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第一章
3.家庭教師から教わること
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父様からの家庭教師の話があった3日後に、家庭教師がきた。事前に聞いた話だと国内でも5本の指に入るほどの実力の持ち主だとか。
そんなすごい人を私なんかの教師に付けて良かったのだろうか…
授業は物凄く厳しいらしい。
勉強嫌いな貴族の子供も投げ出すことが多いとよく聞く。たが、その先生が教えてくれることはわかりやすく、実績もあるため先生を指示している貴族も少なくはないらしい。
私は、昔から勉強することは嫌いではない。新しいことを知るのは楽しいし、むしろこの世界は日本とは違い魔法学というものもある。
元庶民の私からしたら王国制度も、貴族の作法も大変そうだとは思うが、興味をそそるものである。
周りの人の期待を裏切らないためにも一切妥協をしないと家庭教師の話があがった時に決めた。
最初は顔見合せだと父様の付き添いが入り挨拶の席を儲けてくてた。
「初めまして。私はリリアナ・ペトル・ヴァランガと申します。先日5歳の誕生日を迎えました。先生に教えを乞えることを光栄に思います。」
着ていたドレスの裾をつまみちょんっと持ち上げお辞儀をした。先生は一瞬だけ驚いたように顔崩したがすっと表情を元に戻し丁寧にお辞儀を返してきた。
「こちらこそ初めまして。アビゲイル・ダグランドと申します。ヴァランガ侯爵令嬢にお会いできるのを楽しみにしておりました。」
「ダグランド先生。私は教えを乞う身ですのでどうぞリリアナとお呼びください。」
私の返答に驚きを隠せなかったのか、先生は怪訝な顔を浮かべた。父様は私の挨拶を見て顔が少々緩んでいる。ほっと心の中で息を吐く。良かった。父様には気に入って貰えたらしい。
昨夜私なりに懸命に考えた挨拶である。噛まないように練習したかいがあった。
「さすがヴァランガ卿の御令嬢ですね。5歳になったばかりだとは思えません。」
「はは。リリは自慢の子だからね。」
父様はあまり気にしていないが、先生にとってはどうやら丁寧すぎてしまったらしい。失敗した。貴族とはいっても5歳の子はここまで畏まらないみたいだ。
うぅ…難しい…
5歳児に見合った丁寧な挨拶はどの程度が理想なのだろう。幼いとはいえ、貴族なのだから挨拶は丁寧な方がいいとは思うのだが…
「それでは私のこともどうぞアビゲイルとお呼びくださいませ。」
「はい!アビゲイル先生!!」
ここは5歳児っぽく返事をする。
うまく誤魔化せただろうか。
授業が始まったのはその翌日からだった。
最初はこの王国の歴史について少しだけ話を聞いた。
このパッフェルト王国は神ではなく、精霊に仕えている。パッフェルト王国があるサランバル大陸には数多くの火山があり、その火山から醸し出される精気は多くの精霊達を癒す力を持つらしく、この国の東に位置するペトル火山の精気が気に入った精霊王が現在のパッフェルト王国の原型を作ったと言われている。
その精霊王の子孫が今の王族であり、王族に近いほどその血縁は重要視され、滅多なことがない限り地位が揺らぐことはない。
パッフェルト王国はサランバル大陸で最もといっていいほど恵まれた土地を有している。
豊かな土地は精霊によって保護されているので、国民の精霊への信仰心が高く、精霊王の子孫である王族への信頼も厚い。
この国の児童文学も精霊が出でくるものが多いのもそのせいだろう。
精霊は人にはほとんど姿を見せない。
そのため精霊の姿を見た者には幸福が訪れると言われている。
アビゲイル先生の説明はとてもわかりやすく、私は改めて異世界に転生したんだなと実感した。
「リリアナ様、王家主催のお茶会が近いということで覚えてもらいたいものがあります。」
「なんですか?」
アビゲイル先生が出してきたのは、お茶会に出席する予定の貴族達の情報だった。
わかりやすく絵姿付きで名前や家門、派閥などがまとめてあった。どうやって調べたのか気になるが、見てはいけないような情報さえも書いてある。
これは果たして知っていい情報なのだろうか…
というか5歳児相手に相当の量を持ってきて頂いたものだ。あまりの量に一瞬だけ怯んでしまった。
とはいえだ…
これを覚えたら父様と母様に褒めてもらえるかな…
「きっと褒めて貰えますよ。」
心で思ったことを口に出してたらしく、アビゲイル先生は私に目線を合わせながら小さく微笑んでくれた。
「アビゲイル先生も褒めて頂けますか?」
「…私ですか?もちろんです。リリアナ様の御年齢でこれを覚えるのは相当賢くなければできません。とてもすごいことですよ。」
なるほど。
みんなに褒めて貰えるなら絶対に覚えよう…!!
