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第二十九章
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喜楽苑の利用を終了してからは、小中島にある老人ホーム、園田苑のデイサービスを利用するようになっていた。
園田苑は、喜楽苑とは対照的だった。
喜楽苑はスタッフの環境はとても良かったと思うけれど、利用者には冷たい面があった。
若宮部長も、スタッフには優しくても、利用者とは関わる事もしなかった。
園田苑はそれとは真逆で、スタッフの環境は厳しいと思う。
だけど、責任者もスタッフも、みんな率先して利用者と関わっていた。
それは、園田苑理事長の中村大蔵さんの人柄が影響しているのかも知れない。
中村さんは、医療、福祉、保育の分野で精力的に活動してきた人だ。
園田苑では、家出少年や非行少年を施設に住まわせて、年寄りの世話をさせていた事もあった。
ホームレスの人も受け入れていた。
どんな人でも受け入れるというのが、中村さんのスタイルなんだろう。
なかなか出来る事じゃないと思う。
「問題のない施設なんてないと思いますよ」
喜楽苑の若宮部長の話が本当なのかは判らない。
だけど、園田苑の利用者はとても明るかった。
「〇〇〇〇~」
「〇〇〇〇~」
一日中、叫んでいるお婆さんがいた。
「〇〇〇〇~」
「〇〇〇〇~」
叫びながら、いつも踊っている。
「もぉ~ 何やってんのぉ~」
いくらスタッフが止めようが、お婆さんは止まる事を知らない。
「痛い痛い痛い~」
「モンモン入れてるくせに、そない泣きなぁ~」
入れ墨を入れているお爺さんが、スタッフに怒られながらオムツをかえられていた。
「シバくど、このエロ爺ぃ~」
お爺さんに尻を触られたスタッフが怒鳴っていた。
とてもにぎやかな施設だった。
責任者の深津さんと、山崎さんと、関口さんをはじめ、スタッフもみんな、私の事を大切にしてくれていた。
園田苑での生活はすぐに心地良くなっていった。
そして、園田苑には看板犬がいた。
彼女の名前は、ゆすら。
ゆすらの姿に、私はぷぅの面影を重ねていた。
平成二十八年二月
英君と再会する事が出来た。
アルカイダ先輩と出会えたおかげだった。
私は十代後半、ヤクザになってから、地元の友達とは連絡を絶っていた。
義和だけは兵庫医大で一緒に過ごしていたけれど、他の友達とは一切連絡を取っていない。
びわこダルク退寮後、尼崎に戻ってからも、誰にも連絡を取らずにここまできていた。
だから英君と会うのは、おおよそ二十年ぶりの事だった。
「園田の人間で、誰か会いたい奴おるか?」
英君が言ってきた。
「ヨッチンとは会いたいなぁ~」
ヨッチン以外の名前は出てこなかった。
義和の名前を口にするのが怖かったからだ。
兵庫医大で一緒に過ごしていたので、義和の病状はよく判っていた。
でも、ヨッチンと会った時にはそういう訳にはいかなかった。
「お前、義和の事知らんのか?」
「俺、誰とも連絡取ってなかったんですよ」
「義和、死んだんや、、、」
「、、、、、」
判っているつもりだったけれど、、、
実際に聞かされると、やっぱり悲しかった、、、
「また来るからな」
「うん、また来てなリュウジ君」
あの時、、、
義和と、兵庫医大で交わした約束は守れなかった。
宇治少年院を仮退院した義和は、少年院に入る前とは別人のように真面目になっていた。
あの清々しいぐらいの変身ぶりは、一体なんだったんだろう、、、
義和は、もしかして何かを感じていたんだろうか、、、
仏壇に飾られた義和の写真に手を合わせながら、私は義和に思いをはせていた、、、
平成二十八年の夏
英君からの電話だった。
「リュウジ」
「はい」
「公一、出てきたわ」
「そうなん?」
公ちゃんとは、神戸刑務所で一緒になってからは、会ってもいなければ、連絡も取っていない。
神戸刑務所を出所した日に、早速覚せい剤を使用して、すぐに捕まって、京都刑務所に服役しているという噂だけは耳にしていた。
その公ちゃんが戸ノ内に戻ってきた。
「公ちゃんとは関わりたないんで、俺の事は教えんといて欲しいんですわ」
「せやな、俺もその方がええと思うわ」
英君から公ちゃんの知らせを受けてから何日もたたないうちに、今度はヨッチンから電話がかかってきた。
「リュウジ」
「はい」
「公一が出て来たんや」
「聞きました」
「お前、公一とは絶対関わったらあかんで」
「関わらへんよ~」
「あいつ、頭おかしなっとんねん、、、」
「そうなん?」
「団地の部屋のベランダからテレビ投げたり、刀振り回したりしとんねん」
「、、、、、」
「あいつ、いつ人殺してもおかしないで」
「、、、、、」
「どうせまた、シャブやっとんやろ」
「、、、、、」
「とにかく、あいつとは絶対関わったらあかんで」
「判りました」
いつもと変わらない一日、、、
いつもと同じテレビ番組を見ていた。
いつもと違ったのは、テレビの画面によく知っている団地の映像が映し出されて、よく知っている名前がテロップに流れている事だった。
殺されたのは公ちゃん、、、
そして、公ちゃんを殺したのは、実のお兄さんだった。
英君とヨッチンから聞いた話では、公ちゃんは完全に狂っていたようだった。
七階のベランダから、下に向けてテレビを投げたり、、、
全く関係のない人の家に刀を持って怒鳴りこんだり、、、
通行人や通行車に、突然襲いかかったりしていたようだ。
一時的には逮捕勾留されるものの、公ちゃんとの関わり合いを恐れた被害者が、被害届を取り下げてしまうといった事も繰り返されていたようだった。
警察でも、公ちゃんの事はどうにも出来なかったと聞いている。
刑務所を出所してからの公ちゃんの行動や様子は、英君とヨッチンが教えてくれていた。
だけど、私は最後まで公ちゃんとは関わらなかった。
「これから弟を殺しに行きます」
警察にそう告げて、お兄さんは公ちゃんの自宅へ向かったと聞く。
私の勝手な想像でしかないのだが、、、
弟思いで、責任感の強いお兄さんは、、、
公ちゃんが、罪のない誰かを殺してしまう前に、、、
公ちゃんが、誰かに殺されてしまう前に、、、
お兄さんの手でと、決意したんじゃないだろうか、、、
結果的には殺人事件になってしまった。
褒められた結末ではなかったかも知れない。
しかし、それは誰よりも、公ちゃんの事を大切にしていたお兄さんの責任感と正義感、、、
そして、優しさが出した結末だったのではないかと、私は思う、、、
公ちゃん自身も、どうにもならなかったんだろうか、、、
「水戸黄門見るなら、俺の肛門を見よ」
思い浮かぶのは、神戸刑務所での肛門大公開、、、
狂った公ちゃんを見ずに済んだ私は、ある意味幸せなのかも知れない。
「来世は良い人生送れよ、、、」
眠っている公ちゃんに手を合わせて、私は斎場を後にした、、、
平成二十八年の秋の事だった、、、
園田苑は、喜楽苑とは対照的だった。
喜楽苑はスタッフの環境はとても良かったと思うけれど、利用者には冷たい面があった。
若宮部長も、スタッフには優しくても、利用者とは関わる事もしなかった。
園田苑はそれとは真逆で、スタッフの環境は厳しいと思う。
だけど、責任者もスタッフも、みんな率先して利用者と関わっていた。
それは、園田苑理事長の中村大蔵さんの人柄が影響しているのかも知れない。
中村さんは、医療、福祉、保育の分野で精力的に活動してきた人だ。
園田苑では、家出少年や非行少年を施設に住まわせて、年寄りの世話をさせていた事もあった。
ホームレスの人も受け入れていた。
どんな人でも受け入れるというのが、中村さんのスタイルなんだろう。
なかなか出来る事じゃないと思う。
「問題のない施設なんてないと思いますよ」
喜楽苑の若宮部長の話が本当なのかは判らない。
だけど、園田苑の利用者はとても明るかった。
「〇〇〇〇~」
「〇〇〇〇~」
一日中、叫んでいるお婆さんがいた。
「〇〇〇〇~」
「〇〇〇〇~」
叫びながら、いつも踊っている。
「もぉ~ 何やってんのぉ~」
いくらスタッフが止めようが、お婆さんは止まる事を知らない。
「痛い痛い痛い~」
「モンモン入れてるくせに、そない泣きなぁ~」
入れ墨を入れているお爺さんが、スタッフに怒られながらオムツをかえられていた。
「シバくど、このエロ爺ぃ~」
お爺さんに尻を触られたスタッフが怒鳴っていた。
とてもにぎやかな施設だった。
責任者の深津さんと、山崎さんと、関口さんをはじめ、スタッフもみんな、私の事を大切にしてくれていた。
園田苑での生活はすぐに心地良くなっていった。
そして、園田苑には看板犬がいた。
彼女の名前は、ゆすら。
ゆすらの姿に、私はぷぅの面影を重ねていた。
平成二十八年二月
英君と再会する事が出来た。
アルカイダ先輩と出会えたおかげだった。
私は十代後半、ヤクザになってから、地元の友達とは連絡を絶っていた。
義和だけは兵庫医大で一緒に過ごしていたけれど、他の友達とは一切連絡を取っていない。
