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第一章
13.婚約者(仮)と
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そんな意味不明な言葉をかけられた私は殿下の手をすり抜けるように後ずさる。
その後を追うように殿下も一歩ずつ近づいてきた。
距離感がどうしようもなく近い…
「リリとお呼びしても?」
「へ?は、はい…」
反射的に上擦った声で返事をしてしまった。
それでも少しずつ後ずさる私をお構い無しに続けてくる。
「私のことはアルとでも呼んでください。貴方に会えるのを本当に楽しみにしてました。私の可愛いリリ。」
いやぁああぁぁあ
まってまってなになになに??
引き攣りそうになる顔を必死に抑える。
殿下に愛称呼びなんて一凡人がしていわけが無い。
仲がいいのかとか誤解され、周りからの痛い視線を感じることになるに違いない。ある程度一定の距離に保っていたいのが本心である。
それに私は、父様や母様、アビゲイル先生、お茶会で友達になったアレク達を大切にしたい。
こっちは人間関係初心者なのだ。いきなり殿下は負担が大きい。
「いえ、あの…殿下、愛称でお呼びするのは…恐れ多いです。」
「ん?私は構わないよ?」
「けれど…その…」
「じゃあ、2人の時だけでも……ね?」
そういう事じゃないんだけど…
固まっている私に対して、殿下は優しく微笑みかけてくる。なぜ私にそんな愛しそうな目で見てくるのか理解ができなかった。
お互いに目が合い、思わず逸らしてしまう。その逸らした先には父様がいた。
一縷の望みをかけて父様を見つめる。
殿下を止めてください…父様……
と願いを込めて。チラッと父様を見つめる私に気がついた殿下は、あぁ、そういうことか。と呟き、私から視線を逸らし父様の方を向いた。
私がほっとしたのもつかの間。
「ヴァランガ卿。少し2人だけにしてもらってもいいかな?リリは恥ずかしがり屋みたいだから。」
殿下が父様の方を向いているため、今私は視界に入っていない。殿下に気づかれないように小さく首を横に振る。
父様もそんな私に気づいたのかゆっくりと頷いた。
「わかりました。それでは私は此処で失礼致します。……リリ。失礼のないように。」
父様…違うのに…
こうして私の望みは呆気なく散った。
部屋を出ていく父様の背中を見ていた殿下がドアが閉じられるや否や私の方に向き直る。
「リリ。私との婚約受け入れてくれるかな?」
殿下はその蕩けるような笑顔をこちらに向けたまま問いかける。
殿下と婚約するということは将来は王妃となり、この国に仕えるのだろう。
そんなものは私には荷が重すぎる。
今でさえこの世界に慣れ、名門貴族の令嬢としてやっていくのに精一杯だというのにこれ以上を求められても困るのだ。
私よりも優秀かつ殿下に相応しい相手はこの世界には大勢いる。こんな大国の王太子の妃になりたいと思う人だってきっと数えきれない程に。
そんな殿下と婚約なぞすれば、注目され、妬み嫉みが激しいに決まっている。
そうなれば自ずと……その後どうなるかなど決まってるのだ…
もう二度と前世のような思いはしたくない。静かに目立たなく生きたい。私は隅っこでいい。誰かの役に立ちながら端の方で生きていたい。
王太子の妃なんぞ今の私にとって、言っては悪いが足枷でしかない。
私なんかに、こうして会いに来て言葉をかけてくれたのは本当に申し訳ないと思うが、断ろう。
しかし断るにしても、相手は王太子殿下。断り方では父様にも迷惑をかけてしまう。
はぁ…どうしよう……逃げ出したい…
だってこんな展開は望んでいないもの。誰が王太子に婚約を迫られるなんて思いつくのだろうか。
「殿下。私には身に余る光栄でございます。ですが、私よりも殿下に相応しい方がいらっしゃるかと思いますので、今回は…」
言いかけたところで殿下の人差し指を立てそっと私の唇に当てた。
「リリ…殿下ではなくて、アルと呼んでくれるかい?じゃないと私は貴方の話を聞けないな。」
優しく微笑みかけてくる殿下には有無を言わさぬオーラが纏われる。
優しい笑顔のはずなのに…思わずたじろいでしまう。
「アル。アルと呼んで…貴方のその可愛い声で私の名前を呼んで欲しいんだ。お願いだから。ダメかな?」
天使のような顔でしゅんとする殿下に、私は為す術もなく、殿下の名前を口にしてしまった。
「……アル…様…」
「やっと呼んでくれたね…本当に可愛い声。まるでカナリアみたい。でも、《様》は取って欲しいな。だって私たち婚約者になるんでしょう?私はリリと対等に愛し合いたいんだ。」
発する言葉さえも王子様な彼は、元日本人の記憶を持つ私には身に余るというか、勘弁して欲しい。
殿下は私の頭にそっと手を置いた。その手は髪を撫でるようにゆっくりと頬へと移動する。そしてそのまま下に落ちていき、私の手をそっと握った。
「リリは私のこと嫌いかい?」
「いえ、あの…そういうことではなくて…」
「では、婚約に賛同してくれるね。」
「ですから…私はアル様との婚約は辞退させて頂きたいのです。」
「いやだ。」
へ??