覚える価値は十分にある。
________________
勉強は最初に聞いていた通りかなりハードなものだったが、持ち前の器量さでなんとかついていくことができた。
アビゲイル先生から渡された資料も必死で覚え尽くした。
勉強以外にもお茶会用の新しいドレスを仕立てたり、やらなきゃいけない事がたくさんあったため、ひと息付く暇もないような日が淡々と続いていった。
「つ…疲れた……」
貴族の令嬢というのはこうも大変なものなのか…
忙しいおかげて余計なことを気にすることもなかったからか、疲れて重い身体の割に精神的はとても落ち着いていた。
「お疲れ様です。」
ニケがホットミルクを入れてくれる。
疲れている時はホットミルクがとても染みる。
ふぅ…
落ち着く…
「ダグランド様がこられてからリリアナ様は熱心にお勉強なされてますね。」
「うん。頑張らなくちゃだから。」
「頑張るのは素晴らしいことですが、お身体にもお気を使ってくださいませ。少し顔色が優れませんし…。」
ニケは私の頬を優しく撫でる。
私にお姉ちゃんができたみたいだ。
「隈もあります……回復したとしても全快では無いのですから。私はリリアナ様に何かあったら耐えられません。」
心配してくれるニケに申し訳なさを感じる。
「ごめんなさい…」
また心配をかけてしまった。
うまくやろうと思ってもなかなかうまくいかない。
確かに最近はほとんどの時間を勉強に費やしていたので、隈が少しできていた。
勉強をするのは楽しいが、父様と母様の期待に応えたいというのが大きい。ニケも頭の悪い主人を持ちたくないだろうし、中途半端は許されない。
それに…頑張ったねって褒めて欲しい…
贅沢なお願いだけど、頭を撫でて欲しい…
もしかしたら身体と一緒に心も少し幼くなったのかもしれない。
この世界にきて、欲張りになった。
両親には愛されて信頼できる人がいる。
これ以上と求めてしまうのは、今まで手に入らなかったものを持ってしまったから。貰ってしまったから。貰ったものは返さなくてはならない。それが物だろうと愛だろうとなんだろうと。
今の私に返せる方法はお茶会での成果をあげること。
自慢だと、誇りに思って貰えるように。
そんなすごい人を私なんかの教師に付けて良かったのだろうか…
授業は物凄く厳しいらしい。
勉強嫌いな貴族の子供も投げ出すことが多いとよく聞く。たが、その先生が教えてくれることはわかりやすく、実績もあるため先生を指示している貴族も少なくはないらしい。
私は、昔から勉強することは嫌いではない。新しいことを知るのは楽しいし、むしろこの世界は日本とは違い魔法学というものもある。
元庶民の私からしたら王国制度も、貴族の作法も大変そうだとは思うが、興味をそそるものである。
周りの人の期待を裏切らないためにも一切妥協をしないと家庭教師の話があがった時に決めた。
最初は顔見合せだと父様の付き添いが入り挨拶の席を儲けてくてた。
「初めまして。私はリリアナ・ペトル・ヴァランガと申します。先日5歳の誕生日を迎えました。先生に教えを乞えることを光栄に思います。」
着ていたドレスの裾をつまみちょんっと持ち上げお辞儀をした。先生は一瞬だけ驚いたように顔崩したがすっと表情を元に戻し丁寧にお辞儀を返してきた。
「こちらこそ初めまして。アビゲイル・ダグランドと申します。ヴァランガ侯爵令嬢にお会いできるのを楽しみにしておりました。」
「ダグランド先生。私は教えを乞う身ですのでどうぞリリアナとお呼びください。」
私の返答に驚きを隠せなかったのか、先生は怪訝な顔を浮かべた。父様は私の挨拶を見て顔が少々緩んでいる。ほっと心の中で息を吐く。良かった。父様には気に入って貰えたらしい。
昨夜私なりに懸命に考えた挨拶である。噛まないように練習したかいがあった。
「さすがヴァランガ卿の御令嬢ですね。5歳になったばかりだとは思えません。」
「はは。リリは自慢の子だからね。」
父様はあまり気にしていないが、先生にとってはどうやら丁寧すぎてしまったらしい。失敗した。貴族とはいっても5歳の子はここまで畏まらないみたいだ。
うぅ…難しい…
5歳児に見合った丁寧な挨拶はどの程度が理想なのだろう。幼いとはいえ、貴族なのだから挨拶は丁寧な方がいいとは思うのだが…
「それでは私のこともどうぞアビゲイルとお呼びくださいませ。」
「はい!アビゲイル先生!!」
ここは5歳児っぽく返事をする。
