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「じゃあ陽葵、喜多川くん、気を付けてな。和雄達に宜しく」
別れの時。おばあちゃんと並んだおじいちゃんはそう言って、玄関先まであたし達を見送りに出てくれた。
ちなみに和雄というのはあたしのお父さんの名前だ。
「うん、色々とありがとう。お父さん達に伝えとくね」
「突然なのに泊めていただいて、ありがとうございました」
おじいちゃんに笑顔で応えるあたしの隣で、蓮人くんが折り目正しく頭を下げる。
「陽葵ちゃん、楽しかったわ。また遊びに来てね。もちろん喜多川くんも」
「ありがとうございます」
「うん、また遊びに来るよ。おばあちゃん達も良かったらうちに遊びに来てね!」
「ええ、ありがとう」
玄関先でおばあちゃんとそんな挨拶を交わすあたし達を見やりながら、おじいちゃんは幾重にも感情の滲んだ眼差しをあたしに向けた。
「……陽葵、お前にこんな迷惑を掛けちまって、本っ当に申し訳なかったなぁ……大姪に取り憑くなんて、とんでもねぇ大伯父だよ。何か困ったことがあったら、いつでも連絡しなさい。じいちゃんも出来る限りの手は尽くすから」
その言葉にうぐ、とノラオが息を詰まらせる気配が伝わってきて、あたしは苦笑しながら頷いた。
「うん、ありがとう。今のおじいちゃんの言葉を聞いて、何かね、柄にもなく身につまされているみたい」
「そこは切実に感じてもらわんとなぁ。とっとと無念を解消して成仏して、陽葵の身体から出て行ってもらわんと……」
「ふふ。本当だよねぇ」
可笑しそうに肩を揺らすあたしを見やったおじいちゃんは、それにつられるようにやれやれといった面持ちになった。
「こんなとんでもない状況なのに、お前がそうやって笑ってくれているのが本当に救いだよ。きっと喜多川くんのおかげなんだろうなぁ」
しみじみとそう言ったおじいちゃんは蓮人くんに向き直ると、改まって彼に頭を下げた。
「喜多川くん、君にこんなお願いをするのは気が引けるが、出来ればこれからも陽葵の良き相談相手となって、この子を傍で支えてもらえんだろうか。オレの兄の不始末に巻き込むような形になって申し訳ないが、こんなことを相談出来る相手はなかなかおらんと思うから」
おじいちゃん……。
「はい、そのつもりです。僕にとっても無関係なことではないので」
蓮人くんは即答してくれて、それを聞いたおじいちゃんは少し安心したような顔になった。
「そうか……ありがとう。悪いが陽葵を宜しく頼むよ。二人とも、またいつでも遊びに来なさい。待っとるから」
「うん! ありがとう、おじいちゃんおばあちゃん。またね!」
「お世話になりました」
大きく手を振っておじいちゃん達に別れを告げ、あたし達は帰宅の途についた。
昨日の運休の影響で混み合う駅の改札を抜けて、混雑する電車内に乗り込み、どうにか座席に座れた時、何だか一気に疲れが出て来てしまって、あたしはシートに頭を預けながら深々と溜め息を吐き出した。
「ふわー、座ったら、何か急にドッと来た……」
「うん、分かる。オレも急に来た……。岩本さん、寝ていいよ。昨日はほとんど寝てないでしょ?」
「それ言うなら蓮人くんだって。だいぶ遅くまで起きて待っててくれたんでしょ? それに急におじいちゃんちに泊まることになって、気遣いも半端なかったろうし……」
「うん……確かに。さすがにちょっと疲れたかな……」
シートに深くもたれて首を捻るような仕草を見せる蓮人くんに、あたしは頬を緩めて、改めて感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう、蓮人くん。おじいちゃんちに付き合ってくれて。蓮人くんが一緒にいてくれたから、おじいちゃんにちゃんと色々伝えることが出来たよ。心配させ過ぎずに必要なことを聞いて、協力を取り付けることが出来たよ。本当にありがとう」
あたしにそう言われた蓮人くんは、眼鏡の奥の涼しげな目元を和らげた。
「オレはただ一緒にいただけで、特別なことは何もしていないけど……でも、岩本さんやおじいさんがそう感じてくれたんだとしたら良かった。ノラオの顔を知ることが出来たのも良かったし」
それは確かに! 顔を知ってるのと知らないのとじゃ全然違うもんね。
あたし達はどちらからともなく微笑み合って、自然と温かくて穏やかな雰囲気に包まれた。
そんな心地好い空気の中、再び眠気を感じたあたしは軽く目をこすった。
「……少し仮眠しよっか。ちょっと限界……」
「うん。オレも少し目を閉じていようかな……」
蓮人くんの声を聞きながら瞼を閉じると、あっという間に意識が深い眠りの中に吸い込まれていって、そのまま爆睡してしまったあたしは、周りの乗客達からこう噂されているのを聞くことが出来なかった。
「見て見て、あのカップル。可愛いー。頭預け合って寝ちゃってる~」
