43 / 54
43
しおりを挟む
「それは、阿久里さんが間違ってるよ!」
突然のあたしの大声に阿久里さんがビクッと肩を跳ね上げ、おそるおそるといった様子でこっちに視線を向ける。初めて真正面から目が合い、あたしは彼女の整った顔を真っ直ぐに見据えながらこう言った。
「小柴はバカだけど嘘をついて人をおとしめたりするようなヤツじゃないし、今の話は結局全部、阿久里さんの推測だよね」
「なっ……! あたしはちゃんと、蓮人くんに話を聞いて……!」
「阿久里さんが蓮人くんから聞いた言葉っていうのは、その通りなんだろうなって思うよ。でも、その他のことは全部、阿久里さんが蓮人くんの言葉から勝手に憶測したことばかりじゃん。蓮人くん自身に何ひとつ確認していないことばかりじゃん」
「……っ! だって、そんなにズケズケと聞けることじゃないでしょう!? みんながみんな、あなたみたいにデリカシーのない人間じゃないのよ!?」
「そういう阿久里さんはどうなの?」
「は!?」
「阿久里さんとあたしは、こうやって話をするの初めてだよね? 今まで喋ったことってないよね?」
「そうだけど、それが何!?」
「阿久里さんはどうしてあたしを害悪扱いしているのかなって思って。ちゃんと話したこともないし、あたしがどういう人間なのか知りもしないのに、どうして蓮人くんにとってあたしが害悪になってるみたいな言い方をするのかなって、そう思って。それこそデリカシーのないことしているんじゃないのかなって、そう思うんだけど」
「―――!」
指摘されて初めてそれに気が付いたのか、カッ、と阿久里さんの白い肌が赤く染まった。
「ねえ、それってあたしと蓮人くんのタイプが違うから? だからそう思ったのかな? 阿久里さんの中では、タイプが違うと仲良くしちゃいけないの? それって何で? 趣味も話も合わなさそうだから?」
あたしの言葉にハッ、と小柴が肩を揺らす。
「阿久里さんの中では、あたしみたいなタイプは蓮人くんみたいなタイプにとって害にしかならない印象なのかな? だから、あたしのことをよく知りもしないのに、見た目の印象だけで害悪になるって、そう判断したってことかな?」
「……ッ」
「だとしたらそんな考え方、もったいないよ。自分で自分の世界を狭くしちゃっているよ。スゴく仲良く出来るはずの大切な人を、見逃しちゃっているかもしれないよ」
「……!」
長い黒髪を揺らして、ぐっと唇を噛みしめる阿久里さんは、悔しさと恥ずかしさが入り混じったようなそんな顔をしていて、それでもやっぱり、傍目には清楚な美人だった。
背が高くてスラリとしてて、うらやむ人も多そうな恵まれた容姿をしているのに、せっかくの綺麗な顔をこんなことでこんなふうに歪めているなんてもったいない―――何故かふと、そんなことを思った。
「……もったいないよ。せっかくこんなに綺麗なのに、こんなことで苦しいような、思い詰めたような顔をしているなんて」
「……!?」
「阿久里さんと仲良くしてみたいって思っているタイプの違う人達が、きっといるよ。余計なことかもしれないけど、視野を変えて自分の周りを見てみるのも、大事なんじゃないのかな」
耳を疑うような表情をしてあたしの言葉を聞いていた阿久里さんは、最後に長い睫毛に縁取られた瞳をまん丸に見開いた。
そこへ、小柴の罵詈雑言が炸裂した。
「岩本! こんな女にそんなこと言ってやる必要ねぇよ! こんなウソつきの性格最悪女、どんだけ喜多川がお人好しの人格者だろうが、今日限りで目が覚めるわ! この内面ドブス電柱女が! てめぇこそが害悪だ!!」
「―――……っ!」
赤くなった阿久里さんの目にみるみる涙が浮かび上がり、いたたまれなくなったように背を翻す彼女へ、蓮人くんが手を伸ばした。
「! 阿久里さん!」
駆け出した彼女の後を追いかけようとした蓮人くんは一度足を止めてあたしを振り返ると、真っ直ぐにあたしの目を見てこう言った。
「岩本さん、ごめん。今は……! 後で必ず連絡するから!」
「……うん!」
