虚しくても

Ryu

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第三十章

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平成二十八年十一月
私は、杭瀬にある障害者施設、サンワールドの一日体験に行っていた。
作業中、隣に座っている奴の事が妙に気になって、そっちを向いてしまった。
隣に座っている奴も一緒だったのか、私達は鏡合わせのように向かい合った。
「うわっ 天願」
「うおっ リュウジ」
目の前には懐かしい天願の顔があった。
だけど、天願は暫くの間、幽霊でも見ているかのような目で私の事を見ていた。
「どないしたん?」
「お前、生きとったんか、、、」
「えっ?」
「お前、飛び降りて死んだって聞いとったんや、、、」
「、、、、、」
「お前、ここ来んのか?」
「今日は体験やねん」
「ほんまか」
「天願は、、、」
「俺、透析受けてんねん」
「そうなんや、、、」
「昔のツケが回ってきたって事や」
「、、、、、」
「まぁあれや、お前が生きてんの、判っただけでも良かったわ~」
その豪快な笑い方は、昔のまんまだった。


平成二十九年二月
尼崎東警察に私は逮捕された。
罪状は覚せい剤の使用になってはいたが、当然、私は覚せい剤なんか使用してはいない。
尼崎総合医療センターに入院中、尿検査に覚せい剤の反応が出たとかで緊急逮捕された。
何故、そんな反応が出たのかは判らない。
病院のミスなのか? 
科捜研のミスなのか? 
そもそも、警察が偽装した事件だったのか?
尼崎東警察に逮捕されたあと、私は篠山留置場に勾留された。
家宅捜索はシロ、携帯電話の履歴等もシロ、交友関係もシロだった。
そして勾留二十二日目に、不起訴となって釈放された。
「嫌疑無し」
検察が、警察の違法捜査だった事と、完全な誤認逮捕だった事を認めた結果だった。
実質的な無罪判決と同じだ。


平成二十九年九月五日
今度は、覚せい剤所持の罪状で大阪府警に逮捕された。
障害者年金関連の相談をするために、大阪にある弁護士の事務所に向かっている道中、職務質問されての逮捕だった。
勿論、私は覚せい剤など所持してはいなかった。
その覚せい剤は、大阪府警の刀根巡査が用意していた物だ。
その証拠に、その覚せい剤が入っているパケにも、パケが入っていた封筒にも、注射器が入っている袋にも、どこにも私の指紋はついてはおらず、刀根巡査のものと思われる指紋だけが検出された。
それも、私から指紋を採ってくれと詰めよって、しぶしぶ警察が応じての事だった。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい」
「職務質問なんです」
「はあ、、、」
「すみませんが、カバンの中、見せてもらえませんか?」
私は少し、違和感を覚えた。
通常、職務質問は雑談を交えながら名前を聴いたり、身分証を確認したりするものだ。
この警官はどうも様子がおかしい。
だけど、この時はそこまで深く考えてはいなかった。
「どうぞ」
私は持っていたカバンを警官に渡した。
「なんやこれ?」
警官は封筒を手にしていた。
その封筒は警官自身が持っていた物だった。
「なんやこれって、それお前のやろが」
この警官は明らかにおかしい。
目つきが異様だし、脂汗がすごかった。
私は、はっきりと確信した。
私は応援の警官等が来るまで待った。
少しして、十人近い警官等が到着した。
私は、その警官等に、封筒の指紋を採取するように強く詰めよった。
それから、様子のおかしい警官の採尿検査をするようにとも詰めよった。
「その封筒、今すぐ指紋採ってくれや、そいつの指紋しか出ぇへんはずや」
「、、、、、」
「ワシもションベン出したるけど、そいつのションベンも採らんかい、絶対反応出よんぞ」
刀根巡査の採尿検査をしたのかは判らなかったけれど、指紋は私の言った通りの結果になった。
覚せい剤も注射器も、刀根巡査の物なんだから当然の結果だ。
その他、尿検査はシロ、家宅捜索もシロ、携帯電話の履歴等もシロ、交友関係もシロだった。
もっとも、そんな証拠は警察が隠蔽してしまう。
公判では、尼崎市役所のケースワーカー、障害福祉課の担当者、身体障害者福祉センターの相談員、兵庫医大の主治医、かかりつけの主治医、園田苑の責任者、相談していた弁護士、英君らが、私の無実を証明するのに協力してくれた。
何故、覚せい剤事犯に、兵庫医大の主治医や、かかりつけの主治医が協力してくれたのかというと、、、
平成二十八年に、私は珍しい病気を発症して、それからは薬物療法が困難になった。
処方薬を服用するだけで致命的な事になる。
アルコールでも同様だった。
一般的な処方薬や向精神薬に市販薬、、、
生薬やアルコールに至るまでがそうなのだから、違法薬物の使用など、私にとっては自殺行為以外の何ものでもなかった。
なので、私が違法薬物と関わる事は医療方面から考えてもあり得ない事だった。
兵庫医大の主治医と、かかりつけの主治医が意見書と診療情報を提出してくれて、その事実を証明してくれていた。
だけど、判決は懲役一年十ヶ月。
弁護士からは、控訴するように強く勧められたんだけれど、私は服役する事を選んだ。
争っても虚しい結果しか待っていないのは明白だったからだ。
昔から、注射器なんかを仕込むのは、警察の常套手段だった。
だけど、覚せい剤自体を仕込むというのは、それ程多くはないと思う。
しかし昨今では、大阪府警や兵庫県警の警察官等による薬物集団乱用事件をはじめ、各地の警察官等による薬物事犯が問題になっている。
愛知県警では、警察官が、覚せい剤入りの飲み物を一般人に飲ませるという偽装事件などが明るみになっている。
その愛知県警の警察官は、覚せい剤事件をでっち上げるために、自宅に覚せい剤を常に所持していたようだ。
そんな警察官も存在するんだから、薬物の所持や使用をしている警察官なんて珍しくもないんだろう。
全国各地の警察の薬物汚染は深刻であり、そのような違法捜査が、当たり前のように行われている事も間違いないだろう。
勿論、薬物事犯にとどまらず、警察官等による犯罪が後をたたない事は周知の通りだ。


