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連載
50話
しおりを挟む話が終わったので会議室から退出し、1階カウンターで第11都市の地図を購入した。ついでに職員に、防具製作でドラゴン素材を扱える店を聞いてから、ギルドを出る。
昼食はレストランに入った。黒髪を晒しているので悲鳴を上げられかけたが、すかさずリュカが俺の頭を抱いて髪にキスしてくるので、大事にはならなかった。
注文は全部リュカがしてくれて、いろんな料理を皆でそれぞれシェアしていく。たぶん俺の注文したものに毒などが混入されないよう、考えてくれたのだろう。王子が食べるものに、ヤバいものは入れられない。
レストランで1時間ほどのんびりしたあとは、地図を見ながら防具屋へ。
第9都市でカミラが回収しておいてくれた、ダークドラゴンの素材は、かなりの量だった。皮も爪も5体分あるし、とにかく防御力が上がるということで、リュカはロングコートを注文。染色して他素材とも合わせるらしい。
俺にはノエルの作ってくれたマントがあるので、胸当て、腕&太腿のガード、ブーツを。友人達は胸当てのみを注文する。それと爪は、他素材と合わせて、アクセサリーにしてもらうよう依頼した。
これだけの注文なので職人達総出で対応してくれ、デザインの相談をさせてもらう。ちなみに全員一流の職人だからか、黒髪に大きな反応は無かった。俺を見て、リュカを見て、納得したように頷いたくらいである。ドラゴン素材には、歓声が上がるほどの反応を見せたが。
身体のサイズを測る際、俺については当然のようにリュカがしてくれた。お返しにリュカのサイズを測ったが、やはり体格が良いのは羨ましい。
余った素材の売買相談を含めて、料金計算にも時間が掛かり、終えたのは夕食前だった。だいぶ長居してしまった。仕上がりは11月30日。素材持ち込みで製作してもらう場合、どこでも3週間は掛かるものだ。オロバスとの決闘に、万全の装備で望めるのであれば問題無い。
屋敷に戻り、夕食を取ったあとの、夜時間。いつもであれば鍛錬するリュカだが、今日は少々考えたいことがあるからと、早々に解散となった。するとカミラやシンディは送られてきた本を広げ、ミランダやニナやベネットは、ノエルからダンスを教わるそうで、中庭に出ていく。
俺はリュカから習うことになるだろうだが、そのリュカはというと、解散してすぐに俺を抱き上げていた。この流れ、以前もあったな。前は、邪神が女神リュヌだと判明した時だったか。
リュカは寝室に入ると、俺ごとベッドに横になり、強く抱き締めてきた。やはり気分が沈んでいるようで、胸元に顔を埋めてくる。なのでそっと頭を撫でて髪を梳いて、唇を寄せた。
しばらく慰めていると、リュカは顔を上げ、目を合わせてくる。
「……リュカ。どうしたのか、話せるか?」
「うん。その……今日いろいろ判明したでしょ? 月のこととか、千年前の王家のこととか。リュミエールや邪神出現の原因もわかって……それが人間達の愚かな業のせいで、心底安心したんだ。もし神同士のどうしようもない問題に巻き込まれていただけだったら、俺は……うん」
そういえばリュカは、月の存在を知った5ヶ月前からずっと、いろいろ気にしていた。どうして月が隠されているのか、どうして月の存在が人々に伝わっていないのか。千年前の王家に、いったい何があったのかと。大森林の名前が変更されていることに気付いた時も、神々の間に何があったのか、とても真剣に考えていた。
リュカは俺のおかげだと言っていたが、王太子に手紙や証拠写真を送り、調べてくれるよう頼んだのは、リュカ自身である。それに何か気付いたことがあれば、すぐ手紙を出した。だから今日、神々のことや、千年前の事実が判明したのだ。
リュカがソレイユ王国の事実を知りたいと願い、行動したからこそ、実を結んだ。どう考えても俺のおかげではなく、リュカ自身が出した成果である。
「頑張ったな、リュカ」
「えっと。何に対しての言葉?」
「…………内緒だ」
理由を述べたら、ザガンが写真や本をくれたおかげだなんだと、また言いそうなので黙っておく。
