2 / 6
第0章 プロローグ
#02.K 絶対的な絶望
しおりを挟む
ヨクデキマシタ帝国から遠く離れた地。
ナニモナイ辺境地区。最北端の村トーホー。
人口は五〇〇人程。地場産業も、娯楽もない。『最果ての地』と呼ばれる、何もない小さな村。
トーホーには特筆すべき特色がある。村民は、子どもの割合が高く、平均年齢は三十歳前後。女性の割合は九割を占める。大勢が想像するであろう、僻地の寂れた村の様相ではない。日々多くの冒険者が訪れ、毎夜賑わいを見せている。
平均寿命は五十歳弱。適切な医療を受けられる環境はない。怪我をすれば諦め、病気になれば諦める。健康でなければ生きられないのが実情。
男性が少ない理由は、事故に起因し亡くなることが多いため。忽然と消えたり、人気がないところで亡くなっていたり――様々な事故が起きる。
若い女性ばかりの隔絶された集落。
病気さえ持っていなれば、ご飯は食べられる。
そんな場所に、冒険者が訪れる目的は――。
* * *
トーホーに住むごく普通の女子中学生かなぴ。
いや、語弊がある。秀でた才能や能力はない。それどころか、かなぴの評価は何においても下の下。良くても下の中が関の山。所謂落ちこぼれ。
今日も一人。居残り学習をさせられている。
誰も居ない教室を見回すかなぴ。
「誰!? ディスらないでほしいかな」
再び謎の声、ナレーションが流れる。
そういう台詞は求めていない。進行の妨げになるから辞めてほしいと、何度伝えても繰り返す。
話がそれた。かなぴの話題に戻るとしよう。
不良だとか、やる気がないという事実はない。単に能力不足で、学習能力がないポンコツというだけ。小根が腐っているわけではない。
「その通りなんだけどね、言葉にされると胸がキューッとなるかな。褒められてデレる子だからね、褒めてほしいかな」
校内放送が流れる。
『夢世かなえさん。至急職員室まで来てください』
担任の声。校内放送で呼び出す行為は特別なことではない。日常的に誰かが呼び出されている。
(フルネームで呼ばれるのは恥ずかしいかな)
頬を膨らませ、何もない空間に向け不満を主張するかなぴ。やれやれ。誰に見せているのやら。
「虚しくなるから、説明しないでほしいかな」
物事が、上手く進まないことが多いかなぴ。
その度『夢よ、かなえ!』と揶揄われるため、フルネームで呼ばれるのを嫌がる。
「フルネームのことは、思っただけで言ってないかな。言いそうになったのを堪えたのに、何故説明するのかな……早く行かないと怒られるから、そろそろ行くね」
* * *
職員室前。
「しばらく話しかけないでほしいかな」
職員室までの道中、ナレーションは流れていない。にもかかわらず、自ら振ってくるとは、余程話しかけてほしいらしい。寂しがり屋め。
かなぴが扉を開けてすぐ、待ち構えていた担任に奥の応接室へと誘導される。職員室内にも応接用のスペースはあるけれど、応接専用の部屋が別にある。ただ、応接室を使うのは、来訪者が特別な人物である場合に限られている。
応接室でかなぴを待っていたのは校長と、初めて見るスーツ姿の人。知らない人に呼び出される理由に心当たりがないかなぴ。
校長がソファから立ち上がり、満面の笑みでかなぴの両肩に手を置く。
「おめでとう。君が勇者に任命された」
伝承によると、最後に勇者が存在していたのは三百年前。世界に危険が迫ったとき、勇者が現れるとされている。世界を守ることは最優先事項。任命された者に拒否権はない。
ただ、歴代勇者は全て男性。女性主人公だと流行らないため、男性が選ばれると教わった。
「人選ミス、かな……私ではないかな」
世界を崩壊させることはあっても、かなぴごときに救えるはずがない。
(言葉に棘があるかな)
スーツは無表情で、抑揚なく告げる。
「すぐに旅立ちなさい」
スルーしたということは、否定を意味する。
世界に危険が迫っているのだから、出立時期は早いに越したことはない。それを踏まえた上で、最低限の訓練だけでもしたい気持ちがある。
「すぐって、いつ頃かな?」
「今すぐです」
そう言われるのはわかっている。
でも、備えだけでもさせてほしい。
