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22.襲来①
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無事に結婚式場も決まり、七月になって二週間。まだまだ梅雨が続く中、暑くて湿度も高いという悪条件に毎日疲れが取れづらい。
「これから雷雨になるらしいわよ」
「え、そうなんですか」
井口さんに声をかけられて時間を見ると、もうそろそろ定時になりそうだ。
「梅雨だけでも鬱陶しいのに、雷なんて嫌よね」
「雷怖いですよね。データはこまめに保存しないと」
作業をしながら井口さんとたわいないやり取りをしていると、窓の外がピカッと光ってすぐに大きな音が鳴り響いた。
「近かったのかな」
「凄い音でしたね」
かなり大きな雷だったので、フロア全体が少し騒がしい。何人か窓際に立って外の様子を眺めている。
「給与データいじってる時に落雷でシャットダウンとか、洒落になんないわよね」
「怖いこと言わないでくださいよ」
「怖がらせたい訳じゃないけど昔あったのよ。近くの変電所に落ちて停電して」
「本当ですか」
井口さんはたまにこうやって饒舌になる時がある。そんな時は大体急ぎの書類待ちで、イライラしてることが多い。
だからなるべく話は遮らず、作業の手も止めずに相槌を打つと、井口さんのスマホに着信があって話から解放される。どうやらお子さんからの連絡らしい。
その隙に遡求処理の稟議書の内容をチェックして、給与データに反映させて情報を更新する。
今やった処理で言えば、マイカー通勤から電車通勤に切り替わった人やその逆も然り。交通費の変更は申告がかなり遅れることが多くて、こう言った処理が毎月のように出てくる。
そこまで終わってちょうどキリがいいので仕事を切り上げると、井口さんはお子さんのお迎えが必要になったらしく、私よりも早く帰って行った。
私も周りに挨拶を済ませてフロアを出ると、お手洗いで身支度を整えてから会社を出た。
「おい涼葉」
会社を出てすぐ呼び止められた気がして立ち止まり、後ろを振り返ると傘を差した慎次郎が立っている。
「……こういうことはやめてって言ったよね」
「いいのか? ここお前の会社の真ん前だぞ?」
騒ぎ立てていいのかと、脅しのような言葉を投げつけられる。
「こんなとこまで来て、なんの用なの。大体仕事はどうしたのよ」
仙台に転勤したはずなのに、またこの前みたいに出張かなにかだろうか。スーツ姿だし、ビジネスバッグも持っているので休みということはないだろう。
「またちょっと出張でな。それよりこんなとこじゃなくて、ちょっと話せないか」
「はあ?」
「頼むよ。電話は一方的に切られるし、そのまま連絡もブロックされた身にもなれよ」
「もう話すことなんかないからでしょ」
「そう言うなって。ほら、どんどん人が出てくるぞ」
慎次郎は会社の玄関を指し、人の出入りを見てみろと挑発的な顔をする。
「なにを話すか知らないけど、私にそれを聞き入れる義理はないからね」
そう釘を刺して場所を移動すると、会社からそう離れていない喫茶店に入ることにした。もちろん千颯くんにはメッセージで場所と状況を伝えておいた。
「髪切ったんだな」
「だからなに」
「雰囲気変わったよな、お前」
なんの話をしたいのか分からないけれど、慎次郎は当たり障りない話題を振って様子を見ているように見える。
「そんな話より本題はなんなの」
「お前さ、本当に婚約したのか」
「……まだ疑ってんの?」
呆れて溜め息を吐き出すと、注文したコーヒーが運ばれてきた。そこで会話が一度リセットされ、慎次郎がソファーに座り直して真剣な顔をする。
「お袋が倒れたんだ。ガンであんまり良くない」
「そうなんだね。それはお見舞い申し上げるけど、だけどそれがなんなの」
「お前と三年近く付き合ってただろ? だから結婚すると思ってたみたいで、彼女と結婚しないのかって」
「事実を伝えればいいだけの話でしょ」
「これから雷雨になるらしいわよ」
「え、そうなんですか」
井口さんに声をかけられて時間を見ると、もうそろそろ定時になりそうだ。
「梅雨だけでも鬱陶しいのに、雷なんて嫌よね」
「雷怖いですよね。データはこまめに保存しないと」
作業をしながら井口さんとたわいないやり取りをしていると、窓の外がピカッと光ってすぐに大きな音が鳴り響いた。
「近かったのかな」
「凄い音でしたね」
かなり大きな雷だったので、フロア全体が少し騒がしい。何人か窓際に立って外の様子を眺めている。
「給与データいじってる時に落雷でシャットダウンとか、洒落になんないわよね」
「怖いこと言わないでくださいよ」
「怖がらせたい訳じゃないけど昔あったのよ。近くの変電所に落ちて停電して」
「本当ですか」
井口さんはたまにこうやって饒舌になる時がある。そんな時は大体急ぎの書類待ちで、イライラしてることが多い。
だからなるべく話は遮らず、作業の手も止めずに相槌を打つと、井口さんのスマホに着信があって話から解放される。どうやらお子さんからの連絡らしい。
その隙に遡求処理の稟議書の内容をチェックして、給与データに反映させて情報を更新する。
今やった処理で言えば、マイカー通勤から電車通勤に切り替わった人やその逆も然り。交通費の変更は申告がかなり遅れることが多くて、こう言った処理が毎月のように出てくる。
そこまで終わってちょうどキリがいいので仕事を切り上げると、井口さんはお子さんのお迎えが必要になったらしく、私よりも早く帰って行った。
私も周りに挨拶を済ませてフロアを出ると、お手洗いで身支度を整えてから会社を出た。
「おい涼葉」
会社を出てすぐ呼び止められた気がして立ち止まり、後ろを振り返ると傘を差した慎次郎が立っている。
「……こういうことはやめてって言ったよね」
「いいのか? ここお前の会社の真ん前だぞ?」
騒ぎ立てていいのかと、脅しのような言葉を投げつけられる。
「こんなとこまで来て、なんの用なの。大体仕事はどうしたのよ」
仙台に転勤したはずなのに、またこの前みたいに出張かなにかだろうか。スーツ姿だし、ビジネスバッグも持っているので休みということはないだろう。
「またちょっと出張でな。それよりこんなとこじゃなくて、ちょっと話せないか」
「はあ?」
「頼むよ。電話は一方的に切られるし、そのまま連絡もブロックされた身にもなれよ」
「もう話すことなんかないからでしょ」
「そう言うなって。ほら、どんどん人が出てくるぞ」
慎次郎は会社の玄関を指し、人の出入りを見てみろと挑発的な顔をする。
「なにを話すか知らないけど、私にそれを聞き入れる義理はないからね」
そう釘を刺して場所を移動すると、会社からそう離れていない喫茶店に入ることにした。もちろん千颯くんにはメッセージで場所と状況を伝えておいた。
「髪切ったんだな」
「だからなに」
「雰囲気変わったよな、お前」
なんの話をしたいのか分からないけれど、慎次郎は当たり障りない話題を振って様子を見ているように見える。
「そんな話より本題はなんなの」
「お前さ、本当に婚約したのか」
「……まだ疑ってんの?」
呆れて溜め息を吐き出すと、注文したコーヒーが運ばれてきた。そこで会話が一度リセットされ、慎次郎がソファーに座り直して真剣な顔をする。
「お袋が倒れたんだ。ガンであんまり良くない」
「そうなんだね。それはお見舞い申し上げるけど、だけどそれがなんなの」
「お前と三年近く付き合ってただろ? だから結婚すると思ってたみたいで、彼女と結婚しないのかって」
「事実を伝えればいいだけの話でしょ」
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