魔法師と補佐〜実演販売補佐1回の報酬が市民権!?それってうさん臭過ぎるだろ〜

夏笆(なつは)

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魔法師と補佐〜実演販売補佐1回の報酬が市民権!?それってうさん臭過ぎるだろ〜

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 誘われたから、いつも通りの軽い感覚で抱いたら、婚約者を捨てるほどの本気だと言われて、俺にそんなつもりは無いと言ったら相手の親が激怒した。 

『僕と結婚してくれたら、それで大丈夫だから』 

 俺を誘って来た奴はそう言って縋って来たけど、無理だと突き放したら市民権を剥奪されたうえ、王都を追い出された。  

 そんな権力者の息子が俺に惚れるなよ、って話だが、知らずに食っちまった俺も悪いのか、と、早々に諦めて引っ越し先に選んだのは、歓楽都市と呼ばれるこの国で二番目に大きな街。 

 さして悲嘆もせず、さて新しい街でまた食いまくって暫くは適当に養ってもらうか、と思っていた俺は、僅か一日にして、それが難しい現実を知った。 

 今の俺には市民権が無い。 

 つまりそれは、普通の暮らしが出来ない、ということに他ならない。 

 なので、家を借りるのもスラムになってしまうだろう、という予測はしていた。 

 だからこそ、適当な鴨を見つけて、と思っていたのだが、その鴨が捕まらない。 

 否、正確に言えば、俺が声を掛けた段階での感触は悪くない。 

 だが、皆すぐに俺が市民権を持っていないことを見破り、そんな奴は相手に出来ないと去って行く。 

 

 市民権持っていないなんて、すぐ判るものなのか? 

 

 少なくとも、王都ではそんなことは無かった、と夕暮れ間近の公園のベンチにひとり座っていると、ひとの近づく気配がして影が落ちた。 

「カイ ベックさんですね。初めまして。私は、この街で魔法師をしています、ノア レーヴと申します」 

 顔をあげれば、そこには俺と変わらないくらいの年の、けれど俺とは大違いの紳士然とした奴が立っているけど、その顔に見覚えは無い。 

「人違い、って言ったら?」 

 俺は知らないのに、相手は俺を知っている。 

 それが良い状況の訳は無いと警戒を強めれば、そいつは余裕の表情で、ふっ、と笑った。 

「市民権。欲しくないですか?」 

「は?」 

「この街では、市民権を持っている証として腕輪をしているんです。そこには市民登録された番号と氏名、生年月日が彫られていて、他の人間が嵌める事は出来ない」 

 淡々と言われ、俺はその似非くささに顔を歪めた。 

「何それ。盗んで嵌めたりできない、ってこと?どうやって、そんな」 

 腕輪なんて、誰でも嵌められるだろう、と不信感満載で俺が言えば、そいつは徐に自分の腕輪を外した。 

 そして、そのままそれを俺の手首に嵌めた、その瞬間。 

「あっっつ!熱い熱い熱い!」 

 それが、突然発火したかの如く強烈な熱を放った。 

 それはもう、腕輪を着けられた腕を、振り回さずにはいられないほど。 

「と、まあ。こうなるので、他人が嵌めることは出来ないのです。ああ、火傷などはしないようになっていますからご心配なく」 

「なっ・・!何がご心配なく、だよ!しれっとして言うなよ!口で説明すればいいだろ!」 

 慌てて外し、怒鳴りながら投げ返しても、男は飄々とした態度を崩さない。 

 しかも、全力で叩きつけるように投げたのにも関わらずあっさりと受け止められてしまって、無茶苦茶それも気に入らない。 

 なのに、男は尚も飄々としたままで。 

「実感した方が早いと思いまして。とまあ、こんな具合ですから貴方が市民権を持っていないことは直ぐにばれてしまいますし、この街は王都より更に市民権を持たないひとは生きづらいと言われています。ね?市民権。欲しいでしょう?」 

  

 胡散臭い。 

 ものすっごく胡散臭い。 

 

 思いつつ、座ったままじとりと見上げれば、殊更にっこりと微笑まれた。 

 本当に、胡散臭いことこのうえない。 

「簡単に言うけどな。市民権、幾らすると思ってんだよ。それを買ってくれる、っていうのか?あんた、俺に何させようってんだ」 

 市民権は金で買える。 

 だが高い。 

 一般市民の平均年収十年分は軽く超えると言われるほどに高い。 

 それが報酬だなんて、かなりやばい仕事をさせられるだろうことは想像に難くない。 

「そう、ですね。私が買ってさしあげる、というよりは、貴方に稼がせてさしあげる、のです」 

 案の定、俺が言った言葉に、奴は言葉遊びのような言葉を返して来た。 

 それに対し、俺は、けっ、と鼻を鳴らす。 

「やばい仕事だってことに変わりはないだろうが。言っておくが殺しなんて絶対にしないからな」 

 初物だろうと既婚者だろうと、誘われれば遠慮なく食って来た俺だけど、犯罪に手を染めたことは無い。 

 そんなことは絶対にしない、と強く言えば男は楽しそうに笑った。 

「知っていますよ。下半身の節操は無いけれど意外と真面目で頭が切れる、んですよね」 

「なんだそれ」 

 何の評価だよと思っていれば、奴が更に笑みを深くする。 

「私が、貴方を調べた結果ですよ。カイ」 

「馴れ馴れしいな。それに、調べたってなんだよ」 

 

 俺を調べた? 

 こいつが? 

 いつ? 

 やっぱり前に会ったことあんのか? 

 

 ぐるぐる考えていると、奴はとんでもないことをぬかしやがった。 

「では、私のこともノアと。調べた、というのは貴方が私の仕事相手にピッタリだと思ったからです。あ、最初に貴方を見かけたのは今日の朝、この街の門で、でして。そこで貴方が王都から追放されて来たひとだと知れました。もちろん、普通はそんなこと出来ませんから治安は安心してください。まあ、色々コネや伝手を使って調べたんです」 

「・・・・・何者?」 

「私はしがない魔法師です」 

「まあ、いいや。それで?俺にさせたい仕事ってなに?」 

 追及しても、のらりくらりと躱されるだけだと悟った俺は、早々に真相を聞くのを諦めた。 

 こういう奴は、問い詰めるだけ時間と労力の無駄遣いだって知ってる。 

 まあ。 

 俺がよくやる手だから、その判断に間違いはない。 

「お話が早くて助かります。カイには、実演販売での私の補佐をして欲しいのです。そうですね、洋品店のショウウインドウに居る人形。あんな感じでしょうか」 

「洋品店のショウウインドウに居る人形、って、あの服着てる奴だろ?あんた、服飾の仕事もしてんの?」 

 街の店で見かける人形を思い出し、俺は首を傾げる。 

 

 こいつ、自分のこと魔法師だって言っていたよな? 

 最近の魔法師は、服飾業も兼任すんのか? 

 

「いえ。カイにお願いしたいのは、私の魔法具を実際に使う、補佐です」 

 そんな俺の疑問を打ち消すよう、そいつはそんな説明を加えた。 

「魔法具を使う補佐?その実演販売の、ってこと?それって何回?」 

「一晩、というか、一度です」 

 それを聞いた俺は、余りの有り得なさに顔を歪めた。 

「それで市民権買えるほどの金をくれるってか?どんな目に遭わされるんだよ。悪いけど俺、痛いの嫌いだから」 

 攻撃型の魔法具の実演、なんて怪我するだけじゃ済まなさそうだから嫌だと言えば。 

「カイの身体を傷つけるような真似は絶対にしません。ただ、貴方のアナル処女を公開喪失して欲しいのです」 

「・・・・・」 

 奴は、にこにこしたまま、俺の予想を遥かに上回る下種な発言を堂々と口にした。 

 

 

 

 

 

 

 結果として。 

 俺は今、ノアの私物だというドレスシャツ一枚を素肌に着た情けない姿で、ステージと思しき場所に立っている。 

 俺の横には、とても普通とは言えない拘束器具付きの椅子。 

 そしてノアは、用意したテーブルに色々な魔法具を並べている。 

 

 やっぱ、早まったかな。 

 

 思っても、もう遅いことは俺にも判る。 

 俺が居るステージのある会場には、客と思われる人間が次々と入って来ていて、ひとりひとり、やけにゆったり取られた席に座って行く。 

 その好奇の目がほの暗いステージに立つ俺に注がれているように感じるのは、決して自意識過剰ということではないだろう。 

 奴らは、今日ここで何の実演販売が行われるのか、知っていて来ているのだから。 

『大丈夫ですよ。アナル処女を公開喪失してもらう、とは言いましたが、人前で犯すわけではありません。ただ、魔法具を使って処女アナルでも感じられるようになる、という実演をするだけですから』 

 だけ、というノアに、俺はそれでも不安しか感じられず、その言葉を真摯に否定した。 

『俺、アナルなんて触らせたことないから、感じたりしないぞ?』 

 実演販売というのなら、それでは仕事にならないだろう、と俺が言えばノアがそれは嬉しそうに笑った。 

『だからいいのです。誰の目から見ても完璧なるアナル処女。誰にも触れさせたことが無いなんて、百戦錬磨のお客様には見ればその蕾の固さで判るでしょう。だからこそ、敢えてそこを拓いていくのです。その様子を見るだけでも、魔法具の素晴らしさは理解してもらえると思います』 

 ノア曰く、この街は歓楽に満ちているけれど、淫具としての魔法具はなかなか認めてもらえないのだということ。  

 魔法具を使った性交の素晴らしさ。 

 それを世間に伝えたいのだ、と熱心に説かれ、俺はいつのまにか了承の頷きを返していた。 

 

 俺も結構ちょろいよな。 

 

 ノアの熱心さに流されてしまった形だが、その内容は、と改めて俺はテーブルに並ぶ魔法具を見た。 

 淫具、とは聞いているものの、初めて見るそれらを、どう使うのかなど全く知らない。 

 それでも、市民権を得た後に誰かに使ってみるのもいいかもしれない、などと思いつつ、俺は用意が整っていくやけに豪華な会場を見るともなく見ていた。 

 

 

 

「長らくお待たせいたしました。これより、本日の実演販売を始めます。ショウを見ていていいと思った物は、その場でご購入いただき、即座にご使用いただくことも可能です。では、素晴らしき夜となりますように」 

 この会場のオーナーだという男がそう挨拶して下がって行くと、魔法師らしい衣装に身を包んだノアが、客席に向かって頭を下げた。 

  

 なんか、格好いい。 

  

 裸足で、ドレスシャツ一枚の恥ずかしい姿の俺に対し、若き紳士そのものの様相のノアに、俺は不満を覚えずにいられない。 

 

 まあ、雇い主だからな。 

 

 それでも、今回はそういう立場なのだから、と、だぶだぶとしたドレスシャツの腕を擦り寄せ何とか気持ちを落ち着けた。 

「皆様。本日は実演販売へのご参加、まことにありがとうございます。本日は、先に発表してありました通り、アナル処女の開発魔法具の販売を行います。もちろん、アナル処女でなくとも楽しめる魔法具も用意してありますので、ご堪能ください」 

 そこで一礼したノアは、本当に紳士そのものなのに、男臭くもあって。 

 

 格好良すぎるだろ。 

 

