虚しくても

Ryu

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エピローグ

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私は今、お墓の前にいる。
そのお墓には、祖父と祖母の名前が並んでいる。
この集落の墓地は、山の上にある。
祖母は、自分が亡くなる前、、、
祖父のために、集落の墓地から離れた山のふもとに、ぽつんと一つだけ、自分のお墓を建てていた。
祖母が亡くなってからすぐに、祖父は認知症にかかった。
色んな事を忘れていった祖父なのに、祖母の事だけは、決して忘れなかった。
「婆ちゃんのところへ行きたい」
祖父は、いつも涙ながらにつぶやき続けていた。
今頃、天国で祖母と二人、仲良くしている事だろう。
祖母も、ずっと一人きりで待っていたので淋しかったと思う。
目を閉じれば、優しい祖母の笑顔が浮かんでくる、、、
暖かい日ざしが、祖父と祖母の温もりのようだった、、、


いつ頃の事だったのか判らないくらい、ずっと前の事、、、
たぶん子供の頃、私は不思議な夢を見た事がある。
何故かその夢だけは映像も会話も鮮明に覚えている。
私は病室のベッドの上、入院していた。
そのベッドに寝ている私は、子供ではなかった。
看護師さんが妙に力強く、私に話しかけてきていた。
「この病院は、今はありません」
「、、、、、」
「ですが、いずれここに病院ができます」
「、、、、、」
「必ず、ここに来て下さいね」
「、、、、、」
「約束ですよ」
不思議な夢だった。
その看護師さんは、私の隣で、祖父と祖母に手を合わせてくれている。
そして、彼女にも幼い頃の記憶がない。
「辛い事は、思い出さんでええんやで」
私は、胸の中で彼女に話しかけていた。


ここへ来るのは、何十年ぶりだろう、、、
幼い頃に見ていた、穏やかで美しい海は、、、
昔と変わる事なく、優しい波の音を聞かせてくれている。
見上げると、優雅に空を舞う鳶の姿があった。
鳶の鳴く声と優しい波の音は、、、
やっぱり心地良かった、、、

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