「準備したいかな……」
「今すぐ旅立ちなさい」
スーツは旅立ちを急かすばかり。
何を言っても無駄だと感じたかなぴ。要求通り出発する。それしか選択肢を与えられなかった。
初めて受けた伝令は『隣村に向かえ』。
難易度の高い要求である。普段であれば帰宅し、家に居る時刻。暗くなってから外に出たことはない。トーホーの外に出たこともない。
親しい人は、口を揃えて『外に出てはいけない』と言う。良い子扱いされて、褒められたいかなぴは、言われたことを忠実に守り続けている。
とはいえ箱入り娘だとか、かなぴが特別というわけではない。トーホーの外にはモンスターが生息し、生命の危険がある。基本的に、民間人が外に出ることはない。民間人の一生は、トーホーの中だけで完結する。
例えばトーホーの外にある薬草が必要な場合。
村長を介し、冒険者に採取を依頼する。民間人が外へ出る必要に迫られた際には、冒険者に護衛を依頼する。
トーホーの外を移動する人間は冒険者自身、もしくは冒険者と共に行動する者しか存在しない。
冒険者になるのは、強かったり、賢かったり、優れた能力を持っている人。
しかし、かなぴには何一つとして優れた能力は備わっていない。残念な子を具現化したような、救いようがない人間。どれにも該当しない。
優れた冒険者であっても、トーホーの外に出る際には武器と防具を身に付け、モンスターとの遭遇に備える。しかし現状、かなぴが着用しているものは中学校の制服のみ。夏服なので防御力はない。腕と脚はむき出し、気持ちばかりの布地は薄い。武器になりそうな物は持っていない。
とはいえ冒険者向けの装備品は高価。トーホーには製造するための技術や設備はない。行商人や冒険者同士の取引きのみで流通している。道中でこっそり購入しようにも、資金がない。
かなぴには、無防備な状態で旅路に就く選択肢しかない。
* * *
初めてのトーホーの外。空は薄暗い。
「何も言えない空気だったのをいいことに、散々な言われようだったかな」
嬉しいくせに、上手く表現できないツンデレ。
「違っ、わないけど。話しかけてくれるのは嬉しいかな。でも意地悪されると胸がキューッとなるかな」
貧相な胸がキューッとしぼみ、なくなってしまうことを心配するかなぴ。
大きなため息を吐いた後、歩を進めるかなぴ。
道中、多くの冒険者が声を掛けてくれた。けれど護衛をお願いする資金がないため、一心不乱に駆け抜けた。
実に世知辛い世の中――お金を払わなければ守ってもらえない貧相な胸の女、かなぴ。
「胸は関係ないかな。傷付くから、そういう言い方はやめてほしいかな」
トーホーを出る直前、足がすくんだ。外にいるといわれている、モンスターという未知の存在に対し、強い恐怖に襲われた。
「ここまで来たら、進むしかないかな」
頬をパンパンと叩き、気合いを入れるかなぴ。
トーホーを出てしばらく歩くと、モンスターと遭遇した。勇者の説明を受けた際に見せられた映像のように『モンスターが あらわれた』と伝えられることはなかった。
眼前にいるモンスターは、おそらくスライム。プルンとしている、ゼリーのような外見。本で見たことはあるけれど、実物を見るのは初めて。
「怖いモンスターじゃなくて良かったかな」
気を緩めた次の瞬間、かなぴの身体が宙を舞う。激痛に襲われ、攻撃を受けたと自覚する。
攻撃は一度では終わらない。スライムは、再び体当たりしようと近付いてくる。かなぴは衝撃に備え、その場で頭を両手で抱え、うずくまる。
何度も、何度もスライムの体当たりを受ける。
「助けて! 死んじゃう!」
どれだけ大声で叫んでも、逃れられない痛みと、死への恐怖。
「死にたくない! なんでもするから助けて!」
「言質、取ったわよ」
口調は大人ぶっているけれど、子どものような声。
声が聞こえた後から、断続的に続いていたスライムの体当たりがピタリと止まっていることに気付く。
恐る恐る顔を上げるかなぴ。
同年代くらいの少女エリザヴェータが、かなぴの顔を覗き込んでいる。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている……かな」
