37 / 56
(36)害する者★
しおりを挟む
州知事公邸を訪れるとすぐに、ミドレッド街道で起きた滑落事故に関して、確かに使用人のうち三人ほどが巻き込まれたとして、赤子の引き取り手である宝石商のアスラナが現れた。
そして赤子を引き渡す際に、乳母の人手が欲しいとしてミネーラを使用人として共に受け入れたいと申し出があったが、ケイレブは少し待って欲しいと申し出を拒んだ。
カミーリアが気付いて赤子に解毒を施してはいるが、どこまでがアマリエ公爵ゼウル卿に抱き込まれているのか、いまいち判断材料が揃わない。
そもそも、赤子の引き取り手としてアスラナは黒か、はたまた何も知らない白なのか。
「おい、茶に薬を盛られてる。飲むなよ」
考えを巡らせるケイレブにカミーリアが耳打ちする。つまりサイラットは完全に黒だ。
「随分と手荒な歓迎をなさるんですね」
「なんのことですかな」
「ビリー、こちらに来て腕を出せ」
「……はい」
背後に控えていたビリーを呼び付け、容赦なくその腕に短刀で切り付けた傷口に用意された茶を浴びせると、焦げるような匂いと白い泡が噴き出した。
「うっ、こんな……こんな役回りだとは聞いていないぞサイラット!」
苦悶の表情でサイラットを睨み付けると、ビリーは自分の失言にも気付いてない様子で息を荒くする。
「植物性の毒か。セルナル辺りかな。しかしこんな物騒なもてなしを受けるとは思いませんでしたよ」
セルナル草は自生する植物の中でも毒素が強く、体液と混ざり合うとこういった反応を引き起こし、強い炎症を起こして火傷のような症状を引き起こす。
「くっ、使えん犬が。なにをぐずぐずしてる!王弟の子どもを殺せ!そしてこいつらも始末しろ」
王弟の子ども。サイラットはそこまで把握している。これでゼウルの息が掛かっている言い逃れは出来なくなった。
血眼になってサイラットが叫ぶと部屋を取り囲んでいた兵士たちが雪崩れ込んでくる。そして背後に控えて居たはずのウデナも、いつの間にかビリーやミネーラを引き連れて敵陣営に回り込んだ。
それに乗じてサイラットは部屋から退出しようとするが、デュロイはすかさず暗器を投げ付けて退路を塞ぐ。
突然起きたこの状況が飲み込めない様子のアスラナはやはり白か。赤子を抱えて呆然としている。
「デュロイ、アスラナ殿と赤ん坊を任せる」
「はっ」
「カミーリア、腕は鈍ってないだろうな」
「貴様誰に口を利いている」
口角を上げて視線を移すと、腰元に携えていた連写式の吹き矢のような武器を取り出し、次々と急所を狙って押し寄せる兵士たちを討ちながら、伸縮性を持たせた特殊なスピアで薙ぎ払っていく。
呻き声と噴き出す血の匂いが部屋中に充満し始めると、ケイレブも応戦しながら奥に続く隠し通路に逃げ込もうとするサイラットを追い詰める。
「さあ、殺されるよりも惨たらしい思いをさせてやろう」
「やめろ!私は、私はナドリック卿に命じられて」
「それは別の場所で言えたら言うんだな」
ケイレブは躊躇なくサイラットの眼窩に短剣を差し込むと、容赦なく左眼を抉り抜いた。
「うがぁああああ」
サイラットが顔面を押さえてのたうち回り、断末魔のような声が響く中、重装兵の足踏みの音が聞こえてくる。
「突入!サイラット州知事及びその私兵を捕縛、要人の安全確保を急げ」
号令と共に部屋に突入して来たのは、ケイレブがカミーリアを介して応援要請をしていたアプハン陸軍の犯罪取り締まりを行うスメーナ隊だ。
「リシャール中将」
「遅いぞヨルド。もう方はついた。サイラットはオルガッド王国の貴族、アマリエ公爵ゼウル卿との繋がりを自供した。追って調べるぞ」
「はっ」
ヨルドは敬礼してすぐに、足元で血を流してうずくまり呻き声を上げるサイラットを捕縛する。
「貴公のイルギルと結託した人身売買に関しても証拠は掴んでいる。今頃シタンザニアにも強制捜査が入っている頃だ。言い逃れは出来んぞ」
失血の衝撃から、担ぎ上げられてようやく立っている様子のサイラットに言い渡すと、カミーリアは顎で連れて行けと指示を出して沈黙した。
「ケイレブ殿、この事態は一体。それにこの赤子はメリッサの、あの子が遺した子ではないのですか」
部屋中で捕物が進む中、デュロイに伴われてやってきたアスラナは困惑してケイレブの腕を掴む。
メリッサとはオルガッドの商家に嫁いだアスラナの姪であり、イルギルが関与したと見られる不幸な事故に見舞われた女性だ。この赤子はそのメリッサの忘れ形見に他ならない。
「この子は間違いなくメリッサの遺児ラグナスだ。すまなかった。何処まで抱き込まれているか判断がつかなかったんでね。貴方を疑う結果になった」
泣き声を上げるラグナスの頭を優しく撫でると、ケイレブはようやく大きく息を吐いた。
そして赤子を引き渡す際に、乳母の人手が欲しいとしてミネーラを使用人として共に受け入れたいと申し出があったが、ケイレブは少し待って欲しいと申し出を拒んだ。
カミーリアが気付いて赤子に解毒を施してはいるが、どこまでがアマリエ公爵ゼウル卿に抱き込まれているのか、いまいち判断材料が揃わない。
