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しおりを挟む3人の王子がイーサンの即位の話を聞いたあとの、リューゼラ侯爵邸。
そこではウェンディの元婚約者ロナウドと妻のルリア、そして彼女の家族が暮らしている。
「よくも俺を騙してくれたな。こんな金額の借金、一体どうする気だ!?」
「ロ、ロナウド様がなんとかしてくださいまし……!」
「人任せな女だ。借金の話を知ってたら、結婚なんてしなかったのに」
「……! わたくしだって、エリファレット殿下に言われなければあなたなんかに近づいたりしなかったわ!」
広い屋敷の居間で、ロナウドはルリアと揉めていた。彼女はずっと実家に借金があることを隠してロナウドと交際していた。
ロナウドは彼女に惚れていたが、ルリアにはこちらへの愛情などはなく、借金返済のことしか頭になかったというのだ。
(おまけに彼女は厄介な癇癪持ちだった。つくづく俺は運がない)
今も彼女の甲高い怒鳴り声が鼓膜に響いてくる。ロナウドは手で頭を押さえて呟いた。
「またその名前か。――俺とあなたが結婚したら、どうして第1王子が借金を肩代わりしてくれることになるんだ?」
「分から……ないけど、確かにそうおっしゃったのよ!」
ルリアが好きでもないロナウドに略奪愛をしかけたのは、エリファレットにそそのかされたからだった。……なんでも、ロナウドを籠絡してウェンディから引き離すことができたなら、借金を完済してやると言ったとか。
公開婚約破棄までしたせいで、ロナウドは逃げ場をなくしているが、それすらエリファレットの意向だった。
(第1王子の目的はなんだ? ウェンディに惚れている? いや、まさか……)
第1王子といい、第3王子といい、高貴な王族がウェンディに固執する理由が見えてこない。
しかし、仮にルリアの言葉が事実だったとしても、エリファレットは約束を果たしていない。ルリアに条件をこなさせておいて裏切ったのだ。きっとルリアも藁にもすがるような思いだったのだろうが、いいように利用されただけ。
「それで? 第1王子は何かしてくださったか? 結局騙されたじゃないか」
「そ、れは……」
彼女が何も言い返せずに口を噤んだそのとき、居間の入り口から別の声がした。
「随分と楽しそうだな。新婚早々喧嘩か?」
「エリファレット殿下……!?」
「――例の約束、果たしに来てやったぞ」
後ろに騎士をつき従えたエリファレットは、無断で部屋に押し入って来た。茶化すように笑っているが、誰のせいでこんなことになっていると思うのだろうか。
苛立ちを隠しながら礼を執ると、彼はごく自然に中央のソファに腰を沈めた。
「ここは客人に対して茶も出ないのか?」
「気が利かずに申し訳ございません! ほら、すぐにご用意を!」
ルリアは大慌てで侍女に命令する。
「は、はい……! お嬢様」
侍女が大慌てで飲み物を用意しに部屋を出る傍らで、ロナウドは内心、勝手に屋敷に上がり込んでおいて謝罪のひと言もない彼のふてぶてしい態度に不満を抱いた。
(礼儀がなっていないのはどっちだよ)
エリファレットは茶を飲み、「ぬるい」と姑のような文句を口にしながら、ここに来た理由の詳細を話した。
「……つまり、本当に借金を返していただけるのですね」
ロナウドには、多額の借金を返していく甲斐性はなく、領地をうまく経営していくような腕もない。だが、王室の財産を使ってくれるなら、苦労せずとも一瞬で完済できるだろう。
「ただし、ひとつ条件がある。もう少しお前たちが頑張らなければ――この話はなしだ」
「「…………条件」」
ロナウドとルリアは顔を見合わせる。最初に提示してきた条件はすでにルリアが満たしているのに、追加て要求してくるのはずるいだろうと。しかし、2人は彼を頼るしかない弱い立場だった。
「――ウェンディ・エイミス誘拐に協力しろ」
固唾を飲んで言葉を待っている2人に、とんでもない内容が提示された。
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