かなぴは集中していないと、思ったことがそのまま口から出てくる。
「誰が深淵よ! もう大丈夫よ。さて、何をしてもらおうかしら」
先程聞こえた、助けてくれた人の声。
「助けてくれてありがとう」
「ただじゃないわよ? お礼はきっちりもらうから」
「お金を持ってないから、他のことなら……」
この発言が、エリザヴェータの逆鱗に触れる。
「お金がないって、作ればいいだけよね? 何故あなたが決めるのよ」
命を救ってもらったお礼が安いはずはない。
かなぴは急に怖くなる。ないなら作ればいいなんて、怖い人が言う台詞。
ただ、かなぴが今まで忌避していただけで、お金を作ることは可能。かなぴは、夜のトーホーで何が行われているのか知っている。したくないから、していないだけ。ここまでの道中、声をかけてきた冒険者の目的が、それであることも知っている。わざと知らない振りをしているだけ。
していない人を選んで親しくなり、親しい人はしていないという口実にしているだけ。無理矢理させられている人が大勢いることも知っている。
だからといって、しますとは言いたくない。
かなぴが何も答えないため、エリザヴェータが次の問いを投げる。
「あなたの命の価値。どのくらいかしら?」
声質は可愛らしいのに、抑揚がなく冷たい声。
かなぴは、救ってもらったお礼の価額ではなく、救ったものの価額を問われるとは思ってもみなかった。
眼前にいるのは、少女の姿をした悪魔。
かなぴは考えることを放棄する。
「なんでもします」
顔をしかめるエリザヴェータ。
「そう言ってたわよね。そうねぇ……じゃあ、死んでと言われたら? 私が救ったものと等価よ」
衝動的に放たれた言葉であれば、反論する気持ちが湧くけれど、抑揚なく冷たい声が絶対的な絶望を与えてくる。
選択肢がないのだから従うしかない。現実を受け入れることしかできない。と思わされる。
仕方ないと、諦める。
かなぴの記憶に残っているのは、ここまで。
全身の痛みに絶望感、様々な負の要素が重なったからか、意識がプツンと途絶える。
ナニモナイ辺境地区。最北端の村トーホー。
人口は五〇〇人程。地場産業も、娯楽もない。『最果ての地』と呼ばれる、何もない小さな村。
トーホーには特筆すべき特色がある。村民は、子どもの割合が高く、平均年齢は三十歳前後。女性の割合は九割を占める。大勢が想像するであろう、僻地の寂れた村の様相ではない。日々多くの冒険者が訪れ、毎夜賑わいを見せている。
平均寿命は五十歳弱。適切な医療を受けられる環境はない。怪我をすれば諦め、病気になれば諦める。健康でなければ生きられないのが実情。
男性が少ない理由は、事故に起因し亡くなることが多いため。忽然と消えたり、人気がないところで亡くなっていたり――様々な事故が起きる。
若い女性ばかりの隔絶された集落。
病気さえ持っていなれば、ご飯は食べられる。
そんな場所に、冒険者が訪れる目的は――。
* * *
トーホーに住むごく普通の女子中学生かなぴ。
いや、語弊がある。秀でた才能や能力はない。それどころか、かなぴの評価は何においても下の下。良くても下の中が関の山。所謂落ちこぼれ。
今日も一人。居残り学習をさせられている。
誰も居ない教室を見回すかなぴ。
「誰!? ディスらないでほしいかな」
再び謎の声、ナレーションが流れる。
そういう台詞は求めていない。進行の妨げになるから辞めてほしいと、何度伝えても繰り返す。
話がそれた。かなぴの話題に戻るとしよう。
不良だとか、やる気がないという事実はない。単に能力不足で、学習能力がないポンコツというだけ。小根が腐っているわけではない。
「その通りなんだけどね、言葉にされると胸がキューッとなるかな。褒められてデレる子だからね、褒めてほしいかな」
校内放送が流れる。
『夢世かなえさん。至急職員室まで来てください』
担任の声。校内放送で呼び出す行為は特別なことではない。日常的に誰かが呼び出されている。
(フルネームで呼ばれるのは恥ずかしいかな)
頬を膨らませ、何もない空間に向け不満を主張するかなぴ。やれやれ。誰に見せているのやら。
「虚しくなるから、説明しないでほしいかな」
