お見合いから本気の恋をしてもいいですか

濘-NEI-

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23.望まぬ再会③

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「まあ、そうだよね。あれが彼女のデフォルトで、その上で付き合ってたって聞いたら引くわ。あれが転勤で別れた人なんでしょ」
「そう。だから向こうからしたら、根に持ってたんだと思う」
 別れたのはだいぶ前のはずなのに、すごい熱量だった。彼女は今でも千颯くんを忘れられないんだろう。それがあんな形になってしまったのか。なんとも酷い話だ。
「彼女と付き合ってる時からあの店に?」
「そんなに何度もじゃないけど、来たことはあったかも」
「そっか。思い出のお店だった訳だ」
 何気なくそう返すと、千颯くんの顔が一気に青ざめる。
「違うよ。マジでそんな場所じゃないから。不快にさせたのは謝るけど、本当にそんな思い出が詰まってる所じゃないから」
「大丈夫だよ。分かってる。彼女がちぃちゃんを忘れられなかったんだろうね」
 きっと彼女は、千颯くんと行ったお店を回っていたんじゃないだろうか。いつかは会えるかもしれないと淡い期待を募らせて。おそらくだけど、彼女の中では終わらせることができなかったんだろう。
「でもスズに対するあの暴言は……」
「いいよ。私もちぃちゃんにはたくさん心配かけたし」
「スズ……」
「それよりご飯どうしようか。金曜だし、今から行ける店探すのも大変だよね」
 できるだけ明るく話題を変えると、千颯くんは困った顔をしつつも私に合わせて話を変えてくれる。
「この近くがいいよね。少し待って。ちょっと連絡してみる」
「まさかまた誰かとばったりとかないよね?」
「それはない。本当にごめんって」
「冗談だよ。そんな顔しないで」
 私だって二度も千颯くんを不快にさせたのに、逆の立場になるとついチクッとしたことを言ってしまう。本人にそのつもりがないと分かりきっていても、この嫉妬心はなかなか抑えが利かない。
 近くのお店を探すために千颯くんが電話をかけている間、まさかとは思ったけれどお店からさっきの女性が連れの人と一緒に出てきた。
「……⁉︎」
 私たちを見つけるなり酷く驚いた顔をしている。まさか店のすぐ下にいるとは思いもしなかったのだろう。
 そのまま何事もなく通り過ぎていって欲しい。
「あの!」
 突然声をかけられてびっくりすると、千颯くんも気が付いたようで、電話をしながら彼女に鋭い目を向ける。
「さっきはごめんなさい」
「え?」
「あなたと楽しそうにしてる姿が羨ましくて、変なことを言ってごめんなさい」
「……いえ」
「私の前ではあんな風に笑ってくれなかったから悔しくて」
「……そうなんですか」
「やだ、私ったらまた。ごめんなさい。ご結婚おめでとうございます。千颯……南方さんにもよろしくお伝えくださいね」
「分かりました」
 彼女は後悔を滲ませる表情でぺこりと頭を下げると、連れの女性も軽く会釈してその場から離れていった。
 結局は、彼女も衝動的なものに突き動かされてしまったのだろう。私たちを引き裂くのが本当の目的ではなく、きっと行き場のない感情を吐き出したかっただけなのだ。
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