53 / 67
23.望まぬ再会③
しおりを挟む
「まあ、そうだよね。あれが彼女のデフォルトで、その上で付き合ってたって聞いたら引くわ。あれが転勤で別れた人なんでしょ」
「そう。だから向こうからしたら、根に持ってたんだと思う」
別れたのはだいぶ前のはずなのに、すごい熱量だった。彼女は今でも千颯くんを忘れられないんだろう。それがあんな形になってしまったのか。なんとも酷い話だ。
「彼女と付き合ってる時からあの店に?」
「そんなに何度もじゃないけど、来たことはあったかも」
「そっか。思い出のお店だった訳だ」
何気なくそう返すと、千颯くんの顔が一気に青ざめる。
「違うよ。マジでそんな場所じゃないから。不快にさせたのは謝るけど、本当にそんな思い出が詰まってる所じゃないから」
「大丈夫だよ。分かってる。彼女がちぃちゃんを忘れられなかったんだろうね」
きっと彼女は、千颯くんと行ったお店を回っていたんじゃないだろうか。いつかは会えるかもしれないと淡い期待を募らせて。おそらくだけど、彼女の中では終わらせることができなかったんだろう。
「でもスズに対するあの暴言は……」
「いいよ。私もちぃちゃんにはたくさん心配かけたし」
「スズ……」
「それよりご飯どうしようか。金曜だし、今から行ける店探すのも大変だよね」
できるだけ明るく話題を変えると、千颯くんは困った顔をしつつも私に合わせて話を変えてくれる。
「この近くがいいよね。少し待って。ちょっと連絡してみる」
「まさかまた誰かとばったりとかないよね?」
「それはない。本当にごめんって」
「冗談だよ。そんな顔しないで」
私だって二度も千颯くんを不快にさせたのに、逆の立場になるとついチクッとしたことを言ってしまう。本人にそのつもりがないと分かりきっていても、この嫉妬心はなかなか抑えが利かない。
近くのお店を探すために千颯くんが電話をかけている間、まさかとは思ったけれどお店からさっきの女性が連れの人と一緒に出てきた。
「……⁉︎」
私たちを見つけるなり酷く驚いた顔をしている。まさか店のすぐ下にいるとは思いもしなかったのだろう。
そのまま何事もなく通り過ぎていって欲しい。
「あの!」
突然声をかけられてびっくりすると、千颯くんも気が付いたようで、電話をしながら彼女に鋭い目を向ける。
「さっきはごめんなさい」
「え?」
「あなたと楽しそうにしてる姿が羨ましくて、変なことを言ってごめんなさい」
「……いえ」
「私の前ではあんな風に笑ってくれなかったから悔しくて」
「……そうなんですか」
「やだ、私ったらまた。ごめんなさい。ご結婚おめでとうございます。千颯……南方さんにもよろしくお伝えくださいね」
「分かりました」
彼女は後悔を滲ませる表情でぺこりと頭を下げると、連れの女性も軽く会釈してその場から離れていった。
結局は、彼女も衝動的なものに突き動かされてしまったのだろう。私たちを引き裂くのが本当の目的ではなく、きっと行き場のない感情を吐き出したかっただけなのだ。
「そう。だから向こうからしたら、根に持ってたんだと思う」
別れたのはだいぶ前のはずなのに、すごい熱量だった。彼女は今でも千颯くんを忘れられないんだろう。それがあんな形になってしまったのか。なんとも酷い話だ。
「彼女と付き合ってる時からあの店に?」
「そんなに何度もじゃないけど、来たことはあったかも」
「そっか。思い出のお店だった訳だ」
何気なくそう返すと、千颯くんの顔が一気に青ざめる。
「違うよ。マジでそんな場所じゃないから。不快にさせたのは謝るけど、本当にそんな思い出が詰まってる所じゃないから」
「大丈夫だよ。分かってる。彼女がちぃちゃんを忘れられなかったんだろうね」
きっと彼女は、千颯くんと行ったお店を回っていたんじゃないだろうか。いつかは会えるかもしれないと淡い期待を募らせて。おそらくだけど、彼女の中では終わらせることができなかったんだろう。
「でもスズに対するあの暴言は……」
「いいよ。私もちぃちゃんにはたくさん心配かけたし」
「スズ……」
「それよりご飯どうしようか。金曜だし、今から行ける店探すのも大変だよね」