物事が、上手く進まないことが多いかなぴ。
その度『夢よ、かなえ!』と揶揄われるため、フルネームで呼ばれるのを嫌がる。
「フルネームのことは、思っただけで言ってないかな。言いそうになったのを堪えたのに、何故説明するのかな……早く行かないと怒られるから、そろそろ行くね」
* * *
職員室前。
「しばらく話しかけないでほしいかな」
職員室までの道中、ナレーションは流れていない。にもかかわらず、自ら振ってくるとは、余程話しかけてほしいらしい。寂しがり屋め。
かなぴが扉を開けてすぐ、待ち構えていた担任に奥の応接室へと誘導される。職員室内にも応接用のスペースはあるけれど、応接専用の部屋が別にある。ただ、応接室を使うのは、来訪者が特別な人物である場合に限られている。
応接室でかなぴを待っていたのは校長と、初めて見るスーツ姿の人。知らない人に呼び出される理由に心当たりがないかなぴ。
校長がソファから立ち上がり、満面の笑みでかなぴの両肩に手を置く。
「おめでとう。君が勇者に任命された」
伝承によると、最後に勇者が存在していたのは三百年前。世界に危険が迫ったとき、勇者が現れるとされている。世界を守ることは最優先事項。任命された者に拒否権はない。
ただ、歴代勇者は全て男性。女性主人公だと流行らないため、男性が選ばれると教わった。
「人選ミス、かな……私ではないかな」
世界を崩壊させることはあっても、かなぴごときに救えるはずがない。
(言葉に棘があるかな)
スーツは無表情で、抑揚なく告げる。
「すぐに旅立ちなさい」
スルーしたということは、否定を意味する。
世界に危険が迫っているのだから、出立時期は早いに越したことはない。それを踏まえた上で、最低限の訓練だけでもしたい気持ちがある。
「すぐって、いつ頃かな?」
「今すぐです」
そう言われるのはわかっている。
でも、備えだけでもさせてほしい。
「準備したいかな……」
「今すぐ旅立ちなさい」
スーツは旅立ちを急かすばかり。
何を言っても無駄だと感じたかなぴ。要求通り出発する。それしか選択肢を与えられなかった。
初めて受けた伝令は『隣村に向かえ』。
難易度の高い要求である。普段であれば帰宅し、家に居る時刻。暗くなってから外に出たことはない。トーホーの外に出たこともない。
親しい人は、口を揃えて『外に出てはいけない』と言う。良い子扱いされて、褒められたいかなぴは、言われたことを忠実に守り続けている。
とはいえ箱入り娘だとか、かなぴが特別というわけではない。トーホーの外にはモンスターが生息し、生命の危険がある。基本的に、民間人が外に出ることはない。民間人の一生は、トーホーの中だけで完結する。
例えばトーホーの外にある薬草が必要な場合。
村長を介し、冒険者に採取を依頼する。民間人が外へ出る必要に迫られた際には、冒険者に護衛を依頼する。
トーホーの外を移動する人間は冒険者自身、もしくは冒険者と共に行動する者しか存在しない。
冒険者になるのは、強かったり、賢かったり、優れた能力を持っている人。
しかし、かなぴには何一つとして優れた能力は備わっていない。残念な子を具現化したような、救いようがない人間。どれにも該当しない。
優れた冒険者であっても、トーホーの外に出る際には武器と防具を身に付け、モンスターとの遭遇に備える。しかし現状、かなぴが着用しているものは中学校の制服のみ。夏服なので防御力はない。腕と脚はむき出し、気持ちばかりの布地は薄い。武器になりそうな物は持っていない。
とはいえ冒険者向けの装備品は高価。トーホーには製造するための技術や設備はない。行商人や冒険者同士の取引きのみで流通している。道中でこっそり購入しようにも、資金がない。
かなぴには、無防備な状態で旅路に就く選択肢しかない。
* * *
初めてのトーホーの外。空は薄暗い。
「何も言えない空気だったのをいいことに、散々な言われようだったかな」
嬉しいくせに、上手く表現できないツンデレ。
「違っ、わないけど。話しかけてくれるのは嬉しいかな。でも意地悪されると胸がキューッとなるかな」
貧相な胸がキューッとしぼみ、なくなってしまうことを心配するかなぴ。
