追放された精霊の愛し子は運命の番をその腕に掻き抱く

濘-NEI-

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(36)害する者★

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 州知事公邸を訪れるとすぐに、ミドレッド街道で起きた滑落事故に関して、確かに使用人のうち三人ほどが巻き込まれたとして、赤子の引き取り手である宝石商のアスラナが現れた。

 そして赤子を引き渡す際に、乳母の人手が欲しいとしてミネーラを使用人として共に受け入れたいと申し出があったが、ケイレブは少し待って欲しいと申し出を拒んだ。

 カミーリアが気付いて赤子に解毒を施してはいるが、どこまでがアマリエ公爵ゼウル卿に抱き込まれているのか、いまいち判断材料が揃わない。

 そもそも、赤子の引き取り手としてアスラナは黒か、はたまた何も知らない白なのか。

「おい、茶に薬を盛られてる。飲むなよ」

 考えを巡らせるケイレブにカミーリアが耳打ちする。つまりサイラットは完全に黒だ。

「随分と手荒な歓迎をなさるんですね」

「なんのことですかな」

「ビリー、こちらに来て腕を出せ」
「……はい」

 背後に控えていたビリーを呼び付け、容赦なくその腕に短刀で切り付けた傷口に用意された茶を浴びせると、焦げるような匂いと白い泡が噴き出した。

「うっ、こんな……こんな役回りだとは聞いていないぞサイラット!」

 苦悶の表情でサイラットを睨み付けると、ビリーは自分の失言にも気付いてない様子で息を荒くする。

「植物性の毒か。セルナル辺りかな。しかしこんな物騒なもてなしを受けるとは思いませんでしたよ」

 セルナル草は自生する植物の中でも毒素が強く、体液と混ざり合うとこういった反応を引き起こし、強い炎症を起こして火傷のような症状を引き起こす。

「くっ、使えん犬が。なにをぐずぐずしてる!王弟の子どもを殺せ!そしてこいつらも始末しろ」

 王弟の子ども。サイラットはそこまで把握している。これでゼウルの息が掛かっている言い逃れは出来なくなった。

 血眼になってサイラットが叫ぶと部屋を取り囲んでいた兵士たちが雪崩れ込んでくる。そして背後に控えて居たはずのウデナも、いつの間にかビリーやミネーラを引き連れて敵陣営に回り込んだ。

 それに乗じてサイラットは部屋から退出しようとするが、デュロイはすかさず暗器を投げ付けて退路を塞ぐ。

 突然起きたこの状況が飲み込めない様子のアスラナはやはり白か。赤子を抱えて呆然としている。

「デュロイ、アスラナ殿と赤ん坊を任せる」
「はっ」

「カミーリア、腕は鈍ってないだろうな」

「貴様誰に口を利いている」

 口角を上げて視線を移すと、腰元に携えていた連写式の吹き矢のような武器を取り出し、次々と急所を狙って押し寄せる兵士たちを討ちながら、伸縮性を持たせた特殊なスピアで薙ぎ払っていく。

 呻き声と噴き出す血の匂いが部屋中に充満し始めると、ケイレブも応戦しながら奥に続く隠し通路に逃げ込もうとするサイラットを追い詰める。

「さあ、殺されるよりも惨たらしい思いをさせてやろう」

「やめろ!私は、私はナドリック卿に命じられて」
「それは別の場所で言えたら言うんだな」

 ケイレブは躊躇なくサイラットの眼窩に短剣を差し込むと、容赦なく左眼を抉り抜いた。

「うがぁああああ」

 サイラットが顔面を押さえてのたうち回り、断末魔のような声が響く中、重装兵の足踏みの音が聞こえてくる。

「突入!サイラット州知事及びその私兵を捕縛、要人の安全確保を急げ」

 号令と共に部屋に突入して来たのは、ケイレブがカミーリアを介して応援要請をしていたアプハン陸軍の犯罪取り締まりを行うスメーナ隊だ。

「リシャール中将」

「遅いぞヨルド。もう方はついた。サイラットはオルガッド王国の貴族、アマリエ公爵ゼウル卿との繋がりを自供した。追って調べるぞ」

「はっ」

 ヨルドは敬礼してすぐに、足元で血を流してうずくまり呻き声を上げるサイラットを捕縛する。

「貴公のイルギルと結託した人身売買に関しても証拠は掴んでいる。今頃シタンザニアにも強制捜査が入っている頃だ。言い逃れは出来んぞ」

 失血の衝撃から、担ぎ上げられてようやく立っている様子のサイラットに言い渡すと、カミーリアは顎で連れて行けと指示を出して沈黙した。

「ケイレブ殿、この事態は一体。それにこの赤子はメリッサの、あの子が遺した子ではないのですか」

 部屋中で捕物が進む中、デュロイに伴われてやってきたアスラナは困惑してケイレブの腕を掴む。

 メリッサとはオルガッドの商家に嫁いだアスラナの姪であり、イルギルが関与したと見られる不幸な事故に見舞われた女性だ。この赤子はそのメリッサの忘れ形見に他ならない。

「この子は間違いなくメリッサの遺児ラグナスだ。すまなかった。何処まで抱き込まれているか判断がつかなかったんでね。貴方を疑う結果になった」

 泣き声を上げるラグナスの頭を優しく撫でると、ケイレブはようやく大きく息を吐いた。
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