「ホントだ。高校生かなー? 彼女の方、口開いちゃってるー。いいなぁ、ラブラブだねー」
別れの時。おばあちゃんと並んだおじいちゃんはそう言って、玄関先まであたし達を見送りに出てくれた。
ちなみに和雄というのはあたしのお父さんの名前だ。
「うん、色々とありがとう。お父さん達に伝えとくね」
「突然なのに泊めていただいて、ありがとうございました」
おじいちゃんに笑顔で応えるあたしの隣で、蓮人くんが折り目正しく頭を下げる。
「陽葵ちゃん、楽しかったわ。また遊びに来てね。もちろん喜多川くんも」
「ありがとうございます」
「うん、また遊びに来るよ。おばあちゃん達も良かったらうちに遊びに来てね!」
「ええ、ありがとう」
玄関先でおばあちゃんとそんな挨拶を交わすあたし達を見やりながら、おじいちゃんは幾重にも感情の滲んだ眼差しをあたしに向けた。
「……陽葵、お前にこんな迷惑を掛けちまって、本っ当に申し訳なかったなぁ……大姪に取り憑くなんて、とんでもねぇ大伯父だよ。何か困ったことがあったら、いつでも連絡しなさい。じいちゃんも出来る限りの手は尽くすから」
その言葉にうぐ、とノラオが息を詰まらせる気配が伝わってきて、あたしは苦笑しながら頷いた。
「うん、ありがとう。今のおじいちゃんの言葉を聞いて、何かね、柄にもなく身につまされているみたい」
「そこは切実に感じてもらわんとなぁ。とっとと無念を解消して成仏して、陽葵の身体から出て行ってもらわんと……」
「ふふ。本当だよねぇ」
可笑しそうに肩を揺らすあたしを見やったおじいちゃんは、それにつられるようにやれやれといった面持ちになった。
「こんなとんでもない状況なのに、お前がそうやって笑ってくれているのが本当に救いだよ。きっと喜多川くんのおかげなんだろうなぁ」
しみじみとそう言ったおじいちゃんは蓮人くんに向き直ると、改まって彼に頭を下げた。
「喜多川くん、君にこんなお願いをするのは気が引けるが、出来ればこれからも陽葵の良き相談相手となって、この子を傍で支えてもらえんだろうか。オレの兄の不始末に巻き込むような形になって申し訳ないが、こんなことを相談出来る相手はなかなかおらんと思うから」
おじいちゃん……。
「はい、そのつもりです。僕にとっても無関係なことではないので」
蓮人くんは即答してくれて、それを聞いたおじいちゃんは少し安心したような顔になった。
「そうか……ありがとう。悪いが陽葵を宜しく頼むよ。二人とも、またいつでも遊びに来なさい。待っとるから」
「うん! ありがとう、おじいちゃんおばあちゃん。またね!」
「お世話になりました」
大きく手を振っておじいちゃん達に別れを告げ、あたし達は帰宅の途についた。
昨日の運休の影響で混み合う駅の改札を抜けて、混雑する電車内に乗り込み、どうにか座席に座れた時、何だか一気に疲れが出て来てしまって、あたしはシートに頭を預けながら深々と溜め息を吐き出した。
「ふわー、座ったら、何か急にドッと来た……」
「うん、分かる。オレも急に来た……。岩本さん、寝ていいよ。昨日はほとんど寝てないでしょ?」
「それ言うなら蓮人くんだって。だいぶ遅くまで起きて待っててくれたんでしょ? それに急におじいちゃんちに泊まることになって、気遣いも半端なかったろうし……」
「うん……確かに。さすがにちょっと疲れたかな……」
シートに深くもたれて首を捻るような仕草を見せる蓮人くんに、あたしは頬を緩めて、改めて感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう、蓮人くん。おじいちゃんちに付き合ってくれて。蓮人くんが一緒にいてくれたから、おじいちゃんにちゃんと色々伝えることが出来たよ。心配させ過ぎずに必要なことを聞いて、協力を取り付けることが出来たよ。本当にありがとう」
あたしにそう言われた蓮人くんは、眼鏡の奥の涼しげな目元を和らげた。
「オレはただ一緒にいただけで、特別なことは何もしていないけど……でも、岩本さんやおじいさんがそう感じてくれたんだとしたら良かった。ノラオの顔を知ることが出来たのも良かったし」
それは確かに! 顔を知ってるのと知らないのとじゃ全然違うもんね。
あたし達はどちらからともなく微笑み合って、自然と温かくて穏やかな雰囲気に包まれた。
そんな心地好い空気の中、再び眠気を感じたあたしは軽く目をこすった。
「……少し仮眠しよっか。ちょっと限界……」
「うん。オレも少し目を閉じていようかな……」
蓮人くんの声を聞きながら瞼を閉じると、あっという間に意識が深い眠りの中に吸い込まれていって、そのまま爆睡してしまったあたしは、周りの乗客達からこう噂されているのを聞くことが出来なかった。
「見て見て、あのカップル。可愛いー。頭預け合って寝ちゃってる~」
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