あたしが頷いたのを見届けてから、蓮人くんは阿久里さんの後を追いかけていった。
「―――小柴、気持ちは分かるけど言い過ぎ! 電柱とか、背が高い女子には禁句だって。あれ多分、絶対言われたくなかった言葉だわ」
たしなめる紬に、気の収まらない小柴が口を尖らせてがなっている。
「知らねぇよ! あいつの方が何倍もオレにひでぇこと言ってただろ!? むしろざまぁだわ」
「つーか空気読みなよ、もしかしたら丸く収まるところだったかもしれないのに」
「はぁ!? 知らねぇし!」
「あんたねー、そういうトコ! スキルを積めって言ってんの!」
やれやれと深い溜め息を吐き出した紬は、あたしに気遣わしげな声をかけた。
「陽葵ー、大丈夫?」
「うん。とりあえず言いたかったことは言ってやれたし」
「はは。何勝手に害悪扱いしてんだって、あの切り返しは良かったね。……喜多川もさ、面倒見良過ぎるっていうか何ていうか、あんなの後回しにして、まずは大事な相手の方見てやれよって思うけど」
ちょっと腹立たしげに呟く紬に、あたしは苦笑を返した。
「いいんだ。後でちゃんと連絡くれるって言ってたし。きっと蓮人くんのことだから、キチンと阿久里さんと向き合って全部解決してから、それから話し合おうとしてくれているんだと思う」
そう言うと紬は微笑んで、あたしの腰の辺りを軽く叩いた。
「……そっか。あんたがそうやって納得してんなら、あたしはまぁいいんだけどさ」
「ふふ。紬、ありがとね。さすがのダッシュだったよ。でも、よく阿久里さんに気が付いたね?」
「あー、ああいう性格の女は、自分が張った罠の現場を見に来るって相場が決まってるからね。最初から絶対どっかにいると思って、ずっとアンテナ張ってた」
「さすが紬ー、頼りになるー!」
「褒めろ褒めろ、でもホレるなよー?」
あたしは感謝の気持ちを込めて、ぎゅーっと紬に抱きついた。
ありがとう、紬―――大好きだよ。
あたしは友達に恵まれている―――そう思った。
突然のあたしの大声に阿久里さんがビクッと肩を跳ね上げ、おそるおそるといった様子でこっちに視線を向ける。初めて真正面から目が合い、あたしは彼女の整った顔を真っ直ぐに見据えながらこう言った。
「小柴はバカだけど嘘をついて人をおとしめたりするようなヤツじゃないし、今の話は結局全部、阿久里さんの推測だよね」
「なっ……! あたしはちゃんと、蓮人くんに話を聞いて……!」
「阿久里さんが蓮人くんから聞いた言葉っていうのは、その通りなんだろうなって思うよ。でも、その他のことは全部、阿久里さんが蓮人くんの言葉から勝手に憶測したことばかりじゃん。蓮人くん自身に何ひとつ確認していないことばかりじゃん」
「……っ! だって、そんなにズケズケと聞けることじゃないでしょう!? みんながみんな、あなたみたいにデリカシーのない人間じゃないのよ!?」
「そういう阿久里さんはどうなの?」
「は!?」
「阿久里さんとあたしは、こうやって話をするの初めてだよね? 今まで喋ったことってないよね?」
「そうだけど、それが何!?」
「阿久里さんはどうしてあたしを害悪扱いしているのかなって思って。ちゃんと話したこともないし、あたしがどういう人間なのか知りもしないのに、どうして蓮人くんにとってあたしが害悪になってるみたいな言い方をするのかなって、そう思って。それこそデリカシーのないことしているんじゃないのかなって、そう思うんだけど」
「―――!」
指摘されて初めてそれに気が付いたのか、カッ、と阿久里さんの白い肌が赤く染まった。
「ねえ、それってあたしと蓮人くんのタイプが違うから? だからそう思ったのかな? 阿久里さんの中では、タイプが違うと仲良くしちゃいけないの? それって何で? 趣味も話も合わなさそうだから?」
あたしの言葉にハッ、と小柴が肩を揺らす。
「阿久里さんの中では、あたしみたいなタイプは蓮人くんみたいなタイプにとって害にしかならない印象なのかな? だから、あたしのことをよく知りもしないのに、見た目の印象だけで害悪になるって、そう判断したってことかな?」
