【完結】他の令嬢をひいきする婚約者と円満に別れる方法はありますか?

曽根原ツタ

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「ありがとう! あんたのおかげでせいせいしたよ……!」
「せいせいした?」

 その表現に何か違和感を覚える。彼はあまりにも清々しい表情をしていて、喜びに打ち震えている。

「あいつさ、昔っからずーっと気に入らなかったんだよ! 勉強も運動もなんでもできて、ルックスもいいし、要領もいいから俺が好きな人もみんなあいつを好きになんだ。――死んだ妻もそうだった。俺は本気で愛してたのに。他の男に目を向ける妻は、死んで当然だよな? な!?」
「……は?」

 理解が追いつかない。彼は、妻が亡くなって辛いとマノンに泣きながら訴えて来たのに。面談のときの誠実さの欠片もない態度だ。
 今の様子だと、まるで妻が死んで喜んでいるようで。――それどころか、彼女を殺めたのが彼なのではないかとさえ思わされる。ジルバーもランドルが犯人だと言っていた。

 胸騒ぎがする。
 心臓がバクバクと音を立てている。
 マノンは枯れた声を絞り出すようにして言った。

「あなたが……本当の、犯人なの?」
「俺が勝ったんだ。俺は何も間違ったことはしてない。正しい裁きをあいつらに与えたんだ!」
「答えになってない。あなたが犯人なのかどうか聞いてるの」
「――さぁな」

 狂気じみた笑みを浮かべるランドルを目の当たりにして、背筋がぞくりとする。
 マノンはその場にいられなくなり、裁判所を逃げ出していた。

(判断を、間違えたかもしれない。無実の人の人生を狂わせてしまったのかもしれない。どうしよう、お母様……っ)

 裁判所を出て、仮面を着けたまま道を歩く。マノンが決闘代理人をしているのは、神任せなどではない実力勝負の決闘で、本当に罪のない人の味方をするため。――悪人を救い、罪のない人を苦しめるためではないのに。

 よく考えて仕事を受けているが、結局マノンにはどちらが正しいかなんて分からない。自分のしていることが間違っているのではないか。そんな思いで涙が溢れてくる。

 すると突然、後ろから声をかけられた。

「――マノン」

 聞き慣れた声に振り返ると、馬車の窓からセルジュが顔を覗かせてこちらを見ていた。爽やかな笑顔を浮かべて手を振る彼。

「セルジュ……様」

 仮面の下から頬に涙が伝うのを見て、彼はぎょっとする。

「君……泣いているの?」
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