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第一章
40話:三項①
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ドクドクと心臓が鳴っている、棒立ちの久遠の目の前で、車が往来している。
反射で振り向いた先には――
霧島がいた。
キッチンカーを片付けていたところだったのか、エプロン姿のままだ。エプロンも息も乱れている。
「え、あ……」
久遠の腕を掴んでいる霧島と赤信号を交互に見て、状況をじわじわ理解していく。
ぼーっと赤信号を渡ろうとしていた久遠を見て、霧島が走ってきてすんでのところで止めてくれたのだ。
「前見ろよ!」
大きな声で怒鳴られ、身体を震わせる。髪から覗く霧島の目は鋭く、今まで久遠と気の抜けた会話しかしたことのない彼とは別人のようにも思えた。
「ご、ごめんなさい……。ありがとうございます」
心臓が破裂しそうなほど激しく脈打っている。今霧島が止めてくれていなかったら、久遠は横断歩道で車に跳ねられていたかもしれないのだ。
霧島はため息をついたかと思うと、久遠の手首を掴んでいる手に力を込め、横断歩道からさらに内側に久遠が寄るよう引き寄せた。軽い力だったが、拍子抜けしている久遠の体は簡単によろめく。
「フラフラしすぎ。そんで軽すぎ。飯を食え飯を」
またしても叱られ、返す言葉もない。久遠は首を竦めてその言葉を享受する。
「なんかあった?」
距離が近くなった霧島の声の音量は普段のものに戻っていて、目も先程の鋭さはなくなっていた。けれど、いつもみたいな温かさではなく疲弊が浮かんでいるその瞳は、霧島がいかに久遠のところまで急いで駆けつけてくれたかを物語っている。
「ぼーっと歩いてるとこずっと見てた。案の定赤信号に突っ込んでくし、馬鹿焦ったぞ俺は」
「ほんと、すみません」
普段は飄々としていて余裕そうな霧島の額に、汗が滲んでいた。
「なんかあったんだろ」
腕まくりされた白シャツから覗く腕は太く、血管が浮かんでいて、久遠が離してもらおうと手を少し引いてもびくともしなかった。
手だけじゃなく、霧島の視線も久遠をとらえて離さない。
じっと見つめられ、なんと言えばいいのか迷ってしまう。ただでさえ考えがまとまっていない中で、交通事故寸前となり頭の中が真っ白だ。
だけど、なんでもありませんでは解放してもらえないだろう。
どこからどう話せばいいかと、自分が抱えている出来事の端っこを探す。けれど、セロハンテープの端が見つからない時みたいに、なかなか掴めない。
今かろうじて頭の中で再生されているのは、言葉ではなく――夕方に見た受付カウンターでの情景だけだ。
「……本当は、大したことでは、ないんですけど……」
久遠が視線を彷徨わせながら口を開いた、その時だった。
「何してるの」
霧島と久遠の間に声が落ちた。
それまで俯いていた久遠が顔を上げると、そこには――神永がいた。神永が、霧島の肩を掴んでいる。
――なんで。
反射で振り向いた先には――
霧島がいた。
キッチンカーを片付けていたところだったのか、エプロン姿のままだ。エプロンも息も乱れている。
「え、あ……」
久遠の腕を掴んでいる霧島と赤信号を交互に見て、状況をじわじわ理解していく。
ぼーっと赤信号を渡ろうとしていた久遠を見て、霧島が走ってきてすんでのところで止めてくれたのだ。
「前見ろよ!」
大きな声で怒鳴られ、身体を震わせる。髪から覗く霧島の目は鋭く、今まで久遠と気の抜けた会話しかしたことのない彼とは別人のようにも思えた。
「ご、ごめんなさい……。ありがとうございます」
心臓が破裂しそうなほど激しく脈打っている。今霧島が止めてくれていなかったら、久遠は横断歩道で車に跳ねられていたかもしれないのだ。
霧島はため息をついたかと思うと、久遠の手首を掴んでいる手に力を込め、横断歩道からさらに内側に久遠が寄るよう引き寄せた。軽い力だったが、拍子抜けしている久遠の体は簡単によろめく。
「フラフラしすぎ。そんで軽すぎ。飯を食え飯を」
またしても叱られ、返す言葉もない。久遠は首を竦めてその言葉を享受する。
「なんかあった?」
距離が近くなった霧島の声の音量は普段のものに戻っていて、目も先程の鋭さはなくなっていた。けれど、いつもみたいな温かさではなく疲弊が浮かんでいるその瞳は、霧島がいかに久遠のところまで急いで駆けつけてくれたかを物語っている。
「ぼーっと歩いてるとこずっと見てた。案の定赤信号に突っ込んでくし、馬鹿焦ったぞ俺は」
「ほんと、すみません」
普段は飄々としていて余裕そうな霧島の額に、汗が滲んでいた。
「なんかあったんだろ」
腕まくりされた白シャツから覗く腕は太く、血管が浮かんでいて、久遠が離してもらおうと手を少し引いてもびくともしなかった。
手だけじゃなく、霧島の視線も久遠をとらえて離さない。
じっと見つめられ、なんと言えばいいのか迷ってしまう。ただでさえ考えがまとまっていない中で、交通事故寸前となり頭の中が真っ白だ。
だけど、なんでもありませんでは解放してもらえないだろう。
どこからどう話せばいいかと、自分が抱えている出来事の端っこを探す。けれど、セロハンテープの端が見つからない時みたいに、なかなか掴めない。
今かろうじて頭の中で再生されているのは、言葉ではなく――夕方に見た受付カウンターでの情景だけだ。
「……本当は、大したことでは、ないんですけど……」
久遠が視線を彷徨わせながら口を開いた、その時だった。
「何してるの」
霧島と久遠の間に声が落ちた。
それまで俯いていた久遠が顔を上げると、そこには――神永がいた。神永が、霧島の肩を掴んでいる。
――なんで。
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