 思わず見惚れそうになっている間に、ノアが俺の前に立った。 

『大丈夫ですよ、カイ。緊張しないで』 

 客に向かうのとは違う、俺の脳に直接届く優しい声でそう言うと、ノアは俺の顔に幅広の紗を掛け、額飾りできちんと止めた。 

 そうされることで俺の視界もかなり悪くなったが、客から俺の顔が見えることも無くなり、俺は、ほっと安堵の息を漏らす。 

「では、始めます」 

『カイ、椅子に座って』 

 言われて俺は、用意されている怪しさ満載の椅子に座った。 

 そうすると、ドレスシャツの裾があがって、足の付け根が見えるか見えないかの状態になってしまう。 

『私のドレスシャツを着ているカイ、とても可愛いですよ』 

 そんな俺を見つめるノアにうっとりと囁かれても、ちっとも嬉しくない。 

 俺の身長は、ノアとそう変わらない。 

 それなのに、このシャツはやけにでかい。 

 袖なんて、ぶかぶかして指先まであるほど。 

 更に具体的に言えば、肩幅や身頃も。 

 つまり、俺とノアでは身体の厚さが違うのだ。 

  

 こいつ、結構筋肉付いてんだろうな。 

 

 ひょろりと細い我が身を思い、俺がため息を吐いている間にもノアは動き回っていて、気づけば両手は身体の脇で固定され、両足は緩く開いた状態で固定されていた。 

『痛くは無いでしょう?これも、私の作品なんですよ』 

 自慢するように言われても、客席に見えそうになっている足の付け根が恥ずかしく、気になって仕方ない俺は、それどころじゃない。 

「それでは、始めましょう。今日補佐してくれる彼は、これまで数多のアナル処女を食って来た側の人間です。ほら、逸物も立派ですよね」 

「っ!」 

 楽し気に話ししながら、ノアは短い杖を器用に操り、あろうことか俺のドレスシャツの裾を捲った。 

 当然のように、客の視線に晒されるそれ。 

 しかもその時、実演販売の始まりを告げるかの如く、ステージの照明が格段に明るくなった。 

 代わりのように暗くなった客席からは、この痴態がくまなく見えていることだろう。 

 思うだけで、身体、陰茎が熱を持ちそうになる。 

 

 客は、三十人くらい、だったか? 

 

 かなりゆったりと取られていた席はすべて埋まっていたけれど、総数にしてもそのくらいだった、と俺は関係の無いような事を思い気を逸らした。 

 色々経緯があったとはいえ、この仕事を受けたのは俺だ。 

 この会場があるホテルの一室で裸に剥かれ、身体を洗われ、あのドレスシャツ一枚を着せられた時にしたはずの覚悟を、俺はもう一度思い出す。 

 

 アナルでは、感じなくていいんだから。 

 

「今は萎えている状態でこの大きさです。これを、完全に勃起した状態でアナルに挿れられれば、前後不覚に善がる気持ちも判るというもの。ですが今日彼は、生まれて初めて他者のアナルに挿入するのではなく、自分のアナルに挿入されて快感を得ることになります。とはいえ、いきなりは無理というもの」 

 そんな口上と共に、ノアは短い杖を下ろした。 

 それと同時にドレスシャツが俺の逸物を隠し、ざわめく会場を余所に、俺は、ほっと肩の力を抜く。 

「まずは、じっくりと他の性感帯を探っていきましょう。ご覧ください。こちらは、噛み付きスライムから着想を得ました魔法具です。これを、どこに装着するかと申しますと・・・ここです」 

「いっっ!」 

 いきなり、ドレスシャツの上から乳首を抓まれて、俺は痛みに顔を歪めた。 

「おっと、こちらも未開発でしたか。でも、大丈夫です。今は快楽を拾うことも出来ませんが、そのうち、のたうつほどに良くなりますから」 

 勝手な事を言いつつ、ノアがドレスシャツを胸が見える位置までたくしあげた。 

「なっ」 

「さあ、自分の口で咥えて押さえて」 

 そして、それのみならず会場全体に聞こえるようにそう命令されて、俺は歯ぎしりしたい思いを堪えてドレスシャツを思い切り噛んだ。 

『ふふ。そんな抵抗も可愛いだけですよ』 

 

 こいつ、変態! 

 

 思う俺の両方の乳首に、透明のジェル状の物が装着される。 

「こちらの魔法具は、扱う人間の魔力を流すことで自在に動かすことが出来ます。例えば、こんな風に微弱な雷系を落とすと」 

「っ!ぐぅっ!」 

「このように、胸に吸い付いた魔法具が、ひっかくように動いたり抓ったり、と、魔力を流した人間が思うだけでそういった動きをしてくれるようになります」 

  

 なっ、痛いからやめろって! 

 

 思っても、噛み付きスライムもどきが俺から離れることは無い。 

「はい、なんでしょう、そちら様・・・ああ、よく見えない、ですね。畏まりました。では、もっとよく見えるようにいたしましょう」 

 その時、客のひとりが何かを訴え、それを受けたノアが何かを操作すると椅子が動いて俺の身体が仰け反るような状態になった。 

 そして、胸のあたりに何かが浮遊して来て。 

 

 なんだ、あれ。 

 

 見たことも無いそれを俺が不審に思っていると。 

「「「「おおお」」」 

 会場が、どっとどよめいた。 

 一体、何のどよめきなのか。 

 それを益々不思議に思っていると。 

『これはですね、カイ。その部分だけを拡大して見せることが出来る魔法具なのですよ。もちろん、私が作ったものです』 

 ノアが、こそっと耳打ちしてくれた。 

  

 ああ、なるほ・・・っっ!! 

 なんだってっ!? 

