27 / 38
二十七、怒り ~ベルトラン視点~
しおりを挟む「過酷な訓練を乗り越え、見事修了の栄誉を得た諸君を誇りに思う。これからも、国のため、その実力を遺憾なく発揮していってほしい」
魔法騎士の特別訓練終了時、王太子セリオは自ら赴き、訓練を無事修了した者、即ち訓練に合格し、伯爵の地位を得たものを讃えていた。
「そして、なかでも優秀であったベルトラン・カルビノに、遊撃の地位を与える」
王太子セリオがそう告げた時、周りからは大きな拍手があがり、ベルトランも会釈でそれに応えはするものの、セリオが瞬きで告げて来る内容に、怪訝な思いが拭えずにいた。
『この先、何があっても逆らうな。流れのままに行け』とは、どういうことだ?
この場の誰も知り得ない、瞬きでの合図。
ベルトランが高位貴族であり、王太子セリオと近しい存在であるがために理解できるそれを、今ここで王太子セリオが使う、その意味とは何なのか、ベルトランは計りかねてて、ひとり首を捻る。
先ほどまで、無事に修了したこと、そして首位はベルトランであったことを教官から発表されたことで、気分がとても高揚していた。
それはもう、周りも驚くほど。
そして『ロブレス侯爵令嬢に会いたい、今すぐ会いに行きたい、というのは、物凄く理解できるが、風呂には入ってから行けよ!?』と、フィデルに止められるほど、翼でも生えたかという勢いでフィロメナを訪なうつもりでいたベルトランは、ここに来て、不穏な何かを感じ取る。
誰かが危害を加えて来る可能性があるが、抵抗するなということか?
しかし、俺に直接接触することなく、こんな形で伝えるということは、王太子の声が聞こえる範囲、王太子の行動を見ることが出来る範囲に、相手方の者が居るということだろうな。
それにしても、俺に手を出して、何の得があるんだ?
まさか、マリルー王女か?
その名に思い至った瞬間、不穏だった思いは不快さへと変化した。
しかしそれなら、王太子セリオが、このような形で伝えて来るのも納得できると、ベルトランはため息を吐きたくなる。
『何があっても逆らうな』か。
はあ。
漸く、フィロメナに会えると思ったのに。
・・・まさか、秘密裡にマリルー王女と婚姻させるつもりではないよな!?
そんなことであれば、即座に反旗を翻すと、ベルトランは己の瞼を動かした。
「悪いな、カルビノ公爵子息。だが、目立つお前が悪いんだよ。第二騎士団でおとなしくしていればいいものを、近衛に移動して、そのうえ特別訓練を見事な成績で修了するなんて。はっ。反吐が出る」
近衛では見ない顔だが。
誰だ?
王太子セリオが『マリルーと婚姻など考えていない!むしろ、そうならないためだ!』と合図をして来たことで安堵したベルトランは、散会と同時に接近して来た近衛の制服を来た男に、大人しく拉致された。
しかし、どう考えても近衛では見たことが無いと、考え込む。
「何だ、その顔。ああ、俺が近衛の制服を着ているのが不思議なのか。俺はな、本当なら近衛の、しかも団長になれる男だったんだよ。それを、あいつが横取りしやがった。近衛になれるのは、俺だった筈なのに」
「・・・『筈だった』つまりは、近衛ではないということか」
ならば俺を拉致するため、王城内を歩いていても不審がられないために近衛の制服を着用しているのかと納得したベルトランに、男が眦を吊り上げた。
「俺は優秀だったんだ!だが、あの男のせいで士官学校の主席を逃して」
「次席でも、充分近衛の資格はあるだろう」
確かに、近衛になるためには、貴族位があることと、士官学校を優秀な成績で卒業していることが必須ではあるが、何も主席である必要は無い。
何なら、次席でも三席でもなくても近衛にはなれるし、優秀者が揃った年などは通常より多く採用されることもあると、ベルトランは士官学校時代に聞いた。
「俺は!本当に優秀だったんだ。親にも、間違いなく近衛になれると言われていたし、陛下たちだって・・・・・!」
「ならば、近衛になれた筈だろう。ましてや、団長になれるほどだったのなら、落ちる筈もない」
この男のことなどどうでもいいが、ここで下手に怒らせてもまずいかと、流すように言いながら、ベルトランは男が連れて行こうとしている場所を推察する。
こちらは、南の塔か。
騎士を収監するための場所とは、愚弄してくれる。
「お前を失墜させて、あの男に責任を取らせる。くくっ。俺を貶めたあいつが、どんな吠え面をかくのか、楽しみだ」
楽し気に笑った男は、音を立てて鍵を閉めると、揚々とその場から去って行った。
「賑やかな男だ。で、つまり。団長を貶めたいがために、俺を嵌めるということか?意味が分からん」
ともかく、暫く大人しくしているかと椅子に座ったベルトランは、ほどなくして、一羽の鳥が窓に止まるのを見た。
「王太子か」
王太子が使役しているその鳥の脚に結わえられた手紙を、ため息と共に読んだベルトランは、瞬時に怒りをその顔に宿す。
「フィロメナに、何をするつもりだって?」
そこに書かれた、国王と王妃、そしてマリルーの計画。
「フィロメナ・・・・・!」
既に進みつつあるが、必ずロブレス侯爵令嬢は守る、歯がゆいだろうが、暫く大人しく待機していてくれと書かれたそれに、ベルトランは生まれて初めて感じるほどの強い焦燥に駆られ、怒りの拳を震わせた。
~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、ありがとうございます。
823
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の婚約解消理由
七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。
婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。
そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。
しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。
一体何があったのかというと、それは……
これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。
*本編は8話+番外編を載せる予定です。
*小説家になろうに同時掲載しております。
*なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。
【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね
さこの
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。
私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。
全17話です。
執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ ̇ )
ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*
2021/10/04
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。
ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。
婚約者の愛が自分にあることを。
だけど、彼女は知っている。
婚約者が本当は自分を愛していないことを。
これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。
☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる