7 / 55
第一章
5.茶髪の友達
しおりを挟む
どこかで休憩しようと辺りを見回すと端にある飲食スペースに興味をそそれた。
そういえば…
朝からほとんど食べていない…
朝ごはんも緊張のあまり少ししか手を付けらなかった。そのためご令嬢達との挨拶も一通り終わったので緊張が抜けてお腹も空いてきた。
飲食スペースに近づくとさすが王宮と思わせるほどに美味しそうなスイーツが鎮座していた。
お茶会といえど、人と話したり、親交を深めるのが目的のため、実際にお茶を楽しもうという人は少なく、現に私が目にしたスペースも人がほとんど居なかった。
王宮の使用人に取り分けるかと聞かれたが、自分で楽しみたかったので断った。
自分でやるのが気楽だし、食事の作法なども気にせずに済むからだ。
もともと甘いものが好きだった私はスイーツが置いてあるテーブルにまで一直線に進む。
とりあえず目に入ったものを口に入れてみると思わずその美味しさに舌鼓を打つ。
こんなに美味しくてオシャレなスイーツを食べたことない……っ!!
ついつい夢中になって、あれもこれもと口にしてきまう。スイーツを堪能するうちにいつの間にか気持ち悪さも治っていた。
はぁ…幸せだ……
ずっとここにいたい……
あまりの素晴らしさに思わず顔が蕩けてしまう。
次のスイーツを食べようと手を伸ばすと、会場内からの視線が気になった。明らかにこちらを見ている。何人かのご令息がこちらを見ながらコソコソと話している。
何か粗相をしてしまったのだろうか。
誰も見ていないと思って油断した。
これは何か馬鹿にされている……?
はぁ…
せっかく素敵な場所を見つけたのに……
居た堪れなくなり、手を伸ばしたスイーツを諦め、そのスペースから移動した。
あまりこっち見ないで欲しい。
移動した先は会場から少し離れた場所だった。
庭園に続く道である。庭園に負けず劣らず綺麗な花が道の袖に咲いている。
一体何がいけなかったの……
私の知らないルールがあるのかな?
あぁ…
「お嬢さん」
落ち込んでいると不意に後ろから声をかけられた。
今はあまり誰かと話したい気分では無いのにと思いながらも振り返る。
見ると顔が整った茶色い綺麗な髪をした男の子が緑色の瞳でこちらを見ていた。彼も先生から貰ったリストにあった顔だった。現宰相マルグリード公爵家長男アレックス・ペトラ・マルグリード。ちょうど私の3つ歳上である。
「私ですか?」
「そう。お嬢さんだよ。こんにちは。」
「こんにちは。初めまして、ヴァランガ侯爵家長女リリアナと申します。私に何か御用でしょうか?」
「いや、特に用はないけど……強いて言うなら茶会の会場から抜け出してくるご令嬢に興味を持った…かな?」
そう笑って私をじっと見つめてくるので、顔を若干強ばらせ、少し後ろに後ずさりしてしまう。
そんな私にお構い無しに彼は私の手を取った。
「リリアナ嬢……?はっ!君があのリリアナ嬢なんだね!!」
「え……《あの》…リリアナ嬢とは…?」
《あの》とはなんだろう。
今日初めてこういう場所に顔を出したわけであって、《あの》と呼ばれるほどの活躍も失態も侵していないはずだ。
一体何をしたの?
やばい…どうしよう…分からない。
私が覚えてないだけ…??
要因になりそうな出来事を頭の中で必死に探した。
「ふっ」
頭上からクスクスと笑い声がした。
「リリアナ嬢は面白いね。何を考えてるか分からないけど、ひとりで百面相しているよ。」
「へっ……?!」
思わず手を頬に当て顔を隠す。恥ずかしすぎる。
そんな私を見てアレックス様が先程以上に笑いだした。
なっ…私は困ってるのに…!!
そんな彼を見て失礼とは思いつつも睨み返してしまう。それに気づいたのかアレックス様が笑うのをやめてくれた。やめてくれたというより堪えてくれたの方が正しい気がする。
だって、肩が少し揺れてるもん……
アレックス様、笑い堪えきれてないよ…
「はぁー……ごめんごめん。《あの》というのはヴァランガ侯爵から君のことを聞いていたものだからね。」
「父様からですか?」
「あぁ。僕は今、彼の元で剣術を教わってるから。」
国内の貴族の男児は勉強の他に剣術を学ばなければいけない。その先生となったのが父様だったらしい。
「侯爵は表情を崩さないことで有名だけど、リリアナ嬢話をする時はいつも優しい顔をするから、1度どんな子なのか会ってみたいと思ってたんだ。」
「そうだったのですね……」
嬉しくも、どことなくむず痒い。
父様は私のことを誰かに話してくれるんですね…
余計に期待に答えられるように頑張らなくては!!
