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第13話 両想い

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 昼休憩に美優に呼び出されて、屋上へ行くと、小さなビニールシートを敷いて、美優が待っていた。


「昨日はごめんさない。私のワガママで、ナルの気持ちも考えないで、変な特典つけちゃってごめんさない。ナルからすると、特典のせいで私がまた、からかっているように思うわよね」


 特典は凄く魅力的な提案だったと思う。俺が疲れきっていなかったら、俺はその特典だけに目が眩んで、美優を付き合おうとしていたかもしれない。それぐらい俺にとって特典は魅力的なものだった。


 でもお前、処女のくせに童貞を奪おうとするのはおかしいと思うぞ。


「俺のほうこそ、特典に目が眩んで、保留なんて言葉を使ってごめん。もう少し頭を使って、きちんと話しておけばよかったと思う」


 俺も昨日の夜、ほとんど眠らずに美優のことを考えた。メリット・デメリットじゃなくて、本当に美優のことをどう思っているのか。俺なりに真剣に考えたつもりだ。


 美優はお弁当袋から2つのお弁当をだしてきて、1つを俺の目の前に置いて、お弁当のフタを取る。可愛いお弁当だ。小さなお弁当の中に色々なおかずが入っていた。


 美優も自分の前にお弁当を置いて、フタを開くと、にっこりと笑う。


「美優、お前が作ったのか?」

「そうだよ。朝、早起きしてナルのために作ったの。これでも料理は得意なんだよ」


 美優が料理上手?意外過ぎて言葉が出ない。食べてみて確かめてみよう。誰か毒見する奴を連れてきたほうがいいかな?


『食べましょ』と言って、美優が俺に箸を渡す。自分も箸を手に取ってお弁当から唐揚げを取り出して、俺の口元へ持ってくる。


「あーん」


 俺の口の中へ唐揚げを入れてくれる。ジューシーで旨い。本当に旨い。自然と俺の顔も綻ぶ。俺がハンバーグを箸で摘むと美優が口を開けて待っている。


「あーん」


 俺はハンバーグを美優の口の中へ入れてやる。小さな口でハンバーグをモグモグと食べていく。そのしぐさがリスみたいでとても可愛い。


 俺と美優はお互いに『あーん』をしておかずを食べさせ合って、お互いに笑顔でお弁当を食べていく。


 色々なことがあった。あちら系の事務所へ連れていかれ、いかついお兄さん達に囲まれた。変な大学生と会わされて、全く話が通じなくて、あんな変な男と話したのは初めてだった。ホストクラブへ呼び出され、初めてホストクラブに入り、みんなに笑われて、恥をかいて、美優を連れて帰ってきた。


 その後も、色々な男性と会って、美優が男性達と別れる瞬間に立ち会って、代理彼氏として紹介されて、皆に肩を叩かれて『美優のことを頼む』と言われた。皆、心根の良い男性ばかりだった。


 本当に色々なことがありすぎた。美優と知り合って間もないのに、美優と友達になって間もないのに、どれだけの騒動に巻き込まれたことだろう。


 でも、久良木兄ちゃんや駿さんのようなお兄さん的な存在と出会うこともできた。美優を守ってくれていた多くの男性達は美優のファンクラブのようなもんだった。


 そんな皆と美優は縁を切って、俺を選んでくれた。それだけ美優は俺の事が好きだということを昨日の夜に核心した。


 それなのに俺は一体、何なんだ。いつも美優の胸に抱かれて、美優の甘い良い香りに誘われて、美優を抱きしめて、キスして、美優の体にばかり興味を示して、最低なのは俺のほうだった。俺は深く反省した。


 久良木兄ちゃんに頼まれたからじゃない。駿さんに頼まれたからじゃない。美優のファンクラブの男性達に頼まれたからじゃない。やっぱり美優は俺の特別で、俺は美優を放っておくことなんてできないと昨日悟った。