リュカが探るように見つめてきたので、微笑んでみせれば、目を見開いて頬を紅潮させたあと、再び懐に顔を埋めてきた。抱き締め直して、いつもリュカが俺にするように、頭に頬を擦り寄せる。リュカから甘えてくる時しか出来無いので、堪能させてもらおう。ん、サラサラな金髪が気持ち良い。
そのように普段とは違った心地を楽しんでいたが、またリュカの気持ちが沈んでいくように感じられた。心配になって覗き込むと、彼は胸元に頭を埋めたまま言葉を紡ぐ。
「でもまさか、女神が自分で月を隠しているなんて、思わなかったよ。神ソレイユの結界のせいで、見えないとばかり」
「……俺は別だと思っていたぞ。神ソレイユの結界範囲と、月の見えない範囲が、違っていたから」
「そうだったの?」
「女神テールが言っていた。リュヌの縄張りからは、月が見えないと。彼女はリュヌ大森林には入れるんだ。しかしソレイユ王国には、結界が張ってあって来られないと言っていた」
「ホントだ、範囲が違う。気付かなかった」
「俺はむしろ、自分がどうやって神ソレイユの結界を抜けたのかが、気になる」
1年以上彷徨っているうちに、偶然にも綻びを潜っていたのか。あるいは女神リュヌの眷属だからか。
「女神リュヌの眷属だからじゃないかな。女神テールは、ザガンから女神リュヌの魔力を感じて、眷属と断定した。つまり、魔力の質が完全に一致してるわけでしょ? どれだけ人間を憎んでいても、愛する女性と同じ魔力を持っている眷属までは、殺したくないと思うよ」
確かにそうかもしれない。魔力が同じということは、たぶん子供みたいな感覚なのだろう。
両親と血は繋がっているが、魔力は遺伝しない。魔素細胞から発生する魔力の質は、自分だけのものだ。しかし俺は、女神の闇属性と完全一致している。それが眷属というもの。
人間を殲滅しようとするほど女神を愛しているからこそ、彼女の眷属は人間であろうと見逃すか。
「……何億年も仲睦まじく寄り添っていた相手を、喪うかもしれないという恐怖。それは、どれほどのものだったんだろうね」
苦しく悲しそうなリュカの声が聞こえてきたので、少しでも慰めようと、何度もその頭を撫でる。言葉もかけられれば良かったのだが、寿命100年しかない人間の俺には、リュカの疑問に答えられそうにない。
一応自分に置き換えて、もしリュカを喪うかもしれないと考えてみるも、そうなる前に俺がリュカを全力で守るという方向に転換してしまった。そんな可能性自体、微塵も考えたくないのかもしれない。
だがリュカは、違ったようで。
「俺は、冷たくなっていくザガンを抱き締めた時、怒りと悲しみで、気が狂いそうだった。ザガンと出会って1年にも満たない俺でも、そうなっちゃうんだ。だからもし本当に、女神リュヌが亡くなってしまったら……神ソレイユはどうしようもなく絶望して、とてつもない怒りと悲しみで気が狂って。……きっと世界を、破壊するよね」
――ああそうか。だから世界は、俺をここに転生させたのか。
ゲームでは死んでしまう女神リュヌを救うことが、封印されている神ソレイユの暴走を防ぐことに繋がる。そうすれば、世界を破壊されずに済む。世界滅亡を阻止出来る。まさか俺が適当に言っていたことが、本当に正しかったとは思わなかった。
『リュミエール』の個別エンディングは、だいたいどれも邪神を倒してから数ヶ月後の、結婚式や日常で終わる。きっとそのあと、封印が薄まったことで、神ソレイユが地上に出てくるのだろう。
そして愛する者が殺されたと知った神は、とてつもない悲しみと憎悪にまみれて完全に理性を失い、ソレイユ王国のみならず、世界をも破壊していくのだ。どれほどの規模かは想像付かないが、もしかしたら、公転軌道を逸れて太陽から離れていく、なんて事態にまで発展するかもしれない。
世界滅亡を阻止する為に転生させられたとは、責任重大だな。ただそれを知ったからといって、今までと何かが変わるわけではないが。俺はこれからも闇属性への差別を無くす為、そして女神リュヌを救う為に行動していく。
そんなことより今は、落ち込んでしまっているリュカを、慰めるのが先決だ。いくら背中を撫でて頭にキスしても、沈んだまま。どうすればいいのだろう。
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「あ。そっ、そうだよね。差別を無くせないのは、すごく困るよ。どうしよう」
