11 / 91
アストレア編
プロローグ
しおりを挟む
紅の炎が、天を染める。
炎に包まれ、焼け崩れゆく、白亜の神殿―――。
紅く染まる空の彼方に、不吉な黒い影が見える。
その影が、急速にその巨大さを増し、瞬く間に国土を覆いつくしてゆく―――。
「……ッ!」
ビクリと大きく身体を震わせ、彼女は目を覚ました。
大きな青玉色の瞳に映ったのは、見慣れた自室の天井―――上質の夜着に包まれた胸をしばらく大きく上下させながら、彼女はやがて、ゆっくりと半身を起こした。
全身に冷たい汗をかいていた。
首筋や頬にまとわりつく長い鳶色の髪をかきあげながら、彼女はひとつ、息を吐き出した。
また、あの夢―――……。
蒼白い月明りに映し出された部屋の中で、その余韻を思い出し、彼女は細い肩をそっと震わせた。
豪奢な窓の外に見えるのは、いつもと変わらぬ、平穏な夜の風景―――かすかに見える街の灯りが、彼女の心を落ち着かせる。
彼女は近頃、毎晩のように見る同じ夢に不吉なものを覚えていた。
それは、真っ赤に燃え上がる、白亜の神殿の夢―――怖ろしいことに、その映像が夜毎鮮明になってくる。
夢というにはあまりにも生々しくおぞましい、言葉では言い表せない切迫感が、彼女の胸に不吉な思いを募らせる。
これは、本当にただの夢、なのだろうか。
何者かが自分に伝える、警鐘なのではないのだろうか。
不安に思い父に伝えてみたものの、疲れているだけだと、まともに受け止めてはもらえなかった。
「お母様……」
今は亡き母を呼びながら、彼女は右の人差し指にはめたブラックオニキスの指輪に触れた。
母の形見に触れながら、心から祈る―――これが、自分の杞憂で終わることを……。
炎に包まれ、焼け崩れゆく、白亜の神殿―――。
紅く染まる空の彼方に、不吉な黒い影が見える。
その影が、急速にその巨大さを増し、瞬く間に国土を覆いつくしてゆく―――。
「……ッ!」
ビクリと大きく身体を震わせ、彼女は目を覚ました。
大きな青玉色の瞳に映ったのは、見慣れた自室の天井―――上質の夜着に包まれた胸をしばらく大きく上下させながら、彼女はやがて、ゆっくりと半身を起こした。
全身に冷たい汗をかいていた。
首筋や頬にまとわりつく長い鳶色の髪をかきあげながら、彼女はひとつ、息を吐き出した。
また、あの夢―――……。
蒼白い月明りに映し出された部屋の中で、その余韻を思い出し、彼女は細い肩をそっと震わせた。
豪奢な窓の外に見えるのは、いつもと変わらぬ、平穏な夜の風景―――かすかに見える街の灯りが、彼女の心を落ち着かせる。
彼女は近頃、毎晩のように見る同じ夢に不吉なものを覚えていた。
それは、真っ赤に燃え上がる、白亜の神殿の夢―――怖ろしいことに、その映像が夜毎鮮明になってくる。
夢というにはあまりにも生々しくおぞましい、言葉では言い表せない切迫感が、彼女の胸に不吉な思いを募らせる。
これは、本当にただの夢、なのだろうか。
何者かが自分に伝える、警鐘なのではないのだろうか。
不安に思い父に伝えてみたものの、疲れているだけだと、まともに受け止めてはもらえなかった。
「お母様……」
今は亡き母を呼びながら、彼女は右の人差し指にはめたブラックオニキスの指輪に触れた。
母の形見に触れながら、心から祈る―――これが、自分の杞憂で終わることを……。
0
あなたにおすすめの小説
奥様は聖女♡
喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。
ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる