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ドヴァーフ編
四つの影
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「それにしても、あのアルベルトって弟、あれはヒドかったわねー。アキレウスがああ言ってくれて、あたし正直スカッとしたわ」
高級そうな革張りのソファーに身体を投げ出しながら、ガーネットは呆れた様子でそう言った。
ドヴァーフ城の謁見の間から貴賓室へと通されたあたし達。
繊細な細工のティーカップにいい香りのするお茶を淹れ、テーブルの上にそれを残して、丁寧な言葉と共に侍女が下がった後、この部屋の中にいるのは、今はあたし達だけだった。
「確かに。あのレイドリック王の弟とは思えないよね。見た目も中身も、全然違うんだもん」
そう相槌を打つあたしの隣で、パトロクロスが幾分声のトーンを落としながら言った。
「レイドリック王とアルベルト殿下は母君が違うんだ。色々な事情があったらしくてね、先程の通り兄弟仲がいいとは言えない」
「へぇー……」
異母兄弟かぁ……どおりで。
「……パトロクロス」
その時、それまで黙っていたアキレウスが神妙な面持ちで口を開いた。
「さっきは悪かった……すまない。ついカッとなって―――」
「気にするな。心の中では私もお前と同じようなことを思っていたんだ。しかし珍しいな、お前があんなに感情的になるなんて」
「ねー、あたしもちょっとビックリしちゃった。けっこう熱くなったりするんだー、アキレウスって」
パトロクロスとガーネットはそう言って、意外そうな顔でアキレウスを見やった。
そっか……二人はアキレウスのこういうところを見るの、初めてだったんだ。
あたしは前に一度だけ、似たような状況を見たことがあった。
まだ出会ったばかりの頃、ルザーで偽王子に遭遇した、あの時……。
それ以外の場面ではさほど激しい反応は見せなかったけれど、アキレウスは権力というものに対して、少なからぬ嫌悪感と不信感を抱いているみたい。
過去にいろいろあって、と以前言っていたけれど、過去の彼の身に、いったいどんなことがあったんだろう。
それはとてもデリケートな問題のような気がして、ずっと気になりつつも、あたしは彼に聞くことが出来ずにいた。
いつかアキレウスの方から打ち明けてくれたらいいな、と思っているんだけど……。そういう日が来ればいいな、と願っているんだけど―――。
「すまない、待たせたな」
涼やかな声と共に、レイドリック王が二人の側近を伴って現れた。
「先程は弟の顔を立ててもらう形になってすまなかった。恥ずかしい話だが、あれには手を焼いていてな。今回のことは良い薬だ、気にしないでくれ」
「こちらこそ無礼を働き、申し訳ありません」
パトロクロスがそう返すと、レイドリック王は静かに首を振り、立ち上がってかしこまっていたあたし達にソファーに座るように促した。
「この二人も先程謁見の間にいたのだが……改めて紹介しよう。右が我が国の魔導士団長を務める賢者エレーン、左が騎士団長を務める聖騎士オルティスだ。十年前に即位して以来、共に国を支えてきた私の腹心の臣下だ。無論、其方達の旅の目的も知っている。この二人の他にも、宰相や一部の重臣でそれを知っている者はいるのだが、特に重要な職に身を置くこの二人を同席させてもらうことにした」
レイドリック王にそう紹介された二人の重臣は、共に二十代半ばくらいに見えた。
エレーンは、同性のあたしでもうっとりとしてしまうような美人だった。
背の中程まである緩いウェーブのかかった白銀の髪に、静かで力強い光を湛えた、麗しい紫水晶の瞳。程好い高さの鼻梁に、形の良い艶やかな唇。整った細い眉は毅然とした面持ちを際立て、長い睫毛が褐色の肌に憂いのある陰影を落としている。
スラリとした肢体を淡い緑色の長衣に包み、白い外套を纏った彼女の姿はまるで女神のように凛々しくて、あたしは思わず、その端麗な容姿に見とれてしまった。
スゴく、綺麗な女だな……。
こっそりと感嘆の溜め息をこぼしながら、あたしはエレーンを見つめた。
こんなに綺麗な女、初めて見た……。
賢者っていうことは、全ての系統の魔法を使いこなすことが出来るってコトだよね。こんなに若くて綺麗で……それなのに魔法王国と謳われるドヴァーフの、魔導士団の長に立っているなんて……才色兼備って、こういうコトを言うんだろうな……。
一方のオルティスは体育会系のガッチリとした身体つきで、メタリックホワイトの全身鎧に身を包み、濃い緑色の外套を羽織っていた。
短く刈り上げた栗色の髪に切れ長の黄玉色の瞳が印象的な、精悍な顔立ち。背がとても高くて、うちのパーティーで一番長身のパトロクロスより、頭ひとつ抜き出ている。二メートル近くあるんじゃないかな?
エレーンの長衣とオルティスの外套は、それぞれ魔導士団と騎士団の長にのみ着用が許されたもので、役職の任命と共に国王から付与されるものなんだって。
ドヴァーフの騎士団長といえば、以前アキレウスのお父さんが就いていた役職だ。
ということは、アキレウスのお父さんも昔、この深緑の外套を身に着けていたんだよね……。
そう思うと、何だか不思議な感じがした。
チラリとアキレウスの方を見ると、彼は静かな眼差しで、じっとオルティスの外套を見つめていた。
色々と、思うところがあるんだろうな。
アキレウス……。
あたし達も改めてレイドリック王達に自己紹介と挨拶をし、最後にアキレウスが挨拶に立った。
「先程は失礼致しました。アキレウス……と申します。魔物ハンターを生業としています」
彼を見つめるレイドリック王の灰色の瞳が、一瞬、不思議な光を帯びたような気がした。
「アキレウス……と申したな。其方が、伝説の地図に認められし者か」
「はい」
見つめ合う二人の間には、その瞬間、緊張感にも似た不可思議な空気の流れが、確かに出来た。
え……?
その空気に戸惑いを覚えるあたしの前で、エレーンとオルティスは何事もないかのように静かにその光景を見つめている。
「……そうか」
すっ、とレイドリック王が視線を外した瞬間、その不思議な緊張感は消え去った。
何……? 今の。
パトロクロスとガーネットも、それに気付いた様子はなかった。
あたしの気のせい……?
「アストレアのフォード王から書状をしたためていただきました。ご覧になっていただけますか」
アキレウスが懐から一通の書状を取り出した。アストレアのフォード王が、ドヴァーフの国立図書館の閲覧を許可してもらえるように持たせてくれた書状だった。
レイドリック王はそれにざっと目を通すと、快諾してくれた。
「了承しよう。司書に話は通しておく」
良かった、これで『魂の結晶』について調べられる!
