紛い物の聖女は温かな人々に囲まれた幸せな余生を目指す

めの。

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22.五文字の言葉

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「人から愛される魔法なんて、そんな都合の良いものは存在しません」


 感情を宿さない瞳をした少年のその言葉に、老人は目を細める。


「あるさ。君が信じるのなら」


 老人は、煙管をくゆらせて言う。



「きっと、それが一番難しいのだけれどね」






◇        ◇        ◇





「じゃあここに置いていたんですね」


 こういう時、まず大切なのは情報だ。お父さんが言っていたことを思い出して、ロイド達から話を聞く。


「川で遊ぶ時に流れるといけないと思って……それで」
「そのあとそのままあっちの方に行ってご飯食べて……戻って来た時にはなかったんだよ」
「大事なものならご飯食べに行く前に取りに来るべきですよ」
「そうなんだけど……」


 まあ、今それを責めても仕方がない。すでにロイド達も探した後ではあるけれど、みんなで近くを探す。ただ、近くだけでなくご飯を食べたところまで探してもブレスレットは出てこなかった。


「やっぱり、フィーが」
「フィーはそんなことしません!」


 何か手がかりはあるはずだ。この場所にはフィーと一緒に来たこともある。その時のことを思い出そうとして。


『ゴロネズミか』


 フィーの言葉を、思い出した。


『たまにいますね』
『木屑で巣を作るらしいから、それでも取りに来たんだろう』
『ちょこちょこ枝が流れ着いていますもんね』
『まあ、悪さするわけじゃないから放っておこう』


 そうして、本を読むフィーの傍でせっせと巣へと木屑を運ぶゴロネズミを見ていた。小さな体で器用に動くなぁと感心したものだ。


 もしかしたら。


 置かれていた場所は川から少し離れたところにある平たい椅子のような石の上。ゴロネズミの通り道になっていたら、体に引っかかるか拾って巣まで運ばれたのかもしれない。


「リアンちゃん。どうかしたのかい?」
「あ、実は……」


 近くにいたオーヴェさんにその話をしてはみたものの、渋い顔をされてしまった。


「ネズミの巣は……多分あのへんだと思うけど、汚いだろうしなぁ。とりあえずもう少しこの辺を探してみない?」


 でも、この辺りは一通り探したし、少しでも可能性があるのなら。


「すみません、行ってみます!」


 そうして、なんだかんだ言いながらもついて来てくれたオーヴェさんと一緒に巣を探す。


「噛まれないように気をつけてね。何かあったらすぐ声をかけてー」
「はいっ!」


 巣はゴロネズミの大きさに合わせてあるから小さいものの数が多い。ひとつひとつ覗いてみるが、なかなかブレスレットは見当たらない。


 そうして、巣穴をいくつか調べている間に日が陰りはじめた。


「リアンちゃん、そろそろ戻ろう?」
「いえ……あと少し、探させてください」


 梃子でも動かない私を見かねたのか、村長さんに相談してくるからここを動かないように、そして危ないことはしないようにと言ってオーヴェさんは一度離れた。


 それから続けてはみたものの、このあたりの巣はある程度調べ尽くしてしまった。ゴロネズミが犯人というわけじゃなかったのかもしれない。でも、このままじゃフィーが……。


「あっ」


 探していると、向こうのほうにも巣穴が見えた。急いでそちらへ行く。


 途中。



「わっ、え? ひゃあぁぁあ!」


 
 たまたま泥濘みに足を取られてしまい、滑らせて尻餅をついたらそのままおしりごと滑り、巣穴近くまで落ちてしまった。……泥だらけだし格好悪いしおしりが痛い。


「うぅ…………」


 ズキズキするおしりは気になるけれど、身をかがめて巣穴を覗き込む。と、今までの巣穴と違い細く光るものがあった。



「あ……! あった! あったぁ!」



 少し汚れているけれど、多分これだ。体を起こして、すぐに走り出す。


 これで、これでフィーを助けられる。フィーの役に立てるんだ。痛みは不思議と感じない。いつもより体も軽くて、走るのも速くなっている気がする。


 広場に皆が集まっていて、フィーと村長さんも出て来ていた。
 


「リアン、その」



 何かを言いかけたロイドの言葉を遮り、



「あり、まし、た!」



 強い口調とともに睨みつける。そんなロイドは、私の右手に握られたブレスレットを見て、



「あの……それ、違うやつ……」
「えっ?」



 気まずそうに、目を逸らした。



「ごめん……その、もう見つかって」
「はぁーーーーーー!?」   
「えっと。ご飯食べに行く前に取りに行って、別の場所に置いたの思い出して」
「じゃ、じゃあこのブレスレットは」
「あ、それ俺のだ。森でなくしたかと思ってんだけど、まさかゴロネズミが持って行ってたのかー」



