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しおりを挟む「あいつが妻を殺したんだ……!」
マノンはある日、決闘代理人ノアとして裁判所に来ていた。今日の案件はかなり重い。妻が殺害された原告ランドルと、被告ジルバーが自分の潔白を証明するための決闘裁判だ。
被告ジルバーが負ければ、犯人として懲役になることが決まっている。もし原告ランドルが負けたら一生告訴することができず、虚偽を申告したとして非難される。そして、妻が殺されたのに犯人は野放しにされることになるのだ。
「あんたは信じてくれるだろう?」
「……はい」
ランドルは片足がなく、戦うことができない。一度面談をしたとき、妻を亡くした切々とした想いが伝わってきたので依頼を引き受けた。しかし、マノンには本当の犯人がジルバーだという確信はない。マノンは神ではない。ただ任された仕事を淡々とこなすことしかできないのだ。
決闘が行われる柵に囲まれた闘技場には、審判と介添人、傍聴人たちが。
マノンの目の前に、爽やかな雰囲気の背の高い男が皮の武具を身につけてやって来た。
(この人が本当に奥さんを殺したの……?)
仮面の向こうに、対戦相手ジルバーを捉えた。彼は剣を構えながらこちらを見下ろし、優しく微笑む。
「お手柔らかに頼むよ。最強の代理人さん」
「……ひとつだけ聞いても?」
「なんだい?」
「あなた、ランドルさんの奥さんを殺害したの? 正直に答えて」
「してないよ。犯人は君が援護している男の方さ」
「嘘。彼は切実よ」
「はは、見せかけはね。だが、きっとリージェ神が僕の無実を証明してくださる。君は君の務めを果たせばいい」
ジルバーはずっと無実を訴え続けている。その表情は真剣で、とても嘘をついているようには見えなかった。柵の向こうのテントで、赤子を抱いた妻が不安そうにこちらを見ている。
マノンは知っていた。この決闘裁判においては必ずしも『リージェ神は正しき者を救う』訳ではないのだと。だってマノンの母は、なんの罪もないのに決闘代理で死んだ。仮面越しに手首のバングルを一瞥してから、剣を構える。
(――動揺しちゃだめ。剣が鈍る)
気を引き締め、ジルバーと対峙する。まもなく審判が「はじめ!」と合図する。彼は長い剣をこちらに振りかざした。マノンは地面をたんっと蹴って跳躍した。彼は視界からマノンが消えて困惑し、辺りをきょろきょろと見渡す。
「――上よ」
マノンは男の剣の先に立ち、そのまま男目掛けて回転をかけながら剣を振るう。次の瞬間には、ジルバーは地に伏せ昏睡していた。完全に戦闘不能状態になっている。マノンは顎を峰打ちして脳幹を刺激し、あっという間に彼を倒してしまったのだ。
「そこまで! 此度の殺人事件において、被告人は有罪とし、懲役10年に処する」
審判の判決を聞きつつ、マノンは剣を収め場外に出た。ジルバーの妻は判決を受けて悲痛な声を上げている。
「――こんなの嘘よっ、嫌……! ジルバー……! 彼は無実よ! 虫も殺せないような、優しい人なのに……っ」
その声がマノンの鼓膜と心を揺さぶった。
原告ランドルがマノンの元に駆け寄ってくる。彼はマノンの手を取り、満面の笑みを浮かべた、
「ありがとう! あんたのおかげでせいせいしたよ……!」
「せいせいした?」
その表現に何か違和感を覚える。
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