魂の結晶というのは世界最強の金属で、あたし達はその情報を“まほろばの森”に住む伝説の名工、グレン・カイザーから教えてもらった。それを彼の元へ持っていったあかつきには、世界最強の剣をアキレウスの為に造ってくれるという話になっているんだけど、魂の結晶はその存在自体が稀であり、入手が非常に困難で、その生成も謎に包まれているんだそうだ。
でも、どうやら魂の結晶の生成には召喚魔法が深く関わっているらしいとアストレアで情報を得たあたし達は、それを記した書物を探す為、ドヴァーフの国立図書館の閲覧を希望していたのだった。
「本題に入ろう。先程話したシャルーフの件だが、続きがあってな……」
心持ち厳しい表情でレイドリック王が切り出した。その深刻そうな口ぶりに、あたし達は自然と背筋が伸びるのを覚えた。
「これはまだ、王宮内でもごく一部の者達しか知らぬ情報なのだが、シャルーフを滅ぼしたのは魔物の大群ではなく、わずか四名の刺客だったようだ」
「!!!」
なっ……。
あまりにも衝撃的なその内容に言葉を失くすあたし達を前に、冷静な口調で王は続けた。
「シャルーフが滅びても、その民の全てが命を落としたわけではない。決死の脱出を図り、運良くこの国の海岸までたどり着いた者達が、わずかながらいたのだ。その者達の話を総合した結果、そういう結論に至った」
う……そ……。たったの四人で一国を滅ぼしてしまうなんて……まるで、悪い夢物語みたいだ……。
「にわかには信じがたい話かも知れんが、事実だ。しかも“敵”は、まるで本気ではなかったらしい。生存者達の話によると、殺戮と破壊の限りを尽くしながら、そやつらは遊んでいるようにしか見えなかったそうだ。その様相はさらながら地獄絵図のようだった、と―――」
だとしたら……彼らが“本気”を出した時には、いったいどうなってしまうんだろう。世界なんて、瞬く間に滅びてしまうんじゃないだろうか。
背筋が凍りつくような想像をあたしがしていると、その衝撃からやや立ち直ったパトロクロスがレイドリック王にこう尋ねた。
「その四名が……一連の件の首謀者なのでしょうか」
「いや、血文字のメッセージで『我が勅命』と謳っているところから察するに、首謀者は複数ではないと考えられる。この四名はおそらく幹部クラスの者だろう。生存者達の証言から、この者達のおおよその外観が見えてきた」
レイドリック王はそう言って、その四名の特徴を述べた。
一人はこの世のものとは思えないほど美しい、エルフのような耳をした、長い黒髪の女。
一人は音もなく大剣を振るう、黒衣の剣士。
一人は鳥のような翼と猛禽の足を持つ、異形の戦士。
一人は愛らしい少女の姿をした、人にあらざる色彩を持つ魔性。
あたし達はその特徴を、耳に焼きつけた。
旅を続けていく限り、いつかは必ず出会うことになるに違いない、強大な壁。願わくば、出会わないで済みたいけれど……。
「我々を取り巻く事態は非常に差し迫っている……シャルーフの件は伏せておくわけにはいかぬ。“四ヶ国王会議”の後、公式に世界へ発表されることになるであろう。それに伴い、これまでの一連の件も公表せざるを得なくなるであろう。その時に世界の人々が受ける衝撃の値は想像に難くない……。混乱を避ける為には、救世の光が必要だ。救世の光となるのは、大賢者シヴァ……それを担う希望の光は、其方達だ」
その言葉は、重く深く、あたし達の胸に響き渡った。
「全世界の人々の希望が、祈りが、命運が、其方達の双肩にのしかかってくる。進む道はより厳しく、険しいものになるだろう。相当な覚悟が、必要となるぞ」
「……もとより、覚悟の上です」
毅然として答えたパトロクロスを見て、レイドリック王は微かに頬を緩めた。
「よい顔だ」
あたし達の決意も、彼と変わりなかった。
どんな困難が待ち受けていたとしても、絶対にシヴァを復活させる!
「アキレウス、地図を」
「あぁ」
パトロクロスに促されて、アキレウスがシヴァの地図を卓上に広げた。淡い紫色の光が沸き立つその中、シャルーフの南東に位置する孤島に、濃い紫色の光が灯っている。
「これが、話に聞く伝説の地図か……この島にシヴァが……?」
感慨深げにレイドリック王が呟く。
「はい。我々の当初の計画では、ドヴァーフから船でシャルーフへ渡り、そこから何らかの方法でこの島へ上陸しようと考えていました。しかし、このような事態になってしまった今、それは不可能でしょう。何か良い方法があれば、教えていただきたいのですが……」
パトロクロスにそう求められて、レイドリック王はしばし考え込んだ。
「うむ……海路はまず不可能と考えるべきだろう。シャルーフが敵の手に落ちた今、思うように身動きの取れぬ海上では、敵に襲ってくれと言っているようなものだ。そうなると空路しか残らぬわけだが……我が国の飛空艇はまだ開発段階で、とても実践に移せるような状態ではない。エレーン、オルティス、何か良い知恵はないか?」
「私の召喚獣を使えば行けなくはありませんが……ただ、その強い魔力の波動で敵に居所を知らしめてしまう危険性があります。この場合は、ふさわしくないかと」
思案するエレーンの隣で、オルティスが思い出したように口を開いた。
「……シャルーフの生存者の中に、確か小型の飛空挺で逃れてきた者がいたかと思います。機体は多少損傷していた模様ですが、それでしたらあるいは―――」
「よし、それを大至急確認してくれ」
「御意」
深々と一礼してオルティスが退出した後、レイドリック王はあたし達にこう告げた。
「多少時間はかかるが、何とかなるやもしれぬ。とりあえずは報告待ちだ。それまで其方達はこの城でゆっくりとくつろがれるがよい。確認が取れ次第、追って連絡する」
それからしばらくしてあたし達にもたらされたのは、シャルーフ製の十人乗りの小型飛空挺が確認されたという報告だった。
シャルーフの技術者の家族が命からがら逃げてきたもので、着陸時に機体を損傷したものの、修理すれば問題なく使用出来るということだった。
ただ、修理には急いでも一週間程度はかかるということで、その間、あたし達はドヴァーフでの滞在を余儀なくされることとなった。
まぁ、国立図書館で調べものもしたいし、これからに備えての準備もあるし、あたし達的にもそれで問題はなかったんだけどね。
ラッキーだったのは、飛空挺に乗っていたのがシャルーフの技術者だったということ。彼がいなければ、修理には更なる日数を要することになっていただろうとオルティスは言っていた。
それほどシャルーフの造船技術は高く、飛空挺においては、世界で唯一実現化に成功している国なんだって。
スゴいよね、船が空を飛ぶんだよ!
