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(43)集う仲間
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リルカはマーベルとムゥダル、そしてグリードと共に〈ストラヴァル〉を訪れ、普段は大掛かりなクエストの作戦会議に使われる三階の大広間に集っている。
「連絡を受けてすぐに〈ユティシアル聖教会〉に探りを入れて、ナファニス・ツェルナーについて調べさせた」
「なにか分かりましたか」
「事前の話通り、一部じゃ救世主なんて崇められてて、狂信的な信者がついてる厄介なやつだ。こいつを女神の代理人として分派する勢いすらある」
セルゲイは取り急ぎ掻き集めた資料だと言って、幾つか姿を捉えた写真と合わせて、情報が記載された紙束をリルカに投げてよこす。
元々はテンペリオスの修道院に身を寄せていたようだが、十一の時に教皇の目に留まり養子になったと記述がある。その時すでに魔術の能力が開花していたのだろう。
主に治癒の祈りにおいて〈ユティシアル聖教会〉に貢献し、要職には就かずにリンドルナを巡る宣教師として教えを広める活動に身を捧げるとある。
「善し悪しは見た目では図りかねるものですね」
写真に写るナファニスは、まさに女神の教えを説く者らしく柔和な様子ではあるが、その目は鋭く、浮かべた笑顔に似つかわしくないものに見える。
「まあ往々にして人殺しなんてのはそんなもんだろ」
「鬼畜や悪魔は、大概ヒトの皮を被ってやがる」
セルゲイに続いてベイルも苦々しい顔で毒づいた。
「ルカ、ちょっといいか」
グリードはセルゲイたちに黙礼すると、リルカを手招きして呼び寄せて、実働隊の動きを確認するように指示を出す。
「運のいいことにナファニスは、この帝都アエスに滞在してる。つまりそれを逃すと行方を掴むのは難しい」
「じゃあ今夜にでもすぐ叩くんだね」
「俺とイドリースさんは見張りを兼ねた警備をしつつ、ヤツが操るであろう骸獣を叩くから、お前とマーベルさんにナファニスを任せ……」
「はぁいみんな、お待たせぇえ」
会議室の重い扉が大きく開くと、ド派手なカーマインの髪を靡かせ、萌える華のような香りを振りまきながら、ブーツの踵を鳴らしてルーシャが現れた。
「あらヤダなぁに、この素敵なオジサマ、かなり好みのタイプだわぁ」
ルーシャはマーベルを見るなり科を作って腕を絡ませるが、しかしその影に隠れて死角になっていたリルカを見つけるや否や、そのまま腕力に任せてマーベルを弾き飛ばす。
「きゃーヤダ仔犬ちゃん、アナタなんて可愛らしい髪型してるの。ヤダもう、食べちゃいたい」
人目も憚らずリルカを抱き寄せると、耳元にそっと愛してると囁いて、会いたかったなどとふざけたやり取りで髪に口付けを落とすと、漂う緊張感をぶち壊していく。
一方リルカは耳元で愛してると囁かれて顔を真っ赤にし、ルーシャにされるがままその腕に閉じ込められているので、呆れたグリードがいつものようにそれを引き剥がす。
「ルーシャ、いつも通りで結構だがな、お前が突き飛ばしたこの方は、アチューダリアの英雄マーベル・レインホルンだ。つまりお前が大好きなルカの親父殿だ」
「あらヤダ! じゃあアナタが仔犬ちゃんを放ったらかしにして、借金押し付けて逃げたお父様なのね」
ルーシャはわざとらしく、顔料で色付けした爪が見えるように指先を口元に当てて、驚いたそぶりを見せる。
マーベルは虚を衝かれてリルカに助けを求める目を向けるが、リルカの紅潮したままの頬と、ルーシャと揃いの組紐にめざとく気付いて小さく咳払いする。
「初めてお目に掛かるね。息子が世話になる」
「あら声までイイ男。アタシはルーシャ・バルハラット。あっちのオッサンから引き継いで、これでも〈レヴィアタン〉のギルマスなの」
「貴殿には別の顔もあるようだが」
「んふふ、アタシに興味がお有りかしら」
見えないはずの火花がバチバチと散る中、リルカとグリードがさりげなく二人を引き剥がすと、イドリースと話していたムゥダルがルーシャに声を掛ける。
「おい怪力女装」
「イヤねダーリン、誰が絶世の美女よ」
「お前マジ耳どうかしてるだろ。そんなことよりお前の飼い犬、逃げたんじゃないか」
ムゥダルの言葉はあくまで比喩だが、その場にいるリルカとグリードにはすぐにその意味が把握できた。ウェイロンだ。
「親元に帰したわよ。アンタたちもよく知ってるはずよ。ナファニス・ツェルナーって神父のところにね」
「お前、どうしてそれを。しかも親元に帰したなんてどういうつもりだ!」
グリードが身を乗り出してルーシャの胸ぐらを掴むと、まずは話を聞けと掴まれた手をゆっくりと引き剥がす。
