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しおりを挟む数日後、マノンはスフォリア大公家の屋敷を訪れていた。3ヶ月後に大公家に引っ越し、今からちょうど1年後に正式な婚姻となる。それまでは婚約期間が設けられている。
(相変わらず……大きな屋敷)
ついこの間、ひとりの招待客として園遊会に参加したときには、自分が大公妃になるなんて想像もしなかった。敷地に一歩足を踏み入れてから、マノンは荘厳さに圧倒されていた。
大勢の使用人に案内されて、応接間に向かう。その途中、広い回廊にフリージアが現れた。
「まぁまぁまぁ……! よく来てくださったわね……! マノンさん」
「フリージア様……!」
フリージアが直々に出迎えてくれるとは思っておらず、恐縮するマノン。スカートを摘んで片足を引き、最敬礼のカーテシーを見せる。彼女はふふと口元に手を添えて可憐に微笑む。
「ご無沙汰しております。マノン・ポリエラです。こうしてまたお会いできて光栄です」
「あらぁ。ご丁寧にどうも。でも堅苦しいのはなしにしましょう? これからは家族になるんですもの!」
「家族……」
「そうよ。こーんなに可愛らしい人がセルジュの奥さんになるなんて私、とても嬉しくて仕方がないの。ぜひお義母様と呼んでくれないかしら。昔から娘がほしくってねぇ」
子どものようにはしゃぐお茶目なフリージア。あまりの歓迎ぶりに困惑する。嫌がられるよりはずっと嬉しいけれど。
「これからよろしくお願いします。……お義母様」
「ええ、こちらこそ」
フリージアがきゃっきゃとはしゃいでいると、廊下の奥からセルジュがやって来た。
「母上。あまり彼女を困らせないでください」
セルジュに苦言を呈されたフリージアは、しゅんと肩を落として謝罪を口にした。
「ごめんなさいね。私、つい舞い上がってしまったの」
「……いえ、お気になさらず」
マノンの母は子どものころに他界してしまったので、また母と呼ぶ存在ができるのは変な感じだ。でも嬉しい。
それからマノンは、応接間で紅茶を飲みながら今後のことについて二人と話した。今は、大公家の女主人としての仕事はフリージアがこなしているが、ゆくゆくはマノンが引き継げるように勉強していかなければならない。フリージアが嫁いでくる前に学んでいたというマニュアルを渡されたが、あまりの多さに驚いた。
マノンは脳筋なので、女主人としての仕事をこなせるようになるか不安だったが、フリージアは「ゆっくりでいいのよ」とおっとりと笑った。マイペースなところはセルジュとよく似ている。
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