うまく誤魔化せただろうか。
授業が始まったのはその翌日からだった。
最初はこの王国の歴史について少しだけ話を聞いた。
このパッフェルト王国は神ではなく、精霊に仕えている。パッフェルト王国があるサランバル大陸には数多くの火山があり、その火山から醸し出される精気は多くの精霊達を癒す力を持つらしく、この国の東に位置するペトル火山の精気が気に入った精霊王が現在のパッフェルト王国の原型を作ったと言われている。
その精霊王の子孫が今の王族であり、王族に近いほどその血縁は重要視され、滅多なことがない限り地位が揺らぐことはない。
パッフェルト王国はサランバル大陸で最もといっていいほど恵まれた土地を有している。
豊かな土地は精霊によって保護されているので、国民の精霊への信仰心が高く、精霊王の子孫である王族への信頼も厚い。
この国の児童文学も精霊が出でくるものが多いのもそのせいだろう。
精霊は人にはほとんど姿を見せない。
そのため精霊の姿を見た者には幸福が訪れると言われている。
アビゲイル先生の説明はとてもわかりやすく、私は改めて異世界に転生したんだなと実感した。
「リリアナ様、王家主催のお茶会が近いということで覚えてもらいたいものがあります。」
「なんですか?」
アビゲイル先生が出してきたのは、お茶会に出席する予定の貴族達の情報だった。
わかりやすく絵姿付きで名前や家門、派閥などがまとめてあった。どうやって調べたのか気になるが、見てはいけないような情報さえも書いてある。
これは果たして知っていい情報なのだろうか…
というか5歳児相手に相当の量を持ってきて頂いたものだ。あまりの量に一瞬だけ怯んでしまった。
とはいえだ…
これを覚えたら父様と母様に褒めてもらえるかな…
「きっと褒めて貰えますよ。」
心で思ったことを口に出してたらしく、アビゲイル先生は私に目線を合わせながら小さく微笑んでくれた。
「アビゲイル先生も褒めて頂けますか?」
「…私ですか?もちろんです。リリアナ様の御年齢でこれを覚えるのは相当賢くなければできません。とてもすごいことですよ。」
なるほど。
みんなに褒めて貰えるなら絶対に覚えよう…!!
覚える価値は十分にある。
________________
勉強は最初に聞いていた通りかなりハードなものだったが、持ち前の器量さでなんとかついていくことができた。
アビゲイル先生から渡された資料も必死で覚え尽くした。
勉強以外にもお茶会用の新しいドレスを仕立てたり、やらなきゃいけない事がたくさんあったため、ひと息付く暇もないような日が淡々と続いていった。
「つ…疲れた……」
貴族の令嬢というのはこうも大変なものなのか…
忙しいおかげて余計なことを気にすることもなかったからか、疲れて重い身体の割に精神的はとても落ち着いていた。
「お疲れ様です。」
ニケがホットミルクを入れてくれる。
疲れている時はホットミルクがとても染みる。
ふぅ…
落ち着く…
「ダグランド様がこられてからリリアナ様は熱心にお勉強なされてますね。」
「うん。頑張らなくちゃだから。」
「頑張るのは素晴らしいことですが、お身体にもお気を使ってくださいませ。少し顔色が優れませんし…。」
ニケは私の頬を優しく撫でる。
私にお姉ちゃんができたみたいだ。
「隈もあります……回復したとしても全快では無いのですから。私はリリアナ様に何かあったら耐えられません。」
心配してくれるニケに申し訳なさを感じる。
「ごめんなさい…」
また心配をかけてしまった。
うまくやろうと思ってもなかなかうまくいかない。
確かに最近はほとんどの時間を勉強に費やしていたので、隈が少しできていた。
勉強をするのは楽しいが、父様と母様の期待に応えたいというのが大きい。ニケも頭の悪い主人を持ちたくないだろうし、中途半端は許されない。
それに…頑張ったねって褒めて欲しい…
贅沢なお願いだけど、頭を撫でて欲しい…
もしかしたら身体と一緒に心も少し幼くなったのかもしれない。
この世界にきて、欲張りになった。
両親には愛されて信頼できる人がいる。
これ以上と求めてしまうのは、今まで手に入らなかったものを持ってしまったから。貰ってしまったから。貰ったものは返さなくてはならない。それが物だろうと愛だろうとなんだろうと。
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