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一章:傭兵フラウと聖女様
4.真夜中エンカウント
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──誰かが牢屋へ侵入してきた。
足音などはない。が、僅かに空気が揺れ動き気配を感じた。
きっと魔法で音を消しているんだろう。
蓑虫状態からゆっくりと起き上がり壁際で体勢を整える。こんな真夜中に来客なんて絶ッ対にろくなことがない。
牢屋の入口を鋭く見つめ声をかけてみた。
「誰ですか?」
自分の声が反響するだけで、当たりは物音一つもせず静まり返っている。
…返事は無しか。
だが確実に目の前に誰かがいる。
せめて姿が見えれば、相手の動きを予測できるのに。
もしこの人物が第一騎士団の誰かだったならば、今の時点で私に声をかけてくれるか速攻で拘束具を外してくれるはずだ。
それでいつもの如く宿舎へドナドナされてるだろう。
だとしたら…こいつは聖女様が派遣した暗殺者の可能性がある。
だって、大事な婚約者達を誑かした重罪人だからね。
辺りを警戒しながらも静かに靴の踵部分に手を伸ばし隠していたナイフを取り出す。
この状態でどこまで戦えるか。
なるべく怪我はしたくないのだ。擦り傷でさえ大騒ぎする奴らがいるから。
虚空を見つめ、相手の動きに全集中していたその時。
「…愚か者、ナイフを下ろして。私は敵ではありません」
鈴を転がしたような声が響き、突如目の前にフードを深々と被った人物が現れる。
「うわっ!!」
あまりの近さに驚き慌てて距離を取ろうと思ったが後ろに壁がある為、動くことができなかった。不覚である。
「こんばんは、フラウ=クラウディア。突然の訪問ですみません。ですがこのチャンスを逃すともう後がなくて…。もう一度言いますが、私は怪しい者ではないわ。アナタと取り引きがしたいの」
「どこからどう見ても怪しい物ですけどね…って取り引き?」
「えぇ、此処にいたら何れ処刑されてしまう…アナタはこんな所で死んではいけないの。私ならアナタを此処から出してあげることができる。脱獄を手伝ってあげるからどうか私の計画に協力してほしい」
現れた謎の人物は取り引きを持ちかけてきた。なんと協力者になれば牢屋から出してくれるらしい。
けど、
「いざとなればこの拘束具壊せるし、自分で脱出もできる。本当にどうしようもなくなったら国外逃亡しようかなって思っていたし…取り引きをする前に、まず貴方は誰?協力者になってほしいなら姿を明かしてよ。流石に見知らぬ人と仲良くはできない。話はそれからだね」
「……。」
「ごめんね、傭兵を長くやっていると信じるものは自分で見極めないといけなくて疑い深くなっちゃうんだよね…貴方も何か問題を抱えてるらしいけど今の私は自分の事で精一杯。仕事以外で人を助ける余裕がないの。ただでさえ…」
「自分自身の記憶がないから、でしょ」
「……何故それを貴方が知っているんですか」
「何故でしょうね」
「あまり、誤魔化してほしくないなぁ」
乾いた唇をぺろりと舐める。
一部の人にしか話したことがないのに、何故。
私はここ数年の記憶が完全に欠落している。
気付けばレイヴ騎士団の宿舎のベッドの上にいた。第一発見者のアルバートによれば、近くの森の入口で大怪我をして倒れていたらしい。
暫くは療養生活をしていたが、完全復帰した今は雇われ傭兵としてレイヴ王国に身を置いている。傭兵と言っても、犬のお散歩や畑仕事の手伝い、騎士団の書類整理などをやる所謂、なんでも屋だ。
働いている傍ら何か思い出せることはないかと、記憶の欠片が何処かに落ちていないか探しているのだ。
「私はアナタが欲しい情報を山ほど持っているわ。教えて欲しければ私に協力して」
足音などはない。が、僅かに空気が揺れ動き気配を感じた。
きっと魔法で音を消しているんだろう。
蓑虫状態からゆっくりと起き上がり壁際で体勢を整える。こんな真夜中に来客なんて絶ッ対にろくなことがない。
牢屋の入口を鋭く見つめ声をかけてみた。
「誰ですか?」
自分の声が反響するだけで、当たりは物音一つもせず静まり返っている。
…返事は無しか。
だが確実に目の前に誰かがいる。
せめて姿が見えれば、相手の動きを予測できるのに。
もしこの人物が第一騎士団の誰かだったならば、今の時点で私に声をかけてくれるか速攻で拘束具を外してくれるはずだ。
それでいつもの如く宿舎へドナドナされてるだろう。
だとしたら…こいつは聖女様が派遣した暗殺者の可能性がある。
だって、大事な婚約者達を誑かした重罪人だからね。
辺りを警戒しながらも静かに靴の踵部分に手を伸ばし隠していたナイフを取り出す。
この状態でどこまで戦えるか。
なるべく怪我はしたくないのだ。擦り傷でさえ大騒ぎする奴らがいるから。
虚空を見つめ、相手の動きに全集中していたその時。
「…愚か者、ナイフを下ろして。私は敵ではありません」
鈴を転がしたような声が響き、突如目の前にフードを深々と被った人物が現れる。
「うわっ!!」
あまりの近さに驚き慌てて距離を取ろうと思ったが後ろに壁がある為、動くことができなかった。不覚である。
「こんばんは、フラウ=クラウディア。突然の訪問ですみません。ですがこのチャンスを逃すともう後がなくて…。もう一度言いますが、私は怪しい者ではないわ。アナタと取り引きがしたいの」
「どこからどう見ても怪しい物ですけどね…って取り引き?」
「えぇ、此処にいたら何れ処刑されてしまう…アナタはこんな所で死んではいけないの。私ならアナタを此処から出してあげることができる。脱獄を手伝ってあげるからどうか私の計画に協力してほしい」
現れた謎の人物は取り引きを持ちかけてきた。なんと協力者になれば牢屋から出してくれるらしい。
けど、
「いざとなればこの拘束具壊せるし、自分で脱出もできる。本当にどうしようもなくなったら国外逃亡しようかなって思っていたし…取り引きをする前に、まず貴方は誰?協力者になってほしいなら姿を明かしてよ。流石に見知らぬ人と仲良くはできない。話はそれからだね」
「……。」
「ごめんね、傭兵を長くやっていると信じるものは自分で見極めないといけなくて疑い深くなっちゃうんだよね…貴方も何か問題を抱えてるらしいけど今の私は自分の事で精一杯。仕事以外で人を助ける余裕がないの。ただでさえ…」
「自分自身の記憶がないから、でしょ」
「……何故それを貴方が知っているんですか」
「何故でしょうね」
「あまり、誤魔化してほしくないなぁ」
乾いた唇をぺろりと舐める。
一部の人にしか話したことがないのに、何故。
私はここ数年の記憶が完全に欠落している。
気付けばレイヴ騎士団の宿舎のベッドの上にいた。第一発見者のアルバートによれば、近くの森の入口で大怪我をして倒れていたらしい。
暫くは療養生活をしていたが、完全復帰した今は雇われ傭兵としてレイヴ王国に身を置いている。傭兵と言っても、犬のお散歩や畑仕事の手伝い、騎士団の書類整理などをやる所謂、なんでも屋だ。
働いている傍ら何か思い出せることはないかと、記憶の欠片が何処かに落ちていないか探しているのだ。
「私はアナタが欲しい情報を山ほど持っているわ。教えて欲しければ私に協力して」
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