追放された精霊の愛し子は運命の番をその腕に掻き抱く

濘-NEI-

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(55)精霊の愛し子と運命の番

 デルザリオとパメラは三人の子を授かり、長男グリフィスは十三からオネストルで教育を受け、主に法に関する知見を深め、翌年から正式にオルガッドの王宮に上がることが決まっている。

 貴族制度が廃止されたオルガッドにおいて、重要な役割を担う立場となるのは明らかで、誰もがグリフィスに掛ける期待は大きい。

「父上、母上。長らくの自由をお許しくださってありがとうございます」

 デルザリオに似て上背があり、一目で婦女子を虜にするような甘い顔立ちのグリフィスは十八になった。

 そしてオネストルから戻ったばかりのグリフィスが恭しく挨拶するのを、待ちきれない様子で待つのが十三になった妹のユージーンと、まだ九つの弟エルビスだ。

「よく戻った。長旅の疲れもあるだろうが、お前のための宴席だ。ここの連中が騒がしいのは承知してるだろう。悪いが相手をしてやってくれ」

「ええ、大変懐かしく、嬉しく思います」

「おかえりなさいグリフ。お祖父様やお祖母様はご健勝でしたか」

「はい。母上に宛てた贈り物も預かって来ております。なかなか帰して貰えず骨が折れました」

 グリフィスは答えてにっこり微笑むと、うずうずした様子で今にも飛び出して来そうな弟妹に視線を向けて、ただいまとようやく声を掛ける。

「兄上」
「グリフ兄様」

 飛びついて来た二人を抱きしめると、グリフィスはあのねあのねと一斉に騒ぎ出した二人の頭を撫で、丁寧に話を聞いてやっている。

「時が経つのは早いですね」

「ああ。まったくだな」

 デルザリオとパメラは顔を見合わせると、賑やかに兄を囲む弟妹の姿に微笑みを浮かべた。

 陽が落ちた集落には、幾つも吊るされたランプが辺りを照らし、ケイレブとアイルーンの娘のニーニアが、複数の弦が張られたシャミルを掻き鳴らしてアイルーンが歌う。

「ニーニアは綺麗になったね」

「お前は昔からニーニアを見ると顔がニヤけるな」

「え、そんなことないよ」

 アリステアが小声で揶揄うと、グリフィスは顔を真っ赤にして大きく首を振る。

「一緒に踊ろうって誘えよ」

「そんな、無理だよ」

「ニーニア!グリフがお前と踊……」
「バカやめろ、アリス」

「なに照れてんだよ」

「恥ずかしいに決まってるだろ」

 宴の賑やかさにその声は掻き消され、方々で楽しげに騒ぐ声が上がると、音楽に合わせて踊り始める者も現れて、集落は更に賑やかになっていく。

「マシュー、お前も飲めよ」
「あ、ケセン!お前俺の肉食ったろ」
「こら、大人しく食べないか」

 あちこちで皆が騒ぎ始め、賑やかな喧騒に包まれて夜が更けていく。

 騒ぎから離れた樹の上にやってくると、その先に居たパメラにデルザリオは声を掛ける。

「どうしたパメラ」

「いえ、少し風に当たりたくて」

 集落を一望する樹の上に作られた部屋は当時のまま、けれど樹々の間に渡された橋の数は増え、家族を持つ者の数も増えた。

 デルザリオはパメラを背後から抱きしめると、愛していると耳元に囁いて、賑わう仲間たちに視線を向ける。

「こんなにも幸せでいいんでしょうか」

「幸せでいることに誰の許しも要らんだろう」

「貴方を愛し、愛されるだけで幸せだったのに、愛する子たちにまで恵まれました」

「すべてお前のおかげだ、パメラ」

 振り向いて微笑むパメラにすかさず口付けると、デルザリオは飛び交う精霊たちを指で払い、邪魔をするなと指を鳴らす。

 くすくすと楽しそうに笑う精霊たちは、それでもデルザリオとパメラになにか知らせるように跳び回り、その声に気付いた二人は驚いて見つめ合い、お腹を見つめた。


 コズラスタ大陸の西。

 その土地の四方を深い山岳地帯に囲まれた手付かずの自然が多く残り、古くから自然には神や精霊が宿ると考える、いわゆる自然崇拝が強く根付く豊かな自然を有するオルガッド王国。

 中でも国土の西に広がるラウェルナ大森林は、今なお精霊や妖精が棲まうとされ、神聖な場所として人の手がほとんど入っておらず、整備された東の街道を馬車が行き交う以外は、そもそも人が立ち入ることもない。

 それゆえに、それを逆手に取った精霊に愛された王子とその番が、仲間たちと幸せにそこで暮らしていることは誰にも知られていない。


おしまい。
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