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第3話 

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 「昨日、本屋で先輩と楽しそうにしゃべっている、ひまりを見たって子がいるんだけどほんと?」
 
 朝、学校の教室で本を読んでいると、教室に入って私を見つけた木村さんが聞いてきた。この手のはなしは面倒だが、黙っていた方がややこしくなりそうだったので、昨日の一連のことを伝えた。 
 
 「まさか、有栖川先輩とそんなことになってたとはね」
 
 こういう反応されるから話したくなかった。私だって釣り合うなんて思ってないし、今の委員と委員長くらいの関係でこのまま続いてくれるのが一番だった。
 
 「ごめんて、そんなに気を悪くしないで。私は笑ってるわけじゃないの」

 「私、そんなに気が悪そうだった?」

 「ええ、今まで見たことないくらいに」
 
 自分でも意外だった、もともと表情は出にくい方だし、こんな性格だから他人に表情を読まれたのは久しぶりだった。これは木村さんが鋭いのか、それとも先輩のせいなのか。
 
 「おはよう、明日香ちゃん、ひまりちゃん」
 
 「おはよう、マオ」
 
 いつの間にか佐倉さんが木村さんの横に立っていた。私も佐倉さんに返事を返す。
 
 「朝から二人で何か話しているなんて、珍しいね。どうしたの」
 
 「どうしたのって、ひまりの話誰かから聞かなかった?」
 
 「ああ、そういうことか。じゃあ、ひまりちゃん、明日香ちゃんはこっちで引き取るね」
 
 「なんで」
 
 「なんでって、他人の恋路ほど邪魔してはいけないものはないですからね」
  
 佐倉さんは私の席から木村さんを引きはがすと、北村さんを引き連れて行ってしまった
 
 それからは、本を読んでいても私の話が耳に入ってきた。先輩はたびたび女の子から告白を受けても断っているらしく、女の子と買い物をしているなんて珍しいことらしい。そのため私はいま話の話題として挙がっているらしい。
私の話をするくらいなら気にしないけど、先輩の話をされるのはとても不愉快だと思った。
 
 
 それからしばらくして、私の当番活動の日が回ってきた。人の噂も七十五日とかいうけども、今の時代そんなに続くものでもなく、三日もたてば話の的から外れていった。その間先輩とは何もなかった。先輩を校舎で見つけても逃げるような行動をとってしまっていた。
 
 今日こそ先輩に会いたいと思ったが、今日の当番は二年の名前も知らない先輩だった。先輩じゃなかったからと言って手を抜くわけにはいかない、昼も放課後も当番をつつがなくこなした。今日は司書の先生がいたので、窓の戸締りだけ確認して終わりとなった。
 
 放課後、人のいない廊下を歩く言下に向かって歩く。校舎のどこかからか楽器の音が聞こえ、グランドでは汗臭い掛け声が響いていた。廊下を歩いているところで目の前に人が現れた。
 
 「お疲れ様、ひまりちゃん」
 
 「佐倉さん、なんでここに」
 
 現れた人影は佐倉マオだった。彼女がこんな時間まで学校に残っているなんて珍しかった。いつもは何か用事があるらしく家に帰っているのに。

 「ちょっと、ひまりちゃんとお話がしたくて。待ってたよ」

 「え、」

 今の状況がつかめないまま、彼女に手を取られて歩き始めた。お互いに無言のまま歩いてきたのは私たちの教室だった。

 「ちょっと待ってね」

 そういって彼女は何やら用意を始めた。机を二つ向き合わせて置き、そこに布がひかれ、布の上には、お菓子やキャンドルなんかが並べられている。机の準備が終わったのであろう彼女は教室の扉とカーテンを閉め、魔女みたいな帽子をかぶった。
 彼女がキャンドルに火をつけると、真っ暗だった教室が暖かい色に照らされた。

「ひまりちゃん、私魔女なんだ」

 こちらを見た彼女は確かにそういった。魔法使いは最近認められてきた人たちで、ごくわずかしかいない。それでも一人ひとり科学では説明のつかない不思議な力を持っている人たち。
 
 「もしかしてこの学校にいるっていう魔女が佐倉さんなの?」
 
 「やっぱり、知らなかったか。自己紹介の時言ったんだけどなあ」
 
 「ごめんなさい、聞いてなかった」
 
 「立ってても疲れちゃうし、座ろうか」

 彼女に促されて、さっき準備していた席に腰を下ろす。彼女も向かい側に座った。
 
 「ひまりちゃん今から説明することをよく聞いてね」

 「う、うん」
 
 「私は正確には魔法使いではなくて、魔法使いの見習い。あっこれ、仮免だから」

 彼女から渡されたカードを見ると、彼女の名前と写真が印刷されていた。

「それでね、今は実地研修って感じで地元に帰ってきているんだけど、研修項目に能力を使って依頼をこなさなければならないの。そこで私ならひまりちゃんの力にもなれるし、項目も達成できる」

 一呼吸時間をおいて彼女は話しを続ける。ここまで話を聞いても信じられないけど本当に彼女は本物なのかもしれない。

「わたしの能力はいわゆる事象変動、大げさだけど確立を少しだけ上げれるよって力、ほんの少しだけどね。それでも恋愛においては一番高い数値が出る。だからさひまりちゃん私に依頼しない?いやだったら、今すぐこの部屋から出て行ってもろってかまわない。断ったことに関しては今後に何も関係しない。さあ、ひまりちゃんどうする?あとはひまりちゃんの勇気だけだよ」

 私は先輩とこのままの関係を続けたいと思ったけど、その時間は今も減っている。先輩は今ままでで一番、私の話を理解してくれた人で、まだまだ話たりない。もっと話したい。でも、私なんかが、先輩となんて、こんなのが隣に立っていいのかな。それでも、やっぱり、私は恋をしたい。

「佐倉さん、いや、マオちゃん依頼してもいい?」
 
 「はい!じゃあ、改めてきくね。ひまりちゃん恋に困ってない?」

 「困ってる、私を先輩と付き合わせて!」

 「承りました。私の力は確立を上げるだけ、確定ではないです。それでもいいですか?」

 「はい」

 そこからはただ圧巻だった、何やら呪文を唱えたらと思ったら。私の周りに何かが降ってきた。キラキラした細かい砂みたいのが、彼女が呪文を唱えるたび濃くなっていく。

 「はい、これで儀式は終了だよ」

 キャンドルの火を消して、カーテンを開ける。外はもう夕方だった。

 「ひまりちゃん、私の力の持続時間は一日で効果があるのは一回だけ。あとは頑張って、ひまりちゃん」

 「ありがと、頑張る。これって何か報酬が必要?」

 「特にいらないけど、成功したらまた一緒にご飯食べてくれると嬉しい」

 「分かった」

 「帰ろうか、早くしないと玄関しまっちゃう」

 私たちは急いで荷物をまとめると玄関に向かった。玄関が閉まる前に出ることができた。部活がおわった人たちが校門前はにぎわっていた。彼女はもう何も言わす、帰っていった。

 家に帰ってから、何かの時に交換して以来一回も使わなかった先輩の連絡先に初めてのメッセージを送った。

『明日の放課後、図書館に来てください。伝えたいことがあります。ひまり』
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