 

 ノアの説明に納得しかけた俺は、それがどういう状況なのか理解して赤面せずにいられない。 

 だってつまりは、俺の乳首が拡大され、会場中に視姦されている、ということで。 

  

 うげ。 

 

 俺の感覚として、そこは何かが張り付いている、という印象しかないものの、視線を落とせば透明なジェル状の何かが俺の乳首を吸ったり突いたりしている訳で。 

 その状態に興奮した会場が、我先にと魔法具を購入している、というその状況。 

 

 まあ。 

 確かに赤くなりつつあって、そそる、のかも。 

  

 しかし、その事実を前に俺は冷静さを取り戻してしまった。 

 

 これ、本当に気持ちよくなんのか? 

 

 視姦されている、という事実はあるものの、羞恥とは別、特に何とも感じない俺は、割かし冷静にそんなことを思っていた。 

「それでは、こちらは後ほどのお楽しみ、ということで。次はこちらでございます」 

 言いつつノアが手に取ったのは、白い布製の、ごく普通の手袋だった。 

 正直、手袋で何すんだよ、って気持ちだったが、それは会場も同じだったようで。 

「もちろん、ただの手袋ではございません」 

 けれど、そんな反応は予想済み、と言わぬばかりに微笑んで、ノアがそれを手にはめると同時、それはきれいに消え去った。 

 手袋が、ノアの手と同調するように消えてしまったのである。 

 

 え? 

 どういうこと? 

 

 疑問に思った俺同様、会場も騒めくのを押さえ、ノアはそのまま、素手に見えるそれで俺の身体に触れた。 

「んっ」 

 けれど、それは素手などではなくて。 

「これは、扱う者の手に馴染んで、素手そのもののように扱えますが、機能は素手とは違い多種多様でございます。まず、多くの突起が隠されていますので、強く触れれば吸いあげる動きをしますし、撫でれば毛穴が開くほど感じさせることも可能です」 

 言葉と同時、強く触れられた俺は、そのノアの素手にしか見えない物が、言葉通り、素肌を強く吸いあげるのを感じた。 

「そうして、一度扱う者に馴染んだこれは、外してからも数時間、思うままに動かすことが出来ます」 

 言いつつ、ノアが手を動かせば、見えなくなっていた手袋がノアの手元から離れていくのが見える。 

「つまり、外した手袋をこうして肌の上に置くと」 

「うぁあっ」 

「このように、快感を与えることが出来るのです」 

 

 ちょっと待て、なんだこれ! 

 

 置かれたのは只の手袋。 

 それなのに、さっきノアに触れられた時のように吸い付かれ、優しく撫でられて、俺の肌が堪らずに粟立つ。 

『カイは、脇が弱いのですね。では、こちらはどうでしょう』 

 感じる、というよりは耐え難いむずがゆさを覚えている俺に嬉しそうに言うと、ノアは同じように脇を這うのとはまた別の手袋をはめ、俺の内腿に触れた。 

「っ!」 

 触られたのは判る。 

 けれど、それが快感かと言われると、と息詰めて思っていると、突然そのまま陰茎に触れられ、俺は大きく身体を捻ってしまう。 

「ああ、これまでになく大きな動きですね。これで陰茎を擦ると、それはもう天国が見えます。おひとりでももちろん抜群ですので、よろしければお試しを。とはいえ、今日の彼にはアナルで感じてもらいたいので、こちらはこの辺で」 

 

 もっと。 

 このまま、もっと感じさせて欲しい。 

 

 思うのに、願いは叶わず。 

 先ほどよりずっと強く、身体の内を何かが駆けるのを感じ堪えている間に、ノアは手袋を外し、それを俺の内腿に置いた。 

 

 そこ、じゃなくて。 

 

 思う俺の内腿を何かが吸い上げ、優しく擦る。 

 緩く湧き上がってくる、覚えのある感覚。 

 

 これ、感じている、ってことか? 

 

 揺らぎだした思考で俺が感覚を追っていると、不意にアナルに何かが触れた。 

「ここまでしても微動だにしていない。本当に処女アナル攻略は難しいものです」 

 言いつつ、俺のアナルに触れているのはあの短い杖。 

 

 あれって、魔法師が使う杖、だよな。 

 

 ぼんやり思っているとノアが、俺を見てにやりと笑うのが見えた。 

「判っております。このままでは見づらい、ですよね」 

 そうして会場に向かって頷いたノアが何かを操作すると、俺が座っている椅子が高度をあげ、更に背凭れがベッドの如く後ろに倒れ、足を置いていた場所が大きく開いた。 

「っっ!!」 

 つまり今。 

 俺は、大きく足を開いた状態で上体を倒し、アナルを会場に見せつける体勢を取らされている。 

 

 やめろ! 

 見るな! 

 

 思うも会場の騒めきは大きくなるばかりで、目を瞠れば、その紗越しに、俺と同じように乳首に魔法具を装着したり、自分の性感帯に消える手袋を置いて楽しんでいる客の姿が見える。 

  

 こんなの見て使おうとか思うなよ! 

