追放された精霊の愛し子は運命の番をその腕に掻き抱く

濘-NEI-

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(43)オネストルの秘宝

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 その国に秘宝と謳われる美姫ありて
 誰もが息を呑み酔いしれた
 その国に秘宝と謳われる美姫ありて
 秘宝は道ならぬ恋に身を焦がす
 定められし運命を呪い
 秘宝は道ならぬ恋に身をやつす
 定められし宿命を嘆き
 秘宝は婚礼の日に跡形もなく消えた
 さすらうは砂海の塵となり
 さすらうは砂塵となりて消え去った
 何処や何処
 秘宝はさすらい塵となった

 オルガッドでも知らぬ者が少ない吟遊詩人の十八番とされる、南の大国オネストルの失踪した王女を唄う詩。

 そういえばグルーノ一座に世話になっている頃、アイルーンが朗々と歌い上げるのを聴いたことがあるとパメラは思った。

「秘宝と呼ばれた王女の名はオフィーリア。そして王女の道ならぬ恋の相手は腹違いの兄エイブラハム。これは有名な話だ」

 マグラリアの説明が終わると、興味深そうにパメラを見つめていたカミーリアが身を乗り出して机に手をついた。

「さて。パメラ嬢の姓であるホーネリアだが、それはオネストルの王族が市井に下る時のみ与えられる姓とされている。もちろん国外には散見されない希少な姓だ」

「ならば尚のこと、その判断をなすのは早計ではないのか」

 オネストルは大国だ。それゆえに派閥を抱えた王族過多なことでも知られる国である。
 デルザリオが早計だと評するのはある意味で的を射ているが、パメラの出自に関してこれが関与しないとは断定できないのも事実だ。

「いいや。パメラ嬢、その耳飾りだよ」
「これですか」

 パメラの耳元に小さく輝く石。それは確かに第二の性が判明するよりも前、十を迎えた時に魔除けとして両親から贈られたものに違いない。

 アシャノンとの邂逅が夢でなければ、あの頃すでに両親は、パメラを一人遺して行く覚悟をしていたのだろうか。

「ああ、それは希少な石だ。モニュラスブルーだとかモニュラスの宵闇と呼ばれるこの独特の青い石はね、オネストルのモニュラスでしか採れないエミナイトと言われる宝石だ」

 カミーリアは身を乗り出してパメラの耳元に手を添えると、見事なものだねと感嘆の溜め息を吐いた。

「エミナイトだかなんだか知らないけどさ、そんな希少な石だとしても、パメラちゃんがその消えた花嫁と関係があるとは断定出来ないだろ」

 ケイレブは我慢しきれなかったのか、マグラリアに断りを入れてからカミーリアに向けて言葉を投げ掛けた。
 しかしカミーリアは口端を引き上げて愉快そうに笑うと、だからこそ断定できると言い切った。

「エミナイトはな、それを所持する人が決まっている正に宝玉だ。言わずもがなそれを身につけることを唯一許されたのが、オネストルの美姫にして秘宝と呼ばれたオフィーリア王女だ」

 その場にいる誰もが、カミーリアの言葉に息を呑む。
 この話が確かな物だったすれば、パメラは一体何者なのだろうか。

「しかしこの耳飾り、如何に青い宝石が希少であっても、これが本物のエミナイトだとは言い切れん。それにパメラはオフィーリアの名も、エイブラハムという名にも聞き覚えがないと言っている」

 デルザリオの声に一同が再び沈黙する。

 確かにカミーリアの推論は理に適ったものだが、デルザリオの言う通り憶測の域を出るものではなく、確たる根拠と証拠がどこにもない。

「パメラ、少しいいかい」

「はいマグラリア様」

 沈黙を破るマグラリアの声にパメラが返事をすると、カミーリアも黙ってその様子を眺めている。

「君のご両親の名はなんというんだろうか」

「お父さ……父はオーブリー。母はオリビアです」

 困惑したまま両親の名を告げると、パメラは不安からデルザリオの手を取り強く握り締めた。

「微妙なところだね。愛称をもじった様にも取れるが、全く別の名である可能性もある」

 首を捻るマグラリアの様子を見ると、堪らずケイレブがカミーリアを睨んで噛み付く様に声を荒げた。

「おいカミーリア、お前が引っ掻き回すことを言うからだろ」

「いやしかし見ろ。マキナ王妃の血を引くマギーやデルザリオに引けを取らないパメラ嬢の美しさだ。それに加えてホーネリアという珍しい姓に青い耳飾り。勘繰りたくもなるだろう」

 カミーリアはさして悪びれる様子もなく、詳しく調べるのもやぶさかではないと態度を改める気配がない。

 パメラも知れるものなら両親の出自について聞いてみたくはあるが、先のアシャノンとの邂逅だけでもいまだ夢か現かの判断がつかないくらいだ。

「ならば秘宝と呼ばれた美姫に直接会ったことのある者に聞けば、あるいはパメラの血脈についての判断もつくだろう」

 マグラリアは何かを思い出した様にそう呟くと、この話はここまでだと話を切り上げて話題を変えた。

 デルザリオが握り締めるパメラの手は、指先が冷たく、いつまで経っても震えていた。

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