悪役令嬢の腰巾着で婚約者に捨てられ断罪される役柄だと聞いたのですが、覚悟していた状況と随分違います。

夏笆(なつは)

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35.側面のお話<焼却炉事件>パトリック視点2

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「アーサー!パトリック!ローズマリーとリリーがあたしの教科書を盗んだの!っていうか、主犯はローズマリー!ふたりはグルなのよ!」 

 俺とアーサーが教室に着くや否や、激烈桃色迷惑女が俺たち目掛けて走って来た。 

「リリー。こちらへおいで。僕の腕のなかへ」 

 そんな激烈迷惑女を避け、アーサーはリリー嬢をしっかりと腕のなかに収める。 

「ローズマリー。遅くなってすまない」 

 そして同じく激烈桃色迷惑女を避けた俺は、ローズマリーがクラスメイトに守られているのを見て、心から安堵した。 

 彼女、彼らはローズマリーを責める様子など微塵も無い。 

 むしろ、激烈桃色迷惑女へ疑惑の瞳を向けている。 

 これなら、ローズマリーの不安も小さいだろうと、俺は事件の早期解決に全力を注ぐことにした。 

  

 ローズマリー。 

 すぐに、君の無罪を証明してみせるから。 

 

 心のなかでそう誓い、俺はローズマリーを背に激烈桃色迷惑女と正面から向き合う。 

 思えば、この女とこんなにも向き合うのは初めてで、向けられる媚びを含んだ笑みに不快感を覚えた。 

 それでも、俺が向き合ったことで勝機ありと思ったのか、激烈桃色迷惑女が更ににじり寄って来て、俺は反射的に後ずさろうとして思いとどまる。 

 

 ここで、自爆してもらおう。 

 

 思うに、この騒ぎは、ローズマリーが言っていた『焼却炉で教科書を燃やす』事件だ。 

 ならば、”あれ”が役に立つ。 

 だが、焼却炉へ自然に行くためには、激烈桃色迷惑女を誘導しなくてはならない。 

 俺は、気合を入れて言葉を紡いだ。 

「ローズマリーが、君の教科書を盗んだ?」 

「そうなの!」 

 そんな訳あるか、と思う俺の前で激烈桃色迷惑女が嬉しそうに言う。 

 俺の表情から、俺の内面は読み取れないらしい。 

 やわらかな微笑みさえ浮かべ、相手に自分の味方と思わせる。 

 貴族らしいと言われるそれは、もはや俺の特技と言ってもいいのだから、激烈桃色迷惑女如きが読み取れないのも無理はないと思う。 

  

 しかし、こんな表情、ローズマリーには見せなくないな。 

 

 思う俺は、ローズマリーが背後にいてよかった、と心の底から思いつつ、簡単にかかった激烈桃色迷惑女から更なる言葉を引き出す。 

「なんのために盗んだんだ?」 

「焼却炉で燃やすためよ!」 

「焼却炉で燃やすため?君は、どうしてそれが判った?」 

「知ってるの!パトリック攻略の大切なイベントだから!それなのにアーサーの婚約者のローズマリーがメインでやるのってなんか変、って思ってたけど!」 

  

 こいつ、本当に馬鹿なんだな。 

 

 しみじみとしたそれが、その時の俺の感想だった。 

 焼却炉、という言葉を引き出したかったのは俺で、そのように誘導はしたが、ここまでしゃべり尽くすとは思わなかった。 

 意味の通らない様々な言葉は妄言として周囲に捉えられ、信用を失うばかりだというのに。 

 

 それにしても。  

 やはり、物語、を知っている、ということか。 

 

 攻略の大切なイベント、というのはよく判らないが、恐らくは場面のことなのだろう。 

 そしてここでも物語の”パトリック”は、激烈桃色迷惑女を擁護するらしい。 

 何とも不愉快な話だ。 

 思う俺の内心など知らない激烈桃色迷惑女が、期待の籠った目で見てくる。 

  

 鬱陶しい。 

 気持ち悪い。 

 

 一刻も早く真実を明らかにして、ローズマリーの瞳で浄化してもらおうと思う俺に、ウィルトシャー級長が苦い声を発した。 

「ウェスト公子息。彼女の話を信じるのか?」 

 その不快な言葉に、しかし俺は、俺の態度が激烈桃色迷惑女だけでなく、クラス全員にとって激烈桃色迷惑女の言葉を信じているもの、と捉えられていると知って愕然とした。 

 それは、当然ローズマリーも。 

 瞬間、俺はローズマリーに向き直って、真実を話ししてしまいたい衝動に駆られた。 

 他の誰に誤解されたとしても気になどしないが、ローズマリーは別だ。 

 ローズマリーにだけは、誤解されたくない。 

 しかし、ここで急いてはすべてが水泡に帰す。 

 俺は何とか思いとどまって、ウィルトシャー級長に視線を向けた。 

「精査する必要はあると思っている」 

 それはもちろん、激烈桃色迷惑女の所業を明らかにするため。 

 けれど、周りはそうは思わないのだろう。 

 困惑の視線が幾つも俺と激烈桃色迷惑女、それにウィルトシャー級長を行き交うのを感じた。 

「みんな信じていないでしょう!?ねえ、パトリック、本当だもんね」 

 そして、その筆頭である激烈桃色迷惑女は、俺へと手を伸ばし擦り寄って来ようとした。 

 

 ああ。 

 これが、ローズマリーだったら。 

 

 そうしたら、優しく抱き寄せ抱き締めて、その頭を優しくぽんぽんするのに。 

 

 なんてことを想像しながら、俺は激烈桃色迷惑女をするりと避けた。 

「じゃあ、確認しに行こうか」 

 言いながら、俺はローズマリーを視界に捉える。 

 

 ローズマリー。 

 

 思ったよりずっと不安そうなローズマリーに、俺の心は痛み、すぐにも抱き寄せたくなる。 

 けれど、もう少しの我慢だ。 

 

 ローズマリー、あと少しだから。 

 

 想いを込めて、俺はローズマリーに大丈夫の合図として、心を込めて片目を瞑って見せた。 

 

 
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