【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影

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第一章

第9話:パーティーの待ち合わせ②

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 文化祭が3週間後に迫った日の、誰もいない放課後の教室。
 夕陽がほとんど落ちかけていて、太陽の端っこがら名残惜しそうに山にひっかかっている時間のこと。

 周囲に関係を隠して付き合っていた久遠と神永はこの日、珍しく教室で会っていて、久遠は神永に頼まれて採寸を行っていた。

 ステージに立つことになってしまったと報告してきた彼は大変不服そうで、それが可愛かった。

 ミスターコンテストのステージで出場者たちが着用する服は毎年手工芸部が用意していたらしく、そのために彼も採寸データを提出するよう急かされたらしい。

 久遠に見られたくないがためにステージに出ることを秘めたまま突き通したかったそうだ。けれど、学内外にファンがいるほど有名な彼のことだ。ミスターコン参加などという特大スクープが学校内を駆け巡らないわけがなかった。
 噂になる前にと彼があの日直接久遠に告げなかったとしても、あっという間に久遠の耳にも届いていただろう。

 2人きりの教室で彼のリーチや腹囲を測りながら、久遠はしつこいほどミスターコン出場をいじっていた。

 自分の恋人が輝かしい舞台に立つことへの優越感がどうしても湧いてきて、でも、そんなふうに思う女だと彼には思われたくなくて、優越感を隠すためにわざと彼をからかっていたんだった。

 久遠があまりにも笑うせいでくたびれてしまった彼は、ふてくされたように久遠を見下ろした。

 そのまま彼は、彼の腹囲にメジャーを当てていた久遠の腕を掴みあげ、無理やりキスをしたのだった。



 こんな思い出を、今はもうそばにいて欲しくないと思われている相手とパーティーに行かなくてはならない日にわざわざ提示してこなくたっていいのに。

 夢の内容は幸せなもの。だからこそ残酷だ。この夢を見るタイミングとしては、今日はあまりにも残酷だった。

 夢が、自分の罪を忘れるなよと、そう言っているみたい。

「あの、おひとりですか?」

 窓についた雨粒をぼーっと眺めていたら、声がかかった。自分に向けられたものではないと思っていたので、一度目は顔を向けなかったが、「あの」と二度目の声がかかって振り返る。

 そこには男性が立っていて、久遠を見ていた。穏やかな笑みを浮かべているが、久遠としては存じ上げない方なので、人違いか、なにか用があって話しかけられたのだろうと思う。

「急にすみません。さっきからおひとりで座ってたので」

 大学生だろうか。落ち着いた服装ではあるが、平日の夜にスーツではなく私服を着ていることから、学生に見えた。

「これから結婚式ですか?綺麗ですね」

 男性の目線が久遠が着ている服に向けられる。

 突然話しかけられた割に話の方向性がわからず、久遠は気まずい笑みを浮かべて首を傾げ、意図を明らかにしてくれと促す。

 学生は笑顔を浮かべつつも申し訳なさそうに顔を歪め、頭をかく。

「急に話しかけられてきもいっすよね。すいません、なんかずっと向こうから見てて、気になって、やっと声をかけてしまったんですけど」

 ずっと向こうから、と言いながらカフェのカウンター席に軽く目をやった。ずっとあそこから見ていたと言うのが本当かはわからないが、結構怖い。 

 しかし意図はわかった。 

 女性が1人なら容姿はそこまで優れていなくても話しかける風俗のスカウトか、カットモデルか、もしくはナンパだ。

「あ俺全然怪しい者とかではなくて、ほんとにただ可愛いなって思ったっていうか、もしまだ一人の時間長いなら、ほんの少しでも話せないかなとか思って」

 久遠の訝しげな表情を受けて、男が饒舌になる。

 久遠としては、学生に恨みはないものの、この様子をもし神永に見られたらと思うと気持ちが焦る。これから仕事に行くのに遊んでいるのか、だなんて絶対に思われたくない。

「あ……そろそろ待ってる人来ると思うので」

 目線をスマホの画面に向け、通知を見るそぶりをする。それによって学生が去ってくれればと思ったが、そう簡単にはいかない。

「お友達が来るまででもいいんです。……あ、今が忙しかったらLINE、いや!インスタの交換とか」

「あいや、大丈夫です」

 目を合わせられずスマホを見たまま一応笑う。彼が怪しい業界の人などではなさそうなことは伝わってくるので必要以上に邪険にも扱えないが、本当にそろそろまずいのだ。

「だめかー……結構ほんとに勇気出したんですけど……そりゃきもいすよね」

 と、言いつつ去ろうとしないのは、本人としては気まずくないのだろうか。

 つい2年前には久遠自身も学生だったため、働くときは自分も学生気分でいつまでも社会人が板につかないものだが、不思議なことに、こうして本物の学生を前にすると、自認がおばさんになる心地がする。

「あの、もし今彼氏がいなかったら、」
「困ります」

 突然、はっきりと拒否を示したのは、久遠――では、なかった。

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