リュカは慌てたように身体を起こすと、逆に俺の顔を覗き込んできた。何故かすでに立ち直ったように見えたが、とりあえず最後まで告げる。
「だから女神だけでなく、神ソレイユも救おう。方法はまだ思い付かないが、知恵を出し合い、解決しよう。そうすれば、リュカの憂いも晴れる」
「うん、落ち込んでいる場合じゃないね。ザガンといつまでも結婚出来無いなんて、大問題だもの」
ん? リュカは闇属性への差別を無くしたら、俺と結婚するつもりだったのか。……そうか。
少々驚いたものの、調子の戻ったリュカがぎゅうぎゅう抱き付いてくるので、ホッとしつつ抱き締め返した。
リュカの要望で、今夜は早めに入浴することになった。女性陣と風呂が別れている代わりに、それほど大きくないので、1人ずつだ。
湯船に浸かって温まったら、全身を綺麗にして、再び湯船に浸かる。きちんと温まらないとリュカが心配するから。バスローブを着て、ドライヤーで髪を乾かしてから寝室に戻れば、ベッドから立ち上がったリュカが髪にキスしてきた。交代してベッドに腰掛け、リュカが出てくるのを待つ。
さて、これからセックスするわけだが。今日はまったく魔力を消費していないので、このまま抱かれたら、リュカの魔力を吸収する際に感じすぎてしまう。先程リュカが落ち込んでいたことを考えると、今夜はなるべく最後まで意識を保っていたい。よし、魔力を消費しよう。
というわけで目を瞑り、掌に意識を集中させた。魔力を消費しながら、周囲に漂っているだろう感情を引き寄せて、凝縮させていく。捕らえられないものを、捕らえられるようにしていく。
しばらく集中していると、リュカが風呂から上がってくる気配がした。寝室に入ってきたので目を開ければ、リュカはパチパチ瞬きしつつ、隣に腰掛けてくる。
「ザガンのそれ、魔瘴だよね?」
「ああ。これを行えば、周囲に被害を及ぼさずとも、魔力を消費出来る」
リュカが指摘したように、俺の掌には小さな黒い靄が浮かんでいた。直径10cmにも満たない魔瘴なので、召喚可能なのは、闇属性のベビースライムくらいだ。
「その大きさで、どれくらいの魔力を使うの?」
「すでに4分の1は使用している」
「たったこれだけで、ザガンの魔力を4分の1も。じゃあドラゴン5体を召喚された時の魔瘴って、ものすごい膨大な魔力を使っていたんだね。だからあれだけの人数で、3ヶ月も掛かったのか」
そういえばあの時、リュカは後ろにいたのだったな。なので闇組織の集めた魔瘴も見ている。
確かにあれだけの量を集めるには、魔力も時間もかなり消費しなければならない。ただ現状、俺がこれだけの魔瘴しか集められないのは、他にも原因がある。
「連中はある程度なら、魔力消費は抑えられたと思うぞ。神ソレイユの怨念が、国中に溢れているから。俺がこれだけしか集められないのは、この空間に、負の感情がほとんど漂っていないからだ。どれだけ魔力を消費しようと、無いものはどうやっても集められない」
「ああ、そうだよね。じゃあこれって、さっきまでの俺の感情なのかな」
リュカが魔瘴に指を伸ばしてきた。触れると、驚いたように俺を見てくる。
「僅かだけど、感触がある。感情なのに」
「魔力を使用し、捕らえられないものを捕らえられるようにする。触手の延長のようなものだ。リュカも、魔清を集めてみれば良いのではないか? きっと同じ魔力量でも、この何百倍もの大きさになるだろう」
「ふふ、そうだね。ここは俺とザガンの愛で、いっぱいだもの」
リュカは嬉しそうに微笑むと、ちゅっと頬にキスしてきた。……なんだか恥ずかしいことを言ってしまった気がするが、気のせいだろう。たぶん。とりあえず魔瘴は拡散させておく。何度か手で払えば、空気に溶けて次第に消えていった。
それの様子を眺めていたリュカは、首を傾げながら俺に視線を戻してくる。
「でも俺、魔清を集めたこと無いんだよね。召喚魔法を覚えてないから、必要性を感じなかったし。ザガンは召喚魔法、自然と覚えたの?」
「そうだが、リュカは覚えていないのか」
そういえばゲームでも、主人公は召喚魔法を使えなかった。光属性なのに。光と闇は表裏一体なので、本来なら覚えられるはずなのに。何故だろう?