「こっちも色々あったのよ。それでウェイロン本人に口を割らせたの、あの子も可哀想な立場なのよ」
「本人から聞いたってお前、そんな話に信憑性はあるのか」
「ええ、この目で見たわ。全身に術式が刻まれていて、本人の意思とは関係なく動きを制御されるようになってた。この意味は分かるわよね」
「そんな」
リルカが口元を覆うと、その場にいた全員も押し黙ってルーシャの言葉が続くのを待つ。
「結論だけ言えば、ナファニスはウェイロンの術式が完全に馴染むのを待って、それが完成すれば思いのまま動く人型の傀儡を手に入れることになるわね」
「じゃあどうしてナファニスなんかの元に送り出したの」
「犬死にさせないためよ」
ルーシャは悲痛な顔をするリルカの頬を撫でると、顔を引き攣らせるマーベルは無視して話を続ける。
「もちろんこちらで保護を目的にウェイロンを拘束も出来たでしょうけど、発動できる魔術が想定出来ないとなると、手元に置く方が危険度は高いわ」
人の骸獣化は今までに前例のないことだが、ルーシャの話を聞く限り、ウェイロンはそれを実行するための鍵となる。
ウェイロンの体に刻まれたという術式の解除も含めて、今夜決行する襲撃の作戦を今一度立て直すと、ルーシャが実働隊に加わることで話がまとまった。
リルカがグリードとイドリースに手合わせを願い出て、〈ストラヴァル〉の地下に併設された試行場に向かうと、ルーシャはマーベルと一階へ移動した。
「情報がここまで錯綜したのは、ナファニスが撹乱してたからだと思うかい」
〈ストラヴァル〉のメンバーで賑わう喧騒を背にカウンターに並んで座ると、喉を焼くようなダール酒を呷って、マーベルは小さな声でルーシャに問い掛ける。
「どうかしらね、でも結果的にそれを掴まされてアナタは翻弄されたのよね」
「そうだね。君を疑うように仕向けられたよ、ルーシャ・バルハラット。いや、イジュナル・ブランフィッシュ陛下」
「イヤね、こんなところでよしてちょうだい」
ルーシャは口の端を引き上げて笑みを浮かべる。
「息子……いや、リルカが随分君を信頼しているようだが」
「あら無粋ね。こんなところで話すなんて」
「そうだろうか。なににも変え難い大切な宝物だ、本気じゃないなら殺してやりたいよ」
「ふふ。面立ちはお母様譲りなのでしょうけど、苛烈な性格はそっくりね」
「俺は妻を亡くしてる。娘には要らぬ苦労をさせたくない。愛する人を失うような思いもして欲しくはない」
「ならあの子を置いて死ぬ訳にはいかないわね。意外に思うかも知れないけど、これでもアタシ少しは腕が立つのよ」
「血塗られた皇帝殺しか」
「下劣だと罵るかしら」
「いいや。俺でも同じことをしたさ」
「連絡を受けてすぐに〈ユティシアル聖教会〉に探りを入れて、ナファニス・ツェルナーについて調べさせた」
「なにか分かりましたか」
「事前の話通り、一部じゃ救世主なんて崇められてて、狂信的な信者がついてる厄介なやつだ。こいつを女神の代理人として分派する勢いすらある」
セルゲイは取り急ぎ掻き集めた資料だと言って、幾つか姿を捉えた写真と合わせて、情報が記載された紙束をリルカに投げてよこす。
元々はテンペリオスの修道院に身を寄せていたようだが、十一の時に教皇の目に留まり養子になったと記述がある。その時すでに魔術の能力が開花していたのだろう。
主に治癒の祈りにおいて〈ユティシアル聖教会〉に貢献し、要職には就かずにリンドルナを巡る宣教師として教えを広める活動に身を捧げるとある。
「善し悪しは見た目では図りかねるものですね」
写真に写るナファニスは、まさに女神の教えを説く者らしく柔和な様子ではあるが、その目は鋭く、浮かべた笑顔に似つかわしくないものに見える。
「まあ往々にして人殺しなんてのはそんなもんだろ」
「鬼畜や悪魔は、大概ヒトの皮を被ってやがる」
セルゲイに続いてベイルも苦々しい顔で毒づいた。
「ルカ、ちょっといいか」
グリードはセルゲイたちに黙礼すると、リルカを手招きして呼び寄せて、実働隊の動きを確認するように指示を出す。
「運のいいことにナファニスは、この帝都アエスに滞在してる。つまりそれを逃すと行方を掴むのは難しい」
「じゃあ今夜にでもすぐ叩くんだね」
「俺とイドリースさんは見張りを兼ねた警備をしつつ、ヤツが操るであろう骸獣を叩くから、お前とマーベルさんにナファニスを任せ……」
「はぁいみんな、お待たせぇえ」
会議室の重い扉が大きく開くと、ド派手なカーマインの髪を靡かせ、萌える華のような香りを振りまきながら、ブーツの踵を鳴らしてルーシャが現れた。
「あらヤダなぁに、この素敵なオジサマ、かなり好みのタイプだわぁ」
