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「ああ。くっそ可愛すぎだろ!何人が見んだよこれ!つか、抜いたりしたら許さねえ」 

 俺は、手にした雑誌をぎりぎりと握り締めてひとり悶える。 

 見ているのは、俺の恋人。  

 人気俳優である紅葉乃さんのポートレート。 

 そこには、夏を意識してか、大きな西瓜をひと玉、そのまま抱え込んで嬉しそうに笑ってたり、白い足も露わに西瓜と共寝してたり、更には四つ割にした真っ赤なそれに豪快にかぶり付く紅葉乃さんの可愛い表情なんかが惜しみなく映し出されている。 

「はあ。ほんっと可愛い」 

  

 いっそ、俺が西瓜になりたい。 

 いや。 

 西瓜を食べる紅葉乃さんを俺が食いたい。 

  

 そんならちも無いことを考えつつ、舐めるように笑顔の紅葉乃さんを見つめて、俺はここ暫くの餓えが極まったように、そろそろと下半身に手を伸ばした。 

「紅葉乃さん」 

 そうして自分を慰めながら紅葉乃さんを呼び、雑誌の紅葉乃さんに顔を擦り寄せ思い切り息を吸い込んでも、当然のように印刷物の匂いしかしない。 

 本物の紅葉乃さんは、もの凄くいい匂いがするのに。 

 今、ここには無機質な匂いしかない。 

「紅葉乃さんっ・・紅葉乃さんっ・・紅葉乃さんっ」 

 それでも、かつて俺の腕の中で乱れ善がった紅葉乃さんを思い出しながら、俺は思い切り自身を扱きあげ、紅葉乃さんのなかでそうしたように、びくんと痙攣して白濁を吐き出した。 

「はあ・・やっちまった」 

 このポートレート見て抜くなよ、とか思いながら、俺が思い切り抜いてしまった。 

「だって仕方ないだろ。完全なる紅葉乃さん欠乏症なんだから」 

 ごろん、とひとり虚しく転がるのはホテルのベッド。 

 舞台俳優をしている俺と、テレビがメインで活動している紅葉乃さんとでは、ただでさえスケジュールがなかなか合わない。 

 特に、今回のように俺が舞台で地方に来てしまうと、本当に会う機会は無くて。 

 連絡もそう頻繁には出来ないので、俺は今、完全に紅葉乃さん不足に陥っていた。 

「はあ。会いたい」 

 公演の合間。 

 稽古の無いときに考えるのは、紅葉乃さんのことばかり。 

 雑誌のなかで笑う紅葉乃さん。 

 その手にある西瓜。 

 今の俺には、それさえも紅葉乃さんに繋がる物に思える。 

「今日、俺は帰りに西瓜を買うと誓う」 

 誰にともなく決意表明して、俺は誌面の紅葉乃さんを愛おしく撫でた。 



  
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