お見合いから本気の恋をしてもいいですか

濘-NEI-

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5.デート③

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 無理にでも笑って話題を変える。元恋人との話なんて、付き合うと決めたばかりの日にするには、ちょっと踏み込みすぎる話題だった。
 水族館でなにが可愛かったとか、今日観た映画の話を振ると、千颯くんも徐々に笑顔になって場が和む。
 自分から話を切り出してしまっただけに、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、できるだけ明るい話題で千颯くんの顔色を伺う。
 そんな浅はかな私に気付いても、苦笑しながら話題に乗ってくれる千颯くんはやっぱり大人だ。
 たくさん頼んだ料理も食べ終えて、いっぱいになったお腹を軽くさする。千颯くんもお腹いっぱいになったみたいで、同じように食べ過ぎたと笑っているのでホッとする。
「今日はどうだった? 楽しめた?」
「もちろん。凄く楽しかったよ」
「俺はもう少し一緒にいたいんだけど、スズはどう?」
 そう言われて時間を確認すると、もうすぐ二十二時になろうとしてる。
「私も一緒にいたいけど、明日からまた仕事だし」
 名残惜しいけれどもう解散しようと切り出したはずが、苦笑した視線の先で千颯くんがなんとも言えない顔をして私を見ている。
「一緒にいたいなら、あと少しいいだろ」
「ちぃちゃん……」
「とりあえず出よう」
 焦れたように席を立つ千颯くんを追って、慌てて私も席を立つ。まさか置いていかれはしないだろうけど、なんだかハラハラさせられる。
 店を出ると手を掴まれて、無言のまま駅に向かって足早に歩き出した。
「ちぃちゃん? どこ行くつもり」
「俺の家」
「いや、そんな急に」
「やっぱ俺ダメだ。独占欲なのかな、無性にスズを抱きたくて堪らない」
「ちょっ……」
「お願いだ。急すぎるのは分かってる。でも抱かせてくれないか」
 人が行き交う往来で立ち止まると、千颯くんは悲しげな目で私を見る。
 あんな話をしたからなのか。私が悪かったんだろう。
「なにがそんなに怖いの?」
「あの日、名前も聞かなかったことを後悔した。もう同じ過ちは繰り返したくないんだよ」
「大丈夫だよ、ちぃちゃん。私たち、ちゃんと巡り合って付き合うことにしたんだから」
「だけどさっきの話で男の影がチラついて、イライラするんだよ」
「……ちぃちゃん」
 立ち止まって深刻な顔をする私たちを、通り過ぎる人たちがチラチラと無遠慮に見てくる。こんな街中でする話じゃないかもしれない。
「ちぃちゃん、とりあえず駅に行こう。行きながら話すから聞いてくれる?」
「……ごめん」
「謝らなくていいから」
 しっかりと手を繋いで再び歩き出すけれど、しょぼくれた千颯くんは俯いて黙ったままだ。
「泊まりに行ってもいいけど、明日の用意をさせて欲しい」
「スズ?」
「だから泊まるから、一回家に帰って来たらダメかな」
「いいのか」
「だって、気が収まらないんでしょ」
 できるだけ明るく笑って千颯くんを見上げると、驚いた顔で私を見下ろしている。
「ちぃちゃんって、結構子どもみたいなところがあるんだね」
「ごめんって」
「私だってまた会いたかったから、分かるよ」
「スズ……」
「じゃあとりあえず、一回帰るから後で待ち合わせね」
「なら俺が車で迎えに行くよ」
「そうしてもらおうかな」
 駅に着き、改札を抜けてホームに向かいながらスマホを取り出す。住所をメッセージで送ると、千颯くんが住んでる場所とかなり近いようで驚いた。
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