 呑気そうな声は先程まで一緒に探してくれていたオーヴェさんのもの。結局、私が頑張らなくともフィーの疑いは晴れていたらしい。良かったことは良かった。


「な……なっ…………」


 だけど、それはそれとして。



「なんなんですかもうーっ!」



 ふつふつどころではなく、爆発的に怒りたい気持ちが沸き上がってきた。地団駄を踏みながら感情のままに叫ぶ。



「なんでみんなそんなに森でものをなくしてるんですかっ! そんなに大事なものならちゃんとしまっておいてください!」
「ご、ごめん……」
「あはは、リアンちゃんの言うとおりだねー」
「それにっ!」



 次はロイドの友達を睨みつける。


「あなたがフィーが盗ったのを見たって言ってたのは何だったんですか! 私忘れていませんからね!」
「あ……それは」


 バツが悪そうに、彼は答える。


「リアンが……アイツばっか構うから。それで」
「はぁ!?」
「お前、それは……」


 ロイド達に引かれている彼をさらに糾弾しようとするとフィーに止められた。


「リアン、落ち着いて。もういいから」
「何がいいんですか!」


 怒りのおさまらない私はそんなフィーにも食ってかかる。


「大体フィーもフィーです! なんでしてもないことを謝ろうとするんですか! なんですぐに諦めるんですか!」
「リアン、その」
「なんで、なんでフィーは全然悪くないのに、なんで……っ!」
「リアン。大丈夫だから」



 フィーの宥める声も、私の耳には届かなくて。



「大丈夫じゃないもん! フィーだって辛いはずだもんっ! なのに、なの……うわぁぁぁあああああん!」



 敬語を使うことも忘れて、大音量で泣き出した私はそのまま泣いて泣いて泣きに泣いて。その陰でロイドと友達が怒られていることにも、フィーに村長さんが何か言っていることにも気づかないまま。それまでの疲れもあって泣きじゃくっているうちに寝てしまったようだった。


 夢の世界はゆらゆらと心地よくて、暖かくて。こんな世界にフィーと一緒にいられたら、なんて。思っているうちに目が覚めた。


「フィー……」
「リアン、大丈夫か?」


 泣きすぎたせいか上手く声が出ない。いがいがする喉を何回かの咳払いで落ち着かせる。


「もう着くから」


 フィーの声がぼんやりとした頭に優しく響く。そうして、しばらく揺られて。ようやく頭が働き出した頃、ようやくようやくフィーの背中にいることに気づいた。


「ーーーーっ!?」
「ちょ、え、リアン!?」


 気付いて離れようとした私にバランスを崩す。それでもフィーは私を落とすことはなく、背に回した腕に力を込めて、何とか地面へとそっと下ろしてくれた。


「びっくりした。急に暴れるから」
「ごめんなさい……」


 地面に座ったまま、寝る前の勢いをすっかり無くしてしまって何を言えばいいのか分からなくなる。


「リアン」


 ぼさぼさの髪に泥まみれの体。一番汚れているおしりは思い出したように痛み出すし、よく見れば、泥だらけの私を背負ったせいでフィーの背中も汚れている。なんだか、急に恥ずかしくなってきた。


「ごめん、色々無理させて」
「無理なんかじゃ……っ」


 結局、自分がいなくてもなんとかなったことだったのかもしれない。先程かなり泣いて弱ってしまったからか、またじわじわと涙がせり上がってくる。


「ありがとう。俺なんかのためにいっぱい頑張ってくれて」
「なんかじゃないもん……」


 フィーの言葉に、悲しい気持ちがまた沸き上がってくる。


「フィーはなんかじゃないの! フィーは……フィーはすごく大事なんだからっ! だから、そんなこと言わないで!」


 言って咳き込んでしまう私の背中を、フィーは優しく撫でてくれる。フィーは物知りで、優しくて、困った時は助けに来てくれて。私の、私の。とても大切な。



「フィーが好き」



 思わずこぼれ落ちた言葉は、もう汲み上げることはできない。



「フィーが好き、好き……。だから、そんなこと言わないで」



 止められないまま、あの日言えなかった言葉を紡ぐ。



「遠くへなんて……行かないで…………」



 背中を撫でる手は止まり、少ししてから抱きしめられた。最初は優しく、次第に強く。


「もし……もしも、リアンが許してくれるなら」


 左肩だけ、熱を感じる。縋り付くように抱きついて預けられた彼の頭。表情は見えないけれど、私の肩を濡らす熱は、きっと。



『そばにいて』



 お母さんを助けてくれたフィーへのお礼。私にできることは何でもすると言ったのに、それをこんなことに使って。こんな、何でもないことに使うなんて。



 ただ、その言葉を言うのに、彼がどれほどの勇気を振り絞ったのか。私にはまだ理解できていなかった。





『俺を……愛して』





 フィーが、本当に求めていたものはただそれだけで。







 少しでもそれに応えようと、背中に回す手に力を込めた。
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