できるだけ明るく話題を変えると、千颯くんは困った顔をしつつも私に合わせて話を変えてくれる。
「この近くがいいよね。少し待って。ちょっと連絡してみる」
「まさかまた誰かとばったりとかないよね?」
「それはない。本当にごめんって」
「冗談だよ。そんな顔しないで」
私だって二度も千颯くんを不快にさせたのに、逆の立場になるとついチクッとしたことを言ってしまう。本人にそのつもりがないと分かりきっていても、この嫉妬心はなかなか抑えが利かない。
近くのお店を探すために千颯くんが電話をかけている間、まさかとは思ったけれどお店からさっきの女性が連れの人と一緒に出てきた。
「……⁉︎」
私たちを見つけるなり酷く驚いた顔をしている。まさか店のすぐ下にいるとは思いもしなかったのだろう。
そのまま何事もなく通り過ぎていって欲しい。
「あの!」
突然声をかけられてびっくりすると、千颯くんも気が付いたようで、電話をしながら彼女に鋭い目を向ける。
「さっきはごめんなさい」
「え?」
「あなたと楽しそうにしてる姿が羨ましくて、変なことを言ってごめんなさい」
「……いえ」
「私の前ではあんな風に笑ってくれなかったから悔しくて」
「……そうなんですか」
「やだ、私ったらまた。ごめんなさい。ご結婚おめでとうございます。千颯……南方さんにもよろしくお伝えくださいね」
「分かりました」
彼女は後悔を滲ませる表情でぺこりと頭を下げると、連れの女性も軽く会釈してその場から離れていった。
結局は、彼女も衝動的なものに突き動かされてしまったのだろう。私たちを引き裂くのが本当の目的ではなく、きっと行き場のない感情を吐き出したかっただけなのだ。
5
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
交際マイナス一日婚⁉ 〜ほとぼりが冷めたら離婚するはずなのに、鬼上司な夫に無自覚で溺愛されていたようです〜
朝永ゆうり
恋愛
憧れの上司と一夜をともにしてしまったらしい杷留。お酒のせいで記憶が曖昧なまま目が覚めると、隣りにいたのは同じく状況を飲み込めていない様子の三条副局長だった。
互いのためにこの夜のことは水に流そうと約束した杷留と三条だったが、始業後、なぜか朝会で呼び出され――
「結婚、おめでとう!」
どうやら二人は、互いに記憶のないまま結婚してしまっていたらしい。
ほとぼりが冷めた頃に離婚をしようと約束する二人だったが、互いのことを知るたびに少しずつ惹かれ合ってゆき――
「杷留を他の男に触れさせるなんて、考えただけでぞっとする」
――鬼上司の独占愛は、いつの間にか止まらない!?
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
やさしいキスの見つけ方
神室さち
恋愛
諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。
そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
最強魔術師の歪んだ初恋
る
恋愛
伯爵家の養子であるアリスは親戚のおじさまが大好きだ。
けれどアリスに妹が産まれ、アリスは虐げれるようになる。そのまま成長したアリスは、男爵家のおじさんの元に嫁ぐことになるが、初夜で破瓜の血が流れず……?
完璧御曹司の結婚命令
栢野すばる
恋愛
名家“山凪家”の侍従を代々務める家に生まれた里沙。彼女は心の奥底に山凪家の嫡男・光太郎への恋心を隠しながら、日々働いていた。その里沙が24歳になったある日、想定外の話が降ってくる。「私が、光太郎様の婚約者に!?」光太郎の縁談よけのため、彼の婚約者のフリをするという任務が与えられたのだ。仕事上での婚約者。なのに……光太郎が迫ってくる。「俺に愛されて尽くされるのが、婚約者の一番大事な仕事だろう?」――憧れのお方の不埒さが、凄すぎます!? 身分差溺愛・ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる