紛い物の聖女は温かな人々に囲まれた幸せな余生を目指す

めの。

文字の大きさ
14 / 32

14.威厳

しおりを挟む

 それからしばらくは大変だった。聖女の護衛をしつつ、第一王子から言われた無駄に多い仕事をこなしつつ、第三王子に頼まれた調べ物を合間で行う。


 ある程度調べがついたところでリアンと共に第三王子の部屋を訪れ、ああでもないこうでもないと話す時間はまあ、楽しくないわけではなかったが。



「フィーに採取してきてもらった土の解析結果がこれだ」
「ムハルジアの旱魃後のものと近いですね」



 土の成分はやや異なっているものの、旱魃で受けたダメージは同等と考えられる。確かムハルジアは回復までに十年はかかったはずだ。遊牧民の多い土地であったから問題はなかったものの、この国ではそうはいかない。



「土の補強は人間用の身体強化魔法を弱めたものと回復魔法に組み込んだこの術式で可能だと思うんだが」
「治癒魔法ではないのですね」
「ああ。怪我などをイメージしてもらうと良いが、治癒は完全に治すことを目的とした魔法だからな。土の様子を見ながらより良い状態に近付けるなら回復魔法を使うんだ」



 魔法や魔術にそれほど詳しくはないリアンの質問にも答えてくれるので、勉強会の様相も呈している。思わぬ副産物ではあるが、知識を高めておくことはリアンにとっても悪くはないだろう。


「ただ、そこに植えるものの知識に疎くてな。何か良いものはあるか?」


 旱魃後の土地でも育ちやすく、ついでに食料にもなってくれるものだと有り難いが……難しいな。


「ガラスマメなら育ちはすると思います。種子部分は食用ではありますが……」
「毒でもあるのか?」


 頷いて肯定する。



「多量に食べると麻痺症状が出ますね。少量であれば問題はないかと思いますが、食糧難の対策にはなりません。茹でることで毒は抜けますが、今度は栄養分が抜け落ちます」
「逆に考えれば、生育段階でその毒さえ抜ければ問題はないのか」



 ただ、土にそれほどの魔法を施した状態で解毒魔法まで追加すれば綻びが出かねない。最悪土が駄目になってしまう。


 ガラスマメ自体は旱魃後にはもってこいの植物ではあるが、食べられないものを植えておくことは今の状況では難しい。王様達が同盟国に赴いているのは食料供給の依頼も含めてのことなのだから。



「あ」



 と、リアンが棚を見て声を上げた。


「水はどうでしょう。魔力水にして植物にのみかけるようにして」


 なるほど。それならばいけるかもしれない。


「土には布でも敷いておけばそれほどかかる心配もありませんね。確か、布等を敷くことで雑草を防いだり温度を上昇させて生育を促したりする効果もあったはずです」
「では、魔力水の調合も必要となるな。水やりを考えると早く多く作れるものでなければならないから……」



 そうして、部屋の中で理論を組み上げ、都度第一王子に確認を取りながら実験を行うことのできる土地を確保し、ガラスマメの調達も依頼できたところで、いよいよ部屋から出て実践することとなった。



「……緊張するな」



 理論上は上手くいくはずだ。それでも、やはり最初の一歩を踏み出すのには勇気が要る。


「アリー様、私もフィーも隣にいます」


 リアンが手を差し伸べるのに倣って、俺も手を伸ばす。



「マルクス・ヒルデベルト曰く、『全てが糧』だそうですよ。ただし」
「ディーデリックとピクルスは除く、だったな」



 少年らしい相応の笑みを見せて、第三王子は俺とリアンの手を取った。その双肩に乗せられた期待は重責となって未だに彼を蝕んではいるだろうに、驚くほど軽い足取りで閉ざされていた部屋から一歩を踏み出した。




「行こう」




 顔を上げて言った言葉の威厳は、やはり王族のそれで。





 歳もリアンより一つ上でまだ成人もしていない彼に。







 俺もリアンも、自然と頭を下げていた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処理中です...