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十六、
しおりを挟む「あ、かおちゃん。おかえりなさい。お母さん、これからちょっと出かけて来るから」
「う・・うん。いってらっしゃい」
「行って来ます」
薫が学校から帰ると、母の小百合はちょうど出かけて行くところで、ふたりは玄関で、ひらひらと手を振り合った。
「え。あれ。もしかして、本当に?」
中間試験の最終日。
つまり今日は、薫の誕生日であるにも関わらず、母は出かけて行った。
しかも、すぐそこのスーパーに行くのではなく、駅前に映画でも観に行くような服装だったと思い、薫は二週間ほど前のことを思い出した。
『薫。今年の薫の誕生日なんだが。父さん、仕事で遅くなりそうなんだ。ごめんな』
『ううん。大丈夫だよ。仕事頑張って。お疲れ様』
会社へ行く前の父に、そう言われたのは四月一日の朝。
そして、その午前中のうちに、薫は将梧を筆頭に、母小百合からも、将梧の母紗枝からも、当日の約束は出来ないと言われてしまった。
『ごめん、薫。薫の誕生日なんだけど。今年は模試と重なって、時間が取れそうにない』
『お、そうなのか。いいから気にすんなって。勉強頑張ってな』
『ごめんね、かおちゃん。かおちゃんのお誕生日に、お母さん、お出かけしないといけなくなっちゃって』
『平気だって。ただ、おかしな勧誘に引っかかるなよ?』
『薫ちゃん、ごめん!紗枝ママ、薫ちゃんのお誕生日に、お友達と約束入れちゃったの!』
『あ、そうなんだ。楽しんで来て』
「・・・うん。確かに、そう言ったけどさ」
妙にがらんとした感じのするリビングに呆然と立ち、薫はそう呟いた。
確かに、これまでずっと当日に祝って来てくれたみんなが、今年は揃って薫の誕生日に用事が出来たと言い、薫は、それに対し仕方がないし、大丈夫だと答えた。
けれどそれが、こんなにも空虚なものだとは、思いもしなかった。
「俺って、恵まれていたんだな」
両親が居て、将梧や将梧の両親が居て。
薫は毎年、笑顔のなかで誕生日を祝われて来た。
それを当然のように思っていたことが、既に幸せだったのだと実感していると、姉・・風子からのお祝いメッセージが届いた。
《薫。お誕生日おめでとう。まずは気持ちだけ。プレゼントは、気が向いたら》
「んなこと言って、毎年ちゃんとくれるくせに」
風子は『顔を見て、ちゃんと渡したい』と言って、誰の誕生日の時も品物だけ送るということをしない。
今は仕事をしていて、時間を取るのも難しいだろうに、当日ではなくとも、ちゃんとプレゼントを携えて帰って来る風子を、薫は改めて凄いと思った。
「今年は、ひとりか」
思えば、赤飯が炊ける匂いがしない誕生日も、小百合が忙しく料理を作る音がしない誕生日も初めてだと、薫は、自分の足音が響く階段を上る。
「バイト。入れてもよかったかも・・・はあ」
薫は、将梧の部屋もしんと静まり返っているのを見て、ベッドにどさりと倒れ込んだ。
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