ルーシャはマーベルを見るなり科を作って腕を絡ませるが、しかしその影に隠れて死角になっていたリルカを見つけるや否や、そのまま腕力に任せてマーベルを弾き飛ばす。
「きゃーヤダ仔犬ちゃん、アナタなんて可愛らしい髪型してるの。ヤダもう、食べちゃいたい」
人目も憚らずリルカを抱き寄せると、耳元にそっと愛してると囁いて、会いたかったなどとふざけたやり取りで髪に口付けを落とすと、漂う緊張感をぶち壊していく。
一方リルカは耳元で愛してると囁かれて顔を真っ赤にし、ルーシャにされるがままその腕に閉じ込められているので、呆れたグリードがいつものようにそれを引き剥がす。
「ルーシャ、いつも通りで結構だがな、お前が突き飛ばしたこの方は、アチューダリアの英雄マーベル・レインホルンだ。つまりお前が大好きなルカの親父殿だ」
「あらヤダ! じゃあアナタが仔犬ちゃんを放ったらかしにして、借金押し付けて逃げたお父様なのね」
ルーシャはわざとらしく、顔料で色付けした爪が見えるように指先を口元に当てて、驚いたそぶりを見せる。
マーベルは虚を衝かれてリルカに助けを求める目を向けるが、リルカの紅潮したままの頬と、ルーシャと揃いの組紐にめざとく気付いて小さく咳払いする。
「初めてお目に掛かるね。息子が世話になる」
「あら声までイイ男。アタシはルーシャ・バルハラット。あっちのオッサンから引き継いで、これでも〈レヴィアタン〉のギルマスなの」
「貴殿には別の顔もあるようだが」
「んふふ、アタシに興味がお有りかしら」
見えないはずの火花がバチバチと散る中、リルカとグリードがさりげなく二人を引き剥がすと、イドリースと話していたムゥダルがルーシャに声を掛ける。
「おい怪力女装」
「イヤねダーリン、誰が絶世の美女よ」
「お前マジ耳どうかしてるだろ。そんなことよりお前の飼い犬、逃げたんじゃないか」
ムゥダルの言葉はあくまで比喩だが、その場にいるリルカとグリードにはすぐにその意味が把握できた。ウェイロンだ。
「親元に帰したわよ。アンタたちもよく知ってるはずよ。ナファニス・ツェルナーって神父のところにね」
「お前、どうしてそれを。しかも親元に帰したなんてどういうつもりだ!」
グリードが身を乗り出してルーシャの胸ぐらを掴むと、まずは話を聞けと掴まれた手をゆっくりと引き剥がす。
「こっちも色々あったのよ。それでウェイロン本人に口を割らせたの、あの子も可哀想な立場なのよ」
「本人から聞いたってお前、そんな話に信憑性はあるのか」
「ええ、この目で見たわ。全身に術式が刻まれていて、本人の意思とは関係なく動きを制御されるようになってた。この意味は分かるわよね」
「そんな」
リルカが口元を覆うと、その場にいた全員も押し黙ってルーシャの言葉が続くのを待つ。
「結論だけ言えば、ナファニスはウェイロンの術式が完全に馴染むのを待って、それが完成すれば思いのまま動く人型の傀儡を手に入れることになるわね」
「じゃあどうしてナファニスなんかの元に送り出したの」
「犬死にさせないためよ」
ルーシャは悲痛な顔をするリルカの頬を撫でると、顔を引き攣らせるマーベルは無視して話を続ける。
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人の骸獣化は今までに前例のないことだが、ルーシャの話を聞く限り、ウェイロンはそれを実行するための鍵となる。
ウェイロンの体に刻まれたという術式の解除も含めて、今夜決行する襲撃の作戦を今一度立て直すと、ルーシャが実働隊に加わることで話がまとまった。
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〈ストラヴァル〉のメンバーで賑わう喧騒を背にカウンターに並んで座ると、喉を焼くようなダール酒を呷って、マーベルは小さな声でルーシャに問い掛ける。
「どうかしらね、でも結果的にそれを掴まされてアナタは翻弄されたのよね」
「そうだね。君を疑うように仕向けられたよ、ルーシャ・バルハラット。いや、イジュナル・ブランフィッシュ陛下」
「イヤね、こんなところでよしてちょうだい」
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「そうだろうか。なににも変え難い大切な宝物だ、本気じゃないなら殺してやりたいよ」
「ふふ。面立ちはお母様譲りなのでしょうけど、苛烈な性格はそっくりね」
「俺は妻を亡くしてる。娘には要らぬ苦労をさせたくない。愛する人を失うような思いもして欲しくはない」
「ならあの子を置いて死ぬ訳にはいかないわね。意外に思うかも知れないけど、これでもアタシ少しは腕が立つのよ」
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