ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)

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二、『先手必勝』の、相手が可笑しいような 

1、

 

 

 

「ウォルター!ウォル!無事か!?」 

  

 え? 

 アリ様? 

 

 途中、アーロン男爵令息との遭遇という不都合はあったものの、いつも通り迎えに来ていたエアリー公爵家の馬車に乗り込もうとしていたウォルターは、自分を呼ぶ婚約者の声にその動きを止めた。 

 見れば、アリスターが物凄い勢いでウォルターの元へと駆けて来ている。 

  

 アリ様。 

 今日は、会えないと思っていたのに。 

 嬉しいけど、政務は大丈夫なのかな? 

 

『本日、第一王子殿下はご政務のため、お時間をお取りできないそうです』 

 王子妃教育の日は、必ずといっていいほどウォルターとのお茶の時間を楽しむアリスターだが、今日はどうしても外せない政務があるとのことで、侍従が申し訳なさそうに言っていたのを思い出し、ウォルターは嬉しくも心配になった。 

 

 それに、あんなに切羽詰まった様子で。 

 あれってつまり、さっきの報告を受けたからなんだろうな。 

 まさか、大げさに伝わったのなら、申し訳ない。 

 

「すまない、ウォル。王城で襲撃を受けるなど、怖かっただろう。さあ、俺の部屋へ行こう。もう、誰にもウォルを害することなど出来ないようにするから。大好きだよ、ウォル」 

 アリスターに会えて嬉しいなどという言葉は、自重するべきと思うウォルターの頬に両手を当てると、その当の本人であるアリスターは、自重という言葉を知らぬのかのようにウォルターを愛し気に見つめ、そそくさとその腕を取った。 

 

 ああ、アリ様。 

 ぼくも好き・・・じゃなくて! 

 

「アリスター殿下?襲撃とは何ですか?確かに、一般区でいいがかりは付けられましたが、襲撃というほどのものではありませんでした」 

 王城の馬車留めという、多くの貴族が利用する場所であることから、ウォルターは第一王子の婚約者に相応しい言葉と態度でアリスターに接する。 

「ああ、ウォル。そんな毅然とした態度で、理路整然と。それは、王子妃・・俺の妃として素晴らしく、誇らしく思うけれど、俺の前では強がらなくていい。王城で襲撃を受けるなど、怖かっただろう?もう大丈夫だからね。さあ、俺の部屋に行こう」 

「え?アリスター殿下。ですから、襲撃など」 

 王城でアーロン男爵子息にいいがかりをつけられたのは事実だが、それ以上のこと・・アリスターが言うような襲撃などは受けていないと言うウォルターの言葉も聞こえないように、アリスターは優しく、しかし強くウォルターの腰を掴んで歩いて行く。 

  

 え? 

 もしかしてアリ様、本当にぼくが襲撃を受けたと思っている? 

 ・・・わけはないか。 

 

 あの場に居た侍従・・青くなって走り去った侍従から連絡は行っている筈で、その内容も把握しているだろうアリスターが、どうして襲撃などという言葉を使い、ここまで焦っているのか。 

「アリスター殿下?」 

「なんだい?俺のウォル」 

 一体、何をそんなに焦っているのかと、問うように名前を呼んで見上げるも、にこやかに笑い返すその顔はやや引き攣っており、足の動きはこれ以上なく速い。 

 何なら、ウォルターを抱き上げて駆け出しそうな勢いである。 

 

 何だろう。 

 この、ぼくを帰らせたくない感じ。 

 あ。 

 もしかして、父様や母様と会う前に、ぼくと話をしておきたいことがあるとかなのかな? 

 

 それは予想でしかないが、大きく的を外していることも無いのでは、と、ウォルターは、その真意を測るかのようにアリスターの目を見つめた。 

「・・・・・ウォル。王城で奇襲を受けるなど、怖かったな。しかし、もう大丈夫だ。何も心配せず、俺に任せて。ウォルはもう、俺の部屋でゆっくりすればいい」 

「え?アリスター殿下の部屋、って」 

 先ほども、自分の部屋へ向かうと言っていたアリスターだが、今日、ウォルターに泊まる予定はない。 

 なので、それを伝えようとするも、ウォルターが言うより早く、アリスターが専属侍従へと指示を飛ばす。 

「フレッド!エアリー公爵家の侍従に説明を。それから、今日から暫く、ウォルターが俺の部屋に滞在すると伝えろ」 

「お待ちくださいませ、殿下」 

 フレッドと呼ばれた専属侍従がウォルターに付き従う従僕の前に出たところで、その従僕、マシュウが声をあげた。 

 
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