 

 いや、販売者側に居る者として、売り物がより多く売れた方がいいに決まっている。 

 だがしかし、それを恥ずかしいと感じるなんて、そこまでは未だ理性が残っていたんだな、って思うことになるとは、この時の俺は未だ思ってもいなかった。 

 

 

 

「んっ・・・ぁ」 

「ああ。なかなか、可愛い声が漏れて来ましたね」 

 亡羊とする意識のなか、ノアの指が俺のアナルに触れるのを感じる。 

 触られるまま声をあげれば、褒めるように言ってくれるノアの言葉が嬉しい。 

 

 何だ。 

 どうしたんだ、俺。 

 

 思うも、思考は纏まることなく流れて行く。 

「でも、もう少し。いえ、もっとここで感じるようになりましょうね」 

 ノアが何かを言いながら、俺のアナルをマッサージする。 

 その指に纏わせているのは、特製のクリームだったか。 

 何でも粘性がとても高くて、アナルを傷つけないのだと会場に説明していた気がする。 

 そして、香りは薔薇、百合、菫から選べるのだ、とも。 

 

 気持ちいい。 

 でも何か、もどかしい。 

 

 乳首も脇も内股も、ずっと、やわやわと触れられ、アナルを優しくマッサージされている現状が何とももどかしく、いっそアナルに熱杭を突っ込んでくれという気持ちにさえなった。 

「ああ、大分いいでしょうか。こうしてゆっくりマッサージして、アナルの緊張を優しく解してから使っていただきたいのは、こちらです。こちらの商品には、棒状の拡張器に無数の突起が付いておりまして、そのひとつひとつに潤滑油が入っております。棒自体は細くなっていますので、これはアナル処女専用、とも言えましょう。これを、緩んだアナルに、優しく挿入します」 

 つぷっ。 

 言葉と共に、俺のアナルに何かが差し込まれる。 

 けれど、ノアの言う通りアナル処女向けなのか、痛みは全く感じない。 

 それどころか。 

「う・・んっ」 

 何かが、なかで弾け蕩けてそれが何ともむずがゆい。 

「いい感じですね。こうして挿入することによって、突起が弾けてアナルのなかを充分に潤してくれます。一度で弾けずとも、こうして何度も出し入れをしているうちに弾け切るので、焦らず、充分に潤してあげてください」 

 ノアの言葉に、会場で次々それが売れて行く。 

 しかして、この会場にパートナーと共に入ることは許されておらず。 

 始めは、そういうものか、としか思わなかった俺だけれど。 

 

 そういう、ことかよ。 

 

 自分で自分のアナルに魔法具を挿入する人々は、一様にうっとりと行為にふけっていて、周りを気にする様子も無い。 

 つまりここは、自分で自分を慰めるための会場。 

  

 そんで、自分で楽しんだ後、パートナーにも使ってもらえれば万々歳、ってことか。 

 

 これも商法なんだろうな、と思う俺のアヌスを、また違う感触が襲った。 

「そうして充分に潤いましたら、こちら。幾つもの球体がネックレス状に連なったものを挿入します。こちらも、己の魔力を流すことで球体を動かさず一列に固定することも、ゆらゆら揺らめく状態にしておくことも可能なうえ、更にはかぎ状にすることも出来ます。それでは、確認のため外でやってみますね。まずは、こうしてゆらゆらする状態。そうして魔力を流せば球体が一列に連なり、更にかぎ状にも。これをなかに挿れればどの形態でも鳴かせることが出来ますが、挿入する際にはかぎ状は向かないかと思いますのでご注意を。では、挿入します」 

 口上の終わりと共に俺のアヌスに入り込んで来るのは、小さめの球体。 

 ノアはひとつずつ、その球体をゆっくりと会場に見せつけるように俺のアヌスに挿入していく。 

 つぷり、つぷり。  

 球体が、俺のアヌスに入り込む。 

「ん・・・あ・・・」 

 感じはしない。 

 でも、確実に拓かれていく感覚がある。 

 会場から聞こえ始めた、絶え間ない喘ぎ。 

 それ以上に屈辱的な姿でステージに居る俺。 

  

 これは、仕事、だ。 

 とにかく、これを乗り切れば。 

 

 恥辱も何も、過去として流し去ってしまおう。 

 俺がそう決意した、その時。 

「んああっ!」 

 予期せぬ衝撃に襲われて、俺は身悶え、思わぬ声をあげてしまった。 

 何だか判らないが、アナルのなかが、とにかくおかしい。 

『可愛い。ここ、カイの感じる所ですよ。初めて、ですよね?』 

「やめろっ。そこ、なにっ!?」 

 叫びつつ、俺は俺が過去に掘って来た相手の反応を思い出していた。 

 いつだってアナルを掘るとき、相手が特に感じる場所があった。 

 それが。 

『可愛い、カイ。もっと声を聞かせて』 

「ふざ・・ああっ・・・やめっ・・んんっ」 

 ふざけるなと叫びたい。 

 それなのに、そこをかぎ状にした球の連なりで突かれるたび、何かが身体の内から込み上げてくる。 

 陰茎に熱が集まり、放出の、その時を待つ。 

「ごらんください。媚薬など使わずともこの反応です。びくびくと震えて可愛いですよね。ああ、震える陰茎も大きく立ち上がって更に立派になりました。吐き出したりしないよう、装飾をしましょう」 

「んなっ!」 

 腰を揺らし、今まさに放出しようとしていたそこに何かを嵌められ、俺は思い切りのたうつも、拘束された身体では、その動きさえもままならない。 

 自由に動かせるのは、腰くらいで。 

 それさえも、動きは恐らく計算されているのだろうことに、俺は心底震えを覚えた。 

「この装飾は、陰茎用のリングです。このように、射精しないようにすることが出来ます。サイズも様々ご用意がございますが、ご自分専用の、もしくはパートナー様専用の物が欲しい、という方は、特注も受け付けておりますので、併せてご利用ください」 

