紛い物の聖女は温かな人々に囲まれた幸せな余生を目指す

めの。

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11.第一王子の大変に面倒で断れない上に早さを求められる頼み事

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 あの村で支点作成を行なってから数日が経った。第一王子は俺との会話後、聖女の力を使用した治癒を行う際の人数制限や優先順位等々を決定したという通達を行い先の村で起きたような混乱を防いでくれた。


 それでも我先にと城まで懇願に来たものについては。



「それはつまり、ノア・シーグヴァルト・グランフェルトの決定に意見するということか」



 の一言で黙らせた。第一王子という地位に加え、国どころか近隣諸国でも例を見ないカリスマ性を持った人間離れした人間に、氷のような鋭い瞳で見下ろされれば、それだけで何も言えなくなりそうだ。


 とはいえ、責任の所在を全て自分にあるとして聖女批判を封殺し、リアンの負担は限りなく軽くしてもらえた。借りを作ったことは恐ろしさしかないが、現在の状況なら感謝しかない。


 とはいえ。



 とはいえ、だ。



「後が怖い……」
「フィーはノア様を過度に恐れすぎですよ」


 自分に厳しく他人には優しく。ただし、その優しさについての基準は彼に準ずる。というわけで、全ての責任を取ってもらうことと引き換えに何を言われるか分かったものではないこの状況は、ただひたすら恐怖でしかない。


「ノア様も王様達に代わって国を治めていらっしゃるんですから、多少厳しいところはありますが」
「多少ねぇ……」


 第一王子の置かれた状況は気の抜けないものであることは確かだ。国の主である国王夫妻が同盟国への支援調整のため不在である中、その代わりを勤め上げなければならないのだから。


 その上、普段頼りになる第二王子はハルブナの調達を行いつつ、道中で他国へ避難した国民の慰問も行っているためしばらくは帰ってこない。国を一人で動かす重責に加え、仕事量も考えると心配にもなってくるが弱みは一切見せない。


 国が荒れ始めた頃即座に私財を投げ打ち、対策を行ってきた王族がさらに身を粉にして働いていることで暴動も抑えられているのだから、動かないわけにはいかないのかもしれないが……難しいものだ。


「第三王子は……病気療養中でしたっけ」
「私もお姿を見たことはありませんね。一度はお会いしておいた方が良い気もするのですが」


 元々聖女急死前も第三王子が表立って姿を表すことはあまりなかった。病弱で人前に出ることがなかなか難しいという噂はあったが、国の緊急事態でも姿を見ないとは。それほど病状が酷いのか、それとも。



「さて、フィー。私は最近頑張っていると思いませんか?」
「それはもう。八面六臂の大活躍ですね」
「なのにフィーは敬語を使う冷たい人になってしまいました」
「苦情は」
「ノア様にお伝えしてあります」



 それなのに俺に何の指示もないということは、リアンが折れたのだろう。まあ、聖女に敬語を使うこと自体は正しいことなのだから仕方がないが。


「せめて何か良いことがあっても良いと思いませんか?」


 その言葉に、抱き寄せて頭を撫でてみる。撫でている間はそれなりに満足そうにしていたものの。



「これだけですか?」



 それだけではいけなかったらしく、ご機嫌を取る仕事が追加された。




 第一王子と違って、頼み事が可愛らしいところは救いではある。





◇ ◇ ◇






「第三王子のお見舞い、ですか」
「そうだ」


 リアンを負かした第一王子から当面の動きについて説明を受けていたが、その中にそれはあった。


「第三王子の姿が見えないことを不安に思う国民もいるだろうからな。早く払拭したいところだ」


 その言葉から察するに、このお見舞いはただのお見舞いではなさそうだ。


「聖女様とお見舞いするだけですよね」
「そうだ。なるべく早く頼む」


 会話が噛み合っているようで噛み合っていない気がする。見上げてみれば、まさか分からないということはないだろうな、なんて言いそうな顔をしていた。


 つまり、第三王子は病気ではなく、彼を俺とリアンで部屋から引っ張り出してこいとの御命令だ。


「馬車の中で仰っていた件はこれで全てでしょうか」
「全てではないが頼みたいことのは一つではあるな」


 まだこれと同レベルの難題がこの先も待ち構えているらしい。先のことを考えればため息をつきたくなるが、そもそもこの第三王子を引き摺り出すこともそう簡単ではなさそうだ。



「では、なるべく」
「早くできるように努力はします」



 第一王子の言葉を遮って伝えておくべきことは伝えておく。このままでは明日にでも何とかなると思われかねない。挨拶を終えて、部屋へ戻る。まずは情報収集からか。これまた骨が折れそうだ。





◇ ◇ ◇





「それでもあまり分からなかったんですね」



 後日、毎朝の祈りを終えたリアンと共にいざ第三王子の部屋へ。というところではあるが、緘口令でも敷かれているのかと思うほど、情報がまるでなかった。


 とりあえず分かったことは病院療養中で部屋から出てこないこと、それでもある程度の公務は部屋で行っていることくらいなものだ。第三王子お付きの侍女から話を聞くことができれば違ったかもしれないが。



「でも不思議ですね。もしも病気が嘘ならノア様がすぐに引き摺り出しそうな気もしますが」



 リアンの言う通りだ。もし、ただ引きこもっているだけなら、あの第一王子がここまで放置しておくはずもない。それも何かありそうでそれがまた胃痛の原因に寄与してくれている。



 まあ、考えても仕方がない。後はなるようになれだ。




 ドアをノックすれば、涼やかな声で返答があった。




「き、今日は大変に気分が優れないので……帰ってくれ」





 前途は多難である。







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