殿下は私の返答を間髪入れずに却下した。
聞いた意味…!!!
ふふ…と先程の天使のような顔とはかけ離れたような笑みを浮かべ、ねぇ。と切り出した。
「あのね。リリ、私は貴方がいいんだ。貴方以外に考えられない。だからごめんね。諦めて私の婚約者、ううん。私の妃になってくれない?」
なんで?だって私なんか……
きっと殿下の何の役にも立たない。
殿下に嫌われれば…向こうから断ってくる?
でも……それじゃあ父様に迷惑がかかる。
じゃあもうどうすればいいの。
「殿下…ア、アル様…はなぜ…私のことを…?」
「貴方を見た瞬間、貴方しか要らないと思った。それじゃあダメ?明確な理由が必要?」
「アル様は…」
「アル!」
呼び捨てじゃなきゃ返事しないよ。と私の言葉を遮ってしまう。
「アル…は私の事を…」
「愛しているよ。永遠に私という籠に閉じ込めておきたいくらいに。それに、貴方以外の女性が女性だともう思えない。」
自分から聞いたけど、恥ずかしすぎる。
いたたまれなくなり、私はそのまま続けようとする殿下を止めた。
「わ、私は殿下のことを愛していません!!!」
あっ…!
勢いで言ってしまってから後悔する。
どうしよう…怒られる。怒鳴られる。
ぎゅっと目を閉じた瞬間に聞こえてきたのは至って穏やかで真っ直ぐな声だった。
「うん。でも必ず私のことを好きにさせるよ。愛してるって言わせてみせる。」
思わず目を見開いた。
その自信はどこから来るのだろう。少し羨ましい気もする。だが、私は殿下の妃になる気なんてさらさらない。このまま話して居てもきっと平行線た。
とりあえず穏便にこの場を済ませて、徐々に距離を取っていけば、きっと向こうも諦めてくれる。
「ではまず、ゆ、友人から…は…どうでしょう?」
私より少し背の高い殿下を下から覗き込むように提案する。
その提案に私がこれから後悔させられることになるとも知らずに。
______________________________
後書き
ここまでお読み頂きありがとうございます!
アルのこの自信はどこから来るんでしょう…謎ですね( ᷇࿁ ᷆ )?
リリもめんどくさいやつに捕まってしまったなぁと書いている身ながら思いました…(´∇`)
その後を追うように殿下も一歩ずつ近づいてきた。
距離感がどうしようもなく近い…
「リリとお呼びしても?」
「へ?は、はい…」
反射的に上擦った声で返事をしてしまった。
それでも少しずつ後ずさる私をお構い無しに続けてくる。
「私のことはアルとでも呼んでください。貴方に会えるのを本当に楽しみにしてました。私の可愛いリリ。」
いやぁああぁぁあ
まってまってなになになに??
引き攣りそうになる顔を必死に抑える。
殿下に愛称呼びなんて一凡人がしていわけが無い。
仲がいいのかとか誤解され、周りからの痛い視線を感じることになるに違いない。ある程度一定の距離に保っていたいのが本心である。
それに私は、父様や母様、アビゲイル先生、お茶会で友達になったアレク達を大切にしたい。
こっちは人間関係初心者なのだ。いきなり殿下は負担が大きい。
「いえ、あの…殿下、愛称でお呼びするのは…恐れ多いです。」
「ん?私は構わないよ?」
「けれど…その…」
「じゃあ、2人の時だけでも……ね?」
そういう事じゃないんだけど…
固まっている私に対して、殿下は優しく微笑みかけてくる。なぜ私にそんな愛しそうな目で見てくるのか理解ができなかった。
お互いに目が合い、思わず逸らしてしまう。その逸らした先には父様がいた。
一縷の望みをかけて父様を見つめる。
殿下を止めてください…父様……
と願いを込めて。チラッと父様を見つめる私に気がついた殿下は、あぁ、そういうことか。と呟き、私から視線を逸らし父様の方を向いた。
私がほっとしたのもつかの間。
「ヴァランガ卿。少し2人だけにしてもらってもいいかな?リリは恥ずかしがり屋みたいだから。」
殿下が父様の方を向いているため、今私は視界に入っていない。殿下に気づかれないように小さく首を横に振る。
父様もそんな私に気づいたのかゆっくりと頷いた。
「わかりました。それでは私は此処で失礼致します。……リリ。失礼のないように。」
父様…違うのに…
こうして私の望みは呆気なく散った。
部屋を出ていく父様の背中を見ていた殿下がドアが閉じられるや否や私の方に向き直る。
「リリ。私との婚約受け入れてくれるかな?」
殿下はその蕩けるような笑顔をこちらに向けたまま問いかける。
殿下と婚約するということは将来は王妃となり、この国に仕えるのだろう。