大きなため息を吐いた後、歩を進めるかなぴ。
道中、多くの冒険者が声を掛けてくれた。けれど護衛をお願いする資金がないため、一心不乱に駆け抜けた。
実に世知辛い世の中――お金を払わなければ守ってもらえない貧相な胸の女、かなぴ。
「胸は関係ないかな。傷付くから、そういう言い方はやめてほしいかな」
トーホーを出る直前、足がすくんだ。外にいるといわれている、モンスターという未知の存在に対し、強い恐怖に襲われた。
「ここまで来たら、進むしかないかな」
頬をパンパンと叩き、気合いを入れるかなぴ。
トーホーを出てしばらく歩くと、モンスターと遭遇した。勇者の説明を受けた際に見せられた映像のように『モンスターが あらわれた』と伝えられることはなかった。
眼前にいるモンスターは、おそらくスライム。プルンとしている、ゼリーのような外見。本で見たことはあるけれど、実物を見るのは初めて。
「怖いモンスターじゃなくて良かったかな」
気を緩めた次の瞬間、かなぴの身体が宙を舞う。激痛に襲われ、攻撃を受けたと自覚する。
攻撃は一度では終わらない。スライムは、再び体当たりしようと近付いてくる。かなぴは衝撃に備え、その場で頭を両手で抱え、うずくまる。
何度も、何度もスライムの体当たりを受ける。
「助けて! 死んじゃう!」
どれだけ大声で叫んでも、逃れられない痛みと、死への恐怖。
「死にたくない! なんでもするから助けて!」
「言質、取ったわよ」
口調は大人ぶっているけれど、子どものような声。
声が聞こえた後から、断続的に続いていたスライムの体当たりがピタリと止まっていることに気付く。
恐る恐る顔を上げるかなぴ。
同年代くらいの少女エリザヴェータが、かなぴの顔を覗き込んでいる。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている……かな」
かなぴは集中していないと、思ったことがそのまま口から出てくる。
「誰が深淵よ! もう大丈夫よ。さて、何をしてもらおうかしら」
先程聞こえた、助けてくれた人の声。
「助けてくれてありがとう」
「ただじゃないわよ? お礼はきっちりもらうから」
「お金を持ってないから、他のことなら……」
この発言が、エリザヴェータの逆鱗に触れる。
「お金がないって、作ればいいだけよね? 何故あなたが決めるのよ」
命を救ってもらったお礼が安いはずはない。
かなぴは急に怖くなる。ないなら作ればいいなんて、怖い人が言う台詞。
ただ、かなぴが今まで忌避していただけで、お金を作ることは可能。かなぴは、夜のトーホーで何が行われているのか知っている。したくないから、していないだけ。ここまでの道中、声をかけてきた冒険者の目的が、それであることも知っている。わざと知らない振りをしているだけ。
していない人を選んで親しくなり、親しい人はしていないという口実にしているだけ。無理矢理させられている人が大勢いることも知っている。
だからといって、しますとは言いたくない。
かなぴが何も答えないため、エリザヴェータが次の問いを投げる。
「あなたの命の価値。どのくらいかしら?」
声質は可愛らしいのに、抑揚がなく冷たい声。
かなぴは、救ってもらったお礼の価額ではなく、救ったものの価額を問われるとは思ってもみなかった。
眼前にいるのは、少女の姿をした悪魔。
かなぴは考えることを放棄する。
「なんでもします」
顔をしかめるエリザヴェータ。
「そう言ってたわよね。そうねぇ……じゃあ、死んでと言われたら? 私が救ったものと等価よ」
衝動的に放たれた言葉であれば、反論する気持ちが湧くけれど、抑揚なく冷たい声が絶対的な絶望を与えてくる。
選択肢がないのだから従うしかない。現実を受け入れることしかできない。と思わされる。
仕方ないと、諦める。
かなぴの記憶に残っているのは、ここまで。
全身の痛みに絶望感、様々な負の要素が重なったからか、意識がプツンと途絶える。
0
あなたにおすすめの小説
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる