いいよ。じゃあ俺も入ってくる。お茶とか勝手に飲んでいいから。ベッドで待っててくれてもいいし」
着替えを持った千颯くんにポンポンと頭を撫でられて、気恥ずかしい気持ちが一気に込み上げてきた。
「分かった」
もうすぐ日付が変わる。明日のことを考えたら早く寝たいのが本音だけど、もしも抱き合って眠るだけだとしても、あの晩のことを思い出してドキドキする。
(あんなこと言ってたけど、本当にするのかな)
付き合うと決めたその日に体の関係にまで進むなんて、ちょっと早すぎる気がするけど、あの日なんて名前も知らない状態だったんだからと開き直る。
主人のいないベッドに潜り込むと、張り替えたばかりのシーツから自分の家とは違う匂いがして緊張してきた。
「こんなことって、本当にあるんだな……」
千颯くんとの再会は本当に偶然の出来事で、まさかこんな形で会うとは思いもしなかった。
あの日の彼と再会できたのは嬉しいけれど、幼馴染みとこんな関係になるのはなんだか不思議な気分だ。
それに漠然とした淡い気持ちだったけど、千颯くんは私の初恋相手だし、そういうのもひっくるめて気恥ずかしくなってくる。
とりとめのないことを考え、気を紛らわせているうちに時間が経ったらしい。明るかったリビングの電気が消え、明かりは寝室の間接照明だけになった。
「寝落ちした?」
「大丈夫。まだ起きてるよ」
ベッドに入ってきた千颯くんは、私と同じシャンプーの匂いがしてなんだか変な感じがする。
「久々にしっかり湯船に浸かったら、急激に眠気が来たわ」
「ちょっと分かる」
笑って答えると、千颯くんも可笑しそうに笑って、そうだよなと大きくあくびをする。
「緊張感なくてごめん。俺から誘ったのに、来てくれたことが嬉しくて、それで満足したところある」
「あはは。そんなの謝らないでよ」
「また抱き締めて眠るだけでもいい?」
「別にいいよ。今日付き合い始めたばっかだよ? 時間はいくらでもあるし、焦らなくてもいいんじゃないかな」
最上階の三階に移動して、案内されるまま部屋の中に入った。
「お邪魔します」
「はい。いらっしゃい」
廊下を抜けて角を曲がると左手にキッチンがあり、その先に広々としたリビングがあって、右手には寝室だろう部屋が続いている。
「なに。そんな観察するなよ」
「いや、めちゃくちゃ広いなって」
「そうかな。物が少ないからじゃない?」
言われてみれば確かに大きなソファーとローテーブル、その向かいにテレビやステレオは置かれているけれど、それ以外に家具はなく、色が統一されているのもあってシンプルに見える。
「とりあえず座って。なに飲む? ビールとか酒もあるし、コーヒーとかお茶もあるけど」
「お茶もらおうかな」
「じゃあ俺もそうしようかな」
キッチンに向かった千颯くんから目を離すと、広々としたソファーに腰を下ろして荷物の入ったバッグを足元に置いた。
「はいお茶。風呂どうする? お湯貯めてこようか」
「シャワーで大丈夫だよ」
「でも一日出歩いて疲れただろ。気は遣わなくていいから、ゆっくり入ればいいよ」
千颯くんはそう言ってバスルームに向かった。
ゆっくりお風呂でくつろげと言われても、今夜は抱かれるんじゃないんだろうか。それとも前の晩みたいに抱き合って眠るだけなんだろうか。
ちょっと混乱して一人で考え込んでいると、しばらくして千颯くんが慌てた様子でリビングに戻ってきた。
「シーツ変えてなかったわ」
「そんなの気にしなくていいのに」
「いや、ヤバいだろ。取り替えてくる」
そのまま寝室に向かい、バタバタし始めた様子を見ると、千颯くんは千颯くんで緊張してるのかもしれない。そう思うと少し可笑しくて笑ってしまいそうになる。
「ちぃちゃん、気合い入ってるね」
「他人事みたいに言うなよ」
「だって、可笑しいんだもん」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだからな」
「痛っ」
シーツを抱えた千颯くんが寝室から出てくると、ピンとおでこを指で弾かれた。
お風呂でゆっくりくつろがせてもらった後は、丁寧にスキンケアをして髪を乾かす。歯を磨いて、ちょっと緊張しながらリビングに向かった。
「お風呂ありがとう。先にごめんね」
「いいよ。じゃあ俺も入ってくる。お茶とか勝手に飲んでいいから。ベッドで待っててくれてもいいし」
着替えを持った千颯くんにポンポンと頭を撫でられて、気恥ずかしい気持ちが一気に込み上げてきた。
「分かった」
もうすぐ日付が変わる。明日のことを考えたら早く寝たいのが本音だけど、もしも抱き合って眠るだけだとしても、あの晩のことを思い出してドキドキする。
(あんなこと言ってたけど、本当にするのかな)
付き合うと決めたその日に体の関係にまで進むなんて、ちょっと早すぎる気がするけど、あの日なんて名前も知らない状態だったんだからと開き直る。
主人のいないベッドに潜り込むと、張り替えたばかりのシーツから自分の家とは違う匂いがして緊張してきた。
「こんなことって、本当にあるんだな……」
千颯くんとの再会は本当に偶然の出来事で、まさかこんな形で会うとは思いもしなかった。
あの日の彼と再会できたのは嬉しいけれど、幼馴染みとこんな関係になるのはなんだか不思議な気分だ。
それに漠然とした淡い気持ちだったけど、千颯くんは私の初恋相手だし、そういうのもひっくるめて気恥ずかしくなってくる。
とりとめのないことを考え、気を紛らわせているうちに時間が経ったらしい。明るかったリビングの電気が消え、明かりは寝室の間接照明だけになった。
「寝落ちした?」
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ベッドに入ってきた千颯くんは、私と同じシャンプーの匂いがしてなんだか変な感じがする。
「久々にしっかり湯船に浸かったら、急激に眠気が来たわ」
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笑って答えると、千颯くんも可笑しそうに笑って、そうだよなと大きくあくびをする。
「緊張感なくてごめん。俺から誘ったのに、来てくれたことが嬉しくて、それで満足したところある」
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