技や魔法は、ふとした瞬間、脳裏に浮かんでくるものである。だが様々な条件が付随している。
基本的には鍛錬していれば覚えるが、俺のように狂気的な殺戮を繰り返すことで剣技を得るというような、特殊行動から覚える場合がある。俺の究極魔法のように、武器によって覚える場合もある。そのように様々な条件があるのだ。
つまり、置かれている環境によっても、左右されるかもしれない。
「現在のソレイユ王国は、神ソレイユから溢れる負の感情が充満している。そのせいで正の感情が相殺されて消えているとすれば、光属性の者達に召喚魔法を与えても、無意味ではあるな」
「なるほど、そうかもしれないね。だからソレイユ王国では、極稀にしかスピリットが生まれてこないのか」
頷く。極稀に見られるスピリットは、相殺されなかった世界の感情から生まれたものだろう。
俺達も8月に偶然小さな魔清を見られたが、あのプライベートビーチは、ソレイユ王国の端だった。だから相殺されなかったと思われる。しかも生まれた小魚のスピリットは、リュカを慰めるように浮遊していた。……いや待て、本当に偶然だったのか?
首を傾げつつ、リュカをじっと見つめる。リュカは掌に魔力を集中させていたが、俺の視線に気付くと、ふわりと微笑んだ。
「どうしたの? ザガン」
「邪魔してすまない。以前俺達が見た、スピリットについてなんだが。あれは明確にリュカを慰めていたと、思い出したんだ。生まれたばかりのスピリットがそのような行動を取るなど、本来はありえない。よって世界に操られていたのではないかと、考えた」
「……ええと。つまり世界が、俺を慰めたということ?」
「ああ。たとえばダークドラゴン達も、ドラゴンという叡知ある存在でありながら、召喚者の意思に逆らえず俺達と戦っただろう? 神ソレイユと女神リュヌも、それぞれに召喚したスピリットとモンスターを従わせたことで、国中を巻き込んだ激戦となった」
もちろん意識を開放することも可能であり、だからこそリュヌ大森林やテール王国に住んでいる魔物達は、自由に生きている。
ではソレイユ王国のモンスター達が問答無用で人間を襲うのは、モンスターが増えすぎると怨念を魔瘴に変換する場所が無くなってしまう為、女神リュヌがすぐに討伐してほしいと願っているからか? あるいは人間を殺したいという、神ソレイユの怨念から生まれているからか。……どちらもありそうな気がする。
などと考えていたら、突然リュカの触手が伸びてきて、ベッドの中央に寝かされた。覆い被さってくるリュカ。
ちゅ、ちゅ、と頬や眦に優しくキスされたあと、ぎゅうと抱き締められる。セックスするという感じではないが、甘えられているわけでもない。ただただ大切に、抱き締められているよう。
「……リュカ? どうした?」
理由がわからなかったので聞いてみれば、リュカは頭に頬を擦り寄せてきた。
「世界が俺を慰めてくれていたなんて、すごいことだなぁと思って。それに気付いたザガンも、すごいなって。……ありがとうザガン。俺、これからも頑張るよ。頑張って、絶対に神ソレイユを救う。そして君との幸せな未来を、掴んでみせる」
覗き込んできたリュカの、とても格好良く、綺麗な微笑。
思わず見惚れると、彼はふふっと嬉しそうに笑い、甘く柔らかなキスをくれた。
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