そんなものは私には荷が重すぎる。
今でさえこの世界に慣れ、名門貴族の令嬢としてやっていくのに精一杯だというのにこれ以上を求められても困るのだ。
私よりも優秀かつ殿下に相応しい相手はこの世界には大勢いる。こんな大国の王太子の妃になりたいと思う人だってきっと数えきれない程に。
そんな殿下と婚約なぞすれば、注目され、妬み嫉みが激しいに決まっている。
そうなれば自ずと……その後どうなるかなど決まってるのだ…
もう二度と前世のような思いはしたくない。静かに目立たなく生きたい。私は隅っこでいい。誰かの役に立ちながら端の方で生きていたい。
王太子の妃なんぞ今の私にとって、言っては悪いが足枷でしかない。
私なんかに、こうして会いに来て言葉をかけてくれたのは本当に申し訳ないと思うが、断ろう。
しかし断るにしても、相手は王太子殿下。断り方では父様にも迷惑をかけてしまう。
はぁ…どうしよう……逃げ出したい…
だってこんな展開は望んでいないもの。誰が王太子に婚約を迫られるなんて思いつくのだろうか。
「殿下。私には身に余る光栄でございます。ですが、私よりも殿下に相応しい方がいらっしゃるかと思いますので、今回は…」
言いかけたところで殿下の人差し指を立てそっと私の唇に当てた。
「リリ…殿下ではなくて、アルと呼んでくれるかい?じゃないと私は貴方の話を聞けないな。」
優しく微笑みかけてくる殿下には有無を言わさぬオーラが纏われる。
優しい笑顔のはずなのに…思わずたじろいでしまう。
「アル。アルと呼んで…貴方のその可愛い声で私の名前を呼んで欲しいんだ。お願いだから。ダメかな?」
天使のような顔でしゅんとする殿下に、私は為す術もなく、殿下の名前を口にしてしまった。
「……アル…様…」
「やっと呼んでくれたね…本当に可愛い声。まるでカナリアみたい。でも、《様》は取って欲しいな。だって私たち婚約者になるんでしょう?私はリリと対等に愛し合いたいんだ。」
発する言葉さえも王子様な彼は、元日本人の記憶を持つ私には身に余るというか、勘弁して欲しい。
殿下は私の頭にそっと手を置いた。その手は髪を撫でるようにゆっくりと頬へと移動する。そしてそのまま下に落ちていき、私の手をそっと握った。
「リリは私のこと嫌いかい?」
「いえ、あの…そういうことではなくて…」
「では、婚約に賛同してくれるね。」
「ですから…私はアル様との婚約は辞退させて頂きたいのです。」
「いやだ。」
へ??
殿下は私の返答を間髪入れずに却下した。
聞いた意味…!!!
ふふ…と先程の天使のような顔とはかけ離れたような笑みを浮かべ、ねぇ。と切り出した。
「あのね。リリ、私は貴方がいいんだ。貴方以外に考えられない。だからごめんね。諦めて私の婚約者、ううん。私の妃になってくれない?」
なんで?だって私なんか……
きっと殿下の何の役にも立たない。
殿下に嫌われれば…向こうから断ってくる?
でも……それじゃあ父様に迷惑がかかる。
じゃあもうどうすればいいの。
「殿下…ア、アル様…はなぜ…私のことを…?」
「貴方を見た瞬間、貴方しか要らないと思った。それじゃあダメ?明確な理由が必要?」
「アル様は…」
「アル!」
呼び捨てじゃなきゃ返事しないよ。と私の言葉を遮ってしまう。
「アル…は私の事を…」
「愛しているよ。永遠に私という籠に閉じ込めておきたいくらいに。それに、貴方以外の女性が女性だともう思えない。」
自分から聞いたけど、恥ずかしすぎる。
いたたまれなくなり、私はそのまま続けようとする殿下を止めた。
「わ、私は殿下のことを愛していません!!!」
あっ…!
勢いで言ってしまってから後悔する。
どうしよう…怒られる。怒鳴られる。
ぎゅっと目を閉じた瞬間に聞こえてきたのは至って穏やかで真っ直ぐな声だった。
「うん。でも必ず私のことを好きにさせるよ。愛してるって言わせてみせる。」
思わず目を見開いた。
その自信はどこから来るのだろう。少し羨ましい気もする。だが、私は殿下の妃になる気なんてさらさらない。このまま話して居てもきっと平行線た。
とりあえず穏便にこの場を済ませて、徐々に距離を取っていけば、きっと向こうも諦めてくれる。
「ではまず、ゆ、友人から…は…どうでしょう?」
私より少し背の高い殿下を下から覗き込むように提案する。
その提案に私がこれから後悔させられることになるとも知らずに。
______________________________
後書き
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