レイドリック王は修理が終わるまでの間、客人としての王宮での滞在と、様々な施設への立ち入りの許可をあたし達に申し出てくれた。
あたし達はその日は王宮でゆっくりと旅の疲れを癒し、翌日、必要物資などを調達する為、街へ買い出しに出掛けた。
「まさか、飛空挺で島に行くことになるとは思わなかったね」
そんな話をしながらドヴァーフの街並を歩くあたし達の足は、この街の港へと向かっていた。
買い物に行く前に、現在は閉鎖されているという港の状態がどんなものになっているのか、確認してみようという話になったんだ。
「飛空挺って、噂では聞いたことあったけど、まさか現実に飛んでいるものがあるなんて思わなかったわ。しかも、自分がそれに乗ることになるなんて!」
興奮して目を輝かせるガーネットに、パトロクロスが補足説明をした。
「シャルーフでは確かに飛空挺が完成されているが、まだその数は少なく、一般に運用されるレベルには至っていないんだ。今回のことは、非常にラッキーだったと言っていい」
へぇ~。
「そうなの。何だか運が向いてきている、っていう気がするわね!」
「ホント! ねっ、アキレウス」
そう振ると、抑揚のない返事が返ってきた。
「……あぁ」
ドヴァーフに着いてからというもの、アキレウスは何だかもの思いにふけりがちで、口数が少なくなっていた。
「なーになに、アキレウス昨日から何だか元気ないじゃない。どうしたのよ?」
ガーネットにそう言われて、彼は初めてそれに気が付いたようだった。
「え……そうか? 久し振りに故郷に帰ってきて、郷愁に浸ってんのかもな」
「あんたがそんなノスタルジックなガラー? 似合わないわよ。アルベルトの一件、気にしているワケじゃないんでしょ?」
「ひでー言い方だな。あの件は気にしちゃいねーけどさ」
憮然とした面持ちになるアキレウスに、溜め息混じりでパトロクロスが訴えた。
「おいおい、頼むから少しは気にしてくれ。あれが二度三度あってはたまらん」
「……努力はするよ」
「最大限の努力で頼むぞ」
アキレウスはきっと、過去の記憶に思いを馳せているんだ。
それがどんなものなのか、あたしには分からない。だから、それに対してかけてあげられる言葉も見つからない……けど。
「久し振りの帰郷なんだよね。街並とか、変わっていたりする?」
そう尋ねると、アキレウスは少し周囲を見渡してからこう答えた。
「……細かいトコは変わってるかもだけど、パッと見はそう変わってないな」
「故郷って、やっぱりいいもの?」
「まぁ……何だかんだ言って、自分の生まれ育ったところだからな。良くも悪くも思い出があるし、空気はやっぱり、肌になじんでいる」
アキレウスは一瞬遠い目をした後、首を傾けてあたしを見た。
「どうだ? ドヴァーフの印象は」
「素敵なトコだね。神話の中から抜け出してきたみたいな独特の雰囲気があって」
故郷があるって、いいな。
自分の生まれを忘れてしまっているあたし的には、ちょっぴりうらやましい。
「オレも国を出てから思ったけど、確かに独特だよな」
「ふふ。時間があったら、旅行気分でゆっくり散策してみたい感じ……。今日は、頼んだからね!」
「え?」
「どれだけ効率良く回れるかは、アキレウスの道案内にかかっているんだよ」
そう言って軽くアキレウスの背中を叩くと、彼は少しだけ頬を緩めて頷いた。
「あぁ、任せとけ」
そんな彼に笑顔を返しながら、あたしは心の中でこっそりとこんな決意をしていた。
かけてあげられる言葉が見つからない分、彼の前ではなるべく笑顔を心がけようと思ったんだ。
小さなことだけど、笑顔は伝染るって言うし……どれくらいわずかでもいい、あたしが明るくふるまうことで、アキレウスの気持ちが少しでも軽くなってくれたら……。
しばらくしてたどり着いた港は、閉鎖されているにもかかわらず、大勢の人々が情報を求めて集まり、騒然とした雰囲気になっていた。
「船はいつになったら出るんだ!」
「シャルーフは大丈夫なの?」
「いったい何がどうしたってんだ!? 王宮からは何の説明もねぇのか!」
殺気立つ人々の前で、拡声器を持った兵士がしきりに同じ説明を繰り返している。
「現在シャルーフへ向かう定期船は運航を停止中―――シャルーフ側で不都合が生じている為で、その原因については現在調査中―――確認が取れ次第報告します。再開のめどは立っていませんので、港の外にて待機して下さい。繰り返します、現在―――」
満足のいかない説明に納得するはずもなく、人々は怒りも露わに兵士に詰め寄り、憤懣やるかたない様子で、停泊したままの船と、その向こうに広がる水平線とを見つめている。
その光景を目の当たりにしたあたし達は、想像以上の混乱具合に息を飲んだ。
「想像以上に、ひどいな……」
ぽつり、とパトロクロスが呟く。
不安、苛立ち、あせり―――人々から噴き出す様々な負の感情が見えない渦となって、ピリピリと肌に突き刺さってくるようだった。
何とも言えない息苦しさを覚えて、あたしは軽く喉元を押さえた。
今回のシャルーフの件に加え、ここ最近の魔物の増加や例の血文字、不安を煽る様々な情報に緊張を強いられ続けている人々の、行き場のない焦燥と、いつ果てるとも知れない徒労が凝縮されているように感じられた。
『一刻の猶予もならぬ』―――そう言っていたレイドリック王の声が耳に甦ってくる。
港で繰り広げられているそれは、正に現在の混沌とした世界情勢を映し出しているようだった。
「あんたらも旅人かい?」
あたし達のすぐ近くの地面に座りこんで、その様子を遠巻きに眺めていたおじさんが声をかけてきた。
「えぇ、まぁ……」
「オレは三日前にここに来て、それからずうっとこうしているが、兵士の言うことは三日前から変わらねぇ……。シャルーフに商用があったんだが、待つだけムダって気がしてきたぜ。悪いことは言わねぇ、どうしてもって用がなけりゃシャルーフに行くのはあきらめた方がいい。あそこで兵士に詰め寄ってんのは、どうしてもシャルーフに帰らなきゃならねぇっていう理由がある、そういう連中さ」
「…………」
そのシャルーフは、もう、ないのに……。
港を後にして街の入口に戻ると、あの騒然とした雰囲気が嘘のように、そこには穏やかな日常の光景が広がっていた。
誰も何も言わなかったけど、みんな思っていることは一緒だった。
この光景が、いつ壊れてもおかしくない、ひどく不安定なものなんだっていうこと。
世界中のこういった光景を守れるかどうかは、あたし達の肩にかかっているんだ。
―――守りたい。
そう、思った。
「―――頑張ろうね!」
決意新たにそう言うと、みんな力強く頷いた。
「そうね! さくっとシヴァを甦らせて、悪者をやっつけちゃいましょ!」
「その為にも万全を期して備えておかないとな」
「―――よし、行こう!」
アキレウスの瞳にもいつもの輝きが戻ってきた。
みんなのモチベーションが最高潮に高まった、その時。
「アキレウス!」
アルトの、よく通る声があたし達の足を引き止めた。
え……っ。
振り返ると、あたし達と同じくらいの年の女の子が、息を切らせてこちらを見つめていた。
ショートカットの赤茶の髪に、きりりとした大きな暗褐色の瞳。ふっくらした唇に身体のラインがピッタリ出るピンクの短衣を着た、何だかグラマラスな可愛い娘だ。
彼女はアキレウスの姿を認めると、喜びに顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「やっぱり、アキレウス!」
「……ラァム!」
アキレウスが目を見開く。
両腕を広げて勢いよく彼の胸に飛び込んだ、ラァムと呼ばれたその少女は、彼の背中に回した腕にぎゅうっと力をこめて、広いその胸に頬を押し寄せた。
「アキレウス、会いたかった……!」
「ラァム……」
微笑んで、アキレウスもそっと彼女を抱きしめた。
え……な、何……!?
いったい何が起こったのか、突然の事態に事情を飲み込めないあたし達は、ただ茫然とその様子を見守るしかなかった。
それはまるで、離れ離れになっていた恋人同士が再会を果たしたかのようなワンシーンで、あたしは胸の奥がぎゅうっと締めつけられるような、何とも言えない、初めての感覚を味わった。
「もうっ、帰って来てるんだったら、どうして会いに来てくれないの!? アキレウスったら、お金だけ送ってくれたまんま、手紙ひとつよこさないんだもん! ただでさえ危ない仕事なのに……心配していたのよ!?」
アキレウスに抱きついたまま、顔だけを上げて、涙目でラァムが訴える。
それを聞いて、あたしはようやく彼女の名前に聞き覚えがあることに気が付いた。
そうだ、ラァムって……ローズダウンのラウド王の御前で、『光の園』という孤児院に送金を願い出た時、アキレウスが口にしていた名前……!
『ラァムという女性に、私からとお伝えいただければ分かると思います』
それを思い出したあたしは、アキレウスの腕の中の少女を改めて見やった。
この人が……ラァム……。
「わりぃ、色々あってさ。……それに帰って来たワケじゃないんだ。今まだ『仕事中』なんだよ。王都に用があって、それで立ち寄っただけなんだ」
「え……」
その時になって、初めてラァムはあたし達の存在に気が付いたようだった。
「紹介するよ。今オレの組んでいる仲間―――剣士のパトロクロスに白魔導士のガーネット、それに……黒魔導士のオーロラ」
黒魔導士なんて言われると、ちょっとくすぐったい。まぁ、本当のコト言うわけにもいかないんだろうけど……。
「初めまして」
あたし達が挨拶すると、ラァムは笑顔でそれに応えてくれた。
「こちらこそ、初めまして。ラァムです。アキレウスの幼なじみ……って言ったらいいのかしら」
微妙なニュアンスだなぁ……。
でも、幼なじみ……か。彼女ではないってコトだよね。
人知れずホッとするあたしの前で、ラァムはちょっとだけ頬を赤らめた。
「ごめんなさい、アキレウスの姿を見かけて、夢中で……皆さんがいるのに気が付かなくって」
「ホント、ビックリしちゃったわ。いきなり抱きついてくるんだもの……アキレウスの彼女なのかと思っちゃった」
そう話すガーネットの隣で、パトロクロスがぽそっと呟いた。
「似たような光景をどこかで見たな……。最近の幼なじみというのは、こういう傾向にあるのか?」
あぁ、そういえばフリードもいきなりガーネットに抱きついていたっけ。
それを聞きつけたガーネットは、きらーんと瞳を輝かせた。
「やだ、パトロクロスったら妬いているの!? パトロクロスさえその気なら、いつでも抱きついてくれていいのに~っ」
笑顔全開で両腕を広げるガーネットを、パトロクロスは溜め息混じりに冷たくあしらった。
「何がどうしてそういう話になるんだ……」
「もーぉ、照れ屋さんなんだからっ」
「誰が照れ……コ、コラッ。寄り添うなっっ」
「―――それよりラァム、どうしてこんなトコにいたんだ? 珍しいじゃないか」
いつも通りの展開を無視して、アキレウスはラァムにそう問いかけた。
「港の様子を見に来ていたのよ。色んな噂が飛びかっているから、気になって。でも、来てよかった! まさかアキレウスに会えるなんて思わなかったもの! ……ねぇ、すぐにどこかへ行っちゃうの?」
「一週間くらいはここに滞在する予定だよ。今のトコ、だけどな」
「一週間、か……。どのくらいで帰って来れそうなの?」
「……しばらくは無理だと思う」
「え……」
その回答にラァムはひどく驚いた様子で、暗褐色の瞳を大きく瞠った。
「そんなに……長くかかる仕事なの?」
「あぁ。今回は、依頼された任務が完了しても……その先の、最終的なところまで見届けたいんだ」
それは、シヴァを復活させた後の、世界の命運を懸けて起こるだろう“生き残る”為の戦い。
それが終わるまで、彼はここに帰るつもりがないんだ。
アキレウス……。
そんな事情を知らないラァムは何か言いたそうだったけど、あたし達の手前、それをぐっと飲み込んだ様子だった。
「そう……」
その表情は心底残念そうで寂しそうで、あたしはちょっぴり胸が痛くなった。
この人はきっと、アキレウスのことが大好きで、彼が帰ってくるのを楽しみに楽しみにしていたんだ。
やっと会えたと思ったらこれじゃ、スゴいショックだよね。
自分の身に置き換えてみるとそのショックの度合いが分かるだけに、あたしは何だか彼女のことが気の毒になった。
「ねぇ……じゃあさ、一緒にご飯だけでも食べられない?」
気を取り直して、ラァムがアキレウスにそう提案した。
「出来れば今日! ダメだったら別の日でもいいけど……良かったら皆さんも一緒に! ね? みんなもアキレウスに会いたいと思っているし……」
「おいおい……」
困り顔のアキレウスに、ラァムが潤んだ瞳で訴える。
「お願い! ダメ?」
「……お取り込み中すいませんけどー」
はーい、とガーネットが手を上げた。
「“みんな”って?」
「あぁ……『光の園』っていう孤児院に住んでいる子供達のことだよ。オレもラァムもそこの出身で、ラァムは今そこに住み込みで働いているんだ」
「……そういえば、ローズダウンで送金を申し出ていたところだったな」
パトロクロスも遅ればせながらそれを思い出したようだった。
「アキレウス、ご飯くらいいいんじゃない? 今日は買い出しの後は特に予定もないし……」
「オーロラ」
「せっかくこうして会えたんだし、これからしばらくは会えなくなるんだしさ。それくらい……。たまには休息も必要だよ。ね、パトロクロス、ガーネット」
そう言って二人を見ると、彼らは顔を見合わせて頷いた。
「あぁ、まぁ……いいんじゃないか。なかなかない機会だしな」
「アキレウスが育ったトコも見てみたい気はするしね」
よしっ!
