クレイジー&クレイジー

柚木ハルカ

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28.再会する


 彼らの車に乗り、無事目的地に到着した頃には、すっかり夜になっていた。

 暗いので建物の外観はよく見えないが、正面玄関からして明らかにヤクザである。それにガラの悪い人間がやたらといて、若頭にお帰りなさいと声をかけてくるので、どうしても身体が震えてしまった。そのせいで余計に疲れるし、そもそも疲労でフラフラしていたが、神崎に会いたくて必死にあとを付いていく。

 案内されたのは、大広間だった。何十畳あるかわからないほど広く、和室でありながら煌びやかさもあり、正面にはステージまである。しかも人数も多い。100人以上いるんじゃないだろうか。

 広間の中央に麻雀卓があり、神崎はそこに座っていた。大勢いる場にもかかわらず静かで、カチ、カチと牌のぶつかる音がよく聞こえてくる。ギャンブルらしい緊張感漂う空間が、懐かしい。

 ふと、神崎が俺に気付いた。視線を向けてきたあと、無表情のまますぐにまた卓へと視線を戻す。

「よく来てくれたな。終わるまで、あそこに横になっていると良い」

 襖付近で佇んでいると、やたら迫力のある和服の老人がこちらに来て、部屋の隅に何故か用意されている布団を指した。神崎のツレというだけで、ヤクザがこんなに優しくしてくれるのか。

 しかし100人いるうちの半数以上は、怪訝そうにこちらを見てくる。麻雀は4人対戦であり、全員敵だ。つまりここに集まっているうち、3組は外部の人間となる。……この集まりって、全部ヤクザなんだろうか?

 強面な人間達が見てくるものだからさすがに硬直してしまい、動くのを躊躇してしまう。だが戸惑っていると。

「ロン」

 静かな声が聞こえてきて、視線が全部外れた。アガったのはもちろん神崎である。
 彼は手牌を見せると、ちょっと失礼、と断りを入れて立ち上がった。そして俺のところに来る。こんな状況でもわざわざ俺を気に掛けてくれるのが嬉しくて、しかもいつものように優しく微笑んでくれるから、胸が締め付けられて泣きたくなってくる。

「弘樹さん、よく頑張りましたね。久しぶりに動いて疲れたでしょう? まだ始まったばかりなので、遠慮せず休んでいてください」

 そっと抱き締められて、背中を撫でられた。神崎に包まれるとホッとしてしまい、身体から力が抜ける。するといつものように抱き上げられ、布団まで運ばれた。大勢いるのにとは思うものの、羞恥よりも疲労の方が強いし、十数秒後には下ろされたので、気にしないでおく。

 布団に座ったらすぐに、バッグを取られた。

「ジャケットは、自分で脱げますか?」
「ん……それくらいは、出来る」

 ジッパーを下ろして、脱ごうとして……その前にポケットに入れておいた手紙を出す。入れたままではクシャクシャになってしまう。

「この手紙、バッグの中に」
「はい、入れておきますね」

 手紙を渡して、バッグにしまってもらっている間に、ジャケットを脱いだ。あとパーカーも。そして促されるまま布団に入ると、頭を撫でられる。

「何かあれば、そこのオジサン達に声を掛けてください」
「オジサン言うな、大地さんと呼べ。あとはよ戻れや」

 ここまで案内してくれた若頭と、俺にアクセサリーを渡してくれた人が、そこらに座布団を置いて腰掛けていた。シッシッと手で払われた神崎は、軽く肩を竦めると離れていく。

 それからしばらくは、麻雀する神崎を眺めつつ、ギャンブルの緊張感を楽しんだ。





「ん……」

 頭を撫でられている。優しい手が気持ち良くて、はふっと吐息を零したら、ちょっと笑われた。その振動が伝わってくるのは、膝枕されているからだろう。太腿の付け根と思われるところに顔を押し付けてグリグリすれば、また笑われる。

「くすぐったいですよ、弘樹さん。起きたのなら、目を開けてくれませんか? 勝負は付いたので」
「…………勝負……?」

 なんのことかすぐにはわからなくて、とりあえず目を開けた。すると見下ろしてくる神崎と、いつもとは違う天井が。

 ああそういえば、ヤクザんちに来たんだった。用意されていた布団に寝転がっていたけど、いつの間にか寝ていたらしい。

「……勝ったのか?」
「ええ、勝ちましたよ」

 そうか、そうだよな。天才である神崎が負けるはずがない。
 目が覚めたので身体を起こそうとすると、神崎が手伝ってくれた。そのまま寄り掛からせてくれたので厚意に甘えて、周囲を見渡す。

 勝負がついてまださほど時間が経っていないのか、麻雀卓はそのままだし、10人ほどが片付けをしていた。いくつもある座卓上には、たくさんの湯飲みに皿、その他もろもろが置かれている。これを片付けるのは大変そうだ。
 でも少しだけ親近感が湧く。ヤクザでも、自分達で片付けるんだなぁ。

 彼らの働いている様子を眺めていると、神崎がパーカーを差し出してきたので、のそのそ着る。ジャケットもと思ったけれど、枕元に置かれていたバッグと一緒に、俺に持たせてきた。落とさないように抱えれば、抱き上げられる。

「客室を用意していただいているので、移動しましょう」

 疲れはそれなりに取れたので歩けると思うが、すでに抱き上げられてしまっているので、大人しくしておいた。簡単に運べるくらい軽くなっているのが悪いのだ。これから少しずつ運動して、筋肉を増やして元の体重まで戻せば、持ち上げられることも無くなるはず。

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