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しおりを挟む「これは……?」
「この男に会えば、致死性の高い毒を手に入れることができる。銀にも反応せず、死後に毒を使ったと分からない毒だ。イーサンの母親を殺したときもこの者を頼った。至急毒を用意し、召使いを使ってイーサンの食事に混入させろ。そして、ラティーシナを奪い返すのだ」
「……分かり、ました。母上」
エリファレットは紙を受け取り、寂しげに眉尻を下げた。
「……母上は、ご自分の野望のためならどんなに手を汚すこともいとわないのですね」
「今更何を言うのだ。お前もよく知っているだろう」
「……はい」
部屋を出て廊下を進んだ先で、イーサンが待っていた。エリファレットは誰も見ていないことを確認し、ルゼットから受け取った紙をこっそり手渡す。
「お前の母親を殺すための毒を仕入れたのはこの男だ。この男をただちに尋問にかけろ。……そうすれば、王妃は今度こそ終わりだ」
ウェンディに提案された、ルゼットに勝つ方法とは、彼女が悪事を働いたことを証明することだった。
彼女に、イーサンを殺さなければ自分たちの立場が危なくなるのだと迫り、不安を煽れば、判断を鈍らせることができるだろうというところまでが、ウェンディの考えだった。
彼女の狙い通り、急かされたルゼットは毒の入手ルートをあっさり教えた。それがかえって、自分の首を絞めることになるとも知らずに。
「……想い人を守ることができるというのに、随分と暗いお顔をされていますね。兄上」
「あれでも血の繋がった母親だ。情はあるし、できることなら裏切りたくなかった。母親がいないお前には分からんだろうがな」
イーサンはそんな嫌味を受け流し、怒るよりも同情をあらわにした。
「母親に対する愛情は分かりませんが……兄上が妃殿下を守ろうとなさったお気持ちは……よく分かります」
そのとき、イーサンの剣につけられた首の傷がつきりと痛んだ。彼もまた、想い人のためなら誰であろうと刃を向けるのだろう。イーサンもひとりの女性を想う、自分と同じ男なのだと理解した。半分血を分けた、自分と同じどこにでもいる普通の男を、これまで深く傷つけてきたのだとようやく少し、自覚する。
「悪かったな。……もう誰も、お前の自由を邪魔することはしない」
「……!」
エリファレットは去り際、イーサンの肩にぽんと手を置いてそう伝えるのだった。彼は今までに見せたことがないような、意外そうな顔を浮かべていた。
◇◇◇
イーサンはすぐに、王国騎士を連れて、紙に書かれた男を訪れた。尋問にかけると、彼は過去に王妃に毒を売ったことがあるとあっさり自供した。
ルゼットは、イーサンを殺そうとしただけではなく、過去に第2妃に毒を盛り、第1王子妃ラティーシナの舌を切り害そうとした。多くの罪が重なり、処刑されることが決まった。エリファレットも廃位され、王宮から追放されることに。しかし、ラティーシナの実家が真面目に生きていくことを誓わせた上で彼を受け入れた。王宮を出て行く日、エリファレットはどこか清々しい様子だった。
彼の出立の日、ウェンディは離宮の書斎でひとり原稿に取り組んでいた。
「……どうして、兄上に力を貸したか聞いても?」
イーサンは机に片手を着き、こちらの顔を覗いた。イーサンがずっとエリファレットに邪険にされてきて、少なからず彼を憎んでいる。それに、ウェンディのことを誘拐し、監禁した相手だ。
同情があったとしても、そんな相手に協力したことを不思議に思うのは無理もない。
ウェンディはペンをことんと置く。
「……私たちは、人に完璧を求めすぎだと思うんです。エリファレット殿下は……言葉を選ばなければ欠点だらけで、多くの人の人生にとって悪役だと思います。でも彼には彼なりの事情があって……好きな人を守ろうと、歪ながら足掻いていたお姿は、人間臭くて好きなんです」
物語は、善人と悪人がいなければ成り立たない。いい人だけで刺激がない物語なんて、つまらないから。個性豊かな人たちがいるから、どんな物語も色彩豊かで面白くなるのだ。
「それに、王妃様を野放しする限り、イーサン様に自由はないと思ったんです。私……あなたの力になりたくて」
ルゼットを放っておいたら、遅かれ早かれ彼女はイーサンを殺していたかもしれない。そう思うと怖くてぞっとする。だから、エリファレットを助けたのは自分のためなのだと説明すると、彼は納得した。
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