紛い物の聖女は温かな人々に囲まれた幸せな余生を目指す

めの。

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28.先見の未来

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 しばらく続いた大会荒らしはそれなりに奏功したようで、『聖女様の傍にいる騎士は王子達も一目置く実力者らしい』という話は国内外問わず割と広まっているようだった。


 実際には実力があるわけではなく大会で勝ち抜くためだけにつけた力だったから、それに見合う実力はこれからつけなければならないが、まあそれは大した問題ではないだろう。


 別の噂として、『一度危機に瀕したらしいが今は聖女の近衛騎士が大会に参加できるほど落ち着いてきたようだ』というのもある。思いがけず国の回復についても国外へ向けて発信できたようだ。

 これについても、色々なものを削って参加させてもらっていたので正しくはないが、国の危機ばかりが認識されるよりは余程良いだろう。一時期は北側諸国が狙っているなんて話もあったくらいだ。平和が一番である。



 良かった良かった、で終わればよかったのだが。



「……そろそろ離してもらえませんか?」



 その間、全く構えていなかったリアンが拗ねていた。


「またヴィル様と特訓ですか? それともアリー様と魔術談義ですか?」
「ただ用を足しに行くだけです」


 その言葉でようやく手の力が緩められた。ここのところ、リアンとは公務以外で顔を合わせることは少なく、公務中は私語を謹んでいるのでまともに会話できていなかった。精神安定剤失格ではある。


 まあ、リアンも尋常でないほど忙しかったから何も言わずにはいてくれたが。



「さすがに半年は長すぎましたね」



 とは、朝出会ったペローナの言葉だ。


「すごーく心配もしていらっしゃいましたし、ここらで何か名誉挽回的な何かが欲しいところですね」


 他人事だからか楽しんでいるようにも見えるペローナは、そのままエプロン片手に部屋へ戻ってしまった。あの刺繍を好む人間もちょこちょこといるようで、そこそこに頼まれてはちくちくと縫っているようだ。本人が楽しそうだから問題はなさそうだが。


「フィー、ちょうど良いところに! 助けてくれ!」


 そんなことを考えていると最近は城内に出ていることも珍しくはないアリー様に捕まった。今日は珍しくノア様とヴィルヘルム様も一緒だが、アリー様は俺を盾にして身を隠そうとしている。やめてほしい。


「何事でしょうか」
「兄上達が……戴冠式までに部屋を片付けろと」
「ああ」


 アリー様はもうすぐ十二歳の誕生日を迎えて成人となる。初めて会った時から二年が経ったと思うと感慨深いが、あの部屋も二年が経ってさらに物が増えてきていた。怒られるのも道理ではある。


「父上からも何度も言われていただろう」
「皆で手伝えば早いだろうからな。任せろ!」
「い、嫌だ……! ヴィル兄様は扱いがぞんざいすぎる!」


 なんで俺が巻き込まれているのかは分からないが、怯えるアリー様を置いていくのも気が引ける。


「俺も手伝いますから」
「兄上達はある程度処分しろと言うんだ……。ジャクリーンよりも酷いことを言う」


 ジャクリーンが誰かは分からないが酷いことを言う魔術師か何かなのだろう。アリー様は離れないしノア様の瞳は冷たいしヴィルヘルム様は力尽くでなんとかしかねないし。困ったことに長引きそうだ。


 結局、ある程度は書庫に移して、使っていない地下の一室をアリー様専用の魔道具置き場件魔術実験室とすることで落ち着いた。話し合いの間中、盾にされていたのでノア様の視線で殺されかねないところだった。危ない。



「随分と長い御用事でしたね」



 そうしてリアンの部屋へ戻れば、頬を膨らませたリアンが待っていた。


「……言い訳を」
「する人は嫌いです」


 嫌われた。俺は多分悪くないのに。



「ここ、来てください」



 ベッドに腰掛けたリアンは隣を強めに叩く。言われるがまま俺も同様に腰掛けると、腕に抱きつかれた。悪い気はしない。


「…………ごめん」
「フィーが謝らなくていいことくらい分かっています」


 腕に擦り付けるようにしているのでリアンの顔は見えない。



「ただ、私が寂しいだけです」



 リアンの言葉は素直で、疲れた心も解してくれる。



「ごめん、寂しい思いをさせた」
「……フィーが忙しいのも分かっているんです。無茶していることも、多分、私が関係していることも」



 でも、寂しい。



 そう言うリアンを、腕から引き剥がして体全体で抱きしめる。こうしたことも久しぶりだ……と思うと同時に、違和感があった。


「リアン、小さくなった?」
「フィーが大きくなっただけですよ!」


 そういえば背が伸びていた。ヴィルヘルム様にもあれ以降鍛えられていたので少しは筋肉もついたのかもしれない。リアンは失礼ながら然程変わりがないので、俺が変わっただけのようだ。


「アリー様もあっという間に背が伸びちゃいますし、なんだかずるいです」
「リアンもまた伸びるよ、多分」
「多分ってなんですか!」


 リアンも少しは伸びているのだろうが、自分が伸びたせいかあまり変わりはないように見える。別にこのままでも良いのだけれど、リアンはまだまだ成長期でいたいらしい。


「できればフィーを追い越したいです」
「それは……困るな」
「どうしてですか?」


 何においてもリアンより先に立っていたい。というのは、なかなかプライドが邪魔して言葉には出せなかった。リアンにとって常に頼られて追いかけられる存在でいたい、なんていうのは口に出せば狭量のように感じる。



「まあ、リアンはこのままでいいよ」
「なんですか、それ」
「なんでも」



 そうは言ってもリアンも少しずつ成長している。手足も以前よりすらりとしてきたし、聖女様らしく笑顔を向ける姿は大人びている。リアンも来年は成人。結婚も許される年齢となる。


「リアン」


 傍にいてほしい、と言ってくれたあの言葉はいつまで有効だろうか。



「俺は、リアンの望む限り傍にいるよ」



 先見の未来。リアンの隣に、俺がいなかったとしても。




「愛してる」




 リアンが望む限りは、ずっと。



 
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