僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影

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第一章

第5話:憩いの場との出会い②

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溝口にお礼を言って、久遠はエレベーターを降りた。

オフィスの外に出ると、爽やかな風を感じて、緊迫していた体の内側まで弛緩するような感覚があった。
鼻からすぅっと長く息を吸うと、より弛緩していく。

おすすめのキッチンカーはすぐに見つかった。それもそのはず、キッチンカーは1台しか出ていないようだった。
こんなにも目立つというのに、久遠がこのキッチンカーを認識したのはこの瞬間が初めてだ。
今日までの4日間、いかに緊張で視野が狭まっていたのかが分かる。

キッチンカーを遠目で見た時点で、嫌な予感はしていたが、近づいてみてやはり的中した。

久遠の来店は一足遅かったようで、残念ながら、トラックの中は店主らしき人が片付けをしているところだった。

そのままくるりと踵を返して帰るのもなんだか名残惜しく、まだしまわれていなかったメニューをそっと拝見する。すると、久遠のお腹が、くう、と鳴った。

……なんだこれ、あまりにも美味しそうだ。

キラキラと輝いて見える料理の写真の中に、見慣れた普遍的な料理は見当たらない。写真の下に料理名も添えられているが、聞いたこともない。それなのに、今にも香りや味がこちらへ伝わってくるのではないかと思うほど魅力的に見えて、ここんとこ姿をくらませていた久遠の食欲をそそられた。

オフィスから出て身体が緊張から解放され、時間停止のようになっていた胃が、空腹感をはっと思い出したらしい。
鳴ったお腹の音は、店主に聞こえてしまっただろうか……。いやいや、外だしこんな小さな音聞こえるわけ……。

ちらりとキッチンカーの中を見上げると、笑いを堪えている店主とバッチリ目が合った。

穴があったら入りたいとはこのことだ、と久遠は思う。

恥ずかしさでそのまま去ろうとしたが、後ろから張りのある声がかかった。

「試作ならあるんだけど」

明らかに久遠に向けられた声に聞こえたので振り向くと、店主はまだ下がりきらない口角を手で隠すようにして久遠を見ていた。

「よかったら味見していってくれない?」
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