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しおりを挟むそんな風に、日々じゃれ合うように過ごして、結婚式まであと三日となったその日。
「ノア。なに、それ」
お湯をたっぷり使って一日の疲れを癒した俺が、濡れた髪をがしがし拭きながら寝室へ行けば、そこには布を被せた何かが置いてあった。
「これは、新しい魔法淫具です」
食卓の椅子を二脚ほど並べたほどの大きさのそれを、何だろうと見ながら立ったまま水を飲んでいた俺は、その言葉に思い切り咽る。
「なっ・・・おま、平然と言うなよ!」
「あんなに色んな魔法淫具をその身に使ったのに、本当にカイは初心ですね」
「俺が初心とか。身の毛がよだつようなこと言うな」
一体何人と性交したと思ってる、と俺が自分の腕を擦ればノアが意味深な笑みを湛えて俺を抱き寄せた。
「でも、貴方のアナルを知っているのは私だけ、ですよね」
「んあっ」
そして囁くように言われ、アナルを寝巻の上からなぞられて、出したくも無いのに甘い声が出てしまう。
ほんと、このひと月ほどで俺の身体は大きく変わった。
「カイ。私の愛しい花実」
抱き寄せられ、口づけられて舌を絡め合う。
花実。
この、俺が。
花実とは、子を孕み産む個体のこと、もしくはその誓いをした相手のこと。
子を儲けるためには、身籠るまでただひとりの相手とのみ性交し続けることが必須で、その間にもしどちらかが浮気をすれば、すべては振り出しに戻ってしまう。
しかも、子を得るのにかかる時間は平均して五年と言われ、それ以上かかるペアも珍しくない。
故に、子を持った花実とその伴侶の絆はとても強いと言われている、のだが、そもそも俺は婚姻するつもりさえなかった。
たったひとりとだけ性交し続けるなんて、人生無駄にしているようなものだと思っていた。
思っていた、のに。
「ん・・く・・」
ノアの舌が俺の口腔に入り込んで、舌に絡みつき強く吸いあげられる、その度に腹の奥から熱が込み上げて、アナルが濡れるような感覚に戸惑う。
実際には未だ濡れることは無いアナルだけれど、濡れるようなその感覚と共に俺のなかがぐずぐずに溶けるようで、そうなればもう、そこに思い切りノアの熱い楔を打ち込んで欲しくて、身体全体でノアを感じたくて堪らなくなる。
「んっ・・・ノア・・・もっと・・」
「カイ」
夢中でノアの舌と唇を貪っていると、ノアの手が俺の寝巻の中に入り込み、その長い指が俺のアナルに直接触れた。
「ん・・・」
ノアが何をしようとしているのか理解して、俺は片足をあげ、ノアに縋るようにして出来るだけアナルから力を抜いた。
つぷ。
そこに入り込むのは、ジュレボール。
ゼリーのようなそれは、俺のなかで溶けて潤滑油の役目をしてくれる。
未だ、自力ではアナルが濡れない俺のために、ノアが考えてくれた逸品。
いつか、これも要らなくなるんだな。
浮気をせず、ノアとのみ性交を続けていれば、花実の準備として、俺のアナルは自然と濡れるようになるはずで、そうしたらこのジュレボールを入れることもなくなるんだな、なんて、俺はその日が来るのが楽しみなような、怖いような気持ちになった。
これが、互いにアナルに突き入れ合うペアなら、どちらが花実になるのかは身籠るまで判らない。
けれど、俺とノアの場合、俺が花実となるのは確実、な訳で。
「・・・って、ノア。お前なにして」
ノアとの口づけに酔い、その指の動きに身を任せつつも複雑な思いでもいた俺は、いつのまにかノアに抱き抱えられ、布のかかった何かの前に居た。
新しい魔法淫具だと言っていたそれがどんなものなのか判らない俺は、少しの不安とかなりの興味を持って布を外すノアの動きを見つめる。
「カイに、これを試してみてほしくて」
そう言って取り去られた布の下から姿を現したのは、見事な細工の黒い木馬。
しかしその背にある隆々とした木製の異物が、それが普通の木馬でないことを物語っている。
試せって?
これを俺に?
「何これ。背中に角があるユニコーンの新種?」
初めて見るものではあれど、先に淫具だと聞いていたので、その使用用途は想像できる。
だがしかし、それを自分が試すのはちょっと遠慮したい、と思いつつ、ちょっとぼけてみる。
「聖なる、と言われる伝説のユニコーンですか。そこに妖精のカイが乗るというのは、いいですね凄く」
しかし、意外と真面目な顔でノアに返され、俺は言葉を失った。
俺を妖精って言う奴がいるとは思わなかった。
「・・・・・」
脱力の余り何を言い返す気力もなく、黒々と見事な馬の背にある異物を眺めていると、ノアが説明を始めた。
「この間の”実演販売”の評判を聞いたという娼館の主から依頼を受けまして。それが、複数の客が見て同時に楽しめるような魔法淫具を作って欲しい、というものだったのですが、うまいこと思いつかずどうしたものかと思っていたのです。私は既にひとり遊び用の魔法淫具を作っていますし、この先の私にはカイだけが居てくれればいいので、新たに、複数で楽しめるもの、と言われても、と困っていたのですが、それを突破させてくれたのがカイだったのです」
嬉しそうに言いながら、ノアは俺のアナルを拓いて行く。
木馬に手を突き、ノアにアナルを解されながら、俺は木馬に隆々と立つそれから目が離せない。
黒く立派な木馬の背にあるには、明らかにそぐわないそれ。
それが何のためにあるのかなど、この状況で判らない俺ではない。
ない、が。
「なあ、これ。俺が試さないと駄目なのか?」
出来るならこれに乗りたくない、と、俺は諦めきれない思いで後ろのノアを振り返り言った。
「ええ、もちろん。だってこれはカイのお蔭で出来たものなのですから」
「え?俺?別に、何もしてないけど」
本当に、何かをした覚えなど無いのに、何故今こんな状況に陥っているのか教えてほしいとノアの目を見れば、その顔に浮かぶのは満面の笑み。
「してくれたんですよ。言ったでしょう?行き詰まっていた私に突破口を開いてくれたのはカイだ、と」
「覚え、ないけど」
何をした覚えもない、と繰り返せばノアが俺の耳をかぷりと噛み、ねっとりと舐りながら囁いた。
「覚えていませんか?私の上に乗って、暴れ馬を操るが如く乱れてくれたこと。あの時のカイの姿で、閃いたのです」
「んなっ・・・あっ」
そんなことから閃くなよ、と言いかけた俺を抱き上げ、ノアが木馬の背に乗せた。
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