「決まり! だね」
ニカッと笑ってアキレウスを振り返ると、彼はひとつ息をついて、ふっと微笑んだ。それからラァムに視線を移して、こう告げた。
「夕方にみんなで行くよ、ラァム」
「本当!? 本当に!?」
「あぁ。みんなのお許しが出たからな」
ラァムはきりりとした瞳を輝かせて、アキレウスとあたし達とを交互に見つめ、溢れんばかりの笑顔を浮かべた。
「嬉しいっ……ありがとう!! 腕によりをかけて作るわ! そうと決まったら、急がないと! それじゃあ、また後で! 皆さんも楽しみにして来てね!!」
そう言ってぺこりとお辞儀をすると、彼女は忙しそうに走り去っていった。
「……悪いな、こっちのワガママに付き合ってもらって」
少し照れくさそうな顔をして、アキレウスが言う。
こういう表情をするアキレウスって、初めて見たかも。何だか新鮮……。
ほのぼのした気分になっていたあたしの耳元で、ガーネットがこそっと囁いた。
「あんたってお人好しねー、あの娘絶っっ対アキレウスのコト好きよっ。ライバルに接点持たせちゃってどうすんの?」
「だって何だか可哀相だったんだもん……。別に二人きりでご飯食べるワケじゃないし、今日くらい……さ」
「もぉー」
ガーネットは不満そうだったけど、今日くらいいいよね。
悪い娘じゃなさそうだったし、あたしもアキレウスの育ったところ見てみたいもん。
少しでも、知りたいんだ……アキレウスの過去。
高級そうな革張りのソファーに身体を投げ出しながら、ガーネットは呆れた様子でそう言った。
ドヴァーフ城の謁見の間から貴賓室へと通されたあたし達。
繊細な細工のティーカップにいい香りのするお茶を淹れ、テーブルの上にそれを残して、丁寧な言葉と共に侍女が下がった後、この部屋の中にいるのは、今はあたし達だけだった。
「確かに。あのレイドリック王の弟とは思えないよね。見た目も中身も、全然違うんだもん」
そう相槌を打つあたしの隣で、パトロクロスが幾分声のトーンを落としながら言った。
「レイドリック王とアルベルト殿下は母君が違うんだ。色々な事情があったらしくてね、先程の通り兄弟仲がいいとは言えない」
「へぇー……」
異母兄弟かぁ……どおりで。
「……パトロクロス」
その時、それまで黙っていたアキレウスが神妙な面持ちで口を開いた。
「さっきは悪かった……すまない。ついカッとなって―――」
「気にするな。心の中では私もお前と同じようなことを思っていたんだ。しかし珍しいな、お前があんなに感情的になるなんて」
「ねー、あたしもちょっとビックリしちゃった。けっこう熱くなったりするんだー、アキレウスって」
パトロクロスとガーネットはそう言って、意外そうな顔でアキレウスを見やった。
そっか……二人はアキレウスのこういうところを見るの、初めてだったんだ。
あたしは前に一度だけ、似たような状況を見たことがあった。
まだ出会ったばかりの頃、ルザーで偽王子に遭遇した、あの時……。
それ以外の場面ではさほど激しい反応は見せなかったけれど、アキレウスは権力というものに対して、少なからぬ嫌悪感と不信感を抱いているみたい。
過去にいろいろあって、と以前言っていたけれど、過去の彼の身に、いったいどんなことがあったんだろう。
それはとてもデリケートな問題のような気がして、ずっと気になりつつも、あたしは彼に聞くことが出来ずにいた。
いつかアキレウスの方から打ち明けてくれたらいいな、と思っているんだけど……。そういう日が来ればいいな、と願っているんだけど―――。
「すまない、待たせたな」
涼やかな声と共に、レイドリック王が二人の側近を伴って現れた。
「先程は弟の顔を立ててもらう形になってすまなかった。恥ずかしい話だが、あれには手を焼いていてな。今回のことは良い薬だ、気にしないでくれ」
「こちらこそ無礼を働き、申し訳ありません」
パトロクロスがそう返すと、レイドリック王は静かに首を振り、立ち上がってかしこまっていたあたし達にソファーに座るように促した。
「この二人も先程謁見の間にいたのだが……改めて紹介しよう。右が我が国の魔導士団長を務める賢者エレーン、左が騎士団長を務める聖騎士オルティスだ。十年前に即位して以来、共に国を支えてきた私の腹心の臣下だ。無論、其方達の旅の目的も知っている。この二人の他にも、宰相や一部の重臣でそれを知っている者はいるのだが、特に重要な職に身を置くこの二人を同席させてもらうことにした」
レイドリック王にそう紹介された二人の重臣は、共に二十代半ばくらいに見えた。
エレーンは、同性のあたしでもうっとりとしてしまうような美人だった。
背の中程まである緩いウェーブのかかった白銀の髪に、静かで力強い光を湛えた、麗しい紫水晶の瞳。程好い高さの鼻梁に、形の良い艶やかな唇。整った細い眉は毅然とした面持ちを際立て、長い睫毛が褐色の肌に憂いのある陰影を落としている。
スラリとした肢体を淡い緑色の長衣に包み、白い外套を纏った彼女の姿はまるで女神のように凛々しくて、あたしは思わず、その端麗な容姿に見とれてしまった。
スゴく、綺麗な女だな……。
こっそりと感嘆の溜め息をこぼしながら、あたしはエレーンを見つめた。
こんなに綺麗な女、初めて見た……。
賢者っていうことは、全ての系統の魔法を使いこなすことが出来るってコトだよね。こんなに若くて綺麗で……それなのに魔法王国と謳われるドヴァーフの、魔導士団の長に立っているなんて……才色兼備って、こういうコトを言うんだろうな……。
一方のオルティスは体育会系のガッチリとした身体つきで、メタリックホワイトの全身鎧に身を包み、濃い緑色の外套を羽織っていた。
短く刈り上げた栗色の髪に切れ長の黄玉色の瞳が印象的な、精悍な顔立ち。背がとても高くて、うちのパーティーで一番長身のパトロクロスより、頭ひとつ抜き出ている。二メートル近くあるんじゃないかな?
エレーンの長衣とオルティスの外套は、それぞれ魔導士団と騎士団の長にのみ着用が許されたもので、役職の任命と共に国王から付与されるものなんだって。
ドヴァーフの騎士団長といえば、以前アキレウスのお父さんが就いていた役職だ。
ということは、アキレウスのお父さんも昔、この深緑の外套を身に着けていたんだよね……。
そう思うと、何だか不思議な感じがした。
チラリとアキレウスの方を見ると、彼は静かな眼差しで、じっとオルティスの外套を見つめていた。
色々と、思うところがあるんだろうな。
アキレウス……。
あたし達も改めてレイドリック王達に自己紹介と挨拶をし、最後にアキレウスが挨拶に立った。
「先程は失礼致しました。アキレウス……と申します。魔物ハンターを生業としています」
彼を見つめるレイドリック王の灰色の瞳が、一瞬、不思議な光を帯びたような気がした。
「アキレウス……と申したな。其方が、伝説の地図に認められし者か」
「はい」
見つめ合う二人の間には、その瞬間、緊張感にも似た不可思議な空気の流れが、確かに出来た。
え……?
その空気に戸惑いを覚えるあたしの前で、エレーンとオルティスは何事もないかのように静かにその光景を見つめている。
「……そうか」
すっ、とレイドリック王が視線を外した瞬間、その不思議な緊張感は消え去った。
何……? 今の。
パトロクロスとガーネットも、それに気付いた様子はなかった。
あたしの気のせい……?
「アストレアのフォード王から書状をしたためていただきました。ご覧になっていただけますか」
アキレウスが懐から一通の書状を取り出した。アストレアのフォード王が、ドヴァーフの国立図書館の閲覧を許可してもらえるように持たせてくれた書状だった。
レイドリック王はそれにざっと目を通すと、快諾してくれた。
「了承しよう。司書に話は通しておく」
良かった、これで『魂の結晶』について調べられる!