 これが恋なのかどうか、恋愛経験のない俺にはわからない。でも美優を他の男性に取られるのはイヤだ。絶対にイヤだ。美優は俺が守るんだ。そんなことに気づいたのは昨日の夜。気づくのが遅すぎる。


 今、一緒にお弁当を食べていて思った。俺が好きなのは美優の笑顔なんだ。いつも俺を安心させてくれて、俺を励ましてくれて、俺を包んでくれて、俺に勇気をくれる、そんな美優の笑顔が1番好きなんだ。


「ナル、もう一度、きちんとお願いします。悪いところも直します。ナルについていきたい。ナルのことが好きです」

「俺も昨日の夜、考えたよ。俺が好きなのは美優の笑顔だ。そして美優が色々なことをしてしまっても、文句をいうかもしれないけど、1番心配で、俺が美優を助けたいし、守りたいと思った。他の男性に美優を取られたくない」

「ナル、もっと簡単に言って、私、バカだから、なんとなく言ってることわかるけど、結局どうなの?」


 雰囲気ぶち壊しだなお前は。はぁ。でもこんな会話をしていいる時間も好きだ。


「俺も美優のことが大好きっていうことだよ。そして心配で心配でしかたないってこと。他の男に美優を取られたくないって言ったんだ。美優のことが大好きだって言ってんだよ」

「私の告白を受けてくれるって思っていいのかな?」


 これ以上、はずかしいことを俺に言えというのか、女って奴は……美優の流儀につきあうか。


「はい。美優の告白を受け入れます。美優の正式な彼氏になります。美優が好きです。これが俺の本音です」

「チョー嬉しい!やっと想いが通じたー!」


 色々と障壁が多すぎなんだよ、お前の場合は。だから俺が守るしかない。これからはあんまり苦労させてくれるなよな。

 美優は俺に抱きついて、大声で泣く。おいおい、学校全体に聞こえるほどの大声で泣かないでくれ。また面倒事がおきるだろう。そんなに俺のことが好きだったんだな。俺のどこが良いのかがわからない。俺って最低だぞ。


「ずーっと好きだったの。出会った時からずーっと好き!」


 おお、やはり交通事故で俺が助けた、吊り橋効果がここまで絶大な効果を生んだのか。神様ありがとう。あの時、ヒーローを目指したのは間違いじゃなかった。


 美優には初めてファーストキスを奪われた。美優とは初めて大人のキスをした。初めて女性と手をつないだのも美優だった。女性に初めて抱きつかれたのも美優だった。女子から初めてほっぺにチューされたのも美優だった。初めて女子とスマホで写真を撮ったのも美優だった。そう考えると、俺の初めては全て美優だった。


 俺って美優以外の女子からは男性扱いもされていない空気のような存在だったからな。女性に関しては俺は全く自信がない。こんな俺で本当にいいのか?美優、たぶんお前の好みは変わっている。


 こんな俺にも彼女ができた。とびきりの美少女だ。素直に喜ぼう。素直に受け入れよう。俺は美優のことが好きだ。


「ナル?今まで自由気ままで生きてきたような私で本当にいいの?本当に愛してくれる?」

「ああ、美優のことが好きだ。きちんと付き合うよ」

「私、ナルについて行くね。ナルのいうことならなんでも約束守るようにするから、本当に嬉しい」


 美優は嬉し涙を流して俺の胸の中へ飛び込んでくる。俺は美優をしっかりと抱きしめて美優を見つめて、美優と唇を合わせて、熱いキスをする。


 俺にとって美優は特別だ。何度でも美優を助けよう。そして美優を守ろう。だって俺の彼女なんだから。


 陽だまりの空の下で、俺達は時間の許す限り、抱きしめあって熱いキスを交わす。


「ナル、大好き!」


 美優は顔いっぱいに幸せを広げて、美しく笑んだ。

 
 俺は美優の笑顔を見て嬉しくなって、美優をギュッと強く抱きしめた。
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