「……ッ」
「だとしたらそんな考え方、もったいないよ。自分で自分の世界を狭くしちゃっているよ。スゴく仲良く出来るはずの大切な人を、見逃しちゃっているかもしれないよ」
「……!」
長い黒髪を揺らして、ぐっと唇を噛みしめる阿久里さんは、悔しさと恥ずかしさが入り混じったようなそんな顔をしていて、それでもやっぱり、傍目には清楚な美人だった。
背が高くてスラリとしてて、うらやむ人も多そうな恵まれた容姿をしているのに、せっかくの綺麗な顔をこんなことでこんなふうに歪めているなんてもったいない―――何故かふと、そんなことを思った。
「……もったいないよ。せっかくこんなに綺麗なのに、こんなことで苦しいような、思い詰めたような顔をしているなんて」
「……!?」
「阿久里さんと仲良くしてみたいって思っているタイプの違う人達が、きっといるよ。余計なことかもしれないけど、視野を変えて自分の周りを見てみるのも、大事なんじゃないのかな」
耳を疑うような表情をしてあたしの言葉を聞いていた阿久里さんは、最後に長い睫毛に縁取られた瞳をまん丸に見開いた。
そこへ、小柴の罵詈雑言が炸裂した。
「岩本! こんな女にそんなこと言ってやる必要ねぇよ! こんなウソつきの性格最悪女、どんだけ喜多川がお人好しの人格者だろうが、今日限りで目が覚めるわ! この内面ドブス電柱女が! てめぇこそが害悪だ!!」
「―――……っ!」
赤くなった阿久里さんの目にみるみる涙が浮かび上がり、いたたまれなくなったように背を翻す彼女へ、蓮人くんが手を伸ばした。
「! 阿久里さん!」
駆け出した彼女の後を追いかけようとした蓮人くんは一度足を止めてあたしを振り返ると、真っ直ぐにあたしの目を見てこう言った。
「岩本さん、ごめん。今は……! 後で必ず連絡するから!」
「……うん!」
あたしが頷いたのを見届けてから、蓮人くんは阿久里さんの後を追いかけていった。
「―――小柴、気持ちは分かるけど言い過ぎ! 電柱とか、背が高い女子には禁句だって。あれ多分、絶対言われたくなかった言葉だわ」
たしなめる紬に、気の収まらない小柴が口を尖らせてがなっている。
「知らねぇよ! あいつの方が何倍もオレにひでぇこと言ってただろ!? むしろざまぁだわ」
「つーか空気読みなよ、もしかしたら丸く収まるところだったかもしれないのに」
「はぁ!? 知らねぇし!」
「あんたねー、そういうトコ! スキルを積めって言ってんの!」
やれやれと深い溜め息を吐き出した紬は、あたしに気遣わしげな声をかけた。
「陽葵ー、大丈夫?」
「うん。とりあえず言いたかったことは言ってやれたし」
「はは。何勝手に害悪扱いしてんだって、あの切り返しは良かったね。……喜多川もさ、面倒見良過ぎるっていうか何ていうか、あんなの後回しにして、まずは大事な相手の方見てやれよって思うけど」
ちょっと腹立たしげに呟く紬に、あたしは苦笑を返した。
「いいんだ。後でちゃんと連絡くれるって言ってたし。きっと蓮人くんのことだから、キチンと阿久里さんと向き合って全部解決してから、それから話し合おうとしてくれているんだと思う」
そう言うと紬は微笑んで、あたしの腰の辺りを軽く叩いた。
「……そっか。あんたがそうやって納得してんなら、あたしはまぁいいんだけどさ」
「ふふ。紬、ありがとね。さすがのダッシュだったよ。でも、よく阿久里さんに気が付いたね?」
「あー、ああいう性格の女は、自分が張った罠の現場を見に来るって相場が決まってるからね。最初から絶対どっかにいると思って、ずっとアンテナ張ってた」
「さすが紬ー、頼りになるー!」
「褒めろ褒めろ、でもホレるなよー?」
あたしは感謝の気持ちを込めて、ぎゅーっと紬に抱きついた。
ありがとう、紬―――大好きだよ。
あたしは友達に恵まれている―――そう思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる