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結局その日一日中、喜多川くんはキラキラと輝いて見え続けた。
あ~~~慣れってスゴいなー……朝はもう超一大事!! この先どうしよう!? ってなくらいあせってたけど、放課後には何かもう普通に見慣れちゃってて、ある意味悟りを開いてしまっている。
「はあ、マジで!? 何それちょーウケる」
結構な勇気をもって相談した紬には有り得ないくらい爆笑された。
「てか、何で喜多川!? マジでウケるんだけど」
知らないよ。あたしがそれ聞きたいよ。
「うーん、陽葵が実は自分でも気付かないうちに喜多川に恋しちゃってて、その乙女心が視覚効果として現れてるとかー?」
んなワケないじゃん。ろくに話をしたこともないってのに。
「じゃーその妙な感覚を感じたって時に、あのアパートに居着いてた変な霊に取り憑かれたとかー? あそこ、怖い噂いっぱいあったもんねぇ。あんたに取り憑いたのがフラれて自殺した女の霊とかでさぁ、相手の男が喜多川に似てたとか」
やめてよ、そういうのマジで! マジで有り得そうで怖いから!!
「だってさぁ、今日あんたの身に起こったいつもと違うことって、それしかないじゃん。その後に喜多川がキラキラし始めたんなら、もうそれじゃん絶対」
いやーッッ、ちょ、そんなふうに結びつけないで! ホントやめて、ガチで、ガチで無理!!
顔面蒼白になるあたしを見た紬は勢いよく吹き出した。
「あっは、子犬かよ! ってくらいブルブルすんのやめてー。ごめんごめん、そんなにビビんないでよ~。まぁさあ、今のところ喜多川がキラキラして見えるだけで他に害はないワケだし、とりま、様子見てみたら? 案外寝て起きたら治ってるかもよ」
うう~、他人事だと思ってぇ……。
でも実際、とりあえずそうする他ないかなぁ……眼科に行って解決するとは思えないし……。行ったところでこの症状を話した瞬間、他のところへ回されてしまいそうな気がする。
あたしは深い溜め息をついた。
本当に、この現象って何なんだろう。
喜多川くんがキラキラして見える以外は普通なんだよなぁ……彼が視界に入らなければ違和感も何もなくて、いたって普通の、いつも通りの見え方なんだし。
紬と別れ、帰りの電車に揺られながらこの異常事態に頭を悩ませていると、荷物を持ったおばあさんが空席を探している姿が目に入った。
「あの、良かったら座りますか?」
そう声をかけて立ち上がると、おばあさんは笑顔でお礼を言ってくれて、あたしが譲った席に座った。
うん、一日一善。お礼を言ってもらえるとこっちも気持ちいい。
ドアの近くの空いてるスペースへと移動したあたしは、その時視界の端にキラッとするものを捉えて、ハッとそちらに目をやった。
今日一日で見慣れたこの輝きはもしかして―――あっ、やっぱり! 喜多川くん!
隣の車両に彼の姿を確認したあたしは、さりげなくその様子を窺った。
―――同じ電車だったんだ。
吊革につかまっている喜多川くんは友達と一緒じゃなくて一人みたいだった。
喜多川くんも電車通学だったんだっけ……そういえばこれまでにも何回か、見かけたことがあるようなないような。
朝のことを謝る機会を逸していたあたしは、良いチャンスとばかりに彼の元へ向かった。
「喜多川くん」
声をかけると、窓の外を見ていた彼は少し驚いた顔をして、意外そうにあたしの名前を呼んだ。
「岩本さん」
おお、今日一日で大分見慣れたけど、やっぱりキラキラ眩いなぁ。
「偶然。同じ電車だったね」
「そうみたいだね。あの……?」
普段絡むことのないあたしから声をかけられたことに、彼はどうやら戸惑いを覚えているみたいだ。
「や、あのさ……今朝、あたし感じ悪かったかなーって思って……謝るタイミング逃しちゃっててさ、ゴメンね? 喜多川くん謝ってくれたのにさぁ、返事もしないで」
「ああ……それでわざわざ? 別に気にしてなかったけど……何ていうか、意外と義理堅いんだね。岩本さん」
「いやー、だってさ、あたしだったらあんな態度取られたらヤだし、何だよって思っちゃうし。自分が嫌だって思うことは人にしたくないからさ」
そう言うと喜多川くんはちょっと笑った。
「そっか。岩本さんいい人だね」
「え、そう? 普通じゃない?」
「そう思っててもなかなか行動出来ないことって、多いんじゃないかなって思うから」
「そう、かな?」
「うん」
あらー? 何か褒められた? ちょっと照れてしまうな。
ほわっとした気持ちになった、その時だった。
急に瞼が重くなったような気がして、その途端「あれ?」と思う間もなく視界が薄暗く狭まってきて、突然のことにあたしはあせった。
えっ―――ちょ、何これ……。
あせる心とは裏腹に急激な眠気のようなものに襲われて、瞼を上げていられなくなる。狭まった視界が明滅して、意識が混濁していくあたしの顔を、喜多川くんが訝しげに覗き込んだ。
「岩本さん?」
喜多川、く―――……。
目の前でキラキラ輝く喜多川くんの顔が瞬く間に見えなくなっていって―――あたしの意識は、そこで途切れた。
あ~~~慣れってスゴいなー……朝はもう超一大事!! この先どうしよう!? ってなくらいあせってたけど、放課後には何かもう普通に見慣れちゃってて、ある意味悟りを開いてしまっている。
「はあ、マジで!? 何それちょーウケる」
結構な勇気をもって相談した紬には有り得ないくらい爆笑された。
「てか、何で喜多川!? マジでウケるんだけど」
知らないよ。あたしがそれ聞きたいよ。
「うーん、陽葵が実は自分でも気付かないうちに喜多川に恋しちゃってて、その乙女心が視覚効果として現れてるとかー?」
んなワケないじゃん。ろくに話をしたこともないってのに。
「じゃーその妙な感覚を感じたって時に、あのアパートに居着いてた変な霊に取り憑かれたとかー? あそこ、怖い噂いっぱいあったもんねぇ。あんたに取り憑いたのがフラれて自殺した女の霊とかでさぁ、相手の男が喜多川に似てたとか」
やめてよ、そういうのマジで! マジで有り得そうで怖いから!!