魂の結晶というのは世界最強の金属で、あたし達はその情報を“まほろばの森”に住む伝説の名工、グレン・カイザーから教えてもらった。それを彼の元へ持っていったあかつきには、世界最強の剣をアキレウスの為に造ってくれるという話になっているんだけど、魂の結晶はその存在自体が稀であり、入手が非常に困難で、その生成も謎に包まれているんだそうだ。
でも、どうやら魂の結晶の生成には召喚魔法が深く関わっているらしいとアストレアで情報を得たあたし達は、それを記した書物を探す為、ドヴァーフの国立図書館の閲覧を希望していたのだった。
「本題に入ろう。先程話したシャルーフの件だが、続きがあってな……」
心持ち厳しい表情でレイドリック王が切り出した。その深刻そうな口ぶりに、あたし達は自然と背筋が伸びるのを覚えた。
「これはまだ、王宮内でもごく一部の者達しか知らぬ情報なのだが、シャルーフを滅ぼしたのは魔物の大群ではなく、わずか四名の刺客だったようだ」
「!!!」
なっ……。
あまりにも衝撃的なその内容に言葉を失くすあたし達を前に、冷静な口調で王は続けた。
「シャルーフが滅びても、その民の全てが命を落としたわけではない。決死の脱出を図り、運良くこの国の海岸までたどり着いた者達が、わずかながらいたのだ。その者達の話を総合した結果、そういう結論に至った」
う……そ……。たったの四人で一国を滅ぼしてしまうなんて……まるで、悪い夢物語みたいだ……。
「にわかには信じがたい話かも知れんが、事実だ。しかも“敵”は、まるで本気ではなかったらしい。生存者達の話によると、殺戮と破壊の限りを尽くしながら、そやつらは遊んでいるようにしか見えなかったそうだ。その様相はさらながら地獄絵図のようだった、と―――」
だとしたら……彼らが“本気”を出した時には、いったいどうなってしまうんだろう。世界なんて、瞬く間に滅びてしまうんじゃないだろうか。
背筋が凍りつくような想像をあたしがしていると、その衝撃からやや立ち直ったパトロクロスがレイドリック王にこう尋ねた。
「その四名が……一連の件の首謀者なのでしょうか」
「いや、血文字のメッセージで『我が勅命』と謳っているところから察するに、首謀者は複数ではないと考えられる。この四名はおそらく幹部クラスの者だろう。生存者達の証言から、この者達のおおよその外観が見えてきた」
レイドリック王はそう言って、その四名の特徴を述べた。
一人はこの世のものとは思えないほど美しい、エルフのような耳をした、長い黒髪の女。
一人は音もなく大剣を振るう、黒衣の剣士。
一人は鳥のような翼と猛禽の足を持つ、異形の戦士。
一人は愛らしい少女の姿をした、人にあらざる色彩を持つ魔性。
あたし達はその特徴を、耳に焼きつけた。
旅を続けていく限り、いつかは必ず出会うことになるに違いない、強大な壁。願わくば、出会わないで済みたいけれど……。
「我々を取り巻く事態は非常に差し迫っている……シャルーフの件は伏せておくわけにはいかぬ。“四ヶ国王会議”の後、公式に世界へ発表されることになるであろう。それに伴い、これまでの一連の件も公表せざるを得なくなるであろう。その時に世界の人々が受ける衝撃の値は想像に難くない……。混乱を避ける為には、救世の光が必要だ。救世の光となるのは、大賢者シヴァ……それを担う希望の光は、其方達だ」
その言葉は、重く深く、あたし達の胸に響き渡った。
「全世界の人々の希望が、祈りが、命運が、其方達の双肩にのしかかってくる。進む道はより厳しく、険しいものになるだろう。相当な覚悟が、必要となるぞ」
「……もとより、覚悟の上です」
毅然として答えたパトロクロスを見て、レイドリック王は微かに頬を緩めた。
「よい顔だ」
あたし達の決意も、彼と変わりなかった。
どんな困難が待ち受けていたとしても、絶対にシヴァを復活させる!
「アキレウス、地図を」
「あぁ」
パトロクロスに促されて、アキレウスがシヴァの地図を卓上に広げた。淡い紫色の光が沸き立つその中、シャルーフの南東に位置する孤島に、濃い紫色の光が灯っている。
「これが、話に聞く伝説の地図か……この島にシヴァが……?」
感慨深げにレイドリック王が呟く。
「はい。我々の当初の計画では、ドヴァーフから船でシャルーフへ渡り、そこから何らかの方法でこの島へ上陸しようと考えていました。しかし、このような事態になってしまった今、それは不可能でしょう。何か良い方法があれば、教えていただきたいのですが……」
パトロクロスにそう求められて、レイドリック王はしばし考え込んだ。
「うむ……海路はまず不可能と考えるべきだろう。シャルーフが敵の手に落ちた今、思うように身動きの取れぬ海上では、敵に襲ってくれと言っているようなものだ。そうなると空路しか残らぬわけだが……我が国の飛空艇はまだ開発段階で、とても実践に移せるような状態ではない。エレーン、オルティス、何か良い知恵はないか?」
「私の召喚獣を使えば行けなくはありませんが……ただ、その強い魔力の波動で敵に居所を知らしめてしまう危険性があります。この場合は、ふさわしくないかと」
思案するエレーンの隣で、オルティスが思い出したように口を開いた。
「……シャルーフの生存者の中に、確か小型の飛空挺で逃れてきた者がいたかと思います。機体は多少損傷していた模様ですが、それでしたらあるいは―――」
「よし、それを大至急確認してくれ」
「御意」
深々と一礼してオルティスが退出した後、レイドリック王はあたし達にこう告げた。
「多少時間はかかるが、何とかなるやもしれぬ。とりあえずは報告待ちだ。それまで其方達はこの城でゆっくりとくつろがれるがよい。確認が取れ次第、追って連絡する」
それからしばらくしてあたし達にもたらされたのは、シャルーフ製の十人乗りの小型飛空挺が確認されたという報告だった。
シャルーフの技術者の家族が命からがら逃げてきたもので、着陸時に機体を損傷したものの、修理すれば問題なく使用出来るということだった。
ただ、修理には急いでも一週間程度はかかるということで、その間、あたし達はドヴァーフでの滞在を余儀なくされることとなった。
まぁ、国立図書館で調べものもしたいし、これからに備えての準備もあるし、あたし達的にもそれで問題はなかったんだけどね。
ラッキーだったのは、飛空挺に乗っていたのがシャルーフの技術者だったということ。彼がいなければ、修理には更なる日数を要することになっていただろうとオルティスは言っていた。
それほどシャルーフの造船技術は高く、飛空挺においては、世界で唯一実現化に成功している国なんだって。
スゴいよね、船が空を飛ぶんだよ!
レイドリック王は修理が終わるまでの間、客人としての王宮での滞在と、様々な施設への立ち入りの許可をあたし達に申し出てくれた。
あたし達はその日は王宮でゆっくりと旅の疲れを癒し、翌日、必要物資などを調達する為、街へ買い出しに出掛けた。
「まさか、飛空挺で島に行くことになるとは思わなかったね」
そんな話をしながらドヴァーフの街並を歩くあたし達の足は、この街の港へと向かっていた。
買い物に行く前に、現在は閉鎖されているという港の状態がどんなものになっているのか、確認してみようという話になったんだ。
「飛空挺って、噂では聞いたことあったけど、まさか現実に飛んでいるものがあるなんて思わなかったわ。しかも、自分がそれに乗ることになるなんて!」
興奮して目を輝かせるガーネットに、パトロクロスが補足説明をした。
「シャルーフでは確かに飛空挺が完成されているが、まだその数は少なく、一般に運用されるレベルには至っていないんだ。今回のことは、非常にラッキーだったと言っていい」
へぇ~。
「そうなの。何だか運が向いてきている、っていう気がするわね!」
「ホント! ねっ、アキレウス」
そう振ると、抑揚のない返事が返ってきた。
「……あぁ」
ドヴァーフに着いてからというもの、アキレウスは何だかもの思いにふけりがちで、口数が少なくなっていた。
「なーになに、アキレウス昨日から何だか元気ないじゃない。どうしたのよ?」
ガーネットにそう言われて、彼は初めてそれに気が付いたようだった。
「え……そうか? 久し振りに故郷に帰ってきて、郷愁に浸ってんのかもな」
「あんたがそんなノスタルジックなガラー? 似合わないわよ。アルベルトの一件、気にしているワケじゃないんでしょ?」
「ひでー言い方だな。あの件は気にしちゃいねーけどさ」
憮然とした面持ちになるアキレウスに、溜め息混じりでパトロクロスが訴えた。
「おいおい、頼むから少しは気にしてくれ。あれが二度三度あってはたまらん」
「……努力はするよ」
「最大限の努力で頼むぞ」
アキレウスはきっと、過去の記憶に思いを馳せているんだ。
それがどんなものなのか、あたしには分からない。だから、それに対してかけてあげられる言葉も見つからない……けど。
「久し振りの帰郷なんだよね。街並とか、変わっていたりする?」
そう尋ねると、アキレウスは少し周囲を見渡してからこう答えた。
「……細かいトコは変わってるかもだけど、パッと見はそう変わってないな」
「故郷って、やっぱりいいもの?」
「まぁ……何だかんだ言って、自分の生まれ育ったところだからな。良くも悪くも思い出があるし、空気はやっぱり、肌になじんでいる」
アキレウスは一瞬遠い目をした後、首を傾けてあたしを見た。
「どうだ? ドヴァーフの印象は」
「素敵なトコだね。神話の中から抜け出してきたみたいな独特の雰囲気があって」
故郷があるって、いいな。
自分の生まれを忘れてしまっているあたし的には、ちょっぴりうらやましい。
「オレも国を出てから思ったけど、確かに独特だよな」
「ふふ。時間があったら、旅行気分でゆっくり散策してみたい感じ……。今日は、頼んだからね!」
「え?」
「どれだけ効率良く回れるかは、アキレウスの道案内にかかっているんだよ」
そう言って軽くアキレウスの背中を叩くと、彼は少しだけ頬を緩めて頷いた。
「あぁ、任せとけ」
そんな彼に笑顔を返しながら、あたしは心の中でこっそりとこんな決意をしていた。
かけてあげられる言葉が見つからない分、彼の前ではなるべく笑顔を心がけようと思ったんだ。
小さなことだけど、笑顔は伝染るって言うし……どれくらいわずかでもいい、あたしが明るくふるまうことで、アキレウスの気持ちが少しでも軽くなってくれたら……。
しばらくしてたどり着いた港は、閉鎖されているにもかかわらず、大勢の人々が情報を求めて集まり、騒然とした雰囲気になっていた。
「船はいつになったら出るんだ!」
「シャルーフは大丈夫なの?」
「いったい何がどうしたってんだ!? 王宮からは何の説明もねぇのか!」
殺気立つ人々の前で、拡声器を持った兵士がしきりに同じ説明を繰り返している。
「現在シャルーフへ向かう定期船は運航を停止中―――シャルーフ側で不都合が生じている為で、その原因については現在調査中―――確認が取れ次第報告します。再開のめどは立っていませんので、港の外にて待機して下さい。繰り返します、現在―――」
満足のいかない説明に納得するはずもなく、人々は怒りも露わに兵士に詰め寄り、憤懣やるかたない様子で、停泊したままの船と、その向こうに広がる水平線とを見つめている。
その光景を目の当たりにしたあたし達は、想像以上の混乱具合に息を飲んだ。
「想像以上に、ひどいな……」
ぽつり、とパトロクロスが呟く。
不安、苛立ち、あせり―――人々から噴き出す様々な負の感情が見えない渦となって、ピリピリと肌に突き刺さってくるようだった。
何とも言えない息苦しさを覚えて、あたしは軽く喉元を押さえた。
今回のシャルーフの件に加え、ここ最近の魔物の増加や例の血文字、不安を煽る様々な情報に緊張を強いられ続けている人々の、行き場のない焦燥と、いつ果てるとも知れない徒労が凝縮されているように感じられた。
『一刻の猶予もならぬ』―――そう言っていたレイドリック王の声が耳に甦ってくる。
港で繰り広げられているそれは、正に現在の混沌とした世界情勢を映し出しているようだった。
「あんたらも旅人かい?」
あたし達のすぐ近くの地面に座りこんで、その様子を遠巻きに眺めていたおじさんが声をかけてきた。
「えぇ、まぁ……」
「オレは三日前にここに来て、それからずうっとこうしているが、兵士の言うことは三日前から変わらねぇ……。シャルーフに商用があったんだが、待つだけムダって気がしてきたぜ。悪いことは言わねぇ、どうしてもって用がなけりゃシャルーフに行くのはあきらめた方がいい。あそこで兵士に詰め寄ってんのは、どうしてもシャルーフに帰らなきゃならねぇっていう理由がある、そういう連中さ」
「…………」
そのシャルーフは、もう、ないのに……。
港を後にして街の入口に戻ると、あの騒然とした雰囲気が嘘のように、そこには穏やかな日常の光景が広がっていた。
誰も何も言わなかったけど、みんな思っていることは一緒だった。
この光景が、いつ壊れてもおかしくない、ひどく不安定なものなんだっていうこと。
世界中のこういった光景を守れるかどうかは、あたし達の肩にかかっているんだ。
―――守りたい。
そう、思った。
「―――頑張ろうね!」
決意新たにそう言うと、みんな力強く頷いた。
「そうね! さくっとシヴァを甦らせて、悪者をやっつけちゃいましょ!」
「その為にも万全を期して備えておかないとな」
「―――よし、行こう!」
アキレウスの瞳にもいつもの輝きが戻ってきた。
みんなのモチベーションが最高潮に高まった、その時。
「アキレウス!」
アルトの、よく通る声があたし達の足を引き止めた。
え……っ。
振り返ると、あたし達と同じくらいの年の女の子が、息を切らせてこちらを見つめていた。
ショートカットの赤茶の髪に、きりりとした大きな暗褐色の瞳。ふっくらした唇に身体のラインがピッタリ出るピンクの短衣を着た、何だかグラマラスな可愛い娘だ。
彼女はアキレウスの姿を認めると、喜びに顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「やっぱり、アキレウス!」
「……ラァム!」
アキレウスが目を見開く。
両腕を広げて勢いよく彼の胸に飛び込んだ、ラァムと呼ばれたその少女は、彼の背中に回した腕にぎゅうっと力をこめて、広いその胸に頬を押し寄せた。
「アキレウス、会いたかった……!」
「ラァム……」
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いったい何が起こったのか、突然の事態に事情を飲み込めないあたし達は、ただ茫然とその様子を見守るしかなかった。
それはまるで、離れ離れになっていた恋人同士が再会を果たしたかのようなワンシーンで、あたしは胸の奥がぎゅうっと締めつけられるような、何とも言えない、初めての感覚を味わった。
「もうっ、帰って来てるんだったら、どうして会いに来てくれないの!? アキレウスったら、お金だけ送ってくれたまんま、手紙ひとつよこさないんだもん! ただでさえ危ない仕事なのに……心配していたのよ!?」
アキレウスに抱きついたまま、顔だけを上げて、涙目でラァムが訴える。
それを聞いて、あたしはようやく彼女の名前に聞き覚えがあることに気が付いた。
そうだ、ラァムって……ローズダウンのラウド王の御前で、『光の園』という孤児院に送金を願い出た時、アキレウスが口にしていた名前……!
『ラァムという女性に、私からとお伝えいただければ分かると思います』
それを思い出したあたしは、アキレウスの腕の中の少女を改めて見やった。
この人が……ラァム……。
「わりぃ、色々あってさ。……それに帰って来たワケじゃないんだ。今まだ『仕事中』なんだよ。王都に用があって、それで立ち寄っただけなんだ」
「え……」
その時になって、初めてラァムはあたし達の存在に気が付いたようだった。
「紹介するよ。今オレの組んでいる仲間―――剣士のパトロクロスに白魔導士のガーネット、それに……黒魔導士のオーロラ」
黒魔導士なんて言われると、ちょっとくすぐったい。まぁ、本当のコト言うわけにもいかないんだろうけど……。
「初めまして」
あたし達が挨拶すると、ラァムは笑顔でそれに応えてくれた。
「こちらこそ、初めまして。ラァムです。アキレウスの幼なじみ……って言ったらいいのかしら」
微妙なニュアンスだなぁ……。
でも、幼なじみ……か。彼女ではないってコトだよね。
人知れずホッとするあたしの前で、ラァムはちょっとだけ頬を赤らめた。
「ごめんなさい、アキレウスの姿を見かけて、夢中で……皆さんがいるのに気が付かなくって」
「ホント、ビックリしちゃったわ。いきなり抱きついてくるんだもの……アキレウスの彼女なのかと思っちゃった」
そう話すガーネットの隣で、パトロクロスがぽそっと呟いた。
「似たような光景をどこかで見たな……。最近の幼なじみというのは、こういう傾向にあるのか?」
あぁ、そういえばフリードもいきなりガーネットに抱きついていたっけ。
それを聞きつけたガーネットは、きらーんと瞳を輝かせた。
「やだ、パトロクロスったら妬いているの!? パトロクロスさえその気なら、いつでも抱きついてくれていいのに~っ」
笑顔全開で両腕を広げるガーネットを、パトロクロスは溜め息混じりに冷たくあしらった。
「何がどうしてそういう話になるんだ……」
「もーぉ、照れ屋さんなんだからっ」
「誰が照れ……コ、コラッ。寄り添うなっっ」
「―――それよりラァム、どうしてこんなトコにいたんだ? 珍しいじゃないか」
いつも通りの展開を無視して、アキレウスはラァムにそう問いかけた。
「港の様子を見に来ていたのよ。色んな噂が飛びかっているから、気になって。でも、来てよかった! まさかアキレウスに会えるなんて思わなかったもの! ……ねぇ、すぐにどこかへ行っちゃうの?」
「一週間くらいはここに滞在する予定だよ。今のトコ、だけどな」
「一週間、か……。どのくらいで帰って来れそうなの?」
「……しばらくは無理だと思う」
「え……」
その回答にラァムはひどく驚いた様子で、暗褐色の瞳を大きく瞠った。
「そんなに……長くかかる仕事なの?」
「あぁ。今回は、依頼された任務が完了しても……その先の、最終的なところまで見届けたいんだ」
それは、シヴァを復活させた後の、世界の命運を懸けて起こるだろう“生き残る”為の戦い。
それが終わるまで、彼はここに帰るつもりがないんだ。
アキレウス……。
そんな事情を知らないラァムは何か言いたそうだったけど、あたし達の手前、それをぐっと飲み込んだ様子だった。
「そう……」
その表情は心底残念そうで寂しそうで、あたしはちょっぴり胸が痛くなった。
この人はきっと、アキレウスのことが大好きで、彼が帰ってくるのを楽しみに楽しみにしていたんだ。
やっと会えたと思ったらこれじゃ、スゴいショックだよね。
自分の身に置き換えてみるとそのショックの度合いが分かるだけに、あたしは何だか彼女のことが気の毒になった。
「ねぇ……じゃあさ、一緒にご飯だけでも食べられない?」
気を取り直して、ラァムがアキレウスにそう提案した。
「出来れば今日! ダメだったら別の日でもいいけど……良かったら皆さんも一緒に! ね? みんなもアキレウスに会いたいと思っているし……」
「おいおい……」
困り顔のアキレウスに、ラァムが潤んだ瞳で訴える。
「お願い! ダメ?」
「……お取り込み中すいませんけどー」
はーい、とガーネットが手を上げた。
「“みんな”って?」
「あぁ……『光の園』っていう孤児院に住んでいる子供達のことだよ。オレもラァムもそこの出身で、ラァムは今そこに住み込みで働いているんだ」
「……そういえば、ローズダウンで送金を申し出ていたところだったな」
パトロクロスも遅ればせながらそれを思い出したようだった。
「アキレウス、ご飯くらいいいんじゃない? 今日は買い出しの後は特に予定もないし……」
「オーロラ」
「せっかくこうして会えたんだし、これからしばらくは会えなくなるんだしさ。それくらい……。たまには休息も必要だよ。ね、パトロクロス、ガーネット」
そう言って二人を見ると、彼らは顔を見合わせて頷いた。
「あぁ、まぁ……いいんじゃないか。なかなかない機会だしな」
「アキレウスが育ったトコも見てみたい気はするしね」
よしっ!
「決まり! だね」
ニカッと笑ってアキレウスを振り返ると、彼はひとつ息をついて、ふっと微笑んだ。それからラァムに視線を移して、こう告げた。
「夕方にみんなで行くよ、ラァム」
「本当!? 本当に!?」
「あぁ。みんなのお許しが出たからな」
ラァムはきりりとした瞳を輝かせて、アキレウスとあたし達とを交互に見つめ、溢れんばかりの笑顔を浮かべた。
「嬉しいっ……ありがとう!! 腕によりをかけて作るわ! そうと決まったら、急がないと! それじゃあ、また後で! 皆さんも楽しみにして来てね!!」
そう言ってぺこりとお辞儀をすると、彼女は忙しそうに走り去っていった。
「……悪いな、こっちのワガママに付き合ってもらって」
少し照れくさそうな顔をして、アキレウスが言う。
こういう表情をするアキレウスって、初めて見たかも。何だか新鮮……。
ほのぼのした気分になっていたあたしの耳元で、ガーネットがこそっと囁いた。
「あんたってお人好しねー、あの娘絶っっ対アキレウスのコト好きよっ。ライバルに接点持たせちゃってどうすんの?」
「だって何だか可哀相だったんだもん……。別に二人きりでご飯食べるワケじゃないし、今日くらい……さ」
「もぉー」
ガーネットは不満そうだったけど、今日くらいいいよね。
悪い娘じゃなさそうだったし、あたしもアキレウスの育ったところ見てみたいもん。
少しでも、知りたいんだ……アキレウスの過去。
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