びわこダルク退寮後、尼崎に戻ってからも、誰にも連絡を取らずにここまできていた。
だから英君と会うのは、おおよそ二十年ぶりの事だった。
「園田の人間で、誰か会いたい奴おるか?」
英君が言ってきた。
「ヨッチンとは会いたいなぁ~」
ヨッチン以外の名前は出てこなかった。
義和の名前を口にするのが怖かったからだ。
兵庫医大で一緒に過ごしていたので、義和の病状はよく判っていた。
でも、ヨッチンと会った時にはそういう訳にはいかなかった。
「お前、義和の事知らんのか?」
「俺、誰とも連絡取ってなかったんですよ」
「義和、死んだんや、、、」
「、、、、、」
判っているつもりだったけれど、、、
実際に聞かされると、やっぱり悲しかった、、、
「また来るからな」
「うん、また来てなリュウジ君」
あの時、、、
義和と、兵庫医大で交わした約束は守れなかった。
宇治少年院を仮退院した義和は、少年院に入る前とは別人のように真面目になっていた。
あの清々しいぐらいの変身ぶりは、一体なんだったんだろう、、、
義和は、もしかして何かを感じていたんだろうか、、、
仏壇に飾られた義和の写真に手を合わせながら、私は義和に思いをはせていた、、、
平成二十八年の夏
英君からの電話だった。
「リュウジ」
「はい」
「公一、出てきたわ」
「そうなん?」
公ちゃんとは、神戸刑務所で一緒になってからは、会ってもいなければ、連絡も取っていない。
神戸刑務所を出所した日に、早速覚せい剤を使用して、すぐに捕まって、京都刑務所に服役しているという噂だけは耳にしていた。
その公ちゃんが戸ノ内に戻ってきた。
「公ちゃんとは関わりたないんで、俺の事は教えんといて欲しいんですわ」
「せやな、俺もその方がええと思うわ」
英君から公ちゃんの知らせを受けてから何日もたたないうちに、今度はヨッチンから電話がかかってきた。
「リュウジ」
「はい」
「公一が出て来たんや」
「聞きました」
「お前、公一とは絶対関わったらあかんで」
「関わらへんよ~」
「あいつ、頭おかしなっとんねん、、、」
「そうなん?」
「団地の部屋のベランダからテレビ投げたり、刀振り回したりしとんねん」
「、、、、、」
「あいつ、いつ人殺してもおかしないで」
「、、、、、」
「どうせまた、シャブやっとんやろ」
「、、、、、」
「とにかく、あいつとは絶対関わったらあかんで」
「判りました」
いつもと変わらない一日、、、
いつもと同じテレビ番組を見ていた。
いつもと違ったのは、テレビの画面によく知っている団地の映像が映し出されて、よく知っている名前がテロップに流れている事だった。
殺されたのは公ちゃん、、、
そして、公ちゃんを殺したのは、実のお兄さんだった。
英君とヨッチンから聞いた話では、公ちゃんは完全に狂っていたようだった。
七階のベランダから、下に向けてテレビを投げたり、、、
全く関係のない人の家に刀を持って怒鳴りこんだり、、、
通行人や通行車に、突然襲いかかったりしていたようだ。
一時的には逮捕勾留されるものの、公ちゃんとの関わり合いを恐れた被害者が、被害届を取り下げてしまうといった事も繰り返されていたようだった。
警察でも、公ちゃんの事はどうにも出来なかったと聞いている。
刑務所を出所してからの公ちゃんの行動や様子は、英君とヨッチンが教えてくれていた。
だけど、私は最後まで公ちゃんとは関わらなかった。
「これから弟を殺しに行きます」
警察にそう告げて、お兄さんは公ちゃんの自宅へ向かったと聞く。
私の勝手な想像でしかないのだが、、、
弟思いで、責任感の強いお兄さんは、、、
公ちゃんが、罪のない誰かを殺してしまう前に、、、
公ちゃんが、誰かに殺されてしまう前に、、、
お兄さんの手でと、決意したんじゃないだろうか、、、
結果的には殺人事件になってしまった。
褒められた結末ではなかったかも知れない。
しかし、それは誰よりも、公ちゃんの事を大切にしていたお兄さんの責任感と正義感、、、
そして、優しさが出した結末だったのではないかと、私は思う、、、
公ちゃん自身も、どうにもならなかったんだろうか、、、
「水戸黄門見るなら、俺の肛門を見よ」
思い浮かぶのは、神戸刑務所での肛門大公開、、、
狂った公ちゃんを見ずに済んだ私は、ある意味幸せなのかも知れない。
「来世は良い人生送れよ、、、」
眠っている公ちゃんに手を合わせて、私は斎場を後にした、、、
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