「だってさぁ、今日あんたの身に起こったいつもと違うことって、それしかないじゃん。その後に喜多川がキラキラし始めたんなら、もうそれじゃん絶対」
いやーッッ、ちょ、そんなふうに結びつけないで! ホントやめて、ガチで、ガチで無理!!
顔面蒼白になるあたしを見た紬は勢いよく吹き出した。
「あっは、子犬かよ! ってくらいブルブルすんのやめてー。ごめんごめん、そんなにビビんないでよ~。まぁさあ、今のところ喜多川がキラキラして見えるだけで他に害はないワケだし、とりま、様子見てみたら? 案外寝て起きたら治ってるかもよ」
うう~、他人事だと思ってぇ……。
でも実際、とりあえずそうする他ないかなぁ……眼科に行って解決するとは思えないし……。行ったところでこの症状を話した瞬間、他のところへ回されてしまいそうな気がする。
あたしは深い溜め息をついた。
本当に、この現象って何なんだろう。
喜多川くんがキラキラして見える以外は普通なんだよなぁ……彼が視界に入らなければ違和感も何もなくて、いたって普通の、いつも通りの見え方なんだし。
紬と別れ、帰りの電車に揺られながらこの異常事態に頭を悩ませていると、荷物を持ったおばあさんが空席を探している姿が目に入った。
「あの、良かったら座りますか?」
そう声をかけて立ち上がると、おばあさんは笑顔でお礼を言ってくれて、あたしが譲った席に座った。
うん、一日一善。お礼を言ってもらえるとこっちも気持ちいい。
ドアの近くの空いてるスペースへと移動したあたしは、その時視界の端にキラッとするものを捉えて、ハッとそちらに目をやった。
今日一日で見慣れたこの輝きはもしかして―――あっ、やっぱり! 喜多川くん!
隣の車両に彼の姿を確認したあたしは、さりげなくその様子を窺った。
―――同じ電車だったんだ。
吊革につかまっている喜多川くんは友達と一緒じゃなくて一人みたいだった。
喜多川くんも電車通学だったんだっけ……そういえばこれまでにも何回か、見かけたことがあるようなないような。
朝のことを謝る機会を逸していたあたしは、良いチャンスとばかりに彼の元へ向かった。
「喜多川くん」
声をかけると、窓の外を見ていた彼は少し驚いた顔をして、意外そうにあたしの名前を呼んだ。
「岩本さん」
おお、今日一日で大分見慣れたけど、やっぱりキラキラ眩いなぁ。
「偶然。同じ電車だったね」
「そうみたいだね。あの……?」
普段絡むことのないあたしから声をかけられたことに、彼はどうやら戸惑いを覚えているみたいだ。
「や、あのさ……今朝、あたし感じ悪かったかなーって思って……謝るタイミング逃しちゃっててさ、ゴメンね? 喜多川くん謝ってくれたのにさぁ、返事もしないで」
「ああ……それでわざわざ? 別に気にしてなかったけど……何ていうか、意外と義理堅いんだね。岩本さん」
「いやー、だってさ、あたしだったらあんな態度取られたらヤだし、何だよって思っちゃうし。自分が嫌だって思うことは人にしたくないからさ」
そう言うと喜多川くんはちょっと笑った。
「そっか。岩本さんいい人だね」
「え、そう? 普通じゃない?」
「そう思っててもなかなか行動出来ないことって、多いんじゃないかなって思うから」
「そう、かな?」
「うん」
あらー? 何か褒められた? ちょっと照れてしまうな。
ほわっとした気持ちになった、その時だった。
急に瞼が重くなったような気がして、その途端「あれ?」と思う間もなく視界が薄暗く狭まってきて、突然のことにあたしはあせった。
えっ―――ちょ、何これ……。
あせる心とは裏腹に急激な眠気のようなものに襲われて、瞼を上げていられなくなる。狭まった視界が明滅して、意識が混濁していくあたしの顔を、喜多川くんが訝しげに覗き込んだ。
「岩本さん?」
喜多川、く―――……。
目の前でキラキラ輝く喜多川くんの顔が瞬く間に見えなくなっていって―――あたしの意識は、そこで途切れた。
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