そんなことを思いながら嬉しさで頬が緩んでしまう。
リリアナ嬢もそんな優しい顔で笑うんだね。
とアレックス様が小さく口にしたことは私には届いていなかった。家族に思われているということが想像していた以上に嬉しくて、浸ってしまっていたのだ。
「リリアナ嬢。僕と友達にならない??」
「え…友達ですか?」
唐突な申し入れに驚いてしまった。
「そう。君と友達になりたいんだ。ヴァランガ卿もきっと驚くと思うんだ。なにせ、君と僕が友達なんだから。ね、そう思わない?何より僕が君と仲良くなりたい。」
アレックス様は私に向かって自信満々に片目を瞑り微笑みかけた。その微笑みにつられるように私もクスッと笑ってしまった。
友達…また友達を作れる……
人は裏切ることを知っている。
自分のためにすぐに誰かを犠牲にする。
けれど、もう一度誰かを信じてみたかった。
友達と遊んだり、話したり、その楽しさを知っているから。申し入れを聞いて最初の友達が彼ならばいいなと思ってしまったのだ。
「はい!こちらこそ宜しくお願い致しますわ。」
差し出してくれた、アレックス様の手を握り返さす。
「アレックス。僕の名前。リリアナ嬢のことだから知っていると思ったけど…一応ね。アレクって呼んでよ。」
「はい。アレク様。」
「《様》はいらないよ!」
「ですが……侯爵家と公爵家では身分がちがいますから…」
「僕達は友達だから、そういうのはなし!!
アレクって呼び捨てで呼んでよ。それに…こっちの方がお忍びで遊びに行く時とか便利だろ?」
「お忍び…ですか…?」
「そう!こっそりとね!!」
「ふふ。わかりましたわ。アレク。では私もリリと呼んでください。」
「あぁ、宜しくリリ。」
この世界に来てから初めてできた友達という存在に私は高揚感に包まれた。
「そうだ、リリは会場に戻らなくてもいいの?僕はそれでも構わないけど…」
そういえば会場を抜け出してきたのだった。
アレクとのことですっかり忘れていた。
父様と母様はお茶会を楽しんで来なさいと送り出してくれた。先程はスイーツも堪能したし、楽しい時間も過ごせたので戻らなくてもいいかと思ったが、侯爵令嬢として招待を受けている以上勝手に抜け出すわけにはいかない。
「私はそろそろ会場に戻ります。少し休憩をと思っていただけですので……」
「じゃあ僕も行くよ。もう少しリリと話したいしね!!」
そういえば…
朝からほとんど食べていない…
朝ごはんも緊張のあまり少ししか手を付けらなかった。そのためご令嬢達との挨拶も一通り終わったので緊張が抜けてお腹も空いてきた。
飲食スペースに近づくとさすが王宮と思わせるほどに美味しそうなスイーツが鎮座していた。
お茶会といえど、人と話したり、親交を深めるのが目的のため、実際にお茶を楽しもうという人は少なく、現に私が目にしたスペースも人がほとんど居なかった。
王宮の使用人に取り分けるかと聞かれたが、自分で楽しみたかったので断った。
自分でやるのが気楽だし、食事の作法なども気にせずに済むからだ。
もともと甘いものが好きだった私はスイーツが置いてあるテーブルにまで一直線に進む。
とりあえず目に入ったものを口に入れてみると思わずその美味しさに舌鼓を打つ。
こんなに美味しくてオシャレなスイーツを食べたことない……っ!!
ついつい夢中になって、あれもこれもと口にしてきまう。スイーツを堪能するうちにいつの間にか気持ち悪さも治っていた。
はぁ…幸せだ……
ずっとここにいたい……
あまりの素晴らしさに思わず顔が蕩けてしまう。
次のスイーツを食べようと手を伸ばすと、会場内からの視線が気になった。明らかにこちらを見ている。何人かのご令息がこちらを見ながらコソコソと話している。
何か粗相をしてしまったのだろうか。
誰も見ていないと思って油断した。
これは何か馬鹿にされている……?
はぁ…
せっかく素敵な場所を見つけたのに……
居た堪れなくなり、手を伸ばしたスイーツを諦め、そのスペースから移動した。
あまりこっち見ないで欲しい。
移動した先は会場から少し離れた場所だった。
庭園に続く道である。庭園に負けず劣らず綺麗な花が道の袖に咲いている。
一体何がいけなかったの……
私の知らないルールがあるのかな?