時代は令和だというのに、、、
服役する事になった神戸刑務所では、当たり前のように、刑務官が受刑者の事を虐待していた。
勿論、大半の刑務官は普通なんだけれど、中には病的な異常者がいてる。
刑務所なので、厳しくて当然だと思う。
厳しければ厳しい程、良いのかも知れない。
だけど、厳しくする事と虐待する事は絶対に違う。
私が配役されていたのは、三寮二階工場。
工場長は、大松刑務官だった。
高齢者や障害者ばかりの工場だった。
中には、自分が刑務所に居てるという事も判っていない、、、
自分の名前さえ判らない、、、
そんな受刑者も少なくはなかった。
そんな高齢者や障害者への虐待が当たり前のように行われていた。
そういう私も、四つん這いでトイレに行かされていた。
学校や駅や公園にあるような公衆便所のようなトイレ、、、
そんなトイレに、シャツとパンツの状態で、手をつき、膝をつき、四つん這いで行かされていた。
あそこまでの屈辱を経験した事はなかった。
勿論、受刑者を虐待している刑務官と喧嘩するのは簡単だった。
けれど、この時は耐えなければならない理由があったので、私は耐える事を選択していた。
時代が変わっても、監獄法が改正されても、変わる事はないのだろう、、、


令和元年十月十一日
私は神戸刑務所を満期出所した。
今回も完全な冤罪だった。
私は平成二十五年に、日本国民救援会の存在を知って、冤罪被害者達の会合にも参加している。
厚労省の村木局長事件、袴田事件、名張毒ぶどう事件、布川事件、大崎事件、松橋事件、日野町事件、湖東記念病院事件、神戸質店事件、東住吉事件、土井佑輔さんのコンビニ強盗冤罪事件等は、本人や家族、関係者等の話を聞く機会があった。
その酷い内容には驚かされた。
聞いただけで、怒りで体が震えてくるようなものばかりだった。
ただ、私が被害にあった、、、
平成十八年の窃盗冤罪事件、、、
平成二十一年の連続強盗冤罪事件、、、
そして今回、、、
私の場合は、私の経歴が綺麗なものだったら、決して、こんな事にはなっていなかった筈だ。
私自身、沢山の人を傷付けてきた事も、間違いない。
因果応報、、、
そういう事なんだろうと思う。
これが宿業だというのなら、そろそろ浄化して欲しいものだ。
「昔のツケが回ってきたって事や」
豪快な天願の笑い声がよみがえってきた。
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