「は・・はずせ・・・っ」 

 先端から滴っているのを感じる、熱く白い雫。 

 いつもなら、思い切り相手のアナルに突っ込んで、思い切り突き上げ発射しているそれ。 

 それなのに、今は放出できずに苦しくて、何とか意識を逸らせようと頭を振り藻掻いていると、ノアが俺の耳元に唇を寄せた。 

『それほどに感じていただけて、感無量です。アナル処女さん』 

「っ」 

 そうだ。 

 俺は、アナルなんて感じないはずで。 

 脇だって内股だって、乳首だって誰にも触らせたことなんて無くて。 

 それなのに。 

「ああ。乳首もいい感じに育ってきましたね」 

 事もあろうに、アナルにさっきより大きな球体を幾つも仕込んだノアは、すべて飲み込んだそこを褒めるように優しくとんとんすると、そのまま放置するように手を離し、そう言って今度は優しく乳首に触れた。 

「っ!」 

 ノアが再び会場へと見せつけるように魔法具で拡大して見せた乳首は、先ほどよりずっと赤く粒だって、その存在を主張している。 

 認めたくなくとも、ただの現実として、その結果がある。 

『ああ、本当に可愛いですよ。カイ』 

 そして、俺の視界の端、噛み付きスライムもどきを外された乳首は、既に性感帯のひとつと化していて、触れられることを望むようにひくついている。 

 いや、実際に俺は今、乳首をいじられたくて堪らない。 

 

 これが、俺の。 

  

 その余りの変容を信じられない思いで見ていれば、噛み付きスライムもどきをテーブルに戻したノアが再び戻って来た。 

「魔法具を外した後は、指で優しく触れ、つついたり、摘まんだりしてあげてください。より一層、悦ぶ姿を見ることが出来ますよ・・・ほら、こんな風に」 

「んあっ・・・」 

 言葉と同時、ノアの指が俺の乳首を抓み、優しく撫でる。 

 待ち望んだその感覚に震え、俺は、肌が粟立つまま無意識に腰を大きく揺らす。 

 同時に手足も動かし、ノアに抱き付きたいのに、それは出来ない。 

 俺が精いっぱい藻掻くも、拘束椅子はびくともしない。 

「も・・・やだ・・・」 

 もっと触って欲しい乳首から早々に離れてしまったノアの指。 

 内腿は未だ悪戯に魔法具によって、やわやわと触れられるままだし、張り詰めた陰茎も痛いほどに反り返ったまま放置されている。 

 けれど何より、放置されたアナルが、その内部で動く球体に侵され、ひくひくと空気を孕むのが辛い。 

「ん・・・も・・・っ」 

 

 ノア、ノア、ノア! 

 

 解放して欲しくて、ただひとり俺を救えるノアを見れば、こくりとその喉が鳴った。 

「ああ。こんな風に身体全体で求められたら、全力で啼かせてあげたいですよね」 

  

 もう、突っ込んでくれていい。 

 誰が見ていたって構わないから、思い切り突き上げて啼かせてくれ。 

 

 思うのに、ノアは未だきちんと商売を続けている。 

 その瞳には、滾るような熱を湛えているというのに。 

  

 ああ、そうだ。 

 これは、ノアにとっては商売なんだから、当然じゃないか。 

 

 残る理性の欠片で思っても、より強い快楽を求める俺の思考は鈍って行くばかり。 

「可愛いパートナーは、思い切り啼かせていかせてあげたい、ですよね」 

「んあっ」 

 言いつつ陰茎を撫でられ、俺は益々雫を垂らしてしまう。 

 もう、いきたい、以外のことが考えられない。 

 

 いきたい、いきたい、いきたい。 

 早く、早く、早く。 

  

 藻掻きつつ、俺はひたすら、俺の熱を打ち消すほどの熱を待ちわびる。 

「もちろん、生身も最高です。ですが、パートナーに一人遊びをしてもらう時、それが自分の陰茎を模したものだったら、と考えたことはありませんか?」 

 ノアの言葉に、会場が息を呑むのが判る。 

  

 お前等、もう幾度もいっているだろうが。 

 

 紛らわすことも出来ない熱をかかえ、俺は会場の奴らを恨めしく思う。 

 奴らは、好きに魔法具を使って、自由にいくことが出来る。 

 それなのに、俺は。  

 

 思う間も、アナルのなかで球体が蠢き、俺の性感を更に高めて行く。 

 けれど、達するには足りない。 

  

 ああ、早く。 

 早くアナルからあの球体を引き抜いて、もっと確かな大きさのもので思い切り抉って欲しい。 

 

 もどかしく腰を動かし、内部を擦ろうとするも思うような快楽は得られない。 

 あくあくと喘ぐような呼吸を繰り返しながら、俺は、俺にとって唯一であるノアを見つめる。 

 今その手にあるのは、陰茎を模したと思われる淫具。 

「こちらも当然、魔法具仕様となっておりまして、なかで自在に動かすことが可能でございます」 

 

 あれが、俺の、なか、に。 

 

 見ただけで判る、その大きさ、質量。 

 それは、はるかに球体を越える。 

 思えば、期待に胸が震える。 

「あっ・・ああああっ」 

 そして、一気に引き抜かれる球体に、アナルの入り口がきゅうと締まる感覚。 

 それにも射精を促され、リングで戒められた陰茎が新たな雫を零す。 

『ああ、気持ちよかったですか?ですが、これは球体など比ではありませんよ。これはね、カイ。私の、なのですよ。では、挿れますね』 

「ん・・・あああああ」 

 囁くようなノアの言葉と共になかに入って来たそれ。 

 その大きさがもたらす余りの歓喜に、俺は打ち震えた。 

 そして動き出したそれは俺のなかで優しく蠢き、あの、特に感じる場所を強く抉る。 

「あ・・・あ・・・ああああああ・・・っ」 

 

 気持ちいい。 

 気持ちいい。 

 気持ちいい。 

 ノア、ノア、ノア。 

  

 知らず胸を、喉を仰け反らせ、腰を揺らめかせて絶頂を目指す。 

 するり、と抜き取られた陰茎のリング。 

 そして、ぐり、とより強く抉られた内部。 

「あっ・・・あっ・・ああああっ!!!」 

 瞬間、全身を痙攣させて、俺は思い切り果てた。 

 ぴくぴくと身体が名残に動き、胸や仰け反った喉にまで、白濁が飛んだのを感じる。 

 けれど、それさえもどうでもいいと思えるほどの快楽の余韻。 

 それでも、俺のなかは、もっと、というように蠢く。 

 引かない、熱の辛さ。 

 『カイ。お疲れ様でした。とても素敵で、可愛かったですよ』 

 それなのに、これで終わり、というようにノアが俺の額に唇を落とし、手足の拘束を解く。 

「の・・あ・・・」 

 その名を呼びたいのに、もっと、と言いたいのに、驚くほど掠れた声しか出ない。 

「どうしましたか?もう起き上がって大丈夫ですよ。身体、辛いですか?」 

 それでも、優しく抱き起こしてくれ、水を飲ませてくれる手が嬉しくて、俺は縋るようにノアの身体に抱き付いた。 

「ノア・・俺のこと抱いて・・・俺のなか・・突っ込んでたくさん突いて擦ってほしい」 

 逞しい胸に頭を擦り寄せ懇願すれば、ノアが息を呑むのが判る。 

「そんなこと言って、後悔しますよ。今は身体が熱くなっているから」 

「いや?・・ノアは・・俺のこと・・・抱けない?」 

 ノアの言葉を遮り、唇に指を当てればノアの身体が大きく震えた。 

「後悔しても・・いえ、後悔はさせません」 

 宣誓するような力強い言葉と共に、俺はノアに抱き上げられた、と思ったらどこかの部屋、寝室に居た。 

 正確に言えば、そのベッドのうえに。 

「安心してください。ここは、私の家です。まずは、きれいにしましょうね。お湯を使いたいかもしれませんが、今は魔法で我慢してください」 

 そう言ったノアが洗浄の魔法をかけてくれると、どろどろになっていたシャツブラウスもきれいになった、と思う間もなく脱がされて、俺はベッドに仰臥する形になった。 

「カイ。一緒に、気持ちよくなりましょうね」 

 優しく俺の肌を撫でるノアの手。 

 とても気持ちいいのに、今の俺には物足りない。 

「ん・・・ノア・・もっと酷くしていいから・・・っ・・すぐ・・なかにほし・・・っ」 

「駄目ですよ。そんな無理をしては。きちんと解さないと」 

 ノアの陰茎を掴み、アナルに無理にも入れようとすれば、優しく諭され腕を撫でられた。 

「だって・・っ・・もっ・・・早く欲しくて堪らないっ!」 

 こんな風にしたのはノアなのに、と涙目で睨めばノアが喉を鳴らす。 

「煽るのは、やめてください。理性が」 

「理性なんて要らないだろ!いいから早く突っ込んで抉ってくれよ!」 

 理性なんて吹き飛べ、とノアの陰茎を握り擦れば、切なそうな声と裏腹、ぎらぎらと欲情した目が俺を見据えた。 

 

 ああ、欲しい。 

 いいから、そのまま・・・っ。 

 

「いいでしょう。私を煽るとどうなるか、その身体に教え込んであげます・・・っ」 

「あっ・・あああああっ・・・」 

  

 はいってくる。 

 おおきくて、あついの。 

 すごく、きもちがいい。 

 

 一息で俺の奥まで到達したそれは、さっきの玩具なんかよりずっと熱くて気持ちがいい。 

「ああ・・・ノア・・・すごくいい・・・」 

 壁を擦られ、抉られ突かれて、俺のなかが悦びノアに絡みつく。 

「んっ・・・いいのは・・こちらですよ・・っ・・貴方・・本当にアナル処女ですか・・・っ」 

「たった今・・そうじゃなくなっただろ・・んっ」 

「それなのに・・もうこんなに感じて私を翻弄するなんて・・いけないひとです・・ね・・・っ」 

「俺を翻弄してんのはノアだろ・・・って・・あっ・・それつよい・・っ」 

「ここ・・凄く感じるんでしょう?・・もっと突いてあげますから・・もっと・・感じて・・・っ」 

「あっ・・ああっ・・んくっ・・いいっ・・すごくきもちいい・・・っ」 

 縋りつく肩も凄く逞しくて悔しいなんて、そんなことに嫉妬も覚えながら、俺はノアに思い切り抱き付いて上り詰め、これ以上ないほどになかを抉られて絶頂した。 

 俺の吐き出した白濁が、俺とノアの腹を汚す。 

 そんな初めての状況に戸惑う間もないほど、俺は幾度もノアに貫かれ絶頂し、喉も嗄れるほどに泣き叫びながらノアの熱を腹の奥で受け止め続けた。 

 

 

 

「なあ、ノア。今更なんだけど。会場、あのままでよかったのか?」 

 果てなどないかのように貪り合い、気絶するように眠って起きて湯を使い。 

 軽く食事をして、気怠くも満足の気持ちで身体でベッドに横になり、隣で同じように横になったノアの肩に頭を預けながら俺が言った言葉に、ノアが苦笑した。 

「本当に今更、ですね。でもまあ、大丈夫ですよ。元から、あの会場はそのままに、私達は部屋に戻っていいことになっていましたから」 

「ああ、まあ。あの状態じゃあ、そうか」 

 最後の方は朧気ながらも、確かにあの狂乱の様子じゃあ即刻終了、とはならなかっただろうなと思う。 

「そういうこと、です」 

 言いながら俺の頭を撫でる、ノアの手が気持ちいい。 

 なんかこう、子猫にでもなったような安心感。 

「あ、あと荷物は?ホテルの部屋に置きっぱなしだよな?」 

 そういえば、あれからどのくらい時間が経ったのだろう、と俺は暗い窓の外を見た。 

 

 あれから結構時間経った、と思うけど。 

 あの実演販売、昨日の夜、だったりとかするのか? 

