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第一章 復讐の少女。

第十五話 不死者と炎帝

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 炎帝に殺され、再生し終えた後。自分のスキルを確認した俺の目にはそれが映った。

 エクストラスキル【炎帝】。

 そして、ユニークスキル【贈物ギフト·痛みの対価】。

 このスキルはどうやら例の【?????】が覚醒した物らしく、俺が死ぬことで獲得したらしい。

 その効果は、身に受けたスキルを獲得できるらしい。

 要するに、俺は【炎帝】の炎を身に受けた。

 それを【痛みの対価】の効果で【炎帝】を獲得した、と言うことだ。

 【贈物·痛みの対価】の【贈物】の部分が気になったが、それは後回しで飛び出した為まだ分かっていない。

 だが、【炎帝】を手に入れたことで、あの炎に対抗できる。

 そう思っていたが......この炎、力加減や操作が非常に難し過ぎるッ!!

 あと少しで自分も吹っ飛ばされるところだったぞッ。


 炎帝は面白いもの見る目で俺のことを見る。

「心臓を焼かれても治癒する再生力、他人のスキルを得るスキル......なるほど、もしかするとお前さんは......。面白い、どこまでやれるか見物だッ!!」

 そう言うや否や、炎帝は俺めがけて右拳を降り下ろした。

「危ッ!?」

 それをすれすれでかわすが、今度は左拳が迫ってくる。
 それを腕に【炎帝】を纏わせて防ごうとするが、またも制御を誤り、暴発してしまい自分の炎に吹き飛ばされてしまう。


「いてて....使い物に成らないな、このままじゃ....」

 どうする。【炎帝】のパッシブの効果でなにもしなくても炎の熱を大幅にカットしてくれるが、完全じゃない。炎を纏わせる事で本領を発揮する。

 今のままあの炎を受ければ、完全には防ぎきれないだろう。

 そうだ、たしか【可能性獲得】で....ッ!!

 吹き飛ばされた俺に炎帝が炎を放ってくる。 間に合うかッ!

(【可能性獲得】発動、【部分装甲】と【炎帝】を合成しろッ!!)

《報告、【可能性獲得】の効果を発動。【部分装甲】と【炎帝】を合成を試みます....成功しました。エクストラスキル【炎帝装甲】を獲得しました》

 よしッ、【炎帝装甲】発動ッ!!

