腑抜けは要らない ~異国の美女と恋に落ち、腑抜けた皇子との縁を断ち切ることに成功した媛は、別の皇子と幸せを掴む~

夏笆(なつは)

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二、石工皇子

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「なんというか・・・巻き込んで、本当にごめんなさい!」 

 若竹皇子わかたけのみことの婚姻の話を無効に出来た、と思った次の瞬間には石工皇子いしくのみことの縁談が調っていた白朝は、最大の巻き込まれ被害者である石工に、心からの謝罪の言葉を述べ、頭を下げた。 

「白朝が謝ることではないだろう。奴等から多大なる迷惑を被った被害者なのだから、そんな風に頭を下げる必要は無い。堂々としていろ」 

「でも・・・」 

「むしろ、俺の方こそ謝罪すべきだろう。悪かったな。力になれなくて」 

 威風堂々と言うに相応しい立派な体躯と相貌を持ち、若竹や白朝と同年でありながら、既に風格ある存在を示す石工におもんぱかるように言われ、白朝は予想外の展開に固まってしまう。 

「あの女を連れ帰ったのは、そもそも俺だからな。白朝には、恨まれても仕方無いと思っていた」 

 石工いしくの言葉に、白朝しろあさは初めて美鈴みれいが来た時の事を思い出した。 

 美鈴は元々、沖合で難破した船に乗っていた異国の民のひとりで、石工を筆頭とした救助隊に助け出され、保護された存在。 

 しかして、その美しさで若竹皇子わかたけのみこを虜にし、寵愛を受けるに至った。 

「それは、救助活動じゃない。人道的にみても普通よ。というか、当然よ」 

「それは、そうなのだが」 

「沖合で難破した船の救援に向かうなんて、勇気があると思ったわ。難破船に乗っていた、他の人達も、石工や救援隊のみんなに感謝していると聞くわよ?」 

 美鈴と共に船に乗っていた面々は、この国で仕事を得、生き生きと働いている。 

 その姿を見るにつけ、白朝は美鈴の件では苦い想いがあるものの、彼等が助かった事は良かったと思っている。 

「だが結果として、白朝が辛い想いをすることになってしまった」 

「うーん。辛い、っていうかはらわた煮えくり返ったというか」 

「それも、当然だろう」 

 ひめらしくなく腕を組み、厳しい表情で言う白朝の言いように、石工が然もありなんと頷きを返した。 

「だって、馬鹿にしているじゃない?『美鈴を私の妃と周りが認めるよう、君の父上にもお願いしてくれ』だの『美鈴と出会うまで、私は真に生きていなかった』だの言って、美鈴の傍に居続けて、公務は投げ出すわ、自分の領の仕事は放り出すわで腑抜け一直線。周りに大迷惑をかけていても平気の平左へいざの厚顔無恥。挙句の果てには、お父様が私の為に建ててくれた花館はなやかたに、美鈴を住まわせちゃったのよ!?私にも、お父様にも何の断りも無く!で、文句を言ったら『美鈴は、君が居るから正妃になれない。それを思いやれない君は冷たい』とか言ってくれちゃって『美鈴が花館に住むのは正当』なんて言うのよ?何処がよ!?ふざけるなの極みってものよ」 

 思い出しても腹の立つ、と憤る白朝を、石工は優しい瞳で見る。 

「しかし、安心した。傷心して、憔悴しているのではないかと、心配していた」 

「傷心ねえ。その時期は、あっというまに過ぎ去ったわよ。若竹の仕事が忙しくてね!」 

 ふんっ、と言い切った白朝に、石工皇子が、ああ、と遠い目になった。 

「若竹が任されている仕事は、今や白朝と他の者が熟していると聞いている。大変だったな」 

「もう私は、お役御免ですけれどね」 

 うきうきと言った白朝は、けれど、と瞳を曇らせる。 

「でも、他の人に全振りしてしまう事には、なったのよね」 

「それはもう、白朝の心配することではない。若竹の周りは確かに大変だろうが、責任を取るべきは白朝ではなく、若竹なのだから」 

「ま、もう口出す権利も無いしね」 

「少し、のんびりするといい」 

「ありがとう。それから後ひとつ。これが一番重要なのだけど。若竹がやらかした結果、石工は私と婚約する羽目になったけど、嫌ではない?ほら、石工ってば日嗣皇子ひつぎのみこには興味が無いって言っていたから」 

 日嗣皇子。 

 それは、次代のすめらぎとなる地位に立つ事であり今皇いますめらぎの皇子は、石工と若竹のふたりが居ることから、ふたりのいずれかが立つことになるものの、皇子ふたり共が宮家出身の母を持たないことから、その正妃むかいめに宮家の媛を娶った方が、日嗣皇子となるというのが、現在の暗黙の了解となっている。 

 つまり、白朝を正妃むかいめに迎えるというのは、日嗣皇子となる事実に直結するため、その地位を望まない石工には、迷惑な話ではと白朝は思っていた。 

「確かに日嗣皇子ひつぎのみこに興味は無いが、白朝との婚約は嫌ではない」 

「それなら、良かった・・・それにしても、素敵なお庭ね」 

 即座に言い切った石工に白朝は安堵の息を吐き、ゆっくりと辺りを見渡した。 

 若竹の住まう館には、幾度も招かれた白朝であるけれど、石工の館に招かれるのは初めてで、物珍しく色々と見てしまう。 

「素敵か?岩や、池があるばかりで、花苑とは縁遠いだろう。女人は、好まないのではないか?」 

「あら?何方どなたか、麗しい方にそう言われたの?」 

「いや。妙齢の女人を招いたのは、白朝が初めてだ」 

 揶揄うように言った白朝は、真面目な顔でそう答えられ、酢を飲んだような表情になった。 

「誰も?」 

「ああ。母上や親戚は別だが」 

「そういえば石工、婚姻の約束をしているひめは、居なかったわよね?通っている女人にょにんがいるとも聞かないし。どうしてか聞いても?誰か、忘れられない人が居るの?」 

「通っている女も、過去に通った女もいない。俺には、諦めきれないひめがいた」 

「っ!」 

 真っ直ぐな瞳で答えた石工に、白朝は息を飲む。 

 

 諦め切れないひめ!? 

 誰よ、それ。 

 私達の同年代というと、どこの宮家にもいないから、後は貴族の? 

 少し上だけど紫城家しきけ呉羽くれはとか? 

 

「諦めずにいて、良かった」 

 必死に考え、姉と慕う人物を思い浮かべたところで、白朝は、心底幸せそうな石工の声を聞いた。 

「え?」 

「初手で躊躇したが為に若竹に遅れを取り、傷心して父上や母上、伯父上達にも心配をかけたが、諦めずにいて良かった」 

「若竹に遅れ、って・・・それって」 

 若竹と婚姻の約束をしていたひめとは、他ならぬ白朝のことである。 

 その事実に気づいて、白朝は呆然と石工を見た。 

「そういうことだ、白朝媛しろあさひめ」 

「・・・・・石工いしく」 

「俺は執念深いからな。覚悟しておけ」 

 そう言った石工は、言葉と裏腹、爽やかな笑みを浮かべていた。 

 
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