 もしかして。 

 

 思い、俺は、ざあっ、と青ざめた。 

 気絶するように眠って目覚めてカーテン開けてみたら暗かったから、未だ夜なのか、くらいに思ってたけど。 

 そんなはずない、のか。 

 ぼやけて、正確に言えば色ぼけしていて時間の観念が狂ったか、と俺はノアを見た。 

「荷物は、カイが気絶しているうちに取って来ました。転移魔法使えばなんてことないので、そちらも心配ないですよ」 

「なんかごめん。俺、あの会場の後から時間の経過が判ってなくて。今って、いつ?っていうもの可笑しいのか。えと。あの実演販売からどのくらい時間経った?」 

 どうやって聞けばいいのか迷う俺に、ノアは幸せそうな笑みを浮かべる。 

 

 こいつ、ほんときれいな顔してる。 

 身体だっていいくせに、何かずるい。 

 

「カイ。それだけ、私との情交に溺れてくれた、ということですよね。嬉しいです。そうですね。実演販売があったのは、一昨日の夜、ですよ」 

「はあ!?一昨日の夜!?じゃあ昨日は!?俺の昨日はどこに行ったんだよ!?」 

 ノアの答えに、ノアずるい、なんて思っていたことも吹き飛び叫べば、ノアの笑顔が少し意地の悪いものになった。 

「カイの昨日、ですか。昨日は一日、私とベッドの上で陸み合っていましたね。まあ、幾度か気絶したりもしたので、私はその間に荷物を取りに行ったのですが」 

「うそ!?俺が気絶したのって一回だろ!?」 

 眠る前に絶頂と同時に気を失った、その一回だけの筈だと俺が言えば、ノアが蕩けたような目で俺の髪を撫でた。 

「完全に気絶した、といえばその一回ですが。そのほかにも、気を飛ばした、と言いますか。心配ではありましたが、転移魔法を使えば一瞬のことなので急いで荷物を引き上げて来ましたよ。ああ、その時のカイは本当に可愛くて。自分で懸命にアナルを広げて私を誘うのです。そこから私が注いだ白濁が零れ落ちるのも煽情的で、最高でした」 

 

 ・・・・・聞きたく、なかった。 

 

 心の底からそう思って、俺は枕に顔を埋めた。 

 気を飛ばして、そのうえ誘って行為を強請るとは何事か。 

 いや、そういえば、最初だってノアに縋って強請った気がするけど、あれは未だ意識があったから・・・。 

 ・・・・・意識、あるのと無いのと、どっちがいいんだろう。 

 

「ふふ。耳まで真っ赤になって。カイ、そんな風にしても可愛いだけですよ」 

 臥せた首筋にノアの唇を感じる。 

 それだけでもまた身体が熱くなって、それと同時にアナルが疼く。 

  

 ああ、俺。 

 本当にもう。 

 

 この先の性交では、アナルでいかないと満足できない身体になったことを実感して、俺は暗い気持ちになった。 

  

 これから、どうしよう。 

 

「なあ、ノア。あの実演販売の売り上げってどうだったんだ?」 

 あれの売り上げ次第では、ノアも約束通り市民権を俺にくれるだろう、そうすれば何とか生きて行くことは出来るはず、と俺が枕に顔を埋めたまま聞けば、そのくぐもった声より更に不機嫌な声が返った。 

「ああ。あれは予想外でした。いえ、予想出来たのに、私の気持ちが予想外だった、というか」 

「なにそれ。あんま、売れなかったってこと?」 

 枕から顔をあげれば、声と同様不機嫌な表情のノアがいて、俺は不安になる。 

「いいえ。売れまくりました。それはもう、全部の商品が完売してしまったほど」 

「じゃあなんで、そんな不機嫌なんだよ」 

 なんだ、心配したじゃないか、と俺が言えば、何故かぎゅうっと抱き締められた。 

「だってですよ?それって、みんながカイの痴態にあてられたから、ってことじゃあないですか」 

 ノアの訴えに、俺は意外さを隠すことなく問いかける。 

「え?そのために、俺を補佐に使ったんだろ?」 

 

 え? 

 そういうこと、だよな? 

 

 俺は間違っていないはず、とノアを見れば、その瞳が複雑な色を持って俺を映した。 

「そうなんです!そうなんですけど!今となっては、こんな可愛いカイを衆目に晒してしまったのだと思うと私はっ」 

「く、苦しいから!」 

 ぎゅうぎゅう抱き締めて来るノアの手から何とか逃れ、俺はノアと向き合った。 

「そっか。売り上げ良かったなら安心した」 

「安心している場合ではありません。紗で顔を隠していたとはいえ、判るひとには判るでしょう。カイ、いいですか。暫くは、この家から出てはいけません。外出は絶対に私と一緒に、そのうえで、離れないよう必ず手を繋いでください」 

 真顔で言われ、俺は苦笑してしまう。 

「あのなあ、ノア。そんなこと言われたら俺、ここに居付いちゃうぞ?」 

 

 出来るならそうしたい。 

 ノアと一緒にいたい。 

 

 そんな思いを飲み込んで、懸命に笑って言ったのに。 

「何を言っているのですか。もう放してなどあげませんから、覚悟してください」 

 尚も真顔のノアにそう言われ、俺は敢え無く陥落した。 

 

 なんかもう俺。 

 一生、ノアには敵う気がしねえ。 

 

 

 
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