 迫り来る炎を、炎の籠手で包まれた両腕で凪ぎ払うッ。

 【炎帝装甲】
 部分的にだが安定して炎を鎧のように纏うことができるスキルだろう、これならやれるッ。

 あとは攻撃を捌ききってステーデの連絡を待ち、作戦を実行するだけだ。

 続けて炎帝が攻撃を仕掛けてくる。その顔は戦いを楽しむ、まるで子供のような表情だ。

「やるなッ、我をもっと楽しませろッ!!」

 流石魔王軍幹部と言うべきか、スキルだけでなく動きも速く、そして力強い。

 ステーデほどのスピードは無いがあの大きな手足をまともに喰らったらひとたまりも無い。

 そんな炎帝の攻撃を何とかかわしていく。

 拳が迫り、蹴りが飛んで、また蹴りが飛び、炎が迫る。この時ばかりは小柄な少女に転生できて良かったと神に感謝する。

 だが、それも長くは続かなかった。

 動きを阻害するためのサポートスキルを発動する為に【宙蹴り】を使い、空へ飛び上がろうとした俺の首を炎帝が掴んだ。

「ようやく捕まえたぞ。逃げ回るだけじゃつまらんだろう、もっと抵抗して見せたらどうだッ」

 そう言い、首を掴む腕に力を込めてくる。

 魔力を使うと体の強度が多少上がると言っても炎帝が本気で力を出せば、俺の頭と体が離れるだろう。わざと潰れないように力を加減してるようだ。

 不老不死でも気絶したりするのか......。

 俺は息苦しさに喘ぎ、頭に血が回らず意識が朦朧とする。

 俺は必死に炎帝の腕を両手で掴むが、朦朧とする意識ではそれ以上に抵抗すると言う発想が思い付かず、ぶら下がるだけだ。

 腕を掴む手の力も抜け、目の前が暗くなる中........ステーデの声が聞こえた。耳に仕込んでいた念話石からだ。

『クレインさん!! 聞こえてますかッ!? 僕も避難していた人達も村につきました、やって大丈夫ですッ!!』

 その声を聞き、意識を取り戻す。

 腕を握る手に力を込め、息を何とか吸う。

「衝撃よ....放たれろッ」

 炎帝の腕に【インパクト】を打ち込む。

「衝撃よ、放たれろ....放たれろッ、放たれろッ、放たれろッ」

 何度も何度も打ち込むうちに奴の腕からミシミシ軋む音が聞こえる。

 炎帝が危険を感じ、のがれようとするが遅かった。

「放たれろッ!!!!」

 奴の腕から骨が砕ける音が聞こえ、俺の体が解放される。

 たたらを踏みながらなんとか地に足を付け、炎帝の近くから離れる。

 炎帝の右腕が酷く歪んで潰れていた。俺が何度も同じ箇所に【インパクト】を打ち込み続けた結果だ。

《報告。スキルの連続仕様、及び詠唱の短縮化によりスキル【連続詠唱】を獲得しました》

 何かスキルを獲得したようだが今は放置だ。

 ステーデや避難していた村人は居ない。近くに【潜伏】を応用して大量に隠していたモノを操り、ここに集める。

 炎帝もその気配に気づいたのか警戒を強めた。

「......何を企む、お前さん。何か此方に集められているようだが」

「ああ、ずっと火に炙られ続けたもんで、喉が渇いたんだ。あんたも要るか? 水、皆に頼んでいっっっぱい用意してもらったからな」

 そこまで話を聞き、炎帝は俺の意図に気づいたようだ。

「お前さん、まさか....」

「なぁ、水蒸気爆発って知ってる?」


 俺が運んできたのは大量の水だ。

 水属性スキルを扱える者を集め、水を用意してもらう。

 それを俺が前に偶然手に入れた【水操作】を使ってここまで持ってきたのだ。

 【水操作】は難しい動きは出来ないが持ってくるだけなら別だ。

 大量の水を運ぶのに消費する魔力、全ての水に【潜伏】させるのに消費する魔力、【思念伝達】を応用しての操作距離拡大に消費する魔力などずっと大量の魔力を消費していたため気だるさが半端じゃなかった。

 まぁ【気中魔力吸収】で魔力は常時補充していたけど。

 この作戦は【炎帝】の炎の強力な熱量を利用して水蒸気爆発を行い、炎帝を撃破するといった作戦なのだ。

 何トンもの水を一度に蒸発させれば、魔王軍の幹部でもただじゃすまないはずだ。


 だが炎帝は面白くなさそうだ。

「ふん。心臓を抉られても再生し、我の炎を奪うような輩だからさぞかし素晴らしく、面白い策を用意していると思ったのだがな......まさかただの捨て身での爆撃とは」

 そう言うと炎を消し、何かの武術の構えを取る。

「我が己の炎の短所を理解していないとでも思ったか? 我が炎に頼るだけの弱者とでも思ったか? ........興醒めだ、もう死ぬがいい」

 そういい、スキルの詠唱を行いながら俺に接近してくる。


 確かに、水蒸気爆発を起こすには水と、その水を一瞬で蒸発させるだけの熱が必要だ。

 水は今、俺の背後で一つの巨大な塊に圧縮しているが、肝心の熱、炎帝の炎が無くなった。


 炎帝がスキルを発動し、氷の矢を放ってくる。
 それを体を捻ってかわす。



 だが、元から炎帝が何かしらの対策をたてることは折り込み済みだ。


 炎帝が目の前で、引き絞った腕をつきだしてくる。

 それを炎帝の体に張り付くように潜りこんでかわし、その背後に回り込む。さらに振り向く炎帝の死角に【宙蹴り】を使い、もう一度背後に回り込む。


 炎帝の炎の熱がなければ爆発は起きない。

 けれど....

「俺の【炎帝】の熱でも足りるよなぁッ!!」

 背後にまわった俺に気づいた炎帝の顔に焦りの感情が浮かび、手を伸ばしてくるがもう遅い。

 俺は用意していた巨大な水の塊に向けて【炎帝】を発動し......


 これまでの感じたことのないほど大きな衝撃を受け、一瞬で意識が飛んだ。



 浮遊感と共に覚醒。

 気がつけば、やはり俺はボロ布を纏った半裸状態。どうせ再生するなら服も戻れば良いのに....じゃないッ。

 炎帝はどうなったッ。

 回りを見回してみれば....そこはクレーターのど真ん中だった。この位の爆発の規模なら避難を待たなくても良かったかな。
 なにぶんアニメでしか爆発を見たことが無かったから念のために避難させたんだがな。

 草はあちこちに散乱、木々は吹き飛ばされてゴロゴロと....転がった一本に炎帝がもたれ掛かっていた。

 マジかよ....あれを受けて原形止めるのか。

 警戒しながらそろそろと炎帝に近づく。

 酷い姿だ。片腕は千切れ、足は変な方へ曲がっている。服も素材が良いのか着るという役割は果たしているがボロボロだ。

 不意に炎帝が血を吐きながら咳き込んだ。まだ息があるのかッ!?

「ああ....お前さん、そこに居るのか。悪いが両目に傷が出来ちまってな、見えんのだ。気配で何となくいるのは分かるんだがな」

 どうやら本当のようだ。よく見ると片目は切れ、もう片目は木の枝が刺さってしまっている。

「お前さん、よく生きていられたな。上位の再生スキルでもあれだけの爆発の衝撃だ。再生するまでもなく死ぬと思うんだがな」

「悪いな。俺は不老不死なんだ」

 俺がそう言うと納得顔で頷いた。

「やはり....か。お前さんも主と同じ存在なのだな....」

「同じ....?」

 俺以外にもいるのか、不老不死が。気になって聞いてみるが炎帝は首を横に振った。

「お前さんがもし本当に同じ存在なら、いずれ分かるだろう」

 そう言い、大きな溜め息をついた。

「まさか、ただの狼狩りがとんだ化物退治になったものだ。しかも敗れるとは....これだから面白い」

 そう言い、ゆっくりともたれていた木の上に座る。

「我は....間違いなく死ぬ。だが強者に負けるのは気分がいい、嬉しくもある」

 炎帝は自分を殺そうとしている俺に笑う。

「お前さんの名前を教えてくれないか? 我に勝利した相手の名前ぐらい知ってこの生を終えたい」

「......クレイン=サウザンド。俺の名前はクレインだ」

「クレイン....殿か。よし、クレイン殿」

 炎帝が噛み締めるように俺の名前を呼び、自分の首筋をさらし出す。

「ここだ、止めをさせ。もう、心残りはない。このまま時に殺されるより、我を破ったものの手で....」

「......ああ。分かった」

 俺は【炎帝装甲】を発動し、手刀を作る。

「なにか言い残したいことでもあるか、俺が聞いてやるぞ」

「そうだな....では、クレイン殿。忠告だ......魔の感情に犯されるなよ」

「?」

 なんだ? 魔の感情って怒りや悲しみ? 嫉妬とかか?

 炎帝は満足したと言わんばかりに一度満面の笑みを浮かべ、表情を消した。

「さぁ、もう終わりだ。殺れ」

 俺は頷き、腕を引き絞り......


 その日、たった一人の少女の手により魔王軍幹部《炎帝》が命を落とした。

 この事件を始めに少しずつ、一人の少女の存在が世界に知られ始める。
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