そもそも、赤子の引き取り手としてアスラナは黒か、はたまた何も知らない白なのか。
「おい、茶に薬を盛られてる。飲むなよ」
考えを巡らせるケイレブにカミーリアが耳打ちする。つまりサイラットは完全に黒だ。
「随分と手荒な歓迎をなさるんですね」
「なんのことですかな」
「ビリー、こちらに来て腕を出せ」
「……はい」
背後に控えていたビリーを呼び付け、容赦なくその腕に短刀で切り付けた傷口に用意された茶を浴びせると、焦げるような匂いと白い泡が噴き出した。
「うっ、こんな……こんな役回りだとは聞いていないぞサイラット!」
苦悶の表情でサイラットを睨み付けると、ビリーは自分の失言にも気付いてない様子で息を荒くする。
「植物性の毒か。セルナル辺りかな。しかしこんな物騒なもてなしを受けるとは思いませんでしたよ」
セルナル草は自生する植物の中でも毒素が強く、体液と混ざり合うとこういった反応を引き起こし、強い炎症を起こして火傷のような症状を引き起こす。
「くっ、使えん犬が。なにをぐずぐずしてる!王弟の子どもを殺せ!そしてこいつらも始末しろ」
王弟の子ども。サイラットはそこまで把握している。これでゼウルの息が掛かっている言い逃れは出来なくなった。
血眼になってサイラットが叫ぶと部屋を取り囲んでいた兵士たちが雪崩れ込んでくる。そして背後に控えて居たはずのウデナも、いつの間にかビリーやミネーラを引き連れて敵陣営に回り込んだ。
それに乗じてサイラットは部屋から退出しようとするが、デュロイはすかさず暗器を投げ付けて退路を塞ぐ。
突然起きたこの状況が飲み込めない様子のアスラナはやはり白か。赤子を抱えて呆然としている。
「デュロイ、アスラナ殿と赤ん坊を任せる」
「はっ」
「カミーリア、腕は鈍ってないだろうな」
「貴様誰に口を利いている」
口角を上げて視線を移すと、腰元に携えていた連写式の吹き矢のような武器を取り出し、次々と急所を狙って押し寄せる兵士たちを討ちながら、伸縮性を持たせた特殊なスピアで薙ぎ払っていく。
呻き声と噴き出す血の匂いが部屋中に充満し始めると、ケイレブも応戦しながら奥に続く隠し通路に逃げ込もうとするサイラットを追い詰める。
「さあ、殺されるよりも惨たらしい思いをさせてやろう」
「やめろ!私は、私はナドリック卿に命じられて」
「それは別の場所で言えたら言うんだな」
ケイレブは躊躇なくサイラットの眼窩に短剣を差し込むと、容赦なく左眼を抉り抜いた。
「うがぁああああ」
サイラットが顔面を押さえてのたうち回り、断末魔のような声が響く中、重装兵の足踏みの音が聞こえてくる。
「突入!サイラット州知事及びその私兵を捕縛、要人の安全確保を急げ」
号令と共に部屋に突入して来たのは、ケイレブがカミーリアを介して応援要請をしていたアプハン陸軍の犯罪取り締まりを行うスメーナ隊だ。
「リシャール中将」
「遅いぞヨルド。もう方はついた。サイラットはオルガッド王国の貴族、アマリエ公爵ゼウル卿との繋がりを自供した。追って調べるぞ」
「はっ」
ヨルドは敬礼してすぐに、足元で血を流してうずくまり呻き声を上げるサイラットを捕縛する。
「貴公のイルギルと結託した人身売買に関しても証拠は掴んでいる。今頃シタンザニアにも強制捜査が入っている頃だ。言い逃れは出来んぞ」
失血の衝撃から、担ぎ上げられてようやく立っている様子のサイラットに言い渡すと、カミーリアは顎で連れて行けと指示を出して沈黙した。
「ケイレブ殿、この事態は一体。それにこの赤子はメリッサの、あの子が遺した子ではないのですか」
部屋中で捕物が進む中、デュロイに伴われてやってきたアスラナは困惑してケイレブの腕を掴む。
メリッサとはオルガッドの商家に嫁いだアスラナの姪であり、イルギルが関与したと見られる不幸な事故に見舞われた女性だ。この赤子はそのメリッサの忘れ形見に他ならない。
「この子は間違いなくメリッサの遺児ラグナスだ。すまなかった。何処まで抱き込まれているか判断がつかなかったんでね。貴方を疑う結果になった」
泣き声を上げるラグナスの頭を優しく撫でると、ケイレブはようやく大きく息を吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる
季邑 えり
恋愛
サザン帝国の魔術師、アユフィーラは、ある日とんでもない命令をされた。
「隣国に行って、優秀な魔術師と結婚して連れて来い」
常に人手不足の帝国は、ヘッドハンティングの一つとして、アユフィーラに命じた。それは、彼女の学園時代のかつての恋人が、今や隣国での優秀な魔術師として、有名になっているからだった。
シキズキ・ドース。学園では、アユフィーラに一方的に愛を囁いた彼だったが、4年前に彼女を捨てたのも、彼だった。アユフィーラは、かつての恋人に仕返しすることを思い、隣国に行くことを決めた。
だが、シキズキも秘密の命令を受けていた。お互いを想い合う二人の、絡んでほどけなくなったお話。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる