虚しくても

Ryu

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第十五章

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「お疲れさま」
刑務所の門前に和華が立っていた。
まさか本当に迎えに来るなんて考えてもいなかった。
彼女と話をしながら大阪に向かっている時、、、
彼女の態度が急にかしこまったものになった。
「リュウジに謝んなきゃなんない事があるんだけど、、、」
「何?」
「リュウジには黙ってたんだけど、長嶋さん達、家にいたの、、、」
「、、、、、」
「ごめんなさい、、、」
「、、、、、」
「本当にごめんなさい、、、」
「何で黙っとったん?」
「長嶋さんからリュウジには言わないでくれって言われて、、、」
「、、、、、」
「リュウジの出所日に長嶋さんが直接詫び入れるからって、、、」
「ほな、長嶋どこおんねん?」
「いなくなった、、、」
どうやら、大阪拘置所の面会で長嶋の事は相手にするなと釘をさした時には、すでに長嶋は彼女の家にいたようだ。
しかも長嶋だけではなく、初めてその名前を耳にする男も一緒だったみたいだ。
そして、その男もやはり雄輝連合会から飛んだ一人だったという話だ。
で、その二人は今では行方不明らしい。
彼女は、仙台行きの飛行機のチケットを二人分予約してあると言ったが、私は彼女を一人で帰して、西成に向かった。
兄弟分達の事が早く知りたかったからだ。
事務所に行くのはさすがにはばかられたので、私はドヤで情報を集める事にした。
その結果、すでに兄弟分達は逮捕されて、長期刑務所に服役しているという事が判った。
それから私は雄輝連合会の会長に出所の挨拶を済ませた。
本部長には現状を説明した。
当面、仙台でシノギに専念して、、、
生活環境を整えてから戻って来たい旨、話をしてみた。
こんな無茶な申し入れを本部長は快諾してくれた。
そして私は伊丹空港から仙台行きの飛行機に乗って仙台へと向かった。


仙台空港について最初に感じたのは寒さだった。
関西のそれとは全く性質の違う寒さだった。
何故、私は仙台なんかに来たんだろうか、、、
自分でもよく判らないところがあった、、、
もろ手を振る事は出来なくても、、、
尼崎や大阪でシノギをする事も出来なくはなかったと思う。
ただ、漠然とした感覚ではあったけれど、、、
仙台に何かあるような、、、
そんな気がしていたのは確かだった、、、
タクシーで仙台市内に向かっている途中、窓から見える風景の田舎っぷりには若干の不安を覚えた。
が、市街地に入るとそれなりに栄えてきたので少し安堵した。
彼女の自宅は市街地から車で二十分ぐらいの所にあった。
私は、彼女が仙台から大阪拘置所に面会に来てくれたり、姫路少年刑務所まで迎えに来てくれた事に対しては本当に感謝していた。
だけど、長嶋達の話を聞いてからは彼女に不信感を抱いていた。
そもそも私は彼女に対して特別な感情を持ちあわせてはいなかった。
仙台市内にアパートを借りるまでは彼女の自宅に住まわせてもらったけれど、、、
彼女と一緒に過ごしたのはその時だけだった。


シノギをするためには仙台の歓楽街を知っておく必要があったので、私は暇を見つけては国分町へ出ていった。
そして、国分町にはポン中が求めるものが揃っている事が判った。
ここならシノギが出来ると思った。
私が姫路少年刑務所に服役する前の話なんだけれど、、、
当時の覚せい剤は、一キロが二百万円前後で卸されていた。
グラムに換算すると、一グラムで二千円となる。
それを五つのパケに分けて、一パケを一万円で売るとすれば、二千円が五万円になる訳だ。
勿論、そこまで単純ではないのだが、こんなに簡単なシノギはないだろう。
だけど、私が仙台に来た頃は時期が悪かった。
当時、サッカーのワールドカップが日本で開催されていた。
その影響で、出回っている覚せい剤の量が減って、手に入りにくくなっていた。
それで私は関東や関西から覚せい剤を取り寄せていた。
そして、国分町周辺で見つけたポン中相手にシノギをかけて生活していた。
ところが暫くたった頃、仙台のヤクザから私のところにクレームが入るようになった。
大阪や兵庫では、覚せい剤の値段というものは、あってないようなものなんだけれど、仙台では揃えているという話をされた。
私も知らない土地での不必要な揉め事はなるべく避けたかったので、頭にだけは入れておくようにした。
仙台のヤクザと付き合いをしているうちに判ってきた事があった。
東北全体がそうなのか、仙台だけがそうなのかは判らなかったけれど、仙台のヤクザはシノギの関係にしてもそうなのだが、組織間の縄張りがはっきりしている。
横の繋がりもしっかりしている。
それは、シノギの上でのトラブルをはじめ、余計な揉め事を起こさないようにするためなんだと思う。
そういった事も関西ではいい加減な面があるので、勉強させられる事が多々あった。
とにかく、関西のやり方でシノぐのが難しい事は判ってきた。
年が明けてから、私は仙台で知り合った男と、家庭用浄水器の販売を始めた。
要はマルチ商法だ。
覚せい剤のシノギは、、、
これも仙台で知り合った男達にある程度任せるようにして、私は浄水器の販売に力を入れるようにしていった。
仙台での生活は腰かけに過ぎず、てっとり早く金を作って、さっさと関西に帰る考えを持っていたという事もある。


懲役を経験した事が原因の一つかも知れない。
仙台へ来てからの私は、覚せい剤の作用でおかしくなりだしていた。
幻覚、幻聴といったものまではいかなかったんだけれど、、、
不眠が続いて、追跡妄想のようなものが現れるようになっていた。
覚せい剤のシノギに力を入れなくなったのもそのためだった。
暫くそんな状態が続いていたので、私は睡眠薬を貰うために仙台市内にある東北会病院に行ってみた。
初めて行った日の診察の待ち時間、私は煙草を吸うために喫煙所へ入った。
その喫煙所には、筋骨隆々のスキンヘッド、どこから見ても暴力団関係者としか見えない男が、隣に若い衆をしたがえて煙草を吸っていた。
決して、私が耳をかたむけていた訳ではない。
耳をふさいでいたとしても聞こえたに違いない。
それぐらい大きな声で、スキンヘッドは覚せい剤とシンナーの話を若い衆に語り聞かせていた。
関わり合いになりたくなかった私は、喫煙所の隅っこで煙草を吸っていたのに、スキンヘッドは私をほっといてくれなかった。
「お兄さん、現役の人?」
スキンヘッドはやはり大きな声で私に話しかけてきた。
歯切れの良い返事が出来なかった私をたたみかけるようにスキンヘッドは話しかけてくる。
「お兄さん、診察?」
「そうですが、、、」
「シャブ?」
「、、、、、」
スキンヘッドの突然の言葉に私は驚いたけれど、この東北会病院は薬物やアルコール依存症専門の病院であるという事があとで判った。
「僕はね、こういう者なんですよ」
スキンヘッドは、私に名刺を差し出してきた。
その名刺には、仙台ダルク寮長という肩書きと、恐らくスキンヘッドのものと思われる名前が記載されてあった。
「ダルク、、、ですか?」
「そう、僕は仙台ダルクで寮長をしてるんです」
スキンヘッドの話を聞くと、、、
ダルクというのは民間の薬物依存リハビリテーションセンターで、覚せい剤や麻薬にシンナーをはじめ、睡眠薬や市販薬、様々な薬物依存からの回復の手助けをしている施設という話だ。
スキンヘッドは、その施設のスタッフという事だった。
隣にしたがえている若い衆はその施設の利用者で、スキンヘッドが彼に診察を受けさせるために病院へ連れて来ていたそうだ。
その診察も終わり、あとは処方箋を貰って帰るだけなので一服しているところだったらしい。
やがて利用者の名前が呼ばれて帰り支度を始めたスキンヘッドが、笑顔で私に右手を差し出してきた。
「いつでも遊びに来てよ、待ってるからさ」
やはり張りのある大きな声だった。
私は笑顔を作って、その右手を握り返す事で返事を返した。
これが、猪ちゃんとの出会いだった、、、
彼との付き合いは現在では深いものになっている。
そして、彼との出会いが、私の人生におけるターニングポイントになった事は間違いないだろう、、、
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