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十三、立太子
2、
「ウォル。ウォルター。よくぞ帰った。お前の無事な顔を見て、父は心から安堵したぞ」
「父様。ただいま戻りました」
「私のウォル。本当によく戻りました。やつれた様子もなくて、何より」
「母様。ただいま」
「おかえり、ウォルター。王城から、不穏な囁きは漏れ聞こえて来なかったから、安心はしていたけれど。こうして、元気そうな顔を見ると、ほっとする」
「兄様。ぼくは、とても元気です・・って、そんな。危険地帯から帰還したわけでもあるまいに」
馬車を下りてすぐ、家族に囲まれたウォルターは、激戦の地より命からがら戻ったかのような歓迎を受け、大仰だと苦笑してしまうも、家族は一様に真顔のまま、その言葉を否定した。
「何を言う。似たような場所に、居たではないか」
「そうよ、ウォル。鵜の目鷹の目。陰謀渦巻く魑魅魍魎の跋扈地帯に居たのだから、当然の心配だわ」
「おまけに、最大の守護者が最大の敵でもある狼とくれば、心配しない方がおかしい」
王城は伏魔殿だと言い切る両親に絶句しているウォルターの前で、極め付きに、兄ブランドンがアリスターへと視線を走らせ、そう言った。
「兄様。いくらなんでも、それは不敬だよ。アリ様が狼だなんて」
森に入った旅人を襲うこともある狼に王子を例えるなど、取り方を違えれば野蛮だと貶めているようなもの。
「いや、ウォルター。狼は、終生唯一の伴侶と共に過ごすというだろう?だからブランドンは、俺のことを信用して、ウォルターにとって、俺がそういう存在となると言ってくれているんだよ。ほら、初めての発情期を控えているウォルターにとって、それは大きな後押しになるだろう?」
しかしアリスターは『信頼の証』の言葉だとして、嬉しそうにそうウォルターに微笑む。
「そっか。ごめんね、兄様。ぼく、ちゃんと意味を分かっていなくて」
「・・・・・いいや、ウォル。大丈夫だ」
何とか声を絞り出した様子のブランドンが、仄暗い目をアリスターに向けた。
「ところでブランドン。何だか、俺の周りの空気が痛いんだが。しかも、寒い」
「ご安心ください。空気中の水分を凍らせているのですが、もちろん、アリスター殿下の周りだけですので」
「そうか。そんな高等技術も習得したのだな」
「お褒めにあずかり、光栄です」
表面だけは穏やかに、しかしその内心では激しく戦い合うふたりに、ウォルターが、ずいっと割って入る。
「アリ様。ぼくだって、風の力の微妙なコントロールも出来るようになったよ」
「ウォル?あ、ああ。もちろん、知っているよ。花びらを、ふわふわと舞わせてみせてくれたよね」
唐突にアリスターの腕に自分の腕を絡ませ、その視線を独占するかのように話すウォルターを、アリスターは優しく見つめ、その背に手を回した。
「ウォル・・・兄様のことは?」
「え?あ!ごめん!ごめんね、兄様。なんかぼく、最近おかしくて」
アリスターと、親しく話をしている相手がいる。
それが、自分をこよなく愛してくれている兄であっても、気持ちがぐらぐらして、もやもやが広がって行くのだと、ウォルターは、眉尻を下げて謝った。
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エール、いいね、お気に入り、しおり、ありがとうございます。
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