向上心ゼロ、最弱で鬼畜なパーティプレイ

はゆ

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負荷を上げる

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「ご苦労様。頑張ったね」
 落札者が、肉壁にくかべ の頭を撫でる。一見優しい世界に見えるけれど、私は騙されない!

 落札者は、唐突に肉壁にくかべ に水をかける。こんな寒い中、そんなことをすれば、肉壁にくかべ が凍えてしまう――飴と鞭か。とんでもないDVディーブイ野郎だ。落札者は、して良いことと、悪いことの分別を付けられないようだ。私は、落札者が持っている瓶を取り上げる。
「何故そんなことをするんですか!?」
「傷が浅いから、放っておいても平気だけど、痛みが続くのは可哀想だから、回復薬をかけているんだ」
 肉壁にくかべ を、こごえさせようとしたわけではないようだ――勘違いした私に非がある。
「出過ぎた真似をして、ごめんなさい」
 取り上げた瓶を、落札者に返す。
 落札者は瓶を受け取った後、顎に手を当て考え込む。
「……なるほど。肉壁にくかべの物理耐性を効率的に上げるため、負荷を上げるよう提言してきたのか。確かに、安易に回復させることで、耐性獲得が遅れる可能性がある。逆に、痛みを継続させることで、耐性獲得が早まる可能性もある……効率を重視するのなら、限界まで負荷を掛け、耐えさせる方が良い……そういうことだね」
 落札者がぶつぶつと独り言を呟く。そして、納得したように、一人でウンウンと頷く。

 落札者は、晴れた表情で肉壁にくかべに問いかける。
「君を効率的に成長させるには、より強いモンスターが生息しているところへ行くべきだ。肉壁にくかべは一人で、どのエリアまで行ける? ついでに魔力袋を寄生させてレベルを上げたい」
「砂漠あたりまでなら、なんとか耐えられる」
「モンスターの湧きが悪いから、効率が悪い。もう少し頑張れるよね?」
「氷結の森……の入口いりぐち付近までなら」
「負荷が高いほど成長しやすいんだけど。森の中はキツイ?」
「多分無理」
「死ぬ?」
 肉壁にくかべ伏目ふしめになり、深く頷く。
「と思う……」
「限界まで負荷を掛けるほど成長が早い。頑張れるよね?」
「……頑張ってみる」
「決定だ。今から向かうと、到着は夕方頃か……夜が更けた後の方が、強力なモンスターが出現する。どこで時間を潰そうかな」
 肉壁にくかべは死にそうだと訴えているのに、更に負荷を上げようだなんて、正気の沙汰とは思えない。

 二人のやり取りの中で出てきた砂漠と、氷結の森。どちらも初めて聞く場所。オークション会場から出た後も、初めて見る景色が続いていた。私は改めて、遠い場所に連れて来られたのだと認識する。

 ぎゅるるるぅ!
 私の腹が、空気を読まず大きな音を鳴らす。

「もっと負荷を高めろという進言か。確かに、夜が更けるほどにモンスターは強くなる。俺を立てるため、生理的な音を使って伝えるとは、素晴らしい気遣いだな。腹が減っては何とやらと言うし、一旦町に戻って、夕食をとってから向かうとしようか」
 肉壁にくかべは青ざめ、憔悴しきった顔をしている。回復出来るとはいえ、傷付いた分の痛みは感じる。これから死ぬほど痛い目に遭いにいくと言われているのだから、嫌に決まっている。

 ただ、私自身わたしじしんは、自分でも意外な程に冷静さを保てている。
 買われるというのは、こういうことなのだろうと、納得している。人間であろうと、お金さえ払えばまた買える。消耗品なのだから、壊れたらまた買えば良い。そう考えるようになるのは、自然な流れだと思う。
 むしろ、高いお金を払って購入したからこそ、壊れるまで使いたおそうとするのは、当然の行為ともいえる。今ここに居るのが肉壁にくかべだけというだけで、他にも落札者が購入した人間が居るかもしれない。

(何人も居るなら、一人くらい減っても何も思わないのかな……嫌な世界に変わっちゃったな……)
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