あぁ…
「お嬢さん」
落ち込んでいると不意に後ろから声をかけられた。
今はあまり誰かと話したい気分では無いのにと思いながらも振り返る。
見ると顔が整った茶色い綺麗な髪をした男の子が緑色の瞳でこちらを見ていた。彼も先生から貰ったリストにあった顔だった。現宰相マルグリード公爵家長男アレックス・ペトラ・マルグリード。ちょうど私の3つ歳上である。
「私ですか?」
「そう。お嬢さんだよ。こんにちは。」
「こんにちは。初めまして、ヴァランガ侯爵家長女リリアナと申します。私に何か御用でしょうか?」
「いや、特に用はないけど……強いて言うなら茶会の会場から抜け出してくるご令嬢に興味を持った…かな?」
そう笑って私をじっと見つめてくるので、顔を若干強ばらせ、少し後ろに後ずさりしてしまう。
そんな私にお構い無しに彼は私の手を取った。
「リリアナ嬢……?はっ!君があのリリアナ嬢なんだね!!」
「え……《あの》…リリアナ嬢とは…?」
《あの》とはなんだろう。
今日初めてこういう場所に顔を出したわけであって、《あの》と呼ばれるほどの活躍も失態も侵していないはずだ。
一体何をしたの?
やばい…どうしよう…分からない。
私が覚えてないだけ…??
要因になりそうな出来事を頭の中で必死に探した。
「ふっ」
頭上からクスクスと笑い声がした。
「リリアナ嬢は面白いね。何を考えてるか分からないけど、ひとりで百面相しているよ。」
「へっ……?!」
思わず手を頬に当て顔を隠す。恥ずかしすぎる。
そんな私を見てアレックス様が先程以上に笑いだした。
なっ…私は困ってるのに…!!
そんな彼を見て失礼とは思いつつも睨み返してしまう。それに気づいたのかアレックス様が笑うのをやめてくれた。やめてくれたというより堪えてくれたの方が正しい気がする。
だって、肩が少し揺れてるもん……
アレックス様、笑い堪えきれてないよ…
「はぁー……ごめんごめん。《あの》というのはヴァランガ侯爵から君のことを聞いていたものだからね。」
「父様からですか?」
「あぁ。僕は今、彼の元で剣術を教わってるから。」
国内の貴族の男児は勉強の他に剣術を学ばなければいけない。その先生となったのが父様だったらしい。
「侯爵は表情を崩さないことで有名だけど、リリアナ嬢話をする時はいつも優しい顔をするから、1度どんな子なのか会ってみたいと思ってたんだ。」
「そうだったのですね……」
嬉しくも、どことなくむず痒い。
父様は私のことを誰かに話してくれるんですね…
余計に期待に答えられるように頑張らなくては!!
そんなことを思いながら嬉しさで頬が緩んでしまう。
リリアナ嬢もそんな優しい顔で笑うんだね。
とアレックス様が小さく口にしたことは私には届いていなかった。家族に思われているということが想像していた以上に嬉しくて、浸ってしまっていたのだ。
「リリアナ嬢。僕と友達にならない??」
「え…友達ですか?」
唐突な申し入れに驚いてしまった。
「そう。君と友達になりたいんだ。ヴァランガ卿もきっと驚くと思うんだ。なにせ、君と僕が友達なんだから。ね、そう思わない?何より僕が君と仲良くなりたい。」
アレックス様は私に向かって自信満々に片目を瞑り微笑みかけた。その微笑みにつられるように私もクスッと笑ってしまった。
友達…また友達を作れる……
人は裏切ることを知っている。
自分のためにすぐに誰かを犠牲にする。
けれど、もう一度誰かを信じてみたかった。
友達と遊んだり、話したり、その楽しさを知っているから。申し入れを聞いて最初の友達が彼ならばいいなと思ってしまったのだ。
「はい!こちらこそ宜しくお願い致しますわ。」
差し出してくれた、アレックス様の手を握り返さす。
「アレックス。僕の名前。リリアナ嬢のことだから知っていると思ったけど…一応ね。アレクって呼んでよ。」
「はい。アレク様。」
「《様》はいらないよ!」
「ですが……侯爵家と公爵家では身分がちがいますから…」
「僕達は友達だから、そういうのはなし!!
アレクって呼び捨てで呼んでよ。それに…こっちの方がお忍びで遊びに行く時とか便利だろ?」
「お忍び…ですか…?」
「そう!こっそりとね!!」
「ふふ。わかりましたわ。アレク。では私もリリと呼んでください。」
「あぁ、宜しくリリ。」
この世界に来てから初めてできた友達という存在に私は高揚感に包まれた。
「そうだ、リリは会場に戻らなくてもいいの?僕はそれでも構わないけど…」
そういえば会場を抜け出してきたのだった。
アレクとのことですっかり忘れていた。
父様と母様はお茶会を楽しんで来なさいと送り出してくれた。先程はスイーツも堪能したし、楽しい時間も過ごせたので戻らなくてもいいかと思ったが、侯爵令嬢として招待を受けている以上勝手に抜け出すわけにはいかない。
「私はそろそろ会場に戻ります。少し休憩をと思っていただけですので……」
「じゃあ僕も行くよ。もう少しリリと話したいしね!!」
1
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛されない王妃は、お飾りでいたい
夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。
クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。
そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。
「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」
クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!?
「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。
クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。
皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。
こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。
私のこと気に入らないとか……ありそう?
ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
絆されていたのに。
ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。
――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。
第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
不定期更新です。
他サイトさまでも投稿しています。
10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる